何する、と言ったら
「分からぬかな」
差入れた二本の指がバラバラに動く。
何で、と聞いたら
「好ましく思う故、だな」
内太股を舐められた。
「愛しておるんだ、メイコ殿」
引き抜かれた指の代りにがくぽ自身が差入られた。
メイコはもう、アッだのウッだの意味の無い言葉しか出せなくなった。
「姉さん、オッハヨウ」
ヘラッと全力笑顔のカイトは情け容赦なくカーテンを全開にしてゆく。
「つか、毎日遅くまで良く呑むねぇ」
と、窓も全開にされる。
「寒い」
あまりの暴挙にメイコは抗議を込めて枕元の空き缶を投げる。
予測済みなカイトは軽く避けた。
「じゃ、がっくんを叩き起こすから。起きてね」
カイトは騒がしく出ていき、メイコは覚醒した。
「夢?」
な訳は無さそうだ。
布団の中は全裸だし、体は二日酔いでなくだるい。
何より下腹部が軽く痛い。
先程出ていったカイトはメイコを姉だと認識している。
マスターは三次元に彼女がいる。
当然の帰決としてもちろんメイコは初めてだった。
突っ伏してメイコは枕をムギュムギュした。
途中から気を失ったが、がくぽは今ココに居ない。
どんな顔してがくぽと会うか。
メイコは朝から重大なテーマに悩まされた。
神威がくぽを一言で表せなら何をあげるかね?掲示板の前の諸君。
カイトなら迷わず一つあげる。
低血圧。
和風とか殿とか茄子言ってる場合でない。
初めの頃はカイトも苦労した。
姉、メイコも365日二日酔いで寝起き最悪、がくぽも難くなに起きない。
が、窓全開とか布団をひっぺがしとかで半起きると分かったからもう問題は無い。
そのがくぽが起きていた。
それだけで十分な珍事である。
カイトは目を点にした。
目の前の光景は更に斜め上行く珍事だからだ。
静謐な晩秋、朝の陽光に切腹裃で懐剣。土下座しているがくぽ。
珍事である。
カイトはリアクションとれなかった。
「カイト殿」
だからうっかり話しかけられた。
「介錯を頼む」
「断る」
カイトは自殺幇助とか激しく遠慮したい気分だ。
「今生最期の頼みじゃ、聞き届けろ」
何か間違って無いけど全てが間違ってる気がする。
「嫌だ」
がくぽがジリッとカイトに近付いて来た。
「拙者に無様にもがけと言うのか」
カイトは少しでも距離を取りたくてジリッと下がる。
「つか、冗談」
がくぽは正座のままススッと器用ににじりより一気に間合いを詰めてきた。
「冗談は言わぬ。真剣だ」
コイツうざい。
そう思ったカイトは悪くない。
カイトは実力行使にでた。
がくぽから懐剣を取り上げる事に見事成功したカイト。
ダイニングに戻るとそこも何か珍事である。
描写するとメイコがラーメン丼に漫画盛りのご飯とウドン丼に並々の味噌汁をがっついていた。
覇気すら漂うメイコにはっきり近付きたく無い。
カイトの後でがくぽも固まっている。
「姉さん、何かと闘うのだろうか?」
腹が減っては戦は出来ぬ、とかそんな感じ。
聞こえない様に呟くカイト。
カイトがどうやって逃げるか考察をし始めると同時にがくぽが動いた。
「申し訳ござらん!」
ジャンピング土下座。
メイコの肩がピクリと揺れる。
あっ、この二人の問題なのな。
今までの一連をそう解釈したカイトはホッとして退いた。
「メイコ殿の怒りはしごく最も。全て拙者に責があることで」
「がくぽは…」
巻くし立てるがくぽをメイコは静かな声音で遮る。
立ち上る怒気は陽炎の様で、がくぽ黙る。
「何に謝ってるの?」
「あ、あの昨晩に」
ギロリと振り返るメイコに再び黙らされる。
「何に私が怒ってると?」
気まずい沈黙が周囲を支配する。
ダラーリダラリ。
がくぽが蛙なら売れるのに、脂汗。
「やはりこの腹かっさばくしか!」
どこからか出した二本目の懐剣。
「なっ、ちょ!」
慌ててとめに入ろうとするカイト。
「私が気に食わないのはね、アンタが朝部屋に居なかった事よ!」
がくぽをとめたのはメイコの叫びだった。
キョトンとする野郎二人。
「責任なんてお互いでしょ!」
メイコの目尻に涙が溜る。
「朝、起きてアンタ居なくて…。私とシタの後悔したのかなって思うじゃない!」
「そんな筈は無い!」
がくぽは思わず叫んだ。
「拙者は、メイコ殿を好きだ。初めてお会いした時の笑顔が瞼に焼き付いた。気丈で愛らしい性格にどんどん惹かれていった。拙者が悔いているのは、酒の勢いで想いを告げた事、そして非道にも酔われたメイコ殿をこの腕に納めた事だ」
不意に項垂れ、拳に力が入り震える。
「酒の勢いといえど万死に値する。死して詫びるより他は…」
「ばか!」
メイコはがくぽに抱きついた。
「私もアンタが好きよ。だから、死んだら私も死ぬ!」
「メイコ殿…」
がくぽは抱き締め返す。
「がくぽ…」
メイコは更にギュッと抱き締めた。
「なんだコレ」
置いてきぼりカイトは一通り事情を理解した上で一応首を傾げ、呟いた。