近所に住まうDTMer殿ががくぽを購入した。
私のマスターと件のDTMerの諸兄は類友の腐れ縁を故にしたはらからであった。
同穴の貉という奴である。
近々に住まう先達として、ここはひとつ交流を深めてみるか。
とまぁそんな軽い気持ちで新米がくぽくんをお酒の飲める店に誘ったのだが、これがなかなかの曲者であった。
「メイコさぁん、ちゃんと聞いてくれてますかぁ?」
“へべれけ”とはこういう状態を指すのであろうか。
いの一番に生中を二杯、要望も意見も、それ処か下戸か酒天童子の申し子かも確めず注文したのが間違いで在った。
おっかなびっくりといった風情で泡発ち昇る琥珀の水を懐疑的視線で差していたがくぽくんは、私が簡単に一杯目を干したのを見て妙な対抗意識を持ったようだった。
今にして思えば、私はもう少し彼に合せてゆっくり嗜むべきだったのだ。
彼は麦酒の泡発ちにえいやとばかり口を潜らせ、ぐびりぐびりと一息に干した。
がくぽくんは「ごとり」と鈍い音を鳴し、泡発ちのみが底に溜飲する中ジョッキを置いた。
見事な泡の髭をおしぼりで楚々と拭ったのち、どうだ僕の飲みっぷりはと言いたいのが在り在りと透けた笑顔を私に向た。
その笑顔は一分後には真っ青になったり真っ赤になったりして、終には今し方の絡み酒に発展したというわけである。
「つまり、ぼかぁ生まれながらにして二次的なニュアンスが含まれてるんですよぉ。Gacktありきのキャラ。ミクあってのハク、ネル、みたいな」
稀代の下戸氏は一人で世迷言擦れ擦れの愚痴とも妄言とも取れる持論を展開していた。
うん、とか、はぁ、とか、なるほど、とか、私は生返事の見本市の様な相槌を繰り返していた。
が、持論の広げ過ぎた風呂敷の畳み方に四苦八苦思考を巡らせる当のがくぽくんは一向気に成らない様子だった。
話は一割も聞いて居なかったが、眠たげかつうろんな眼を白黒させて真っ赤な顔で怪しい呂律を並べ立てる後輩を眺めて飲む酒はなかなかに風情が在った。
「メイコさん……ぐぅ……」
ふと静かになったがくぽくんを見ると、枝豆の皿を枕に幸せそうな寝顔を浮かべて居た。
豆の皮で出来た枕は些か遠慮したい物があったが、がくぽくんの藤色の髪が豆の緑に映えるのはとても興味深い発見で在った。
さてどうやってこの荷物=がくぽくんを運ぼうか。
何杯目かの焼酎を注文したとき店員から突付けられた最後通告=ラストオーダーの一杯をちびりちびり舐めながら、しばし寝顔を眺める。
これからよろしく頼むよ、後輩くん。