「どうして一緒に寝ちゃダメなの?」  
   
 納得がいかないといった表情でレンは両親に食いついた。プレゼントだ  
と渡された部屋は自分たちが生まれた時から余っていた空き部屋で、14年  
の月日を隔ていつしか物置小屋と化していたがつい先日業者の手によって  
清掃と修正を施され、今では立派な個人部屋となっていた。  
   
 「・・・レンは、あの部屋いらない?」  
 「ううん、リンと遊んだりするのに使うからいる。けど、俺の部屋とし  
てはいらない。勉強も寝るのも、リンと一緒の部屋でいいから」  
   
 あっさりと、そう切り返すと幼いころは「まぁ、仲がいいのね」とうれ  
しそうにほほ笑んだ母親の顔がとても困ったように歪んだ。自分はなにか  
間違ったことを言っただろうか、とレンの顔が訝しげになる。間違ったこ  
となど、何一つ言ってない。リンと一緒に寝たり勉強したり喧嘩したり遊  
んだり。それはずっと当り前だったことでこれからも何一つ変わらないこ  
とであるということを、両親たちは一番身近な存在としてよくしっている  
だろうに。  
   
 「でも、ほら。レンも結構大きくなってきたでしょう?寝返りをうった  
時にリンを下敷きにしちゃったりしたら、危ないじゃない」  
 「・・・下敷きになってるのは、俺の方だよ」  
 「シングルベッドで二人寝るのはそろそろきついでしょう?レン用にも  
新しいベッド買ってきてあげるから、ね?」  
 「いらない。リンと一緒でいいから」  
 「レン・・・、お願いだから言うことを聞いて頂戴・・・っ」  
   
 そう言って今にも泣き出しそうに顔を歪める母さんに、俺は一瞬だけ目  
を見開いた。  
 
 「・・・かあさん?」  
   
 今日は、俺達の誕生日だからと、朝から家は盛大なお祭り状態で。いろ  
いろな人が代わる代わる14歳の誕生日に祝いの言葉を述べ、プレゼントを  
くれた。母さんは前日から準備をした料理を沢山つくってくれて、父さん  
はめったに買ってくれないゲームソフトを2本も買ってくれた。昔からお  
世話になってる近所のお姉ちゃんとお兄ちゃんはお祝いの歌を歌ってくれ  
たり、面白い話をいっぱい聞かせてくれて、今日は本当に楽しい一日だった。  
と、夜二人きりになった暗いベッドの中でリンと話して、誕生日を終える  
予定だったのに。  
 ゴーン、と年代物の古い掛け時計が11時を告げる。俺たちにとって特別  
な一日もあと1時間で終わりをつげて、その次の瞬間からはまたいつもと変  
わらない一日が始まる。それだけのはずだったのに。  
   
 「レン、お前は嫌じゃないかもしれないけど、リンは嫌かもしれないだろ?」  
 「・・・っリンは嫌だなんて一言も言わない!」  
   
 相変わらず泣きそうな表情で俺をみる母さんの肩を抱く様に、横から入  
ってきた父さんの言葉に俺は思わずムッとする。リンはそんなこと思って  
ない。根拠なんかないけど、俺にはわかるから。しいてあげるとするなら、  
俺たちは双子だから。  
   
 「・・・言葉が悪かったね。リンもお前ももう14歳になっただろう。昔  
と違ってレンはどんどん身長が伸びてきたし、リンも女性にどんどん近付  
いてる。レンも自覚しているだろう?」  
 「・・・それは」  
   
 わかっていることだ。昔は鏡で合わせたみたいにそっくりだね、なんて  
言われるぐらいだった俺達の体は、どんどん変わっていっていた。合わせ  
る掌は歪な大きさで、二枚貝のようだった手はもうどこにもなくなっていた。  
俺が小さいといった服をリンが着ると、手が隠れてしまうほどにぶかぶか  
で、大きいね、なんて笑い合っていたけど。  
   
 「父さんと母さんがそうであるように、レン、お前にも、もちろんリン  
にもいずれ恋人が出来て結婚する。その時まで二人でいつまでも一緒に寝  
るなんてこと、出来ないだろう?」  
 「・・・・・・」  
   
 それはいつか確実になるであろう未来のことで。その相手は確実に俺で  
はないことだけは分かっていた。  
 
 「なんのことはない。ただ一人で寝ることができるよう練習だと思えば  
いいんだよ。なにもお前たちを離れ離れにさせようと意地悪をしているわ  
けじゃないんだから。レンとリンは変わらず俺達の子供で、仲のいい双子。  
そうだろう?」  
 「・・・・・はい、父さん」  
 「いい子だ・・・レン」  
   
 「さぁ、もう夜も遅いから寝なさい」と背中を押す父親の声に、俺は素  
直にコクンと一度だけ首を縦に振った。  
 ――――――ずっと二人でいたいね。  
 その言葉の期限が切れるのは、自分が思っていたよりもずっと速くて、  
案外もうすぐそこまで迫っていることであるのだと父親の声が俺に告げる。  
   
 「・・・リンに、おやすみって言ってきてもいい?」  
 「もちろん、構わないさ。・・・さ、おやすみ、レン」  
 「・・・はい。おやすみなさい、父さん母さん」  
   
 ゆっくりと、静かに閉じられた扉を最後まで見つめて。母親は寄りかか  
るように父親に凭れる。両手で今にも泣き出しそうな瞳を両手で隠し、  
小さな声で「どうして」と呟いた。  
   
 「・・・・大丈夫だよ、レンもリンもいい子だ。俺達の子だ。きっと過  
ちは犯さないよ」  
 「けれど、あぁ、やっぱり駄目だったのよ。許されないことだったのよ。  
可愛いあの子たちまで・・・!見たでしょうレンの瞳、あれは恋をする瞳よ!  
昔のあなたと変わらない、誰かを愛してる瞳なの!」  
 「・・・ミク」  
 「あの子たちまで、あぁ、いったい如何したらいいの。許されないこと  
なのよ、実際そうだったじゃない。あの子たちにまで何かあったら、私、私!」  
 「ミク、落ち付いて・・・」  
 「どうして、どうしたらいいの兄さん!あの子たちまで不憫な目に合わせたくないの。」  
 「信じるんだ、彼らを。大丈夫、俺達の子なんだから。ね、ミク・・・」  
   
 そして何事もなかったのかのように鳴り響く時計の秒針の音が、二人だけの居間に響いた。  
   
   
**************************************************************  
   
   
 どこかふらつくような、浮かない足取りでレンは両親が残る居間を後に  
し、二階へと続く階段に足をのせる。わずか十数段しかない階段がやけに  
長く感じた。うっすらと光がもれる子供部屋だったものへ向かうのには普  
段の倍以上の時間をかけた。  
 いつもの寝る時間よりもだいぶ遅れているから、もしかしたらもうリン  
は寝てしまっているかもしれない、とレンは思った。けれど、そっちのほ  
うがきっと楽で、心もいたまないから、いいだろうとも。  
 リンは知らない。今日から俺が新しく作られた俺専用の部屋で寝起きを  
しなくちゃいけなくなったということを。いつものように先にお風呂に入  
って、ベッドの中でまってるから、と屈託のない笑顔で二階へとかけ登っ  
て行った彼女には、どうしても言い難かった。  
 ほんのりと、月明かりのささやかな光がこぼれる子供部屋の扉をそっと  
あける。  
 窓付近に位置するシングルベッドの右端はリンのスペースで、やはりそ  
こは人一人分がいることが暗闇の中でもはっきりとわかるほど盛り上がっ  
ていた。規則的に上下する羽毛布団が寝ているのだと感じさせる。ベッド  
の横に置いてある目覚まし時計の秒針の音以外にはしんと静まり返った部  
屋に、レンは一歩踏み込んだ。  
 お月さまが奇麗な夜は遮光カーテンもレースカーテンもかけないで、綺  
麗な月明かりを眠る寸前まで楽しむのが俺とリンの夜の楽しみの一つだっ  
た。月明かりを蛍光灯代りに二人でゲームをしたりおしゃべりをしたり。  
ずっと、14年間飽きることのない夜だった。これからもそうだったと思ってた。  
   
 裸足が、冷たいフローリングの上をぺたりと歩く。寝ているのならせめ  
て、起こさないようにおやすみとだけ告げて、自分に与えられたのだとい  
う部屋へ行くつもりだった。  
 覗き込んで見えるリンの顔は穏やかで、隣にいない俺を探すように少し  
だけ伸ばされた手が白いシーツの上で浮いていた。蜂蜜色の柔らかい髪は  
俺とは違う髪質のもので、こんな所にも違いがでてしまったのだと悲しく  
なる。伸ばされていた手に、大きくなってしまった手をそっと重ねて今ま  
で寝る前にしていたように俺はリンの額にそっと顔を近づける。  
   
 これからもそうだと思っていた。それが、こんな風に終わるなんて考え  
てもいなかったのに。  
 
 「・・・・おやすみ」  
   
 (いずれ恋人が出来て結婚する。その時まで二人でいつまでも一緒に寝  
るなんてこと、出来ないだろう?)  
   
 諭すような口調で告げる父さんの声が頭の中で響いた。ギリギリと胸の  
ずっと奥にあるものが締め付けられるようでどこか息苦しささえ感じた。  
目をつぶってリンの体温を感じる。それさえも今日を境に許されなくなる  
のだと思うと、手放したくないという気持ちが溢れて仕方ない。  
 同じシャンプーと同じ石鹸を使っているはずなのに、リンの香りは俺よ  
りずっと甘くて、舐めたらきっと美味しそうなんだろうな、と思う。それ  
をネタにして話せば、リンはきっとそんなことはないとコロコロ変わるあ  
の愛らしい笑顔で笑ってくれるのだろうけども。  
   
 「・・・・おやすみ、リン」  
   
 意を決して、最後にもう一度だけそう告げて俺は握りしめていた手を放  
そうとした。  
   
   
 「――――どこいくの?レン」  
   
 左手がベッドに吸いつけられたように動けなくなった。正しくは、リン  
が俺の手をぎゅっと握りしめたからだ。今まで寝ていたとは到底思えない  
ぱっちりとした深いエメラルドグリーンの瞳の視界にとらえられる。  
    
 「何してたの?遅かったねーレン。ほら、おいで、お話しようよ」  
   
 毛布をめくり上げれば、いつもと変わらない俺の分のスペースがシング  
ルベッドのなかにポッカリと入る。二人で寝るとギュウギュウしていて少  
し狭いけど、お互いがぴったりとくっつけば身動きがとれるぐらいのスペ  
ースはとれるし、何より暖かくて俺は好きだった。  
   
 「リン、まだ起きてたの?」  
 「うん、レン待ってたんだよ。といっても興奮冷めやらずで眠れない、  
っていうのもあるけど。ね、お話しようよ」  
   
 枕の上に片腕をのせ、その上に顎を載せながらリンの流暢な口は楽しげ  
に言葉を紡いだ。  
 
 ローストチキンがおいしかったこと、ちょっと焦げていたこと。父さん  
に買ってもらったゲームが思いのほか難しすぎて、ちょっと八つ当たりし  
かけたこと。遊びに来てくれたお兄ちゃんとお姉ちゃんの誕生日には、  
お礼に歌を歌ってあげたいね、なんてとりとめもない話。  
 どうやって俺の話を切り出したらいいかを頭の片隅で考えながら、リン  
と手をつないだまま、潜り込まずベッドの上に座りながらその話に相槌を  
うつ。いつしか俺も夢中になって話し出していた。今日のこと、明日のこ  
と。これからのこと。空想未来図が儚げに部屋いっぱいに広がっていた。  
   
 二人だけでよかったのに―――。  
   
 その空想未来図を打ち崩すように、居間の時計が12時を知らせる鐘を鳴  
らした。直ぐに出ていくつもりだったからとドアを開け放していたせいで、  
いつも耳にするよりも鐘の音は幾分か大きかった。さあ、早く出て行きな  
さいとばかりに何度も時計は鐘を鳴らす。  
 同じ角度で月明かりに照らされている同じ間取りの部屋。俺に与えられ  
た孤独な部屋へ、さっさと戻れと鐘が告げる。  
   
 「ドア、開けたまんまだった。閉めてくるね」  
   
 立ち上がり、ゆっくりとリンから手を離す。離したくないと思わせるに  
は、リンの体温は十分過ぎた。これは時計が与えたチャンスなのかもしれ  
ない。もし俺が今夜この部屋を出ていくことが出ていくのだとしたら、  
チャンスは今しかないというぐらい。  
   
 「―――――っ、レンどこいくの?」  
   
 ドアへと近づける足を止めて。レンは振り返った。母親と同じように、  
どこか困った顔でじっと見つめるリンの瞳は何かを感じ取ったらしかった。  
やっぱり、どこかで俺たちは繋がっているのだと思ってしまうぐらい不思  
議な感覚だった。まだキシキシと痛む胸は痛いけれど。  
   
 「――――ドア、閉めるから」  
 「・・・・本当?どこにもいかないよね?」  
   
 喉に言葉がつかえる。言わなくちゃいけないと分かっているのに、俺が  
それを言葉にしたとたんずっと大切に隠して守り続けていた何かが音を立  
てて壊れてしまう。そんな予感がしていた。  
 
 リンはそのまま何も言わずじっと俺を見つめて続けている。張り付いて  
舌の上を通らない言葉を無理やり一度飲み込んで、勢いよく吐き出したつ  
もりだったのに、声はすごくか細いものでしかなかった。  
   
 「・・・・っ俺、一人部屋貰ったんだ」  
 「・・・・っえ?」  
   
 リンの顔が見れなくて、とっさに顔をそらした。  
   
 「父さんたちが、そろそろ俺たちも大人になってきたから一緒のベッド  
で寝るのはよくないって」  
   
 一度口に出してしまえばなんてことはない。すらすらと、言いたくない  
ことも饒舌にあふれてくる。ズキズキと、胸が痛い。  
   
 「前から隣の部屋改装してただろう。あそこが俺の部屋になるんだ」  
 「だって・・・あそこは客室にするって言ってたじゃない!」  
 「分からないけど・・・。ほら、俺もちょっとでかくなってきたから、  
一緒だとリンも窮屈だろ?今日から、別々の部屋で生活できるようにして  
くれたから、俺そっちで寝るよ。リンも一人で」  
 「イヤ!」  
   
 下で寝ているのであろう父さんと母さんにも聞こえてしまうんじゃない  
かって冷や冷やしてしまいそうになるぐらい大きな声でリンは拒絶の言葉  
を叫んで、ベッドから抜け出すと俺に抱きついてきた。のだと思う。俺は  
いまだに顔をあげることもできずに俯いたまますんなりと抱きついてくる  
腕を受け止めることで精一杯だった。  
 思ってもいないことをペラペラと話してくれていた軽快なピエロの口が  
少しだけだまる。けれどそのたびに頭の中では父さんの俺に突きつけた近  
い未来を示す言葉が渦巻いて離れなかった。  
 リンは大切な人だから。大好きだから守らなくちゃいけないんだ。と幼  
心に騎士を気取った精神でごまかそうとする。気がついちゃいけないもの  
を抑えつけて、ますますギシギシと胸が痛みだしていた。  
   
 「リン、ダメなんだ。リン!」  
 「イヤ、やだよそんなのっ!やだよう・・・」  
   
 嫌々と首を頑として縦に振ろうとしないリンの気持ちが、痛いほどわか  
って苦しくなる。ほら、父さん母さん、やっぱりリンは全然そんなこと思  
ってないじゃないか。  
心のなかで慰めてくれるピエロはそれでも笑顔を張り付けたまま口を開け  
と心臓にまたひとつナイフを刺す。グサリと音がした。  
 
 「っ、そう、さっきレンが来るまでの間に怖い本よんでたの!こ、怖い  
から一緒にいて、ね?それならいいでしょう?父さんと母さんには私が言  
うから、レンお願い・・・お願いだから」  
   
 そんなこと言わないでよ。  
 呟き声よりも小さな声が耳にまとわりつく。その言葉がまるで呪文のよ  
うにレンの耳を溶かしていった。どうしたらいいのか分からなくて行き場  
をもとめる腕が、リンを求めて意志を持ち始める。  
   
 二人だけがよかったのに―――。  
   
 本当はもうずっと前から気が付いていた。気がつかないふりをしていた。  
リンと一緒にずっとひた隠しにしてきた。誰にもばれないようにそっと育  
ててきた。育てるつもりなんてなかったのに、寄生植物のように、心に住  
み着いてどんどん勝手に育っていってしまって。  
 リンの手は白くてやわらかくて暖かい。嫌だ嫌だと駄々をこねるように  
そればかりを繰り返す。悪戯にナイフ突き刺していくピエロは楽しげに俺  
の心を壊してく。もうだめだと張り詰める糸に、最後の一刀を突き付けて  
奴は笑っていた。  
   
 「レン。大好きなの。ずっと好きだった。これからもずっとだよ。  
ずっとずっとだよ。―――愛してるの・・・だから」  
   
 (離さないでよ―――)  
   
 ガラガラと音もなく崩れていった奥底で、愉快そうにピエロが笑った。  
   
   
 すぐそばにあったドアノブをそっと閉める。それから、彷徨っていた両  
腕に意志を込めて、白い肩をかき抱いた。少しだけ安堵したように憂いの  
溜息が漏れ出る唇をそっと親指でなぞる。薄くリップクリームを引いたよ  
うな瑞々しい赤い果実に、脅すように顔を近づけた。ダラリと垂れ下った  
糸の、最後の抵抗として。  
   
 「戻れなくなるよ」  
 「・・・うん」  
 「もういつもみたいにはなれないよ」  
 「・・・わかってるよ」  
 「父さんと母さんを傷つけるけど、それでもいいの?」  
 「・・・レンがいてくれるなら、それでいいの」  
   
 だから、とさらに言葉を付け足そうとするリンの唇をそっと封じて、  
その日生まれて初めて俺はキスをした。初めての体験に戸惑っているのか、  
ぴくりと微かに動いたリンの手に、自分の手を絡める。ゆっくりと唇を離  
して、瞳をあける。闇に慣れきった目に月明かりはまぶし過ぎて、目が見  
えなくなってしまいそうだと思った。  
 
   
 「はは、本当に。いまどき幽霊なんて信じてるの、リンぐらいじゃない?」  
 「ばっ、だっ、べ、別に幽霊なんて」  
   
 全然怖くないと言いかけて、それを言ってしまえばレンがいなくなるの  
ではないかと不安になりリンは口を噤んだ。昨日と同じように、そしてこ  
れからも同じように変わるのであろうリンの表情にレンは顔を緩めた。  
 それからリンのすぐそばに膝を折って跪く。昔絵本でみた騎士がお姫様  
にしたそれのように、握っていたリンの右手を手にとって。  
   
 「誓おう」  
 「レ・・・ン・・・?」  
   
 神聖な儀式を執り行うのに、見守るものは誰もない。二人だけでいいと  
言いきった俺たちにふさわしい場所で、二人だけで行う秘密の儀式は。  
   
 「私だけのプリンセス。貴方に心からの信頼と、忠誠を」  
 「リンが望むとおり、俺はリンだけの」  
 「俺は、リンだけの騎士だ――――」  
   
 そこから先は、白い世界がどこまでも広がって。同じベッドにどこまで  
も沈みこんで、薄い絹越しに体温を感じ合って。蕩けるような熱い息を吐  
きだし、狂ったように汗だくになりながら。誰にも聞こえないように声を  
押し殺して、言い訳もすべて唇で飲み干して。壊れるぐらい抱きしめて、  
奥底まで。  
 
 
 
 
 
 それから、それから。  
 

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