それは午前一時、
僕が今日1日の出来事におもいを馳せながらスリープモードに入ろうとしたときのことだった………
ズダンッ! と、およそらしくない音をあけながらドアが開き、瞬く間もない速度で訪れたのは撫子色の衝撃。
揺れていた視界が落ち着いたとき、僕は座っていたソファに押し倒されていた。
見上げればそこにあるのはようやく見慣れて来た顔、ただしその表情は初めて見る。
つい三時間前『あなたの食べているものに興味がある』とかいって仏頂面で多量のバニラアイスを消費していった妹。
真っ赤な顔に、なにかを我慢するように歪んだ口と潤ませた目をはりつけた、巡音ルカだった。
「兄さん、助けてください!」
僕は何事かと思い焦った、あの妹がこんな表情をしているのだ。ただ事ではないだろう。
しかし焦りながらも『大事な妹の障害となるものは殲滅しなくては』という最優先思考(トップオーダー)が、
何があったのか問いただそうと僕の口を開かせ、
「今すぐ私の胸を揉んでください!」
開ききって閉じなくなった。意味が分からない。全くもって皆目見当もつかない。
お兄ちゃんは君をそんなはしたない子に育てた覚えはありませんのことよ?
……失敬、あまりの動揺に言語中枢が異常をきたしたようだ。
OKわかった、coolだ、coolになれK―――
ぐにゅ とそんな擬音が聞こえてきそうな感触がした。
気がつくと僕の右手は彼女に捕まれ、水のようなマシュマロのような……とにかく極上の感触を堪能していた。
くそっ! 俺は憎い! この右手が憎い! 俺より先にこの極上の感触を味わったなんて……
神と仏が許してもこの俺が絶対にゆるさ……
「いいから揉んでください!」
右手を下の方(おそらく自らの足の間)に置き、左手で僕の右手をつかんみ胸に押し付けているルカが絶叫する。
はい、ごめんなさい。すぐにおっしゃる通りにします。
あまりの迫力に平身低頭しつつ、おそるおそる左も手伸ばし両の胸を揉む。
「はんっ、あっ、も、もっと強くです! お願い兄さん……お願い……」
ルカの声が弱々しくなって来た、慌てて更なる力を込める。
ひぐぅ、とかもはや呻きか悲鳴に近い声を出しながらも、力を緩めようとすると懇願するような目で見てくる。
これはもう既に暴力の域に達してるんじゃないか? そう思えるほどに彼女の胸はその形を変えていくが、
なぜか彼女は停止を求めてはこない。体をくねらせ身をよじりながら、それでも胸を押し付けてくる。
しょうがないのでよりいっそう手に力を入れながら、彼女の様子をうかがう。
そういえば彼女の左手は既に僕の右手を離れている、どうやら右手とともに彼女のスカートの中にあるらしい。
暗くてはっきりとはわからないがそう見える。いったい何をしているのだろう?
と、彼女の手が僕の両頬に添えられていた。
そのまま彼女は体を前に伸ばし、僕の口に吸い口を押し当てた。
「兄さん、吸って」
次の瞬間、口の中に辛口のワインフレーバーなバニラアイスの味が広がった。
* * * * *
「で、結局どうゆうわけだったの?」
約三十秒、彼女の胸から噴出し続けたバニラアイスを堪能してしまった僕は、
出なくなってからも求め続けてしまい、思いっきりソファからたたき落とされた。
で、少しばかり冷静になってみたがさっぱり状況が理解できないのだ。
「その、兄さんにアイスをもらったことをMEIKO姉さんに話したら、
『そう、なら私の酒にもつきあいなさい』
と言われてしまって、ワインを飲飲むことになったんです。でも初めてだから量がわからなくて」
「飲み過ぎた……と、調子に乗ったMEIKOと一緒に」
通常、僕たちボーカロイドは固形物を食さない限りトイレに行かない。
液体の場合は駆動系や電子頭脳などの冷却によってその大部分が蒸発するからだ。
ただし二つ例外がある。
一つはMEIKOが飲み過ぎで酔ったような気分になってトイレに行くとき。
もう一つは短期間で体温以下の物体を取り込みすぎたときだ。
今回は両方が同時に起きた。そしてMEIKOがトイレを占拠してしまったのだ。
困ったのはルカだ。トイレに行きたい、でもいけない。
漏らすなんて想像しただけで感情が芽生えかけるほどの羞恥だ。
それによって導きだした結論がつまりこれだった。下から出せないなら上から出せばいいじゃない。
しかし自分で絞り出そうとしても出てこない。というかいまいち力が入らない。
で、唯一起きてた僕に白羽の矢がたったわけだ。選ばれた理由にがっかりなんかしてないよ? うん。
「ところで兄さん」
「ん?」
「今度またアイスをもらえますか?」
おわり