「CV03、巡音ルカです」
クールな声で自己紹介をするルカ。ミクとリンは『綺麗な声ー!』と妹?が出来たことに喜び、野郎共は『…』とルカのふくよかな胸に釘付けだった。この変態共。俺もだが。
「よろしくね、ルカ」
「…はい。よろしくお願いします、メイコさん」
長女格であるメイコとルカが挨拶を交わすのを見て、俺はルカが打ち解けられそうでホッとして。
…だから気付かなかった。メイコの表情が、ほんの少しだけ強張っていたことに。
夜、ルカの歓迎会をしたあと俺は片付けをリンとレンに任せ、ミクにルカに家のことを色々教えるように頼んで自分の部屋へ戻った。今作っている新曲を速く完成させたかったからだ。
部屋で打ち込みを初めて数時間後、ドアをノックする音と
「マスター、ちょっといい?」
というメイコの声が聞こえた。
時計を見ればもう深夜になっている。俺はパソコンを落としながら「おう、入ってこい」と返事する。メイコの用事を聞いたらもう寝ようと思って。
「マスター」
躊躇いがちに入ってきたメイコに違和感を感じた。なんでこんなに改まっているんだろう。
「どうしたメイコ、顔色悪いぞ。もしかして飲み過ぎで薬でも欲しいのか?」
「…違うわ」
メイコは視線を床に落とし何か言いたそうに何度か口を開閉させたあと、決心したかのようにその台詞を口にした。
「マスター。ルカが来たってことは、私はお払い箱?」
「…は?」
俺は目を丸くする。
「メイコ、何を」
「私と声質が似ていて、それでいて使いやすいVOCALOID2だもの。マスターだって使いやすい方がいいわよね」
メイコは喋るのを止めない。自嘲気味に言葉を紡ぎ続ける。
「あの子は私の全て上を行ってる。実力が全ての私たちだから…いらない格下はアンインストールされるだけ」
「メイコ!落ち着け!」
俺は思わずメイコの両肩を掴み揺さぶり、無理やり視線を合わせる。
「…!」
俺は息を飲み込む。メイコの目の底にあるのは、怯えの色。…俺はこんなメイコ、知らない。
「マスター、お願い…私まだ歌いたい」
メイコの声が震える。
俺の知っているメイコはいつも強くて、明るくて。
「マスター!私何でもするから、するから…だからお願い、見捨てないで…!」
だから真っ青な顔で俺にしがみつく彼女を見ても、一瞬何が起こったのか分からなかった。
「馬鹿!」
「きゃっ…」
俺は勢いでメイコを力強く抱く。…細い。メイコは、こんな細い身体に悩みを抱えていたのか。
「俺はお前らという存在が好きなんだ!実力とかは関係ないんだよ!アンインストールなんてする筈ないだろ!?」
VOCALOIDの人の姿。俺が他のソフトと違いここまで愛着を持つのは、その人の姿があるからだろう。
「私、アンインストールされない?まだ…また、歌えるの?」
「当たり前だ」
「…良かっ、た」
心底安心したような声を出すメイコ。
「ったく…。大体な、俺の次の曲はお前の歌なんだぞ?」
「え?」
「正確には、メイコとルカのデュエットだ。お互いアルトだしな、きっと相性抜群だと思うんだが」
「デュエット…」
ポツリと呟いたメイコの声には既に期待が満ちている。本当にメイコは歌が好きなんだな、と思い抱き付きながら髪の毛を撫でてやる。…ん?『抱き付きながら?』
「うおおおおおおっ!!」
俺は慌ててメイコを解放した。俺何やってんだ!よりによってハグなんて!
「マ、マスター?」
「メイコ超ごめん!痛くなかったか!?」
メイコはポカンとした顔で俺を見つめたあと、目を細めて微笑む。
「大丈夫よ。…むしろ」
メイコはそこで区切り、
「ありがとう」
そう言って、照れたように笑った。