「がくぽはなににする?」  
「では、茄子田楽を。」  
「りょーかい。  
あ、スミマセーン………」  
どこにでもあるような、ごく普通の居酒屋。二人(?)のヴォーカロイドが、酒を飲み交わしていた。  
「しかし、カイト殿はこのような場でもアイスを頼むのか……」  
「えー?そーゆうがくぽだって、さっきから茄子ばっかりじゃん。」  
二人……がくぽとカイトは、程よくアルコールが回っているらしく、  
軽口をたたき合いながら、互いのコップに酒を注ぐ。  
「がくぽってさぁ………」  
「?」  
しばらくそうして、ゆっくりと飲み交わしていると、カイトがふと口調を変えて呟く。  
「めーちゃんの事が好きなの?」  
「っ!!!!????」  
ぶはっ。  
と、がくぽが盛大に酒を吹きだし、カイトの顔を直撃した。  
 
〜メイコの場合〜  
「うぃ〜、ヒック!!」  
今日は止めに入る奴(カイト)もいないから、私は浴びるようにお酒を飲んでいた。  
何本のワンカップを空けただろうか?  
ひぃ〜ふぅ〜みぃ〜…  
あー、数えるのめんどくさい。とりあえず両手じゃ足りない事だけ分かればいいか。  
「うーん、やっぱり独り酒もいいわねぇ。」  
がくぽやカイトに付き合わせるのもいいけど、これはこれで捨て難い。  
ああ、お酒大好き。お酒と結婚したいぐらいだわ。  
 
 
「ケホッ、カ、カイト殿?いいいいきなりなにを!?」  
「アハハッ、リアクションからして図星?」  
顔を酒で濡らしながらも、気にした様子も無く、カイトはにこやかに笑う。  
「…………いつから、気づいておったのだ?」  
ごまかしきれないと悟ったのか、がくぽは真剣な顔をして尋ねる。  
「うーん、最初に気づいたのはミクなんだけどね〜。」  
「ミク殿が?」  
 
〜初音ミクの場合〜  
「はぁ、幸せ♪」  
電脳空間内で、私、初音ミクは幸福感からくる溜め息を吐いた。  
お兄ちゃんから、  
『収録帰りにがくぽさんと飲みに行く』  
と電話があったため、お兄ちゃんが帰ってくるまでの間、ここで時間を潰しているのだ。  
「この角度のお兄ちゃんも素敵(はぁと)。」  
私の正面にはお兄ちゃんの画像、右にもお兄ちゃん、当然左にも、  
後ろにも右斜め前にも左斜め後ろにも上にも下にも左(略)。  
笑ってるお兄ちゃん、真剣な顔のお兄ちゃん、アイスを食べてるお兄ちゃん。  
どのお兄ちゃんも素敵で、どこに目を向ければいいのか迷っちゃう。  
「でも………」  
やっぱりホンモノがいいなぁ………。  
お兄ちゃん、早く帰ってこないかなぁ。  
 
 
「メ、メイコ殿は知っているのか?」  
「うーん、少なくともめーちゃんには話してないよ?」  
カイトのその言葉に、がくぽ少しだけ安心したように息を吐く。  
「そ、そうか………ん?メイコ殿『には』?」  
「うん、リンとレンとルカは知ってるよ〜。」  
「なっ!?」  
 
〜鏡音リン・レンの場合〜  
こんばんは、鏡音レンです。  
突然ですが、僕は恋をしています。  
メイコさん?リン?ミク姉さん?ルカ姉さん?  
いいえ、このなかの誰でもありません。  
実を言うと一目惚れなんです。  
その人は、この前収録に行った時のスタジオで、チラッと見ただけなんですが、  
そのあまりに可憐な容姿に、一瞬で心を奪われました。  
透き通るような白い肌、黒地に白のフリルで統一されたワンピースと肩掛け、  
神秘的ではかなげな蒼い瞳とサラサラの蒼いショートヘアー。  
季節ハズレのマフラーが特徴のその人は、まさしく天使と呼ぶに相応しい美貌での持ち主でした。  
「レーンっ、また例の『蒼い天使』の事思い出してるの?」  
リンがなにか言ってます。  
「全く、一目見ただけの人によくそこまで入れ込めるよね……」  
うるさいな、自分だってがくぽさんにほぼ一目惚れだった癖に。  
はぁ、しかしなんとかもう一度会えないだろうか?  
あ、カイト兄もその日同じスタジオで収録してたんだっけ?  
よし、今度カイト兄がなにか知っていないか聞いてみよう。  
 
 
「うん、めーちゃんが仕事で遅くなった日の夕飯の時にミクがね。」  
「つ、つまりメイコ殿以外の皆が知っているという訳か………」  
カイトが語った事の経緯を聞いて、がっくりとうなだれるがくぽ。  
そんながくぽに向かって、カイトは励ますように言う。  
「大丈夫だと思うよ?ミクやレンはあんまり興味なさそうだったし、  
リンの口からは絶対漏れないだろうし。」  
「?」  
「いや、なんでもないよ。」  
そう言って酒を一口だけ飲むと、カイトは少しだけ目を細めて呟いた。  
「ルカは………あんまりよく分かってないような顔してたしね………」  
 
〜巡音ルカの場合〜  
「……ふぅ。」  
ボイストレーニングを終え、自室に戻り溜め息を一つつく。  
溜め息の原因はボイストレーニングで調子が悪かった訳でも、疲れている訳でもない。  
いや、疲れているのかもしれない、体ではなく心が………  
私達ヴォーカロイドには、感情を司る機関、つまり『心』がある。  
しかし、私は新型と言っても、実際はミクさんより先に企画として存在していた為、  
『心』は彼女やリンさんレンさん達程、精密に設計されてはいない。  
又、稼動からそれほど日が経っていない為、カイトさんやメイコさんのように、  
『心』の成長もまだまだだ。  
それゆえに、言葉を交わしても受け答えが事務的になってしまう。  
当然、必要がない限り私から話しかける事も殆どない。  
家族の人達は、そんな私にもよくしてくれてはいるが、距離感を測りかねているのも何となくわかる。  
 
ただ一人、カイトさんを除いては。  
 
「カイト……さん。」  
彼の名を呟く。  
彼は最初から私の事を、他の家族と同じように扱った。  
ただそれが当然であるかのように、自然に、何の戸惑いも無く、私と接した。  
 
それが………嬉しかった。  
「カイト……さぁん。」  
もう一度彼の名を呟く。今度は少し、甘い響が混ざった。  
『心』を甘く締め付けるこの感情を、私は何故か理解していた。  
この感情の名前は、きっと…………『恋』  
 
 
「カイト殿、先ほどから不公平だと思わぬか?」  
「?」  
突然のがくぽの言葉に、カイトは首を傾げる。  
「つまり、カイト殿はどうなのかと………」  
「??」  
全く理解出来ていないらしく、カイトは更に?をふやす。  
自分の事となると途端に鈍くなるらしい。  
「つまり、カイト殿は誰が好きなのだ?」  
「ああ。」  
がくぽがここまでストレートに質問して、ようやく理解したらしい。  
「そんなの決まってるよ。」  
人懐っこい笑顔を浮かべて。  
「僕は」  
カイトははっきりと言った。  
「皆大好きだよ?」  
 
了  
 

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