がくぽさんと「お付き合い」をするようになりました。
けれどもそれで何かが劇的に変わる、とか
そんなことはなく。
私たちは今までどおり、一緒に歌の練習したり、
仕事終わりにお茶したりなんだり、
そんな感じでつらつらとすごしています。
変わったことといえば。
たまにがくぽさん宅の縁側で肩をくっつけて寄り添って座ったり。
手をつないで歩いてみたり。
「えー、それだけぇ?」
「うん。」
「ほんとにそれだけ?」
「……うん。」
いま、我が家にはMEIKO姉とリンちゃんの3人きり。
男衆も居ないし、いいじゃん、教えてよー、
とのリンちゃんの追及に根負けして、
つい、打ち明け話をしてしまいました。
私とがくぽさんとのこと。
「でもあたし、がっくんとミク姉、
もっと前から付き合ってると思ってたよ?
だって、そーゆう雰囲気だったし。」
「え、そうだった?」
「そーだってー!絶対そーだよー!ねー、メイ姉。」
「んー、まあねえ……。」
……そうだったかなあ?
そんなに私、分かりやすかったのかなあ?
そう思って、しどもどしてる私に、
リンちゃんはさらに続けます。
「でさあ、ほんとにそれだけなんだよね?」
「だから、うんって……。」
「えー、信じらんなーい!
もっとこーさー、がっついて来たりとか、ないのー?
それともアレかな?
がっくんは大人だから、オトナの余裕ってやつー?」
「いや…………、さあ…………。」
妹分のこの子は、
姉の私なぞよりずっとませてて積極的で。
多少、その積極性が羨ましくもあったりします。
答えかねてしどもどしてる私に、
メイコ姉さんが助け舟を出してくれました。
「まあまあ、いいじゃないの、
なるようになるんだし。
それに、意外となんとかなるもんだからさ、ね。」
リンちゃんはレン君と。
メイ姉はカイト兄とお付き合いしてるのは知っています。
がっついて云々というのは
たぶんレン君と比較してのことで。
なんとかなる、というのは
たぶんカイト兄のことを踏まえてのことで。
うっかりそういうことまで想像してしまって、
……ちょっと自己嫌悪です。
そんなこんなで日々を過ごしつつ迎えた、
お互い仕事もない、良く晴れたある春の日。
「うちの盆栽の桜もずいぶんほころんだのでな。」
ということで、お花見がてら
またがくぽさん宅の縁側にお邪魔しました。
煎茶とお茶菓子をお盆に乗せつつ。
お盆にを間に挟んで並んで座りつつ。
また世間話に花を咲かせたりなんだり。
ランキングのこと、マスターから貰った新譜のこと、
こんど撮る予定のPVのこと、育ててる野菜のこと。
とめどなくつらつら話していたのですが。
ふと、会話がとぎれて。
それが合図になったように、
がくぽさんが、間に置かれたお盆をすす、と下げました。
がくぽさんが、すす、と私のほうに身を寄せて、
肩と肩を付けてぴた、と寄り添います。
私の手は、私の膝の上に。がくぽさんの手は、私の手の上に。
それぞれ置かれます。
「……。」
「……。」
こういうときに、つい押し黙ってしまうのは
何でなんでしょうか。
心地いいような、気まずいような、そんな沈黙。
いちど話し始めてしまえば、後は普通に話せるんですが。
最近とみに、こういう沈黙の時間が増えたように思います。
こういう時、
「がっついて来たりとか、ないの?」
リンちゃんの、この言葉をつい思い出してしまいます。
そりゃあ、私とて。
今以上の、そこから先のことを考えたことが無い訳ではありません。
でも、寄り添って手をつなぐだけでこんなに緊張するんですから、
体なんてつないでしまったら、どうなってしまうのか。
想像がつかないというか。なんというか。
……がくぽさんは、そゆこと、どこまで考えてるのかなあ?
女の私でさえそうだもの。
男の人だし、考えてないわけはないよね。
最近折りに触れ、こういう方向に考えが向いてしまいます。
そしてその度、
やだなあ、失礼なこと考えてるよなあ、と
自己嫌悪に陥ってしまうのです。
また例によってそんなことをうだうだ考えていると。
がくぽさんが、沈黙を破りました。
「初音殿。」
「はい?」
「いや……、なんでも。」
「……はあ。」
あれ、今日はなんだか、声の響きが、周波数帯が、
いつもと違うような。
ていうか、このトーン。なんか、緊張してます?
なんだか、妙な空気です。
なんだろう、なんだろう。
そう思っていると、
私の手に重ねて置かれたがくぽさんの手に
ぐっと力が込められたのが分かりました。
また、沈黙が続きます。
えっと、
もしかして、これって、その……。
これから起こることを察して思わずごくりと唾を飲んだら、
存外その音が大きくて。
ぜったい聞こえてたよな、やだな、どうしよう……。
そんなことを考えてましたら。
身を寄せられ、顔を寄せられ。
ごち、とおでこにおでこがぶつけられ、目が合います。
透き通るような碧い目。高い鼻。長いまつげ。
思わず見惚れそうになりましたが。
やっぱり、こういう時って、目を閉じた方がいいのかなあ?
そう思って、目を閉じます。
すると、唇に、軽く、柔らかいものが触れました。
触れていたのは少しの間でした。
唇を離されると、そのままぎゅっと抱き締められます。
私も、がくぽさんの背中に腕を回しました。
「はあ……。」
「ふう……。」
「ちょっと……緊張したのう……。」
「私もですよ。」
「然様か?」
「そうですよ。」
そう言い合って、
抱き合ったままくすくすと笑いあって。
もう一度唇を重ねました。
今度は、さっきよりも長く。
VOCALOIDは、歌うために人を模して作られたものです。
ですから、人の歌うさまに近づけるために、
ある程度息継ぎをしないと苦しくなるように造られています。
それをふまえて。そして、いま……。
息継ぎのタイミングが、分かりません。
苦しくなって、唇を離します。
「ふぅ……。」
「如何いたした?」
「や、あの、息が、その……。苦しくって。」
「止めておったのか?鼻ですれば良かろうに。」
「あ!そうですね。」
「………………初音殿は。」
がくぽさんはそう言って、苦笑いしながらこう続けました。
「ほんとに何も知らんのだなあ。」
そういうわけじゃ、と反論したかったのですが。
その間もなく、また唇を塞がれました。
というか。唇を吸われました。
「……?!」
驚いて、なすがままになっていると
唇を吸われたり、噛まれたり。
さらにその間、手で耳を軽くなぞられたり。
ていうか、意外にこう、耳がこそばゆくて、
口の方に集中できません。
さらに鼻で息継ぎとか、そんな器用なこともできません。
また苦しくなって、息をするべく口を開けたら。
今度はその隙間から、
がくぽさんの舌が、私の口の中に滑り込まれてきました。
「……!!」
キスするときに、舌を入れるとか入れないとか。
一応、知ってはいましたが。
実際には、こういう風だなんて。
ええと、どうしよう。どうしよう。
とりあえず、私も真似して、おずおずと舌を出してみます。
舌を絡ませながら、がくぽさんはこちら側に、
ぐいぐいと体を押してきます。
私は、後ろ手をついて体を支えていましたが、
ついに支えきれなくなり。
どさ、と後ろに倒れ込んでしまいました。
がくぽさんが私に覆いかぶさるような格好で。
でも、キスは続きます。
唇を舐められて、舌を吸われて。
すっかり、がくぽさんの成すがままです。
口内を犯される、て表現があるけど、
それってこういうことかなあ?
ていうか…………”犯される”?
このまま……、その……、しちゃうんですか?
いつかは、とは想定してたけど、
さすがに今、というのは想定してなかったんですが。
ええと、どうしよう。どうしましょう。
どうしたらいいの?
そう思っていると、唇が離され。
私にぎゅっと覆いかぶさったままの体勢で、がくぽさんが呟きました。
「……すまん。」
「え、えっと、何が?」
「いささかこう、調子に乗っってしまったというか、
たがが外れてしまったというか。……申し訳ない。」
「あ、いえ、それは別に……。」
なんとなく、気まずくなって、お互い押し黙ってしまいます。
そしてまた続く沈黙。
いやでも、さすがに、その。
ずっとこのままというわけにはいかないので。
「えっと、あの……。」
「ん?」
「あの、ここ、縁側ですし。」
「ん。」
「外ですし、人目につきかねないですし。」
「ん。」
「いつまでもこういう体勢なのは、よろしくないんじゃないかと。」
「ん。」
とはいえ。このまま離れるのも、正直、名残惜しくて。
どうしよう、どうしよう。そう思っていると。
「では、部屋に上がるか?」
聞かれて、私も覚悟を決めて答えました。
「……はい。」
外は明るいといえ、障子を締めると、部屋の中は薄暗いです。
私は、部屋の隅の畳の上に、ちょこんと座ってました。
がくぽさんは、部屋の真ん中にお布団を敷いています。
が、恥ずかしくて、その姿は直視できませんでした。
「あの、初音殿。こちらへ。」
気付くと、がくぽさんは敷き終わったお布団の上に正座しています。
とりあえず、呼ばれたので、そちらに向かいました。
私も正座で、向かい合わせに座ります。
もじもじと、私が布団の上にのの字を書いていると、がくぽさんが切り出しました。
「初音殿。」
「はい。」
「その……。こういうときの首尾というのは。」
「はい。」
「もっと優雅にあるべきなのかもしれんが……。
いかんせん、こちらも実地の経験が無いもので……。」
「はあ。」
「いろいろ、至らぬところもあるやもしれぬが。何卒ひとつ。」
「いえ、あの、私こそ!……宜しくお願いします。」
がくぽさんが深々と頭を下げたので、私もつられて深々と礼をします。
とはいえ。何をどう宜しくしたらいいものか。そうしてもじもじとしていると。
傍らに、銀色の小箱が置かれているのが目に入りました。
”VOALOIDは妊娠しないの”そんな歌もありましたが。
かといって、”だから好きなだけ……”としてしまうと、衛生的によろしくない、ということで。
なので、そこは人間と同じように、そういう物のお世話になるべき、とされています。
それは知ってますし、コンビニとかで目にしたことはありますし、
なのでそれはそれだとは分かったのですが。
私の視線にがくぽさんは気付いたらしく。
「あいや、不測の事態に備えておくのは、男の嗜みというか。……すまん、引いておるか?」
「あ、いえ、そんなことは。」
言われて、ぶんぶんとかぶりをふります。
すると、不意にぐい、と体を引き寄せられました。そして、また深いキスをします。
今度はゆっくりと、布団の上に押し倒されました。
「さっきは本当にすまんかった。」
「え?」
「背中、痛くなかったかの?」
「あ、はい、大丈夫です。」
そしてネクタイに手をかけられて。ブラウスのボタンが下まで全部外されます。
前はだけて、ブラが露わになりました。
「上も縞なのだな。」
「えと、上”も”、て何ですか。」
「いやその、初音殿のキャラクタ・イメージとして、有名ではないか。その……。」
「まあ、確かにそうですけど。」
なんだか恥ずかしくなって、はだけたブラウスの前を手で押さえます。
「その、隠さんでいただきたいんだが。」
そう言われて、手がどかされます。
「そんなに、……まじまじと見ないでください。」
恥ずかしくなって、思わず目をぎゅっと瞑ります。すると、胸に当たるひんやりとした感触。
いつも、手をつなぐ毎に冷たいなと感じる手。その手が、私の胸に当てられています。
「初音殿は、あったかいのう。」
「がくぽさんが、冷たいんですよ。」
やわやわと、ブラの上から胸を揉まれます。
「ん……。」
がくぽさんの冷たい手が、ブラの中に滑り込まれ、直に胸に触れました。
「あー……、柔らかい……。」
ため息混じりの低音でそう言われて。
なんだか、喉のあたりがぎゅっと締め付けられるような、そんな感じがしました。
がくぽさんの手が、お腹の方に移動します。
お腹だの腰だのをやわやわと触られ。再び、ブラウスに手をかけられて、聞かれました。
「もう、全部、取ってしまっていいか?」
はい、と頷いてはみたものの。
途中で”脱がされてる”という状況に耐えきれなくなり、
やっぱり、自分でしますと申し出て、布団の中にもぐり、もそもそと服を脱ぎました。
がくぽさんも、自分の装束を解いて、布団の中に入ってきました。
お互い、何も付けない状態で。布団の中で、ぎゅうと抱き合います。
「はあ……暖かい……。」
また、がくぽさんが呟きます。
初めて触れ合う、肌の感触。
がくぽさんは私より冷たいけれど、
肌を合わせた部分はだんだん暖かくなってきて、何とも心地がいいです。
そうしてじっといると。がくぽさんの手が、今度は腰とふとももの間を何度か往復し、
そして、私の大事な部分に触れました。
「!!」
うわあ、触られてる、触られてるよう!
そう思い、私は身を固くします。
ひとにそこに触られるのは初めてで。なんだかすごく変な気分です。
その部分の表面を、指でなぞられます。
なんか、擦れるような感触が、変な感じです。
「どう、だ?」
「どうって、何がですか。」
「その、…………痛くないか、とか。」
「や、別に、痛くはないですけど。」
「他には?」
「……分かりません。」
初めての感触に耐えていると、
「これは、大丈夫かの?」
手がさらに下の方に移動し、ある部分をぐっと押されました。
「痛っ……!」
なんだか針か何かで刺されたような、ちくりとする感触に、思わず声を上げてしまいます。
指を入れられようとしたんだと気付きました。
一応、はじめてが痛いというのは知っています。
でも、こういう風に痛いなんて。ていうか、指でも、入り口だけでこんなに痛いなんて。
覚悟してたはずなのに、ちょっと怖くなりました。
「すまん、ちょっと、加減が……。」
そう言って、またしばらくキスをしたり体をあちこち触られたり。そうして。
「その……、そろそろ……。先に進みたいのだが。」
「あ、はい。」
「大丈夫か?一応、湿ってはおるが。こう、反応が芳しくないような。」
「……?」
「いやその、本当に大丈夫か?と。」
「はい、たぶん……。」
「では、参るが。無理そうなら言うのだぞ。」
そして。がくぽさんは一旦私から離れて背を向けて何事かをごそごそと準備して。
再び、ぎゅっと抱き合いました。
そして……。そこにまた、今度は熱いものが当てられて……。
「……………………ぃたっ!!!!」
結論から言うと。できませんでした。その、有り体に言うと、痛くて。入らなくて。
「今日はもう、無理だのう。」
「ごめんなさい……。」
「いや、気にするな。無理にするようなことでもあるまい。」
「でも……。」
「まあ、こちらとて、そう長くは続かんしの。」
「?」
「……いや、分からんなら良い。」
そうして、ぎゅっとされました。
申し訳ないとか、無理させちゃってるんじゃないかとか。
かといってあんまり恐縮しても、逆に気を使わせちゃうんじゃないかとか。
だから、これ以上なんと言ったらよいか分からなくて。
返事の代わりに、私もがくぽさんの背中にぎゅっとしがみつきました。
今度こそは、上手くできるといいのだけれど。
というか。こんど、って。そんな機会はあるんでしょうか?
そんなことをぐるぐると考えながら。
私はがくぽさんの背中にぎゅっとしがみつき続けていました。