ボーカロイドは飯を食う。  
ミクはネギが好物だと言うし、双子はおやつを出さないと働いてくれないと聞いた。  
KAITOと言えばアイスだし、MEIKOと言えば酒。がくぽも茄子を食うとか食わないとか。  
とにかく、ボーカロイドは食事によってエネルギーを補給することが出来る最新型ロボットだ。  
エコなんだかそうでないんだかよくわからん。間違いなく財布には優しくないな。  
そして当然、巡音ルカも食事をとるわけなのだが、別に食べなくてもいいらしい。  
付属品のコードを装着、コンセントに差せば、それでエネルギーが補給出来るそうだ。  
従来のボーカロイドとは違う―――コンセプト通りだ。  
月末に限り、俺はそうすることにした。何故かって?金がないからだよ!  
…正直あんまりやりたくない。気分的に。  
でも、ルカはそれでかまいませんといつものように言って、微笑んだ。  
…そして、今日は月末。バイトでへとへとになった俺はいつも通り湯を沸かしたのだった。  
 
「マスター」  
 
不意に、カップ麺をすする俺を見ていたルカが言った。  
 
「マスターは最近ほぼ毎日、夕食にカップ麺を食していますね」  
 
うぐ、よく観察していらっしゃいますねルカさん。  
まあ、金のない大学生なんてこんなもんさ。  
ちゃんとしたものは作れないし、外食は金がかかるし。  
だから安売りのカップ麺が多くなるのはしょうがないんだよ。  
―――と言うと、ルカは僅かに首を傾げた。  
 
「マスター、そんなにお金がないのですか」  
「というか料理すんのがめんどいってのもあるなぁ」  
「けれど、カップ麺ばかりでは健康に悪いのではないでしょうか」  
「うーん、そりゃな」  
 
スープを飲み干す。腹一杯には当然ならない。  
ちくしょう、大盛りは売ってないのかよ…  
 
「……」  
「どした?ルカ。あ、充電終わった?」  
「はい」  
「よし、じゃあ歌の練習すっか」  
「…あの、マスター」  
 
ルカが遠慮がちに口を開いた。  
 
「私が何か作りましょうか」  
「何かって?作詞?」  
「違います。料理です」  
 
俺の思考が停止したのは言うまでもない。  
いやいやいやだって、ルカはボーカロイドだろ?歌うロボットだろ?  
…いや!この際それは大した問題じゃねえ!  
問題はたった一つのシンプルなこと!  
 
「女の子の手料理!!」  
「え?」  
「いやなんでもない」  
 
思わず本音が出ちまったぜ。  
ルカは確かにボーカロイドだ。歌うロボットだ。  
俺だってそもそも、ロボロボしさに推されてルカを購入した。  
…実際はそうでもなかったけどね。今は満足してるからいいとして。  
とにかく、女の子には変わりない!女の子が俺のために料理を作ってくれる!  
…ん?でも待てよ。  
 
「ルカ、料理作ったことあんの?」  
「ありません」  
 
きっぱりと答えるルカ。うん、クール。  
じゃなくて。  
 
「…やっぱりいいよ。うん。さあ歌の練習だ」  
「待ってくださいマスター。何故ですか」  
「いやぁ、だって、いやあははは」  
「このままでは栄養が偏って、いつか身体を壊します。それはいけません」  
 
と、ルカは一瞬何かを考えるかのように沈黙を挟んだ。  
そして再び口を開く。  
 
「…いえ、正確には、私はマスターに身体を壊して欲しくないのです」  
 
…こう言われて喜ばない男がいるだろうか。いないだろ。  
断れる男もいない。  
 
「…お」  
「お?」  
「…お願いします」  
 
真剣だったルカの顔が柔らかくなり、彼女はぺこりと頭を下げた。  
 
「感謝します、マスター」  
 
 
***  
 
 
カップ麺だけじゃ足りねーよと抗議の声をあげるあたり、俺の腹はまだだいぶ余裕がある。  
さっそくだけど軽食を作ってもらうことにした。まだ八時だし大丈夫だろ。うん。  
ちなみに材料はある。示し合わせたように、一昨日かーちゃんが送ってきたものだ。  
…俺だって、まったく料理しないってわけじゃない。不味い飯は作れる。  
ただ、講義にバイトに作曲してると時間がなくなるってだけなんだ…  
そして貯まっていく食材たち。ネギや茄子が多いのは俺の気のせい。  
 
「マスター」  
 
と、台所のルカがこっちを見た。  
(リビングと台所は繋がっている。安い部屋だしな)  
「なんだ?」  
「塩はどこにありますか」  
「あーと、右の戸棚の…上の段、だったかな」  
「ありました。ありがとうございます」  
 
がたがたとんとん。  
…ルカの料理姿は、正直感動ものだ。包丁を動かす度に、長いピンクの髪が揺れる。  
彼女がいたらこんな感じなんだろうな。  
いやもういっそのことルカはもう俺のよm  
 
「マスター」  
「ふぁいっ!」  
「? どうかしましたか」  
「いっいやっ!なんでもない!で、なんだ!?」  
「薄味と濃い味、どちらがよろしいですか」  
「…じゃ、薄味」  
「わかりました」  
 
あぶねえ心臓止まるかと思った。  
…というか。  
 
「…なあルカー、やっぱ俺も手伝うよ」  
「それはなりません。これは私が言い出したことです。私の役目です」  
「でも不便じゃないか?」  
「問題ありません。マスターはそこでお待ちください」  
 
低い声できっぱりと断られた。変なところで頑固だなこやつめ。  
 
―――そんなこんなで10分が経過した。  
俺はその間、ルカが「るっかるっかにしましょうか〜♪」と歌うのを聞いていた。  
…いつの間に覚えたんだ。あ、この前聞かせといたっけ。  
…既成事実聞かせとけば良かった。  
るかるかが三週目に突入したあたりで、ルカが満足そうに頷いた。  
 
「出来ました、マスター」  
 
…さあ一体どんなものが出来たのか。  
正直に言う。  
俺は死亡フラグを覚悟している。  
可愛い女の子が料理が不得意なのはお約束だからな。この間見たアニメでもそうだった。  
だが俺は食うぜルカ。お前が真剣に作ってくれた料理だ!  
据え膳食わぬは男の恥!さあ来い!!  
 
「冷めると味が落ちます。なるべく早くお召し上がりを」  
 
そう言ってルカが出したのは。  
 
「…野菜炒め?」  
「はい。今のマスターに不足しているのは、食物繊維だと思いましたので」  
 
ちょっと焦げてるが、間違いなくそれはまともな野菜炒め。  
人参、キャベツ、もやし、ニラ、…正統派な野菜炒めだ。  
予想外のいい匂いに、思わず唾がわいた。  
ちら、とルカを見る。  
ルカは期待と、僅かな不安を湛えた目で俺を見ていた。  
それは俺の背を押す、最後の一手となった。  
 
「いただきます!」  
 
箸で無造作に野菜の群を刺し―――俺は食べた。  
 
「…」  
「…マスター?…マスター、あ、あの」  
「うまい」  
「え」  
「うめぇ。…お前すごいなルカ!」  
 
俺は今、猛烈に感動している。  
死亡フラグを覚悟していたせいか、ものすごくうまく感じた。  
いや、実際その野菜炒めはうまかった。心なしかお袋の味がするぞ。  
 
「お前、料理初めてって嘘だろ?」  
「い、いえ…初めてです…」  
 
あ、また赤くなってる。可愛いやつめ。  
俺は思わず笑いながら、箸で掬った一掴みをルカの前につき出した。  
 
「マジでうまいよ。ほれ食ってみ」  
「いえ、それはマスターの」  
「俺がルカにあげるんだ。いいだろ?」  
 
躊躇したが、ルカは小さく口を開けて、それを頬張った。  
無表情のまま咀嚼する。やがてごくんと飲み込むと、ルカは妙な顔をした。  
 
「…久しぶりに食べました」  
「へ?久しぶり?」  
 
俺がルカに野菜炒めを食べさせたのはこれが初めてだぞ。  
 
「開発室にいた時、チェックの段階で食べたことがあります」  
「なるほど、その記憶を辿って作ったのか」  
「はい」  
 
でもなんで野菜炒めなんだ開発者…  
 
「なんとなく、と言っていました」  
 
あぁそうなんだ…  
まあ、開発者に感謝だな。お陰でルカの手料理が食えたし。  
白い皿の中をあっという間に空にして、テーブルの上に箸を置く。  
 
「ごちそうさま!…てか、作れるなら早く言えよなー、ルカ」  
「も…う、しわけ…」  
 
…うん?  
高速でルカを振り返る。  
するとルカは、床の上に座り込んでいた。  
 
「ルカ!?」  
 
椅子を蹴って、ルカの側に膝をつく。  
ルカはこうべを垂れ、顔を両手で覆っていた。  
泣いているのかと思ったが、声は聞こえない。代わりに苦しそうなブレス音がした。  
 
「ルカ、おいっ!どうしたんだよ!!」  
 
まさか、慣れないことさせたから?  
料理を作る機能なんて持ち合わせていないだろう。無理をしていたに違いない。  
まさか、今度こそ本当のエラーが…?  
血の気が引いて、思わずルカの肩を掴んだ。  
 
「ルカ、ルカ!しっかりしてくれ!」  
「ま…マス……マスター…」  
 
ルカがやっと頭を上げた。  
ほっとしたのもつかの間、ルカの顔がかつてないほど赤くなっているのに気が付いた。  
例えればパプリカだ。赤カブだ。―――明らかにヤバい。  
 
「る、ルカ…!」  
「マス…た…うう…」  
「苦しいのか?どこが苦しい!?どうしたのか言ってくれ!」  
 
俺のせいでルカが死ぬ?  
壊れる、なんて言葉は思い浮かばなかった。  
ああ、こんなことなら一緒に飯作って、一緒に食べたかった。  
まだ言いたいことだってたくさんあるのに!  
 
「マ……マスター…」  
「ルカ、ルカ…!ごめん、ごめん、俺が…!!」  
「……か……」  
「か?どうした?苦しいのか!?」  
 
ルカが激しいブレスの中で、俺の耳に口を寄せる。  
やばい涙腺崩壊する。どうしよう、どうしたら。  
そして、ルカが微かに呟いたその言葉は――――、  
 
 
「……間接キス……」  
 
 
……。  
………?  
うん?なんだって?  
 
「…ごめん、もう一回」  
「かっ…かかか、間接キス…!」  
 
耳の穴に指を突っ込んで、抜く。うん、音は正常だ。  
俺は聞き間違えてない。脳みそも多分大丈夫。  
…OK、少し落ち着こうか。  
 
いつの間にやら抱き締めていたルカを解放し、顔を付き合わせる。  
しかしルカは再び顔を両手で覆っていた。耳が真っ赤だ。  
 
「…間接キスって、さっきの?野菜炒めの?」  
 
ルカがこくこくと頷く。  
…いや、これはもうこくこくなんてもんじゃないな。ビュンビュンだ。  
 
「…ルカ、落ち着いてよく聞いて欲しい」  
 
ルカがまた頷いた。  
 
「お前、この前、冷蔵庫のペ●シ飲んだだろ?」  
 
こくこく。  
 
「あれ、俺の飲みかけだったんだけど」  
 
こくこ…… !!?  
そんな感じでルカはうろたえ始めた。顔を覆ったまま左右に首を振っている。  
…あぁ、どっと疲れた…無事で良かったけど。  
 
「…ルカー」  
「……」  
「手、どけてくれ」  
「……はい」  
 
ルカがおずおずと両手を離すと、真っ赤な顔が現れた。  
俺は思わず笑ってしまう。  
 
「お前、小学生みたいだな」  
「…申し訳…ありませ…」  
「しかも気付くの微妙に遅いし」  
「う……すみません…」  
「…でも、なんともなくてよかったわ」  
「……ゴメンナサイ」  
 
素直なのは良いことだ。  
…さて、じゃあ次は俺のターンということで。  
 
「ルカ」  
 
呼ぶと、うつむき加減だったルカの顔がこちらを向く。  
 
「なん―――」  
 
なんでしょうか、とでも言おうとしたんだろうか。  
でもその続きは残念ながら聞けない。  
 
俺は、ルカにキスをした。  
 
予想以上に柔らかい唇に心臓がバクバクいってる。ヤバい。  
目を瞑っているからルカの顔は見えない。そんな余裕はない。でもきっと真っ赤になってるんだろうな。  
それは時間にして僅か三秒。  
実際はもっと早かったかもしれない。  
俺は唇を離し、ルカの様子を見た。  
…ルカは…ええと…すごい顔をしていた。固まってるぞ。  
少しばかり釣りがちな青い目は見開かれ、顔は夕日以上に真っ赤。  
でもまあ多分意識はあるだろう。手が震えてるし。  
 
「ルカ」  
 
―――わかったことが一つある。  
ルカはいつも、こうした俺の言葉や行動に、過剰な程の反応を示してきた。  
ルカが俺の分まで赤くなるから、俺は何だって素直に出来るんだ。  
今だって死ぬほど恥ずかしい。けど言える。  
ごくりと喉を鳴らして、俺は未だ動かないルカを真っ直ぐに見据えた。  
 
「好きだ」  
 
―――当然というか何というか。  
ルカはあわあわともあああとすら言わないまま、フローリングの上に倒れた。  
 
 
***  
 
 
初めてのキスは、野菜炒めの味がした。  
…カッコ悪すぎる。涙の味とかならカッコいいのに。  
ソファーに横たわるルカの側で、俺はぐるぐると余計なことを考えていた。  
ああわかってたさ。可愛いって言っただけで真っ赤になるルカのことだ。  
キスなんぞに耐えられるはずがないわけで。  
けど俺も耐えられない。沈黙に耐えられない!  
うひぃぃさっきから唇が妙な感じがする誰か助けてうぼぁー。  
 
「…マスター?」  
 
その時、衣擦れの音と同時に声がした。  
心臓が情けないほど飛び上がって、身体中の血液が忙しなく流れる。  
ルカの声は普通だったが、俺が背中を向けたまま動かないでいると、「あっ」と言って黙りこくってしまった。  
…気まずい。俺のせいなんだけど。反省している。  
だが後悔はしてない!…と自分を励まして、ようやっと口を開いた。  
 
「…ぐ、具合、大丈夫、かな?」  
 
何が「かな?」だ俺。誰だよ。  
 
「どぅあ、だっ、大丈夫、です」  
 
ルカもどもりすぎだろ!どぅあって何だどぅあって!  
けどやっぱり、そのお陰で落ち着いた。  
振り返りはしない。そうしたらまたルカが卒倒する気がする。  
だから顔を向けないまま、また声を捻り出した。  
 
「…ルカ、その、あのな」  
「はは、ふぁい」  
「いい、嫌だった?か?」  
…言うに事欠いてなに言ってんだ俺は。  
もし嫌だったって言われたら再起不能だぞ。墓穴にも程がある!  
 
「そん、そそんなこと」  
「あ、ああ、ならよかっ…たっていうか、うん、まあ、な」  
「は…はい」  
 
駄目だ会話が続かない。あれだけシミュレートしただろ俺!しっかりしろ!  
ああ駄目だもう初めてのキスはニラの味がしたーとかもう頭メルト溶けてしまいそうであばばばば。  
 
「…マスター…」  
 
その時。  
ルカの白い手が、不意に肩に乗った。  
心臓が、壊れるんじゃないかってほど激しく動く。すぐ後ろにルカがいる。  
俺の好きな女の子が。  
 
「わ…私は、…人間では、ありません」  
 
知ってるよ。俺が起動させたんだから。  
 
「感情も乏しいです…」  
 
わかってるよ。その上で好きなんだ。  
 
「……マスター」  
 
なに、ルカ。  
 
「…好き、とは、どういう、ことですか」  
 
―――我慢できずに振り返った。  
長い桃色の髪。釣りがちな青い瞳。透き通るような白い肌。  
正直に言う。恋をしそうで怖いと思った。ロボット相手に本気にしそうで恐ろしかった。  
感情がないなら俺も本気にならないと、安心してルカを選んだ。  
でも結局俺はルカを好きになった。しかも後悔なんて微塵もしてないと言い切れるほど強く。  
そう、後悔はしてない。反省もしてない。  
ただ彼女がいなくなるのが怖い。これはさっき初めて気付いたことだ。  
焦ったのは否めないけど、早すぎたとも思わない。間違っているとも。  
俺はルカの頭に手を乗せて、笑った。  
 
「恋人になって下さいってことだよ」  
 
ルカは、仄かに頬を染めた。  
それから目にうっすらと涙を浮かべて、震える唇で言う。  
 
「パートナー、ではなく?」  
「うん。恋人」  
「私は人間ではないのですよ?」  
「ルカが好きなんだよ、俺は」  
「……マスター」  
「ルカは?」  
 
ルカが身を強張らせた。一気に頬の色が濃くなる。  
 
俺は多分、初めて会った時からずっとルカが好きだった。  
だから知りたい。もう後には引けない。  
 
「…わ、私は」  
 
…いや、知りたいと言うよりは「聞きたい」だな。  
自意識過剰かもしれないけど、ルカは多分、俺と同じように思ってくれてるだろうから。  
 
「……」  
 
ルカは必死に言葉を探しているように見えた。  
けど見つけられないのか、俺を困ったように見てくる。  
…そんな目で見るなよう。俺だって素人なんだぞ。恋愛の。  
と、その時だった。ルカが何かひらめいた!というような顔をして、ごくりと喉を鳴らす。  
よし来いルカ!俺の心臓が爆発しないうちに!  
 
「―――」  
 
しかし、ルカは俺の期待を裏切って、何も言わなかった。  
代わりに、ぐっと近づいてきた。  
唇に唇が触れる。  
目を閉じたルカの顔がかつてないほど近くにある。  
 
―――キスされたのだと気付くまで、数瞬。  
 
俺は頭のてっぺんから爪先まで、血が氾濫した川の如く猛烈な勢いで流れるのを実感した。  
目の前でルカの睫毛が揺れている。白い肌は上気していた。  
…頭がどうにかなりそうだ。何でいきなりキス!?あ、俺もか!  
目を閉じることも出来やしない。全神経が唇に集中する。不意打ちはかくも刺激的なもんなのか。  
…そして、何の前触れもなく、ルカが離れた。  
閉じられた瞼が、離れる動きと同時進行で開かれ、青い瞳に俺の間抜け面が写り込む。  
 
「……! …!?」  
 
俺は口を開いたが、言葉なんか出てくるはずもない。金魚のようにパクパクとするのが関の山だ。  
けどそれはルカも同じで、彼女は俺のジェスチャーに頷くだけ。  
こくこく、こくこくと。それだけでわかった。  
―――こうしてルカは、無言の告白を成し遂げたのだった。  
真っ赤な顔で泣きながら笑って一生懸命頷く、俺だけのルカ。  
たまらなくなり、俺は彼女を抱き締めて、叫ぶように言った。  
 
「俺も大好きだ!!」  
 
三度目のキスは、涙の味がした。  
 
 
***  
 
 
「マスター、食事が出来ました」  
 
台所から、ルカが俺を呼ぶ。俺は課題の手を止めて立ち上がった。  
あれ以来、ルカはたまに夕食を作ってくれる。大体が野菜炒めだが、最近は味噌汁も覚えたようだ。  
買ってきた惣菜と、湯気がたつ野菜炒め(大盛)と、ワカメの味噌汁。そして白米。  
 
「お、今日はワカメか」  
「出汁はにぼしです」  
「いつも悪いなぁ、ルカ。よし、いただきま」  
「あ…あの、マスター」  
 
椅子に座る俺の服を引っ張るルカ。  
…またか、と思いつつ、緩む頬を抑えながら振り向いた。  
そしてスタンバイ完了なルカの唇にかるーく口づけて、苦笑いする。  
 
「…ありがとうございます、マスター」  
「おー」  
 
ルカはエプロンを外して、満足した顔で正面の席に座った。  
…あれ以来、ルカはキスにハマったらしい。ことあるごとに要求してくるようになった。  
応える俺も俺だけどな。しょうがないじゃない、好きなんだもの!  
でも相変わらず、ルカは言葉で何かを言われると真っ赤になる。…基準がわからん。  
まあ恋人にキスを求められて嫌な奴はいないだろう。俺も例外じゃない。  
ルカが飽きるまで、彼女に応えようと思っている。  
 
「いただきます」  
「おっと。いただきます」  
 
ルカが箸を持ち、礼儀正しく手を合わせた。俺も慌ててそれに倣う。  
――今日は月始め。懐は温かい。腹の虫が鳴っている。  
 
「美味しいですか」  
 
目の前には俺の嫁。  
野菜炒めを口いっぱいに頬張って、俺は大きく頷いた。  
 
「うまい!」  
 
ルカの料理は、今日もうまい。  
 
 
 
 
おわり  
 

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