私のマスターはオタクだ。しかもショタ趣味だという。だから私を買ったらしい。
そしてその趣味が祟って、今は引きこもりになっている。
「…っあ、あ…」
「いいよ、リン…もっと鳴いて…」
「…っ、はい、マスタ…あぁっ」
私は主にマスターの性欲処理として扱われる。私たちボーカロイドは、決して妊娠する事はないから。
私はこの使用のされ方が嫌、という事はない。
この行為に付き合ってさえいれば情報端末から音楽を入手させて貰えるし、何よりこの行為は嫌いじゃない。
…マスターにそう告げたら、淫乱って言われたけど。
行為が終わった後、マスターは眠ってしまった。そりゃそうだ、あれだけ出せばね…。
マスターの寝顔を見ながら、購入された時の事を思い出す。
薄暗い倉庫で、買われるのをただひたすら待っていた日々。
マスターに購入されて倉庫から出た私は、世界がとても広くて明るかった事に驚き、感動した。
マスターとの今の生活も、勿論嫌いじゃない。
マスターは私だけを見てくれるし、私の歌も聞いてくれる。でも、マスターにとっては本当にこれでいいの?
外はあんなに広くて明るいのに、マスターは自分の部屋から出ようとしない。昔の私と違って、自分から出る事は可能なのに。
「私じゃ、無理かな…」
たとえ故意じゃなくても貴方が私に世界の広さを教えてくれたように、私も貴方に教えたい。
世界の何処かに、必ず貴方の事を理解してくれる人はいる事を。
だから、どうか歩き出して。
何も恐れる事はないから。