CVシリーズ第三弾、巡音ルカ。  
彼女はミクリンレンの成功や失敗、教訓を得て造られた新たなる歌姫である。  
彼女はいわゆるクールだ。  
三人より、またはMEIKOやKAITO、がくぽよりも感情が抑えられている。  
それは何故か?  
―――ひとつに、DTMマスターたちの嘆きがあった。  
 
「笑いかけられたら勘違いするだろ!当たり前だ!」  
「あんな可愛い子が人間じゃないなんて詐欺だ!」  
「動作ひとつひとつに気を取られて調教どころじゃねーよハァハァ」  
 
…という童貞もとい純情なマスターたちの苦情。  
クリプトンは悩んだ末、ルカを従来のボーカロイドよりロボロボしくすることに決めたのだった。  
 
クリエイターであるマスターの邪魔をしてはならない。  
ボーカロイドはあくまでも、歌を歌うための存在なのだから。  
 
 
***  
 
 
「…よし!」  
今、俺の目の前には、箱の中で眠る一人の美少女がいる。  
CVシリーズ第三弾、巡音ルカだ。  
いよいよこの時がやってきた。  
今まで聞き専だった俺も、ルカを得てニコ動にて華々しいデビューとなる。  
…今まで、あんな可愛い女の子たちと密室空間で過ごすことに踏み切れなかった俺。  
たとえ人間じゃなかったとしてもだ。ちなみに野郎は論外。  
だが、ルカはロボロボしいと言うじゃないか!  
クールなら俺に勘違いさせるような言動もしないだろうし。うん。  
あくまでも仕事仲間として見れるだろう。きっと嫌われることもない!  
…当然、そんな邪な理由でルカを選んだわけじゃない。  
あの低音に惚れたんだ。英語が出来るのも羨ま…魅力だ。  
一応弁解しておくぞ。  
 
さて、心の中でグダクダ言うのはやめにしよう。  
俺は箱の前に跪いて、眠る…じゃない、起動前のルカの首筋に手を伸ばした。  
この辺に…あったあった起動ボタン。  
ポチッとな。  
すると、ピーーーと電子音がし、ゆっくりとルカが身を起こした。  
ピンク色の髪がさらりと揺れ、スリットからは白い足が…あ、立ち上がるのね。  
俺も彼女に合わせて立ち上がる。  
俺とルカの頭がほぼ同じ位置にきたその時、ルカがぱちりと目を開けた。  
青い、気の強そうな目だ。確かにちょっとロボっぽい顔してる。  
 
「…この度は、CVシリーズ“巡音ルカ”をお買い上げ頂きありがとうございます」  
 
デモと同じ、凛々しい声がした。  
ってかいきなり喋るなよ。びっくりするじゃないか。  
 
「あなたの歌の手助けになれば幸いです。これからよろしくお願いします」  
 
…うーん、期待を裏切らないロボロボしさ。超クール。  
ちょっと寂しいとか、思ってないぞ。  
 
「マスター」  
「はいっ!?」  
 
おおやべえマスターって呼ばれたよ俺。  
ちょっと感動するな。  
 
「私には人間と同じように接していただかなくとも支障はありません」  
「あ…うん」  
「あくまでも歌を歌うだけの存在です」  
 
彼女は抑揚なく告げた。…寂しいとか(ry  
その時、ふと思い付くことがあった。  
 
「なあルカ、英語で歌えるんだよな?英語で喋りも出来んの?」  
「はい。喋りますか?」  
「おー、やってみてよ」  
 
彼女は頷き、一瞬の間の後に英語を喋り始めた。  
…すごい。全く聞き取れん。  
俺の耳はボカロ耳だが、残念ながら英語には対応してないんだよ…  
 
「いかがでしたか」  
 
ルカが尋ねてくる。良かった日本語だ。  
 
「よくわかんないけど、俺が聞き取れなかったから本場の英語なんだろうな」  
「…褒め言葉ですか」  
「そうだよ。凄いなー、ルカ」  
「ありがとうございます」  
 
ルカはあくまでもクールに言う。なんだか寂し…くないぞ。  
それにしても、外見は人間とほとんど変わらないんだよな。  
けど人間じゃない。そのせいか気張らないで見ることが出来た。  
長いピンクの髪。白い肌。青くて冷たい瞳。スリットは…正直、目のやり場に困る。  
まあミクのミニスカニーソよりはマシか…と思っていたら、  
 
「マスター」  
 
またルカが口を開いた。  
 
「ん?」  
「何か欠陥がありましたか」  
「へ?何で?」  
「ボディを調べているようでしたから」  
「あ、うわ、すまん!」  
 
慌てて身を引く。不躾だった。やばい。  
するとルカは僅かに首を傾げた。  
 
「何故謝るのですか」  
「いや、だってじろじろ見られて嫌だったろ?」  
「問題ありません」  
 
…やっぱり、ロボなんだよなぁ。  
普通の女の子じゃこうはいかないしな…こんな可愛い顔してるのに。  
思わずまた顔をじーっと見てしま……うん?  
…何か違和感がある。なんだ?  
 
「マスター?やはり欠陥が」  
「いや…そうじゃないけど」  
「では何故見るのですか」  
「え、えーとな、可愛い顔してるなあって」  
 
さらりと言ったが俺きめぇ。  
けど相手はロボだしな…現にルカは表情を変えない。  
ぴたりと固まったままだ。  
だから言えたんだ。全く歯が浮くセリフだったぜ…我ながら。  
と、その時、違和感の元を見つけた。  
マイクがない。ヘッドホンから伸びてるはずのアレがない。  
郵送中に取れたか?すると箱の中に入ってるかも…  
 
「ルカ、ちょっとどいてくれ」  
 
ルカは黙って出た。素直だ。  
深い箱の中を探すと…あった。  
ボーカロイドのチャームポイント(と俺は捉えている)である小さなマイク。名前は忘れた。  
折れたのか取れたのかはわからんが、なんとかくっつかないだろうか。  
くそ、珍しく発売日に届いたと思ったらkonozamaか!  
 
「ルカ、マイクが取れてたぞ」  
「…は」  
「くっつくかな…ってどした?何かあったか?」  
 
俺はちょっと怯んでしまった。  
ルカが明らかにボーッとしていたのだ。無機質な雰囲気が和らいでるのがわかる。  
 
なんでまた…まさか俺が可愛いって言ったから?  
いやいやまさかね!従来よりロボロボしいって話だし!  
 
「よ、よし!くっつけてみるぞ!」  
「はい、マスター」  
 
やっぱり俺の気のせいだったみたいだ。きっぱりとした返事が返ってきた。  
意識することないない。相手はロボなんだ。  
下手に手を出したら嫌われるぞ、俺。  
 
「…やっぱりくっつくもんじゃないんか、これ」  
「わかりません。本社に連絡しますか?」  
「その方がいいかもな…」  
その時だった。  
近いことに気が付く。顔が。  
マイクをつけるなら当たり前だが、何故か抜けていた。  
二十歳(という設定)にしては幼い顔が俺に向けられている。  
青い瞳に映る俺の間抜け面。  
赤く染まった白い頬。  
………ん?  
赤く染まった頬?  
 
何で赤いんですかルカさん!?  
 
「ま、マスター」  
 
ルカの声で我に返る。  
そして俺は自分の立場を理解し、慌てて後ろに下がった。  
 
「わ、悪い――――なァっ!!?」  
 
悪い偶然は重なるものだ。  
俺は床に置いてあったチラシを踏んづけ、盛大にすっころんだ。  
前のめりに。  
 
「きゃあ!」  
「うおおっ!」  
 
初めて聞いたルカの人間らしい声。だが今はそれどころじゃない。  
俺は盛大にすっころび、盛大にルカにダイブした。  
柔らかな感触が顔に当たる。  
…これはもしかして。  
もしかしなくても!  
もしかしてもしかもしもももももも  
でっかいおっぱ  
 
「…マスター、重いです」  
 
ルカのクールな声に、また俺は我に返ることが出来た。  
音速で起き上がり、俺はルカの隣に正座した。  
 
「うおああすまん!ごめん!悪かった!申し訳ない!」  
 
そして、土下座する勢いで謝った。しろと言われたらするとも。  
ルカは何も言わない。顔見るの超怖い。  
…あのブーツで踏まれたら痛いだろうな。  
視界の端で、ルカがむくりと起き上がった。  
 
「マスター…」  
「はいっ!」  
「ままま、マスター…マス…」  
「…へ?」  
 
ちょっと待て今明らかにノイズが。  
反射的にルカを見ると…そこには真っ赤な顔があった。  
…はい?  
 
「わわ、私はっ、歌を歌、人間、マスタ、ああ、あああああ」  
「ルカー!?しっかりしろルカ!」  
「ま、マスター、おかしいです、オーバーヒート、えエラーが」  
 
いやこれはオーバーヒートとかエラーとか、そういう問題じゃないだろ!  
 
ルカはあわあわと言葉にならない言葉を発している。  
途中でたまに英語が混ざってわけわからん。  
 
「おいルカ!落ち着けって!」  
「ま、ま、マスター、マスター…」  
「そうだよマスターだ!お前のマスターだよ」  
 
マスターマスター言い過ぎ、聞き過ぎてゲシュタルト崩壊してきたが、ルカも落ち着いてきた。  
彼女の目がまっすぐ俺を見る。  
 
「大丈夫か?」  
「…はい」  
「ごめんな」  
「…マスターが謝ることではありません」  
「いや、だって俺が」  
「私が勝手にエラーを起こしたのですから」  
 
いやあ、それは違うと思うぞ。  
 
「私は…壊れてしまったのでしょうか」  
「いや、そんなことはないと思うけど」  
「でも、なんだか知らないプログラムが現れています。ウイルスかもしれません」  
 
ルカは不安そうに俯いた。  
「エンジンの熱がおさまりません」  
 
…ぐう、可愛いぞ。  
ロボロボしさはどこへやらだな。クールさはまだ失われてないが。  
ただ、こっちの方が話してて楽しい。  
 
「マスター、本社に連絡をして私を返品しますか」  
「そんなもったいないことしないって」  
「ですが、私は明らかにおかしいです。欠陥品です」  
「けどなぁ、俺は今のルカの方が好きだぞ」  
 
またクサいセリフを吐いてしまった。どうした俺。  
今度こそ引かれると思った瞬間、ルカがかあっと頬を染めた。  
 
「!! あ、あ」  
「る、ルカ?おい?」  
「あわあわあわわ」  
 
ルカは顔を真っ赤にして、ぱたんと倒れてしまった。  
 
…なんだか予定が狂ってしまった。狂ったのは予定だけじゃないけど。  
これじゃミクやリンレンを頼んでも変わらなかったんじゃ……  
……いや、やっぱりルカで良かったかな。  
 
人間として扱わなくていいとルカは言ったが、俺はシャットダウンした彼女に毛布をかけた。  
まあ、こうなったもんはしょうがない。やるしかない。  
…とりあえず、明日は歌わせようか。今日は何も出来なかったし。  
人間のようにすやすやと眠るルカを眺め、俺は心に誓った。  
 
「これからよろしくな、ルカ」  
 
 
***  
 
 
その後、本社には苦情がたくさん届いたとか。  
その苦情の大半が、純情マスターたちのものだったことは、言うまでもない。  
確かに製作段階で封印したはずのルカの「感情」が何故復活したのか。  
それは誰にもわからないことである。  
 
 
 
 
おわり  
 

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