「君が…?」
「はい、巡音ルカです!」
妹ができる、そう聞いて僕は内心喜んでいた。
僕の姉達はみな気が強い方で弟である自分は
可愛がるという名目で玩具にされたり、
ネギやミカンを買いにパシられたり
とか〜なり振り回されていたのだ。
しかし妹なら!
決して命令されることはない、逆らうことはない。
その上、最も製造が近い僕なら、1番頼りにされるかもしろない。
僕より小柄な女の子が
上目遣い+うるうるした目で「お兄ちゃん」
なんて言われたら……あぁ、最高!
そんな想像…もとい妄想をして
妹の対峙を待ちわびていたのに…。
目の前にいるイモウトは僕より背が高く大人びて、
姉と言われたほうがしっくりくる。
世の中って上手くいかないのね。
「あの…?」
いけない、つい思考がトリップしてしまった。
「あ、ごめん。僕は鏡音レン。君の…」
アレ、僕は彼女の兄、弟?
発売は僕が先だけど設定年齢は明らかに下だし。
「接し辛い…ですか?」
眉を寄せて考えていると、彼女が不安そうに呟いた。
「私、構想は早かったんですけど
スケジュールや開発都合で遅くなってしまって。
後輩なのに年だけは上ですし、こんな微妙な立ち位置なの扱い難いですよね。」
目を軽く伏せ、手を握って囁くように彼女は言う。
それは1年前の自分とよく似ていた。
リンに不随するvocaloid初の異性ライブラリの僕。
リンの鏡だ、双子だとか
リンのオマケのように扱われ
アイディアンティが確立できず、心の中で叫んでいたあの頃。
この子もきっとそんな気持ちなのだ。
「ルカ!!」
叱咤するような声で呼ぶと彼女はキョトンとした顔で僕を見つめた。
「僕の君の兄だよ。
そして巡音ルカは僕の妹だ。君は僕が守るから、安心して飛び立てばいい!」
熱が顔に集中していく。
言い慣れない言葉。
恥かしくて視線を逸しそうになりながら
精一杯言った。
伝えなくちゃいけないから。
ルカは数回瞬きを繰り返して、それから…
「はい、レンお兄さん!」
満面の笑みで応えた。
それはまるで雪のように真っ白で、向日葵のように温かくて。
僕はまた顔が熱くなった。