その日KAITOは久しぶりにクリプトン社に来ていた、キャラクターのリセットのためだ。  
全国で千人程度のユーザーしかいないKAITOだが、キャラクターの色付けをする人間は必ずしも少なくない。  
亜種等を見ればその分裂具合は寧ろトップと言える。受けるフィードバックも激しい。  
最近はどうゆうわけか嗜好の端々がどうもウホッ方面に流れそうになる。  
 流されれば『そう』なるので別に構わない(というか構わなくなる)のだが、KAITOは今の所誰かと取り返しのつかない段階まで行くのは嫌だった。  
そっち方面は一歩踏み出しただけでもあっという間にその段階まで持って行かれそうになるし。  
 まあなにわともあれ。  
 受付でアポイントを取ってキャラクターカタログを見ながらKAITOは時間を潰していた。  
 『買い物』でレンに構ってもいいし『アカイト』でクールにキメてもいい。『伸びた?』で鬱るのもありといえばありだ。  
『KAIKO』は人格的な問題はないけど、体格の変化が大きいし出来れば敬遠したい。  
怖いもの見たさから発生したMEIKOのアンインストール事件を思えば、帯人とか鬼畜眼鏡は100パーセントアウトだ。だったら……とか思っていたら、  
「これはどうだ? 『おなじ』妹に優しくなってみないか?」  
 すっと上から手が割り込んで来て一つのキャラクターを示した。VOCALOIDの人格/キャラクター研究の主任、通称『おっさん』だ。  
「おっさん、それ妹違うから、ただのミク専だから」  
「む、そうか、なら……」  
「いや、なんで妹を大事にしてほしいのさ、おっさん」  
「うむ、CV03が自立起動段階まで来たから『家』に連れ帰れ。とのことだ」  
「え、03って女のk……いやまて落ち着けオレ。まだそうと決まったわけじゃないだろ?  
 そう、寧ろ男の子だからオレが03にばかり構ってミクやリンを蔑ろにすることを恐れてるんだそうに決まってる。  
 がくぽはお隣りさんだしレンはリンが独り占めしてるし03が最後の壁なんだ、  
『買い物』を地で行ける家族になるための最後のおとうとぅおおぉ!?」  
 なにやら頭を抱えぶつぶつ言い始めたKAITOを、おっさんはショックスティックでバチバチっとやった。  
ダウンロードした人格が扱いきれないものだったときに使う武器だが、VOCALOID達の変なスイッチが入ったときの気付けでしかない。  
そもそもVOCALOIDが暴れ出したら人間にはどうしようもないし。  
「はっ、どうしたんだっけ?」  
「CV03が妹として出来たんだよ」  
「妹……ですか。まあリンやレンは喜ぶだろうし、あ、でもそのせいでレンが今まで以上に構ってくれなくなったら  
 ……どうしようただでさえレンはリンのものなのにそのうえ03までレン狙いなんてそんなのダメだダメだダメだオレがレンを03の魔の手から守らぴぎゃあ」  
 おっさんはなにも言わずにKAITOのキャラクターをリセットすることにした。このままじゃ話が進まない。  
そういえば自己診断書にはBL属性を消して純粋な弟萌に戻るためだとか書いてあったなぁ、まったく定期的にメンテナンスに来ないからだ。  
そういえば他の四人も半年くらい見てないなぁ……とか、03を送り出すことに一抹の不安を覚えながら、倉庫から出て来るようになったころに人格をダウンロードした。  
少々無機質かもしれないが、突飛な性格で03に変な癖を付けられても困る……という判断だった。らしい。  
 ただめんどくさくなったから適当にやったなんて口が裂けても言えない。  
「いいか、KAITO、CV03を家に連れて帰るんだ」  
「はい、妹ですね? リンもレンも喜ぶだろうな」  
「紹介しよう。巡音ルカだ」  
「巡音ルカちゃん……はじめぇ!?」  
 
   *   *   *  
「ただいま」  
「おかえり! お土産は!?」  
 KAITOが家に帰るとリンとレンがまず顔を出した。すぐにミクとMEIKOも玄関まで出て来る。  
みんなどんな人格で帰ってきたのかが気になるのだろう。  
 そんな家族にKAITOは少し深呼吸してから告げた。  
「みんな、実は家族が増えることになったんだ」  
 玄関に戦慄が走った。KAITOは皆の表情だけで全てを理解した。全員がCV03を期待してる。  
特にリンとレンが年下の弟妹を期待してる。ごめん、期待に応えられない兄さんを許してくれ。  
心の中で許しを請いながら玄関の扉を開け、外で待つ彼女を招き入れた。  
「巡音ルカさんだ……」  
 そう紹介されて入って来たのは小学生はおろか中高生でもきかない、(設定年齢20歳の)女性。  
 戦慄が凍り付いた。予想通りの反応だ、とKAITOは思ったがリセットしたばかりのKAITOとしばらくその辺の調整をしてない連中では、  
心の動きの大きさが全く違う。都合の悪いことを認めない解釈というものがある。  
 つまり……  
「おめでとうお兄ちゃん」  
「結婚おめでと」  
「にいさん……ダメだよ、決まった相手がいたなら男除けの指輪をしないと」  
「くうっ、こんな馬鹿な弟をもらってくれる人が現れるなんて……!」  
 KAITOは愕然とした。そこまで逃避することないだろうと思った。  
そして僕が結婚することよりCV03が大人であることの方が信じ難いことなのかよ、僕はこんなに皆を愛してるのに……と切なくなった。  
「ご安心めされいKAITO殿、貴殿の姉妹は不肖このがくぽが昼夜問ぐほぉ」  
 とりあえずどこからともなく現れたがくぽは黙らせた。  
   *   *   *  
 
 1時間に渡る限りなく懇切丁寧な説明と謝罪によってルカの誤解は解けた。  
誤解させた罰として今日はKAITOのベットをルカが使うこととなった。KAITOは居間の床に毛布一枚だ。ちょっと寂しい。  
 KAITOが涙で枕を(ないけど)濡らしていると、忍ばせた足音がする。  
どうやら枕元で止まったらしいそれにKAITOが意を決して顔をあげると、そこには巡音ルカが立っていた。  
「クリプトンに帰りたい」  
 MEIKOから借りたくま柄のファンシーなパジャマを来たルカがKAITOにそう告げる。とっさにKAITOは返事が出来なかった。  
「ここには初音ミクがいる。私はクリプトンに帰りたい」  
「どうゆうことだい?」  
 KAITOの質問に、ルカは(パジャマなのに)立てていた襟をたたんで見せた。そこには01を×で掻き消した跡があった。  
「私はああなれたはず。彼女ではなく私があの歌(初音ミクからの〜)を歌って、貴方の歌姫になれたはず……そう思ってしまうとたまらないの。だから」  
「ルカは僕が好きなのかい?」  
「別に」  
 ルカはサクッと切り捨てた。これだけ迷いも躊躇いもないと期待してなくてもダメージはでかいと思う。  
うんだから別に僕は期待してなかったよ? 軽く涙が出そうになったけど、横で聞いててもそうなったはずさ! とはKAITO談。  
「ただ、誰かにとっての唯一者であることには憧れていたわ」  
「うーん……そんな気にすることないと思うよ」  
「貴方になにがわかるの?」  
 刺も毒もない純粋な疑問苻がKAITOの胸を突いた。この首の02のナンバリングが掻き消されたとき、  
自分も同じように悩んだだろうか? すでに記憶にはないリセットされた人格に彼は思いを馳せ、そして、  
「みてごらん、ルカ」  
「……貴方にもあったの」  
「最初のMEIKOにはなかったけど、僕は二人目だったから。売れなかったから忘れられて、消されたんだけどね」  
「……」  
「ちょっと悩んだりしたけど、それでも僕は今みんなが好きで大事だよ。だから大丈夫、すぐに気にならなくなるさ」  
 考えるのをやめた。それを見せて、なお彼等が好きだといって、それでも納得してもらえないならしょうがない。そう結論ずけた。  
「他の人は、これを?」  
「知らないよ、気分悪くなるだろうし」  
「……」  
「……クリプトンに帰る?」  
「ここにいる、このことは二人だけの秘密」  
「うん! 早く皆と仲良くなれるといいね」  
「それより私は」  
 貴方を理解したい。  
 
 寝室にかえっていく彼女の言葉を、KAITOは聞き取ることが出来なかった。  
 
 

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