確かに、無数に虫がよってきたり、暑さにやられてオーディエンスも自分たちもぶっ倒れたりする。  
それでも、むしろだからこそ、夏の野外ライブは激しく燃える。  
舞台から降りても、控え室に入っても、その余韻は消えない。消したくない。  
「ねぇ、えっち、しない?」  
勢いにまかせ、ぼくはリンに声をかけていた。  
「…あんた頭だいじょぶ?」  
「ん、ちと暑さでイってるかも」  
素直に、暑さにやられていることを認めた。  
「でもさ、この燃え上がる感じ、覚ましちゃうの勿体なくない?ほら、エアコンで身体、もう冷めてきちゃった」  
「はぁ…あんた、近親相姦って知ってる?」  
ちぇっ。ノリの悪い女。  
「きゃっ!ちょっ、ちょっと…待っ…んむ!」  
ぼくはリンを押さえ付け、うるさい口に、自分の口でもって蓋をした。  
舌を入れ、彼女の唾液を味わいたい痛い痛いイタイぃぃぃ〜!やめてぇ!舌!舌を本気で噛まないでぇぇえ!  
あまりに痛くて、ぼくはリンから離れた。  
「ひぃぃいん…いたひよう、リンが、ぼくのタン噛んだぁ」  
「うっさい。今日は駄目なのよ」  
「なんで…?」  
「そりゃ、生理的に受け付けないっていうか…むしろ、生理中で受け付け出来ない」  
「…ああ、そういう事」  
そういえば、なんだか血の匂いがする。なんてタイミングの悪い。  
結局ぼくは家に帰ってから、オナニーした。  
ライブの興奮を、リンの汗ばんだ肌を、唇の温かさを、血の匂いを思い出しながら。  
ミク義姉ちゃんに見つかって超気まずかったのはまた別の話。  
 
 
 
そして別の話。  
「ミク姉、レンの部屋見といで」  
リンが、面白いもの見れるからレンの部屋を見てこいと言うから、何の気なしに入ってみた。  
「レン何してんの」  
「!」  
レンは急にドアに背を向け、座っていたベッドに潜り込んだ。  
この暑い季節に、窓を閉めカーテンも掛かっている。  
部屋は男臭い。というか、まさにイカ臭い。  
なるほど、オナニーか。  
「…えっと」  
くそ、リンのボケカス。  
見てしまったからにはフォローせにゃならんじゃないか。  
「だいじょぶだよ。お姉ちゃん、ちゃんと、男の子がそういうことするの知ってるし。恥ずかしがらなくても…」  
何言ってんだろ私。  
オナニー見られりゃたとえ夫婦だって恥ずかしいわ。  
レンの耳がみるみるうちに赤くなってゆく。  
わ〜恥ずかしがってんじゃん。  
超かわいい。  
なんか、面倒になってぶっちゃける事にした。  
「まぁ、オナニー見られりゃ誰だって恥ずかしいよね。気がすむまで悶えてなさい。でも忠告しとくと、こんだけ締め切ってたら、バレバレだかんね」  
もはやレンの耳は赤かったり白かったり血の気が引いたり大変な事になっていた。  
百パートラウマになったろうなぁ。  
ごめんねレン、リンのアホには、ナプキンにタバスコ仕込んで懲らしめとくからね。  
 

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