今日はミクと一緒に遊園地に来た。
本当は行くつもりなんてさらさらなかったんだが、ミクがだだこねたので、ね。
「マスター、遊園地いこー?」
「はぁ?」
「だってマスターずっと引きこもりだからたまには外出ないとだめー!><」
と、まぁそんな感じだ。唐突過ぎるだろ常考。
ミクと一緒に園内を歩いて、まず最初に選んだのがジェットコースター。
最初からミク飛ばしてるな……流石ボーカロイドというか何というか。
「あの、あの、私ミクだからキャーキャー言ったら隣の人の耳
壊れちゃうかもしれないから、私の隣空けてもらえますか?><」
なんちゅう無茶苦茶な弁解だよ……ほら案内の姉ちゃん怪訝そうな顔してるし。
でもなんだかんだ言ってミクの横を空けてくれたので、俺がそこに滑り込む。
確かにミクのキャーキャーは人一倍目立つが、別に耳が壊れるほどじゃない。
ってか案内の姉ちゃん俺に気付けよ。どーせ俺なんて空気ですよーだ。
次にたどり着いたのはお化け屋敷。
ミクも普通の女の子らしくキャーキャー逃げ回ってる。
「あそこ、ホンモノいたよー」
「マジで?」
「うんー、ああいう怖いところは本物も面白がって集まるんだよー」
──初音ミクは人間型機械でありながらほぼ完璧な精度で人の心を再現する
AI、そして人とほぼ同じ五感を持っている。その人間との高い互換性ゆえに、
状況によっては霊感すら備えてしまうことがある。そう、彼女のように──
お化け屋敷とジェットコースター以外にも色々とアトラクションやったが、
ここに書くには長すぎるしドリームSSみたくなってしまうので割愛。
「ただいまー><」
「ふぃー、疲れたぜ……」
さっきまで人の気配のなかったボロアパートに2人の声と明かりが灯る。
帰りの電車は混んでたので立ち乗りだった。園内を散々歩き回ったから足が
棒のようだが、まぁ交通費が一人分で済んだからこのくらいは我慢、と。
ちなみにこのアパート、お化けが出るって噂でみんな退去しちゃって、
今入ってるの俺達だけなんだが、ミクはお化けいないよー?って言うから
俺はミクを信じてここに居留まっている。引っ越す懐余裕もないし。
「今日はインスタントだけどごめんねー?」
ミクはレンジから出したサトウのごはんを手際よくお椀に盛っていく。
死んだじいちゃんのいる仏壇にも供えられたのを見計い、俺もそれに食らいつく。
「もー!マスターお行儀悪いのー><」
「うるせー。お前来たばっかの時はお前の方が行儀ひどかったじゃないか。大体
遊園地行ったりとかやけに大盤振る舞いじゃないか、家の金だって無限じゃないんだぜ?」
「だいじょぶだよー、ちゃんと数えてるし、もしもの時は私だってアルバイトするよー?」
確かにミクはその辺しっかりしてる。
見かけ上だけ、ね。10万と100万を数え間違えたりとかザラだし。
「……しかし、ミクの寿命もあと1年か」
「突然なに言うのー?」
「確か……ミクはいくら人間そっくりでもボーカロイドだから死んでも幽霊にならないんだよな?」
「その代わり私が死んだら思い出が光ディスクに残るんだよー?それにあと1年じゃ
なくて、あと1年『も』あるんだよー、1年あれば思い出いっぱい作れるよー?」
「ははは、ミクらしい考えだな。しかし、俺もこの体じゃその思い出を見ることすら叶わんぜ」
「だいじょぶだよー、寿命まで1年あるんだし、そのうち方法思い付くんだもんー><」
「……そうだといいな」
ミクはそう言うと仏壇の前に座り、線香を立てた。
そこにはじいちゃんと俺の遺影が満面の笑みでミクを見守っていた。