コンッ、コンッ。  
夕食後、それぞれが自由にすごしている時間帯。私は少しだけ緊張しながら、兄さんの部屋のドアをノックした。  
「開いてるよ〜。」  
「失礼します、兄さん。」  
中から兄さんの能天気な声が聞こえてきたので、ドアを開け部屋の中に入る。  
「ルカ?珍しいね。ボイストレーニングはいいの?」  
顔だけこちらを向いた兄さんは、少し不思議そうな顔をしていた。  
というよりも、何故兄さんは、私がこの時間、ボイストレーニングをしている事を知っているのだろう?  
「あ、椅子は無いから、ベッドのうえにでも座って。」  
「はい。」  
兄さんに促され、私はベッドに腰をおろす。  
「ホントに珍しいね、ルカ僕の……誰かの部屋を訪ねてくるなんて。」  
珍しい?そうだろうか…………  
いや、珍しいどころでは無かった、誰かの部屋を訪ねてきたのは、  
この家に来た日を除けば初めてだ。  
「そうかもしれませんね。」  
特に否定する意味も無かったので、素直に同意をする。  
「それで、何の用かな?」  
軽く微笑みながら、兄さんが聞いてきた。  
私は少しだけ間をおいて、訪ねてきた理由を口にした。  
「実は、兄さんに折り入って相談」  
「ありがとう!!」  
「ひゃうっ!?」  
兄さんがいきなり私の手をとってお礼を言ってきたので、変な声をあげてしまった。  
兄さんは戸惑う私を無視して、更に続ける。  
「頼ってくれて嬉しいよ。  
最近ミクもリンもがっくんばっかり頼りにしちゃってさ何と言うか  
兄として更に肩身が狭くなったと言うかどんどん存在感が薄れてい  
くと言うか空気化してきたと言うか『あれ?ぶっちゃけ僕いらないんじゃない?』とか悩んだ  
り……あれ?ホントにいらないのかな?いらないんだろうなぁ……  
うん、僕いらない子だよね……ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい  
…………このまま空気に溶けて死のう……」  
一気にまくし立てたかと思ったら、何故か途中でどんどん弱気になっていって、  
部屋の隅で『の』の字を書きはじめる兄さん。  
(………この人に頼って大丈夫だろうか?)  
流石に不安になったが、相談事を聞いてもらわない事にはどうしようもないので、  
とりあえず兄さんに声をかける。  
「あの……兄さん?」  
「ああ、うん、ゴメン。相談したい事があるんだよね?」  
割とすんなりと復活した兄さん。部屋の隅から椅子へと移動して、私の話しを聞く体勢をとる。  
「あの、実は………」  
 
ルカの相談事は、ある程度予想通りの内容だった。  
自身の寡黙さや、新型ではあるものの、ミク達よりも高い年齢設定。  
そういった要素から、皆に気を使わせてしまっているという事。  
それが申し訳無いのだという。  
ルカが家にきてから今日に至るまで、僕も感じ続けていたことだった。  
でも、こういう事は………  
「時間をかけて慣れていくのが1番だと思うけどなぁ………」  
「………そうですか。」  
僕の言葉に、肩を落とすルカ。  
きっと彼女も、その答えには辿りついていたのだろう。  
時間で解決するのを待っていられなくなったから、僕に相談にきたのだろう。  
けど、流石にこういった事は………  
「………あっ!!」  
あった、1番手っ取り早い方法が。  
「?」  
突然声をあげた僕を、不思議そうな顔で見つめるルカ。  
そんな彼女と目を合わせるでもなく、ルカが来てからつけっぱなしに  
なっていた、パソコンのディスプレイを見つめながら言った。  
「あったよ、すごくボーカロイドらしい方法が……」  
 
 
「お疲れ様〜、はいコレ。」  
「……ありがとうございます。」  
カイト兄さんが、私にアイスをくれる。ちなみにカイト兄さんの両手には、  
合計四つのアイス………  
「う〜ん、やっぱりトレーニングの後のアイスは格別だね〜。」  
ほわほわの笑顔で、カイト兄さんが言う。  
あの日から、私のボイストレーニングに、カイト兄さんが付き合ってくれるようになった。  
一緒に練習するようになって、彼のボーカロイドとしての実力の高さに驚かされた。  
優しくに響く声、低音からカウンターテナーまでこなす器用さ、  
そして、弱すぎず、主張し過ぎない、メインもコーラスもこなせる絶妙な調整。  
普段は情けない兄だが、ボーカロイド一家の長兄の名に恥じない実力だった。  
いろいろと勉強になる。  
「じゃあ、今日はここまでにしようか。」  
「……はい。」  
私は、この時間が楽しみになっていた。  
いつまでも聞いていたい、そう思わせるだけの魅力が、彼の歌にはあった。  
「えっ、ちょ………メイコ姉さん………スミマセンスミマセン、アイスは控えるようにします。」  
……………やっぱり情けないとは思うけど。  
 
 
「〜♪」  
スタジオの中、ルカの歌声が響く。  
彼女のボイストレーニングに付き合うようになって、改めて彼女の歌声の綺麗さを知った。  
ミクよりも低めの、柔らかな声色。普段の寡黙さからは想像出来ない程、  
優しい、心温まる音色。  
この時間が終わるのが惜しい、そう思わせてくれるような歌声だった。  
(もうそろそろかな?)  
だけど、目的を見失っちゃいけない。だから僕は、彼女に声をかける。  
「ルカ、明日にしようか?」  
「え?」  
突然の僕の言葉に、ルカが首を傾げる。  
「もう大丈夫かなって。」  
「そう、ですか………」  
続けた僕の言葉に、ルカは意味を理解したらしい。  
その顔が少しだけ曇った気がした。  
だから僕は、いつもみたいに彼女に手渡す、今日のはとっておきだ。  
 
「はい、ルカ。」  
「………ありがとうございます。」  
…………ハーゲン○ッツ。  
手渡されたのは、カイト兄さんが特に好きなアイスだった。  
いつもみたいに、向かいあってアイスを食べる。  
けれど今日は、いつもより沈黙が長かった。  
いつもは積極的に話しかけてくれるカイト兄さんが、なにやら考え込んでいるからだ。  
私はいつもより沈んだ気分のまま、いつも通り自らは話しかける事はない。  
「大丈夫だと思うよ?」  
長い沈黙を破り、兄さんが言う。  
「ルカなら大丈夫だよ。」  
この人は…………  
とても優しくて………残酷な程鈍い人………  
 
チュッ  
 
不意打ち気味に、カイト兄さんの唇を奪う。  
「………………バニラ味」  
 
 
「………………バニラ味」  
突然ルカにキスされて、僕はとても混乱していた。  
唇に残る、抹茶味。  
ルカは熱に浮かされたような顔で、僕を見つめていた。  
「カイト……兄さん」  
「ル………カ?」  
次第に頭が冷静さを取り戻してくる。状況を、把握し始める。  
「カイト……兄さんが………カイト…さんが、好きです。」  
そう言って、もう一度唇を重ねてくる。  
とても真っ直ぐな、とても誠実な告白だった。  
嬉しくはあった、僕の心も、きっと………  
でも、  
「ルカ。」  
「はい。」  
僕は口は、彼女にとって残酷であろう言葉を紡ぐ。  
「そういうのは………明日、一段落してからでいいかな?」  
「………はい。」  
いつもは無表情なルカが、はっきりと泣きそうな顔をした。  
「部屋に……戻ります。」  
 
 
唇に指を添えて、カイトさんの唇の感触を思い出す。カイトさんの表情を思い出す。  
はぐらかされた気がした。  
いつもは静かな心の中が、荒々しく波立つ。  
彼の心が分からない…………  
 
「みんな、ちょっといい。」  
夕食の席で、タイミングを見計らってきりだす。  
「ミク姉ー、醤油とってー。」  
「え?あ、うん。」  
「ミク、それ醤油じゃなくてネギ。」  
「………」  
無視された。レンだけが、僕に憐れみの視線を送っていた。  
………………うん、死のう、アイスの食べ過ぎで凍死しよう。  
そう思い、ふらふらと冷凍庫に向かう僕のコートの裾を、ルカが掴む。  
「食事の後、スタジオにきてもらえないでしょうか?」  
僕の代わりに、ルカがきりだす。  
「いいよ〜。」  
「あ、はい。」  
「いいわよ。」  
「おK。」  
あー、ルカの言えばちゃんと聞いてくれるんだ。  
…………僕ってなんなんだろ。  
 
夕食後、みんながスタジオに集まってきた。  
それぞれが腰を落ち着けたことを確認してから、ルカは深呼吸を一つしたあと、僕の方を見て頷いた。  
それじゃあ、ミュージックスタート!!  
 
「〜〜♪」  
 
簡単な事だった、皆と仲良くしたいなら、直接伝えるのが1番。  
そしてルカは、その方法を持っている。  
だって僕達は、ボーカロイドなんだから。  
 
 
「〜♪〜♪」  
私の歌で伝わるのだろうか?なんて不安は無くなっていた。  
歌が、私の気持ちを高める。カイトさんのコーラスが、私を支えてくれる。  
ただ、歌う。自然に、伸び伸びと。  
 
そして、歌が終わる。  
 
30分後、私とカイトさんは、スタジオの片付けをしていた。  
私の歌は、皆にちゃんと伝わっていた。メイコさんは、  
「改めてよろしく。」  
と言ってくれた。彼女は私のなやみに気づいていたのかもしれない。  
ミクさん達も、自然に笑いかけてくれた。  
後は………  
カチャッ  
カイトさんに気づかれないように、スタジオの鍵を閉める。  
片付けが終わって、いつもみたいに向かいあってアイスを食べる。  
今日は…………バニラ味。  
カイトさんの唇を見つめる。  
我慢が出来なくなって、呟いた。  
「あなたの心が分からない。」  
「え?」  
呟きと同時、また私は彼の唇を奪う。  
今日も彼の唇は、バニラ味。  
昨日より長めのキスを交わし、彼の体をそっと押し倒す。  
「たった一日、でも我慢出来ませんでした…………答えを、下さい。」  
近い、彼の顔を見つめて問い掛ける。  
大きく見開かれた蒼い瞳が、すっと細められる。  
「ありがとう。」  
優しい微笑みと共に、彼は呟いて、私の唇をふさいだ。  
 
「……大きい。」  
服の上から、私の胸を揉みながら、カイトさんが呟く。  
「んぁ……カイトさんの、んっ、お好みに合いますか?」  
「う、うん。」  
「嬉しい。」  
カイトさんの唇を塞ぐ。ゆっくり舌を絡め合い、互いの唾液を啜る。  
唇を離した時、互いの唾液が糸を引いて、私の官能をより高ぶらせる。  
今度はカイトさんからのキス。  
もう一度舌を絡ませ合い、深く繋がる。  
カイトさんの左手が、私の服に潜り込む。  
直接胸を揉まれ、カイトさんの手の温かさが伝わってくる。  
「んんっ、んっ、んぁ………」  
優しく包みこむように、胸を揉まれ、乳首を転がされ、私の体はどんどん火照っていく。  
そして、カイトさんの右手が、私の秘所に伸びる。  
ちゅくっ  
下着の上から触られたにも関わらず、私のそこは、いやらしい水音をたてた。  
「ルカ、濡れてる?」  
顔が紅潮するのがわかる。  
「カイトさんに………触られてるから……」  
とぎれとぎれに、そう答える。  
「………ありがとう」  
ちゅっ  
今度は唇じゃなく、おでこへのキス。  
こういうのは……ずるい。  
そのままカイトさんは、右手を動かす。  
ちゅく、ちゅく、くちゅっ。  
「ん、んぁぁっ、んん、あっ、あぁ………」  
私の秘所から発生られる水音をBGMに、私は淫らな歌を奏でる。  
指揮者は…………私の愛しい人。  
 
 
「あっ、やぁぁ、あんっ。」  
下着の中に手を入れて、ルカの秘所を直接いじる。  
筋をなぞり、少しだけ指を入れ、敏感な部分を摘む。  
そのたびに水音は増し、ルカの声に甘いものが混じる。  
「可愛い………」  
今度は首筋にキスをして、強く吸う。  
ルカの首筋に、唇の跡が残る。  
「カイトさんばっかり……ずるい。」  
拗ねたようにいうと、ルカはマフラーをどかし、僕の首筋にも同じ跡を残す。  
そしてそのまま僕を押し倒す。  
「ルカ?」  
「今度は…………私が。」  
そう言うと、僕のズボンのファスナーを開け、すでに硬くなっていた僕のモノを取り出す。  
「気持ち良くしてあげます。」  
挑発的に微笑むと、自身のその長い髪を、僕のモノに巻き付けた。  
そして、恐る恐る上下に扱き始めた。  
「ル、ルカ……くっ。」  
「き、気持ちいいですか?」  
僕のほうを見ながら、上目使いで聞いてくる。  
「気持ちいい…けど、少し擦れて痛い。」  
「あっ……」  
僕の言葉に反応して、手を止める。  
少しの間なにかを考えていたかと思うと、突然上着を少しだけ上にずらした。  
 
そして、僕のモノに唾液を垂らしてから、その豊満な胸で挟み込んだ。  
「うわっ、ルカ。」  
「こう……すれば。」  
そのまま上下に扱きはじめる。  
髪の毛が擦れる感触に、胸の柔らかさ、唾液が潤滑油の役割を果たし、凄まじい快楽を与えてくる。  
「カイトさん……気持ちいいですか?」  
「う、うん、気持ちいいよ。」  
スピードを変則的に変え、僕のモノを扱く。  
ゆっくりの時はその感触を感じられ、激しい時にはその摩擦で僕を刺激する。  
僕の股間の上でたぷんっ、たぷんっと弾む胸と、朱く染まったルカの頬。  
圧倒的な快楽とその光景が僕の脳を刺激して、モノは更に硬度を増す。  
「カイトさん、カイトさぁんっ」  
「ル、ルカっ、も、もうっ。」  
「あっ、駄目っ。」  
慌てたように、急に刺激するのをやめる。  
「え?ルカ?」  
射精寸前でおあずけをされて、いぶかしげにルカを見つめる。  
「最初は、膣が………」  
潤んだ瞳で見つめられて、誰がそのお願いを断れるだろうか?  
「うん。」  
精一杯微笑んで、ルカの可憐な唇にキスをした。  
 
 
私が上になる形で、カイトさんに跨がる。  
「カイトさん………あの……初めてなので。」  
「うん………僕もだよ。」  
どちらからともなく、唇を重ねる。  
チュッ  
その音を合図に、私はゆっくりと腰をおろす。  
メリッ  
先端が埋没すると共に、鈍い痛みがはしる。  
「んっ!!」  
「ルカ……大丈夫?」  
さっきまで私を抱きしめていた右手が、私の頬を撫でる。  
「だ、い……丈夫です。」  
強がりながら、痛みを堪えてさらに腰を落とす。  
ミリッミリミリッ。  
腰を落としていくと、特別抵抗が強い所にカイトさんの先端が触れた。  
(これが、私の……)  
カイトさん自身を感じながら、私は少し躊躇した。  
更なる痛みにたいする恐怖心が、私を躊躇わせたのだ。  
すっと、私の目の下をカイトさんの指がなぞる。  
(え?)  
そうされて初めて、私は自分が涙を流していたことに気づく。  
私を見つめるカイトさんは、泣きだしそうな顔をしていた。  
(なんて。)  
なんて優しい人だろう。  
私の涙を見て、心が痛いのだろう。  
私の心の中から、愛おしさが溢れ出す。  
決心はついた。  
この人から与えられる痛みなら、甘んじて受け入れよう。  
私はそのまま、一気に腰を落とす。  
 
ブチブチブチッ。  
今までとは比較にならない、鋭い痛みが走る。けれど、その痛みさえ愛おしい。  
そして、私の最奥に先端がぶつかる。  
「んっ、あ、はぁ、はぁ………」  
「無理、しなくても……」  
腰が痺れ、倒れ込んでしまった私を抱きしめ、耳元で囁く。  
「い、い…んで…す………でも。」  
「ん?」  
「しばらく………動け、そうに…ないですけど………いい…ですか?」  
「うん。」  
カイトさんは、優しい声で返事をすると、私の身体を、強く、抱きしめた。  
 
 
「もう、大丈夫です。」  
今まで肩で息をしていたルカが呟く。  
「無理だけは……」  
辛そうな顔なんて、見たくは無いんだ。  
ぐちゅっぐちゅ。  
僕の言葉には答えずに、無言で腰を降り出すルカ。  
それによって与えられた快楽は凄まじく、脳が蕩けそうになる。  
元々射精寸前だった事もあり、今にも爆発しそうだったが必死に堪えた。  
 
 
カイトさんの上で腰を振る。痛みはまだ引いてはいなかった。  
けれど、カイトさんを気持ち良くしてあげたかった。  
上半身を少しだけ浮かして、至近距離から顔を覗き込む。  
(綺麗で………可愛い顔。)  
快楽に堪え、射精しまいとする顔は、私の嗜虐心と、早く楽にさせて  
あげたいと思う心の両方を刺激する。  
「ル、ルカ、そんなに早く動いたら……」  
「いい……です……いつでも………」  
(あなたが気持ち良くなってくれるなら。)  
腰のうごきを更に加速させる。  
「くっ、ルカッ、もうっ!!」  
その瞬間、私の膣で熱い、熱いものが弾けた……  
 
「ゴメン」  
事後、片付けが終わってから、改めてルカに謝った。  
「いいですよ。」  
「でも、僕だけ」  
チュッ  
僕の言葉は、唇で遮られた。  
「なら……」  
僕の背中に手を回し、ルカは耳元で囁く。  
「次は………一緒に」  
そう言って、ルカは優しく『微笑んだ』。  
 
 
数日後  
「ラー♪ララー♪」  
いつもの時間、いつものようにボイストレーニングをしている。  
少しだけ変わった事。表情が柔らかくなってきたと言われた事。  
 
そして……  
 
いつものように、向かい合ってアイスを食べる。  
今日はストロベリー味。  
 
 
いつものように、甘い蜜月の時間をむかえる。  
 

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