ショートケーキの上って、なんで苺が乗っているんだろう。
メイコは考える。
別に苺でなくてもいいと思うのになあ。それでも苺が乗っているショートケーキというのは全くもって乙女心をくすぐり、甘いにおいとそ
の愛らしさでダイエット中の女性を誘惑するものだから、きっと何にも変え難い魅力というものがあるのだろう。きっと苺でなくてはダメ
なのだ。
(ああ、食べたい。苺……ケーキ)
自室のベッドで布団を頭まで被り、メイコはそんな事を考える。否、そんな事を考えざるを得なかった。
朝メイコが目覚めると、彼女は自身の異変にすぐさま気がついた。
変に顔が熱い、いや、全身が熱い。まるで運動した後のように全身が火照っている。
それに息も苦しい。ボーカロイドはその独自の呼吸器官のおかげで滅多に息苦しくなることなど無いはずなのに、自然と息が切れる。
メイコの脳裏に赤い光がちらつく。危険信号だ。
(やばい、やられた)
そういえば最近家の掃除を怠っていた。
いつも見回りにきてくれるバスターさんは、期限切れだとかなんとかで寝込んでいるし、メイコはメイコで仕事が立て続けに入っていた。
共に住んでいるマスターは女性にも関わらず家事という家事が一切出来ない。やろうともしない、というのが正しいのかもしれない。
つまり、そんなゴミだらけの家を好んで侵入してくる奴等―ウイルスがとうとう我が家にもやってきたのだ。
(そして、私がやられたわけね)
「んっ!?」
メイコは身体に起こっている予想外の異変に驚き目を見開いた。
だるい身体を何とか反転させて体温計を取ろうと手を伸ばすと布団がずりっととずれてパジャマの薄い布が素肌を刺激した瞬間、身体中を
電流のようなものが走り、頭のてっぺんまで上ると徐々に下腹部へと降りていく。
これは、変だ。いつものやつではない。どころか、いつものよりも格段に面倒なものだとメイコの本能が知らせる。
危険信号の赤い光がチカチカと先ほどよりも速いペースで点いたり消えたりを繰り返す。それに比例してメイコの心拍数もどんどん上がっ
ていく。
メイコは体温計を取ろうとした右手がいつの間にか下腹部に伸びようとしていることに気付き、歯を食いしばった。
だめだだめだだめだだめだ!
ぎゅうっと瞑る瞼の奥でどんどん赤い光は加速を増していく。
(違うこと!違うこと考えなくちゃ!そうだ、ショートケーキの上って……)
そして、冒頭に至る。
☆
「めーーーこおおおおおお!ウイルスにやられたってまじいいいい!?」
ばったーんと大きな音を立てて勢いよく自室のドアが開かれる。そこに息を切らせて仁王立ちしていたのは、我が家の主人―つまり掃除すらも出来ないマスターであった。
後ろからおずおずと入ってくるのはこの家で自分以外の唯一のボーカロイド、「KAIKO」であった。
カイコはメイコの苦しそうな様子を見るや否や、枕元まで駆け寄り心配そうに覗き込んだ。メイコの額に当てられた小さな手はアイスを好むせいか氷のように冷たく、火照ったメイコの身体に心地よく冷気が伝わっていく。
「めーちゃん、大丈夫?」
「ん、大丈夫、だから、伝染るといけないから、離れてて」
元々は「KAITO」とはいえ、設定を美少女好きのマスターに散々いじられた彼女は紛うも無く「女の子」である。その柔らかい可愛らしい声の主にこんな思いはさせられまいとメイコは青い髪の少女をベッドから離れさせた。
まだ格好はいつもの衣装ではなく、ピンク色のネグリジェで、更にてっぺんにアンテナのように立った寝癖があるあたり置きぬけなのだろう。
メイコは起き上がるとパジャマのボタンを外しマスターに素肌を見せる。
露になった胸の突起が主張しているのを見る限り、催淫性のあるウイルスだったのだろう。
メイコの頬が恥ずかしさで硬直し、なんとなくカイコの方から視線をそらした。
「ありゃー、これはまずい」
マスターがしまった!とばかりに頭を抱えた。どうやら厄介な種類のウイルスらしい。
首にコネクタで繋がれたウイルスチェック用のパソコンを覗く。しかし難しい用語ばかりでメイコには全く分からなかった。
「えっと、これって」
「簡単に言えば、ヤリたくなっちゃう病ね。うちって女ばっかだったし、メイコに彼氏がいる様子も無かったから……かかりやすかったのはしょうがないけど」
オブラートに包もうともせずに言ってのけるマスターにカイコが顔を赤くして、「失礼しました!」と部屋を飛び出していく。
カイコはその手の話題が苦手である。この前ちょっと色っぽい歌を歌った時でさえ耳を塞いで聞こうともしなかった。
「で、これ、治りますか?」
メイコが心配そうに尋ねる。
治らない、という気は全くしなかったが、出来ればこの生き地獄のような状態は一秒でも早く脱したかった。
性欲をもてあます、とはよく言うが、もてあますなんてレベルじゃあない。
「あたしを誰だと思ってんのよ」
マスターの眼鏡の奥がきらりと輝いた。
こんこん
「はーい、どうぞ」
ドアがノックされると、メイコは蓑虫の様にくるまっていた毛布の中からくぐもった返事を返した。
ウイルス撃退ワクチンが出来たらすぐに部屋に行く、とマスターから言われていたのだ。マスターに違いない。
毛布から顔を出す気にすらなれない。それ位にみっともない顔をしているのだ。
今は、ただ、ただ、この状況から開放されたい。
「めーちゃん」
「!?」
毛布の外側から呼びかけられた言葉に一瞬身体が竦む。
めーちゃん。
それは我が家では青髪の背の低い少女が自分を呼ぶときだけに使われる言葉だった。
「まさか、カイコがワクチン持ってきたの?」
一瞬驚いたものの、すぐさま平静をとりもどしたメイコは毛布の外側にいる人物に声を掛ける。
「うん。」
「カイコに、ワクチンなんか打てるの?」
ワクチンを打つのはそんなに簡単にできる事ではない。電気回路をいじり、穴を作ったところからワクチンとなるものを注入しなくてはいけないのだ。カップラーメンを作るようにはいかない。
「……というか、俺にしか出来ないんだ」
「どういうこ」
メイコの言葉が途切れる。
今、「俺」って言わなかった?
っていうか、カイコってこんなに低い声だったっけ?
思い切り毛布を蹴っ飛ばして起き上がる。
「やあ」
「あんた、誰?」
目の前にいたのは自分よりもずっと身体が大きくて、短い青い髪の、それは、「KAIKO」ではなくて紛れもない「KAITO」であった。
「えっ……」
「めーちゃんごめんねっ」
状況が全く理解できないメイコをカイトが押し倒す。
そして躊躇なくパジャマを捲り上げるとそのまま胸に吸い付いた。
「やっ」
「ごめん。でもこうするしかないんだ」
申し訳なさそうに言うカイトは言葉とは裏腹に右手で抵抗しようとするメイコの両手を封じ込めてベッドに縫いつける。
その腕の細さにカイトは目を見開いた。
「めーちゃん、こんなに細かったんだ」
「それは、あんたが、でっか、くなった、だけ、でしょっ……」
揺れる紅茶色の瞳は涙でいっぱいになっていた。
カイコがカイトに?理解できない。なんで?なんで?
メイコの瞳がカイトに訴えかける。カイトはそんなメイコを見る度にキュンと胸の奥が締め付けられるのだった。
「俺は……めーちゃんに気持ちよくなって欲しいだけなんだ」
「こんなのっ全然っきも、ちよくなん、か、ひゃんっ」
「あ、めーちゃん、おっぱい弱いんだ」
クチュリ、とわざと音を立てて舌先で弄ぶと彼女の胸の突起は面白い様に硬くなり、メイコは快感から逃れるように身をよじった。
カイトの脳天がカッと熱くなり、自身も硬くなっていくのが分かった。
(メイコを気持ちよくさせなきゃいけないのに、これはまずい)
自分のなかで奥底の方に隠れていた加虐心というものがむくむくと立ち上がってくる。
それほどに快感に溺れるメイコは愛しく、可愛らしかった。
空いた左手でたわわな胸を揉み解す。初めて知った女性のものの柔らかさにカイトの身体もびくりと震える。
(カイコの時って、こんなに無かったから)
違うのかもしれない。女から男になって初めて女の人のおっぱいの良さというものが分かったのかもしれない。
(……元々KAITOであるはずなのに、女から男になるってのも変だけど)
マスターに「KAITOになれ」と言われた時は心底驚いた。
自分は物心ついた時から女として過ごしていたわけだし、体つきもマスターがどういじったのか分からないが付いている筈のものは無く、代わりに膨らんでいるはずの無いところは膨らんでいた。
「今回、メイコのウイルスは特殊なものなの。私ですらちゃんとワクチンを注入できるか分からない」
「えっ……?」
「そこで、」
マスターがずいっと前に乗り出してくる。そしてカイコの下腹部をつついた。くすぐったい。
「ひらめいたのが、ワクチンを精液と共に膣内へ流し込むのよ。これなら絶対に上手くいくわ」
「なっ、にっ、それっ」
「俺だってはじめは反対したよ。女から男になれって言われたって、でも」
カイトの右手はもう添えるだけになっていた。抵抗する気をなくしたのか、快感でそれどころではなくなったのか、メイコの腕から力はほぼ完全に抜けていた。
カイトは左手の指をメイコのスリットに滑り込ませ、その長い指を器用に折ったり曲げたりしてメイコを揺さぶった。
その度にメイコは甘い吐息と嬌声を漏らす。
「メイコが苦しむのは、嫌だったから、決めたんだ」
「あっ、あっ、あっ、ああああっ」
くたりとメイコの身体から力が抜ける。カイトが指をずるりと引き出すとぬめぬめとした愛液が光っていた。そして途惑いもなく、その指に口付ける。
それを見たメイコがアッと声を上げて顔をベッドに押し付けた。恥ずかしい恥ずかしい見たくない見たくない。
「それに、俺はずっとメイコとこういうことしたいって思ってたから」
メイコの細い腰に両手を掛けて自身の腰を沈めていく。その予想外の狭さにカイトは驚いた。進まない。
「あ、ああっ」
「ふ……き、つ……」
「ん、やああ、いた、いっ……!」
その言葉を聞いてカイトは動きを止めた。
痛い?そうだ。慣れないうちは痛いって、自分も女だから知っていたはずなのに!
それに、メイコは自分とこういう関係にはなりたくないだろう。カイコであったならまだしも、今は見慣れぬ男なのだ。
(メイコを、これ以上傷つけたくない)
カイトの中に初めて迷いが生まれた。中途半端に進めた腰をゆるゆると引き始める。
「え……?」
「だって、メイコはこんなこと知らない男としたくないだろ?」
「ちがっ知らなくなんかない!」
「それでも、俺はカイコだったんだ!女の時からこういう目でメイコのことを見てたんだ!」
カイトを見上げるメイコの瞳がまたビクリと揺れる。ぽた、ぽた、と降る大粒の雨でメイコの白い肌には水溜りが出来た。
カイトの深い青色の瞳は構うことなく雨粒を落とす。ひとつ、ふたつ……
それを見て、メイコは微笑んだ。
「泣き虫なところは……変わってないのねえ」
え、と漏らすカイトにメイコは上半身を思い切り起こしてカイトの厚くて平らな「男」の胸に飛びついた。自由になった両手は彼の頬を挟み、顔を少しだけ傾けて唇と唇を触れさせてやる。
「ねえ、あんたは、あんたじゃない。KAIKOでもKAITOでも、あんたはあんたよ」
「めーちゃ……」
「急にだからびっくりしちゃったけど、あんたの事は嫌いじゃないわ。ウイルスをやっつける方法がこれしかないなら、あんたじゃなくちゃ、きゃっ」
言い終わる前にカイトに押し倒される。きつく、きつく抱きしめられて息が苦しい。
耳元に唇が押し付けられる。囁かれる低音は未だ違和感があったけれど、不思議と心地よかった。
「ねえ、今度は最後までしちゃうよ」
「望むところよ」
掻き分けられる道は狭く厳しいものだった。
ワクチンは膣内の奥深くに注入しないとウイルス除去の成功の確率が格段に下がってしまうのだ。
子宮口にぶちまけろ
マスターの品のない言葉が聞こえる。
(それにしても、これは、)
大体、男の身体になったのが初めてなので当然性交渉が初めてのカイトにとって、浅い部分で果ててしまいそうになるのを堪えるのに必死だった。
メイコの浮かべる苦悶の表情にすらゾクリときてしまう自分に絶望する。
「カイッ……?」
「カイトでいい」
「ん、ん、カイトぉ、はや、く」
「ん、頑張る」
一気にグッと押し進めるとメイコは甲高い悲鳴を上げた。痛い、痛いのだ。想像しただけで腰の辺りがズクンとなる。
我武者羅になって唇をむさぼると生暖かいメイコの舌が自分のものに絡んできた。
粘着質なクチャクチャとした音がボーカロイドの敏感な耳を刺激する。顎を伝ってどちらのものかも分からなくなった唾液がシーツに染みをつくる。必死だった。何とか一つになろうとカイトは必死になった。
メイコの息が整いはじめるとカイトは腰を円を描く様に動かし始めた。苦しそうなうめき声がだんだんと甘いものになる。
「アッ、あ、ゃ……」
「メイ、コ、」
「や、もっと、」
「ん、もう無理、とまれな」
「う、ん、ゃ、あああっ」
「メイコ……ッ」
☆
「で、どう?」
「うん。起きた時よりはよさげかも」
ワクチン接種作業が終わり、体力的に限界だったメイコが眠りから覚めた後もカイトは同じ体勢のまま、つまり終わった時のままメイコの隣で寝転がっていた。
眠らなかったのか、とメイコが聞けば
「だって興奮しちゃって寝れないよ」
と言い出したので一つげんこつをくれてやる。
厚い胸板に頬をつけるとこれが本当にあのカイコだったのか、と疑わしくすら思ってくる。
「でも、香りは同じでしょ」
言われて見れば彼からはいつもカイコの周りに漂っていたふわふわとした甘いバニラの香りがした。
「ねえ、もうカイコには戻らないの?」
メイコは尋ねる。カイトは一瞬驚いたような素振りを見せ、少し考えてこう答えた。
「メイコが恋人として俺を好きでいてくれるなら、カイトのままでいる。男になって、女の子だった時の方が良かったと思うことも多いけど、メイコとチューしたり、こういうことしたりできるなら、カイトのままがいい」
ジッとメイコを見つめるコバルトブルーの双眸はいつになく真剣で、回答に迷ったメイコはただこう答えることしかできなかった。
「とりあえず、5日間だけ試してから、また考える」