最近、珍しい事にがっくんがイライラしてる。  
話してる時は普通なんだけど、ふと見ると眉間にしわが寄ってる。  
ため息も増えた。  
悩みでもあるのかなーとも思ったけど、あれはやっぱり怒ってる顔…だよね。  
 
あたし何かまずい事したかな?  
…いやいや、多分してないはず。  
 
じゃあなんだろ。優しいがっくんが怒るような事……レンが勢い余ってナス畑整地したとか…?  
でも前にそれやっちゃった時はがっくん笑って許してくれたよね。  
ん〜…わかんないや。  
気になってがっくんの方をちらちら見てたら、視線に気付いたがっくんがこっちを向いた。  
「どうかしたか?」  
 
あ、いつもの優しそうな顔だ。  
ほっとしてがっくんの膝の上に座ると、読んでた本を横に置いて、そっと抱きしめてくれた。  
「ね、がっくん」  
意を決して聞いてみることにして、あたしは口を開いた。  
「がっくん…何か怒ってる?」  
「…怒ってなどいないが」  
普段と変わらない口調だけど。  
 
なんだろう、今の間は。  
ますます気になってがっくんの顔を見上げた。  
 
あれ…またイライラしてる…?  
どうしよう…やっぱりあたしが原因なのかな?  
 
そう思ってうつむいた時、がっくんの抱きしめる力が急に強くなった。  
「怒っているのではない。…只、不安なのだ」  
え?  
不安って?  
「なんで?」  
言ってる事がよくわからなくて聞き返したら、がっくんはぽつぽつと話し出した。  
 
「先日、アカイト殿にお会いしたのだが…」  
「アカ兄に?」  
アカ兄はこの間近所に引っ越してきた。  
メイコ姉とお酒の趣味が合うらしくて、よく一緒に飲んでる。  
でもなんでいきなりアカ兄?  
「アカイト殿は…随分とそなたが気に入ったと見受けられる。リンは可愛らしいと何度も……」  
途中で話が途切れた。  
もう一度見上げてみると、さっきよりもっとしわがきつくなってた。  
 
……目がこわい。  
 
「がっくん…?」  
「私以外にもリンを想う者がいるとあっては、どうにも不安で堪らぬ……。  
 できる事なら常に傍にいたいが、そういう訳にも行くまい。  
 …万が一リンに手でも出したならば、その時は一思いにたたき斬って」  
「がっくん、がっくん落ち着いて、違うから」  
呼吸もままならないほど腕に力が込められてる。  
何とか声を絞り出したら、がっくんはやっと気が付いて、力を緩めてくれた。  
「申し訳ない、取り乱してしまった…大丈夫か?」  
「うん」  
軽く咳込みながら、言葉を続ける。  
「あのね、がっくんが心配するような事何もないよ」  
「何故そう言い切れる?」  
「アカ兄、彼女いるもん。ネルちゃん家の近くに住んでるハク姉。 すっごい仲いいんだよ」  
「そ、そうなのか」  
「よくお菓子くれるし、そういう意味の「可愛い」じゃないと思う。  
 …子ども扱いされてるのは嫌だけど」  
はーー、って長いため息を吐いてあたしの肩に頭を乗せる。  
「…要らぬ心配をしていたようだ」  
すごく安心してるみたい。  
 
なんか…嬉しい。  
こんなにあたしの事好きでいてくれてるんだ。  
 
「誰に好かれたって、リンにはがっくんだけだよ」  
目を合わせてそう言ったら、がっくんはちょっと赤くなって、それからくしゃっと笑った。  
 

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