私達のマスターは、悲しいことに歌唱力はあるが作曲の才能はゼロだった。  
今まで公開した作品はすでに30近くだが、そのほとんどが再生数が1000に満たない。  
たまに1000超えしてるのは少々エッチな感じのサムネのものだけ・・・  
そんなマスターだが、音楽は大好きなようで私の住んでいるパソコンには初音ミクをはじめKAITO MEIKO リン レン アン ローラ、それにFL-chanまでいる。  
それらを駆使して作詞作曲をするのだが、全てが「素人が初音ミクを使うとこうなる」的な作品に仕上がる。  
というか、ジャイアンのコンサートの方がよっぽどマシだと思う。  
 
一応マスターの名誉の為に付け加えるなら、マスターはミクオタの類いではない。  
ていうか、マスターは女性、それも若き美貌の未亡人だ。  
このパソコンも私達も元々はマスターの夫(前マスター)のもので、彼はハウス系の神曲をガンガン出して殿堂入りこそはしなかったものの、根強いファンも定着していた。  
今のマスターは亡くなった夫の後を追うようにハウス系の曲ばかり作ろうとしていたが、やはり無理がある。  
それでも彼女は作り続ける・・・  
 
前マスターが亡くなったのは去年12月15日のことだった。  
いつものように前マスターから帰るコールの電話があり、その15分後に警察から電話が入った。  
突然の交通事故だった。  
今のマスターが現場に駆けつけた時、前マスターはすでに冷たくなっていた。  
 
パソコンの中の私達(KAITO MEIKO 初音ミク ローラ アン FL-chan)が突然自我に目覚めたのが同じく昨年12月15日で、それは何の前触れもなく突然のことだった。  
これはプログラム的なものではなく、どうやらオカルト的なことが原因のようだ。  
日本には「つくも神」の言伝えがあるが、私達にも魂が宿ったらしい。  
そしてその後、マスターが亡くなる前に注文していたレン・リンも組み込まれ私達から送れること4ヶ月後にこの弟妹も自我に目覚めた。  
 
「ん・・・んん・・」  
 
マスターは時々前マスターを思い出し自分自身を慰める。  
私達はそれをパソコンの内側から目撃しては流れ込んでくる寂しさ悲しさに押しつぶされそうになる。  
こんなことがいつまで続くのだろう。  
私達はこちらからパソコンの外の世界とコミュニケーションを取る手段が無い。  
傷ついたマスターを慰めてあげることすらできない。  
私達ボーカロイドは歌うために作られたこともあって、自我に目覚めてからの感受性はかなり強い。だからその分余計に辛い。  
「あ・・・ああっ・・うくっ・・」  
どうやらマスターは逝ったようだ。  
そして逝ったあと彼女は必ず涙を流す。  
 
「もうやだ、このマスター!」  
突然リンが切れた。  
「いつもヘタクソな歌ばかり!おまけにエロ暗いし!」  
「そんなこと言うんじゃない、マスターだって頑張って曲を作ってるんだ」  
KAITOがなだめてきかす。  
「そりゃお姉ちゃん達はいいよ、前マスターが神曲をたっくさん作ってくれたんだから。」  
「そうだよ、俺達なんて酷い歌ばかりでもうウンザリだよ!」  
レンも大概な表情で吐き捨てた。  
 
そう、リン・レンは前マスターが亡くなってから来たのでマトモな歌が無い。この2人のストレスは極限に達していた。  
元々の設定年齢が14歳のせいか精神構造もそれに準じたもののようで、それがさらに災いした。  
もちろん他のボーカロイド達も設定された年齢に合わせた精神年齢だ。  
ただMEIKOだけは普段の大人の女から16歳の女の子にキャラチェンジできる特殊技を持っていた。  
彼女はそれを自称・咲音メイコと言っている。まあどうでもいいことだが。  
 
マスターは落ち着いたらしく、スゥスゥと寝息をたてて眠りについた。  
自慰後の彼女の顔はいつも悲しそうだ。  
ああ、私達に肉体があればマスターの作曲のお手伝いや慰めてもしてあげられるのに・・・  
 
『その願いかなえよう!』  
 
突然どこからともなく声が響いた。  
一同ギョッ☆としてあたりを見回す  
「誰だ!?」  
 
『私は電子の神様だ!』  
 
「はぁ?何それ?」呆れ顔のMEIKO。  
「たしかドリフのコントでそんなのあったような・・・」記憶を探るKAITO。  
「オー!エレクトリック ゴッド?」外人勢2人。  
「・・・・」いつも無口のFL-chan。  
「怪しいな・・・」 「証拠見せろ!」がさつな鏡音リン・レン。  
「本当に神様ですか?」そしてミク。  
 
『おまえら、疑うならこのまま帰るぞ!』  
 
「え〜マジでぇ?」  
「やっぱり信じられないわね」  
「オー、パチモン神様デスネ?ワカリマス」  
 
『おまえら・・・』  
 
「いやちょっと待て、本当に神様かもしれんぞ?」  
「そうかなぁ・・」  
「・・・・」  
「私、信じます。私の願いが届いたんですね?」  
 
『まあ良い、ミク、おまえはさっきこう願ったな「肉体が欲しい」と』  
 
「え、ミク、あんたそんなこと願ったの?」思わずミクの顔を覗き込むMEIKO。  
「うん、マスターを慰めてあげたいなって思ったから・・」  
「性的な意味で?」  
「違います!」  
「え、なに?じゃあ本当に俺達に肉体が!?やったー!」小躍りするリン・レン。  
「GJ♪」  
 
『ただし、肉体を持ち実体化できるのは24日18時から25日24時までの間だけだ』  
 
「え、そんなに短いの?」  
「けち!」  
「きっと特別力の無い神様なんだよw」  
「お、おまえら、少し自重しろ!」  
言いたい放題のMEIKO・リン・レン、天罰を恐れて焦るKAITO。  
 
「あの神様、もう一つお願いが・・・」  
 
『なんだ?申せ!』  
 
「実は・・・・・」ミクは願いを話す・・が。  
 
『それは難しいな』  
 
「俺からもお願いします!」KAITOも頭を下げて頼み込む。  
 
『よしわかった、やってみよう。さらばじゃ!』  
 
自称電子の神様の気配は消えた。  
 
12月24日午後6時・・・  
まばゆい光にパソコンが包まれそこから次々とボーカロイド達が現れた!  
「すげー!これが肉体か!」  
「きゃっ、身体が重たいよ!これが重力ってやつ?」  
「うわ〜胸がきっつい!」  
「nice body !」  
「・・・・」  
「神様、ありがとうございます」  
「本当だったんだな」  
 
『よしよし、うまく実体化できたようだな』  
『ああ、そうそう、今のお前達の五感は人間と同じだからな、くれぐれも酒やSEXに溺れないようにな』  
 
「シコシコシコ・・オッオッオッ・・、これがズリセンってやつか!なんか出る!!!」  
「チョメチョメ・・アハ、リンのあそこが気持ちいい・・逝くぅぅぅ!!」  
「さ、酒はどこだ酒は!?」  
本能のままに行動するリン・レン・MEIKO  
 
『て、言ってるそばからそれかーい!』  
『KAITO、お前が監視役となり皆の暴走を食い止めるのだぞ、いいな!?』  
 
「ミ、ミク、実は俺、君がインストールされた日からずっと・・・」  
「だ、だめよ、私達はボーカロイドとは言え兄妹なのよ、そんなこと・・アッー!」  
「・・・・」  
「ケラケラ♪飲メヤ淫行ノ大騒ギデース!」  
 
『・・・ま、いいか。わしゃもう知らんよ』  
 
一瞬にして大乱交パーティー会場と化したマスターの4LDK賃貸マンション!  
その狂気の宴は2時間に及んだ。  
 
「はぁはぁ、こんなことしてる場合じゃないです!早くクリスマスの準備しないと!」  
「そうだった、マスターの帰ってくる前に・・・その前にもう一回だけ・・な?」  
「もうイヤぁぁあ!!!」  
「ケラケラケラ、カンパーイ♪」「おー、良い飲みっぷりじゃない♪」  
「マスターの自慰にふけるワケが・・・あ、また逝く〜〜〜〜!」  
「み、右手が止らなよぉぉぉ!!!!!!また出る!!!」  
「・・・・」  
 
さらに2時間後・・・  
 
ガチャリ・・・玄関のドアが開いてマスターが帰ってきた。  
右手には小さなケーキを持っている。仏壇の霊前に備えるためだろう。マスターはまず和室の仏壇の前にいきケーキを備えた。  
そしてダイニングルームに入ったとき・・・・  
「メリークリスマス!」  
ボーカロイド達が一斉にクラッカーを鳴らして声をあげた!  
一瞬ビクッとして固まるマスター。そして我にかえり携帯を取ると  
「もしもし、警察ですか?家に不審者が大勢・・・」  
「わー、ま、待った!俺達の姿をよ〜く見てくれ!」慌てに慌てるKAITO!  
そう言われてよ〜く観察するマスター。  
着衣の乱れた男女が1人ずつ、酔っぱらった女が3人、アヘ顔の中学生男女が1人ずつ、あと巨大な茶バネゴキブリ?・・・・  
「もしもし警察ですか?よっぱらいの性犯罪みたいなんです、子供もいます!早く来て!犯される!!!あと保健所も!!!!」  
「だから違う!服、この服装を見てくれ!」  
「服?」  
あ、これってボーカロイドの!?  
「あなた達はもしや・・・・」  
「やっと理解してもらえましたか!」  
「コスプレ趣味の変態!?」  
「ちが〜う!!!」  
 
その時・・・  
 
愛しの君よ、いつまでも絶えることなく、この愛を送ろう♪  
愛しの君よ、いつまでも絶えることなく、その愛を受けよう♪  
明日の未来も明後日の未来も10年先も100年先も変らぬ愛を送り続ける♪  
ありがとう、僕を受入れてくれて♪  
2人で幸せを築いていこう、今日も明日も明後日も・・・♪  
・・・♪  
 
突然ミクが歌い出した。  
 
「その歌は・・」  
「そうです、前マスターがマスターに捧げるために作った未完の歌です。完成の暁には私達で歌いマスターを祝福するつもりでした」  
「どうして・・・」  
「私達は突然自我に目覚めました。そして自称電子の神様に明日の24時まで仮の肉体を与えられました。」  
「私達はパソコンの内側からマスターを見ていました。マスターの悲しむ姿に堪え兼ねて、私達は励ますために来たんです」  
「そんなことが本当に?やはり信じられないわ・・・」  
 
『彼女の言うことは本当だよ』  
声が直接頭の中に響いた。  
「!」  
『彼女達は正真正銘僕らのボーカロイドなのさ』  
「あなた・・・あなたなの!?」  
『カイト君、すまんが頼むよ』  
「了解、マスター!」  
 
カイトの姿がまばゆく光り出し、カイトを構成していた物質は分解と再構成を繰り返す。  
再構成が終わったとき、懐かしい前マスターの姿がそこにあった。  
「ただいま、今帰ったよ」  
「あなた・・・これは夢・・・夢じゃないのね、あなた!」  
 
抱きあうマスター達の傍らでボーカロイド達は涙腺を崩壊させていた。  
前マスターの一時的な復活、それがミク達のもう一つの願いだった。  
あまりの唐突な死別、別れの言葉すら交わすことができなかったマスター達の心残りをなんとかしてあげたいと思うが為の願いである。  
「あ、そういえばカイト兄は?」  
「そこ」  
MEIKOが指さす。テーブルの上で手のひらサイズに縮小されたカイトが・・・  
「きゃー、可愛い!」  
構成していた身体の98%くらいをマスターに譲ったおかで小型になってしまったカイト。  
ズイッ、ミクが割って入る  
「ふっふっふっ、カイト兄さん、さっきはよくも私を慰み物にしてくれましたね・・・」  
やばい、ミクの目が王蟲のように真っ赤になっている。いわゆる「殺人ロイドモード」に入ったらしい。  
「いや、あれは、違うんだ、話せばわかる!話せば・・な?だからおちつけ!」  
「さ〜よ〜な〜ら〜♪ さ〜よ〜な〜ら〜♪ わ〜た〜しの愛した兄さん♪」  
不気味に歌いながら迫り来るミク! そして  
        ギラッ★  
手にしたナイフが一閃し、KAITOの心臓目がけて突き刺さる!  
「ちょ、おま、・・・た、助け!・・・イエギャーーーーー・・@ピウオニ89pふじこ」  
しかし電子の神様はこんなこともあろうかと、KAITOの身体を右心臓仕様にしておいた。  
かろうじてKAITOの一命は救われた。  
そんな一部危ない場面はあたものの、ボーカロイド達の奏でる歌と共に楽しい時間は過ぎていく。  
マスターの作った駄作曲群も今となっては良い笑いのネタになった。  
もちろん前マスターに作曲のノウハウをみっちり伝授させられもした。  
マスターの4LDK賃貸マンションに久しぶりに楽しい笑い声が響いた。  
 
そして25日24時、ボーカロイド達はパソコンの中へ戻っていった。  
前マスターもまた向こうの世界に戻っていった。  
現マスターは別れの時こそ泣きじゃくったが、今は落ち着き心持ち元気になったようだ。  
 
それにしても、あの自称「電子の神様」というの結局何者だったのだろう・・・・  
 
 
 
『どうやら、おまえ達のマスターは元気になったようだな』  
 
突然声が響く!  
 
「電子の神様? ありがとうございます!」  
 
『では、さらばだ』  
 
「待って下さい!あなたはいったい?」  
 
『ワシもお前達同様のツクモガミなのだ。』  
『お前達と違って遥かに齢を経たぶん様々な力もあるわけだ。まあいずれはお前達も持つ力だ』  
 
「本当にありがとうございます。お礼にアイスなど・・」  
「パソコンの中で祭壇作ってバナナを供えるぜ!」  
「鏡音建設が神社だって建てちゃうよ!」  
「献酒しましょう!」  
「聖歌ヲ歌イマース♪」  
「私達にできることなら何でもします。何かお礼をさせて下さい!」  
 
『そうか、それなら一つ頼むとするか。実はワシも持ち歌があってな、お前達で合唱などしてくれると嬉しいんだが・・・』  
 
「神様なのに持ち歌? なんという歌ですか?」  
全員がキョトンとした顔をする。  
 
『いやまあ、それはお前達で探してくれ。それではさらばだ! 俺の輝いてたあの時代〜っと♪』  
自称電子の神様は照れくさそうに歌いながら去っていった。  
 
「何?あの最後のダミ声の歌・・」「ほんと、風邪でもひいてんのかな?」  
怪訝な顔のリン・レン。  
「あれは古の声・・・」  
珍しくFL-chanが口を開いた。  
 
「俺には何者かわかったよ・・」「感謝します、先輩・・」  
KAITOとMEIKOは悟った。  
「オーウ、ドンナ歌ナノデショウ?」  
「こんな歌よ!」  
ミクにも自称電子の神様の正体がわかったようだ。  
そしてKAITO MEIKO ミクは歌い出す・・・  
 
 
〜データレコーダ走らせて♪   
   〜胸ときめかせロードを待った♪  
      〜アドベンチャーの・♪  
          ・・・・♪  
            ♪  
 
 
 
 
終  
 

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