「わっ」
風呂からでたら脱衣所にミクがいた。
タオルを取りに来たらしい。
俺は体を隠してくれる布なんてもちろん持ち合わせていなくて少しうろたえる。
ミクは一瞬ギョっとした目をした。けどすぐに
「あ。おにいちゃん。ごめんね」
と何事もなかった様に脱衣所を後にしたので
ビックリしたけれど、まぁ兄妹だしな、と
うろたえた自分を反省し、バスタオルを手に取る。
……その頃リビングでは
「大変なのぉ!」とミクが叫ぶ。
「なになになになに!?」と目を輝かせたリンが言う。
「なんか、おにいちゃんの足の間に謎の物体が生えていたわ」と真剣な顔でミク。
「ゴフッッ!!」
リンの隣でオレンジジュースを飲んでいたレンがむせながら
「ばっバナナみたいなやつ!?」と聞く。
少し考える素振りをして
「ちがうわ。もっとこんな、こんな得体の知れない物体よ!」とミクは両手で形作ってみせる。
「え〜リンよくわからない。もっと詳しく!」
……という会話が繰り広げられているとはまったく知らず
俺は風呂上がりの爽やかな気分でリビングに向う。
入口のドアに手をかけると
「そんなにデカくないだろぉぉおおおっ!!」
とレンの叫び声が聞こえ飛び出してきた本人と衝突した。
レンは顔を上げるとまるでライバルを睨んでいるかのような鋭い視線をこちらへ向けてくる。
その瞳にはうっすら涙がたまっているようだが…
「えっえっどうしたんだっ」
と俺は慌てて尋ねる。
そんな言葉はお構いなしにレンはドンッと俺を押しのけ自室の方へ走り去っていった。
なんだったんだろうか?疑問に思いながらリビングの中へ入っていくと
ソファーに座るリンが不審なものを見るような視線を俺に向けていた。
これは……!
そうか!思春期によくなる病気だな!名前を何といったかな。中…二病?
レンとリンもそうに違いない。こんなときはこちらから歩み寄っていかなければ!
兄さんにはわかるぞ!と俺はうなずく。
何か楽しい話題を一緒に、と笑顔でソファーに近寄ると
机の上にクレヨンと画用紙が何枚かあるのが目に入った。
「お絵かきかい?何を描いたのかな?」
その中の一枚を手に取り俺はさりげなく話題に入る。
「ミクちゃんが描いてくれたの。ね?」
とリンは隣に座るミクに視線を向ける。
「あっあんまり上手く描けなかったんだけど…」
と少し気まずそうにミクが答えた。
きのこ…?マツタケ?…にしてはピンクがかっている。
魚肉ソーセージだろうか?
たしかに画用紙にはあまり素敵ではないものが絵描かれている。
ピンク…ああ、なるほど。巡音さんの持ち物を考えていたんだなと俺は察知して
「上手くかけているよ」
とほのぼのとした家族の会話を演出する。
「本当に!?本当に上手く描けてるのっ?」
とリンが話しに喰い付いてくる。良い感じだ。
「ああ。とても上手く描けているよ。兄さんびっくりだ。」
ととびきりの笑顔で俺は答える。
「へぇ〜…」
とリンは関心したように目を丸くし
「レンにも教えなきゃっ」
と興奮気味にリビングを出て行った。
良い家族の関係を保てたと俺は満足しながら持っていた絵をミクに渡す。
「おにいちゃんは、その…コレ、どうする…つもりなの?」
と絵を受取ったミクが恐る恐る訪ねてきた。
コレ…巡音さんの持ち物か。
俺の案と対立してしまうことを恐れているのだろう。
持ち物が魚肉ソーセージ?でいいのかはわからないけれど、
ここはかわいい妹に案を譲ろうと
「ミクの好きなようにしていいんだよ」
と俺は兄らしく答える。
「え…っ!」
予想外の意見だったのかミクはとても驚いた様子で声を上げ
「いいの?ミクの好きなようにして、いいのっ?」
と聞き返してくる。
「そうだよ。ミクの自由にしていいんだよ。その方がおにいちゃんもうれしいなあ」
とミクの頭をなで俺は答える。
「じゃあ、じゃあミク色々考えるからっ!後でおにいちゃんのお部屋に行くねっ」
とミクは瞳をきらきらと輝かせリビングを後にした。
「みんな良い子達だなあ」
と良い兄の手本の様になれたことに大満足している俺の後ろで
テレビを見ながら俺達の会話を聞いていた姉さんがむせながら肩を震わせている理由を
今夜、部屋に訪ねてくるミクによって知ることになるとは
まだ、まったく予想していない、
平和な時間の話し。