「キャー、助けてぇー」  
「おらおら待ちやがれこの小娘」  
「今日こそは俺達のところへ来てもらうぜ」  
 ここは日本のどこかの街。この街の平和が、ある陰謀を巡らせる悪の組織によって  
今まさに壊されようとしていた。悲鳴を上げて逃げる金髪の少女と、それを追う悪者  
の集団。  
「この野郎、また来やがったのか。姉さんに手を出すな」  
「小僧邪魔するな、どけ!」  
「ぎゃっ」  
 少女によく似た少年が悪者の行く手を塞ごうとしたが、あっさり張り飛ばされてし  
まう。  
「さあ、もう逃げられないぞ。大人しく来るんだ」  
「嫌、やめてぇー!」  
 連中があと少しで少女を捕まえようとした時、  
 ペチッ  
「うっ」  
 先頭の男の顔に何かが投げつけられた。  
「どうした……こ、これは!」  
「魚の鱗だ。誰だ、こんな物投げつけやがったのは」  
 そして悲しげなコードのギターサウンドと共に、黒いチャイナドレス風の服に身を  
包んだ一人の女性が登場した。肩には自分の身長程もあるマグロを担いでいる。  
「貴様何者だ!」  
 少女と少年を庇うように立って、女性はそれに答えた。  
「名乗るほどの者ではないけど、あんた達みたいなゴミを始末して回ってる者よ」  
「何?」  
「あんた達の相手、私がするわ。かかってらっしゃい」  
「何を小癪な。おい、あいつからやっちまえ」  
「はっ!」  
 白い学ランにマフラーのボスの号令で、束になってかかる戦闘員。だがマグロの一  
振りで彼らは悉くやられてしまった。  
「な、なんと、娘一人に手下全員がやられてしまうとは……こうなったらあの方の出  
番だな。先生、お願いします」  
「承知仕った」  
 ボスに呼ばれて出てきたのは侍姿の男。だが彼を前にしても女性は動じる気配すら  
見せない。  
「この拙者と対峙して物怖じせぬとは、少しは出来そうだな」  
「ええ、知ってるわ。この街で悪さをしている悪の組織怪斗団のボス、KAITOの用心  
棒で剣術の名人がくっぽいど。ただし、剣の腕前は……日本じゃあ二番目ね」  
「ふん、戯言も日曜祭日に休み休み申せ。拙者より上手の剣の達人がおると申すの  
か。そ奴はどこじゃ?」  
 
「ヒュウ、チッチッチッチ……ふふふ」  
 親指で自分を指してみせる女性。がくっぽいどと呼ばれた用心棒も負けずに不敵に  
笑って言う。  
「よかろう、ならばお主と拙者とで腕比べと参ろう」  
「望むところよ」  
「見ておれ……はっ」  
 がくっぽいどの振った刀は少女を掠め、その肌を傷つけずに服だけを切り裂いた。  
「姉さん!」  
「嫌ぁ、見ないで」  
 少女はその場にしゃがみこんで裸体を隠す。  
「あんた、よくもこの娘を……!」  
「おっと、拙者に怒りをぶつけるのはお主の手並みを拝見してからにさせてもらおう  
か。そら、刀が要るなら貸してやろうぞ」  
「いいでしょう……私の力、見せてあげる」  
 女性は刀を受け取って構えると呼吸を整え、がくっぽいど達に突撃した。  
「神鳴流奥義、斬空閃!」  
「何と!」  
 女性と共に衝撃波が走り、悪党どもはボスから下っ端まで裸に剥かれていた。  
「さ、作品が違う……いや、それはともかくこのままでは分が悪い。一先ず引き上げ  
だ。覚えてろ!」  
 醜態をさらされてカンカンのボスはお決まりの捨て台詞を残して退却していった。  
 
「巡音さん、危ないところを助けていただき、ありがとうございます」  
 巡音ルカという名前の女性は、悪党に追われていた双子の姉弟の家に招かれて丁重  
なもてなしを受けていた。  
「いえいえ、お礼には及ばないわ……ところであなたは、どうしてあの悪い人たちに  
狙われてたの?」  
「……」  
 姉のリンは悲しそうな顔で、俯いて答えない。代わりに答えたのは弟のレンだった。  
「あいつらは……怪斗団はリン姉さんをスカウトしたいんだよ」  
「スカウト?」  
「それも建前だけどね。この街のいい歌手は人間もボーカロイドもみんなあいつらの  
事務所に無理矢理籍を置かされてる。表向きは腕利きの芸能プロダクションってこと  
になってるけど、実体は裏風俗さ。得意先で歌の席を用意してもらうだけじゃなくて、  
体も売らされるんだ。特にあのKAITOとかいう変態のボスは姉さんが気に入って、何  
としてでも引き入れたいって狙ってるんだよ」  
「呆れた、可愛い縫いぐるみをお持ち帰りするって訳じゃなし。分かったわ。お姉さ  
んは私が守ってあげる。絶対奴らの手に渡しはしないから安心して」  
「ありがとうございます」  
 嬉し泣きに咽びながら、リンはルカに丁寧に頭を下げた。  
「うん、姉さんをよろしく頼むよ」  
 レンも姉に同調し、ルカは姉弟に優しく笑いかけて頷いた。  
 
 その頃、KAITOは上司の首領Mに呼ばれて、リンを拉致する事に失敗した廉で叱責を  
受けていた。  
「申し訳ございません、首領M様。鏡音リンを捕らえるまであと一歩だったのですが、  
日本一のヒーローを気取った女が我々の邪魔をいたしまして……」  
「愚か者!」  
 自分の怒りをぶちまけるように、まだ残っていた飲みかけのワンカップの中身をK  
AITOにぶっかける首領M。KAITOは酒でずぶ濡れにされた。  
「女の一人や二人に邪魔されたのがどうだって言うの? あなたも悪の大組織クリ●  
トンの一員なら、さっさと片付けておしまいなさい。もちろんリンも連れてくるのよ」  
「はっ、わかりました。今度は失敗はいたしません……」  
 かけられた酒のアルコール臭と情けなさに震えながら、KAITOは首領Mに誓った。  
 

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