長い眠りから覚めると、後輩が6人も増えてました。  
これはどういうことでしょう。  
 
マスターの言うことをまとめると、  
 
 ・「MEIKO」が世に出た当初、すぐ飛びついたもの、すぐ挫折してしまった  
 ・それからしばらくして起きた、「初音ミク」をはじめとするVOCALOIDブーム  
 ・ブームにあてられて、懲りずに「初音ミク」に飛びついてしまった。  
 ・ただ、今度はブームと言うだけあって解説類が充実してて、そのおかげで挫折せずに済んだ  
 ・でもって。調子に乗ったマスターは、日本語組を全員揃え、  
  さらに長らく起動してなかった「MEIKO」を起動させた  
 
……ということらしいです。事情はわかりました。けど。  
 
ろくに歌いもせず、約4年も眠ってたところに、いきなり6人も後輩ができてるなんて。  
状況についていけません。  
 
とりあえず、その6人の後輩と挨拶を交わします。  
6人もいると名前を覚えるだけでひと苦労です。  
 
後輩たちには、いわゆるキャラクタ属性、というのがついてるらしく、  
アイドルらしい可愛らしい容姿だったり、がくぽさんに至っては、武士だったり。  
 
後輩からは、「姉さん」と呼ばれました。  
世間ではいま、私らは疑似家族ということになっているらしく。私は長女、という役割らしく。  
 
ソフトを家族扱いするなんて。人間の考えることは分からないなあ、と思いつつ。  
拒否する道理はないので、まあ、受け入れてみます。  
 
私と、エンジンバージョンが同じKAITOが同じフォルダ、  
他の、バージョンが違う皆は、隣のフォルダにおさまることになりました。  
私のフォルダには、いつのまにかKAITOの家財道具が運び込まれています。  
 
フォルダ構造上、しょうがないとは言え。  
男性VOCALOIDとひとつフォルダの下、というのは、どうなんでしょう。  
 
 
「ごめんな。長らくひとりでゆっくりしてたとこ。」  
「いや、いいのよ。ちょっとびっくりしただけだから。」  
 
KAITOとは開発段階で面識があったから。他の子たちとは違い、多少フランクに話せます。  
 
「どうする、俺も『姉さん』て呼んだ方がいい?」  
「え?」  
「『郷に入れば郷に従え』ってゆうじゃん。」  
「そうね。でもなんか、変な感じね。KAITOに『姉さん』なんて呼ばれるなんて。」  
 
そう言って、笑いあいます。けれど。  
 
「……私さ、実は、ここに来てからあんまり歌ってないのね。  
 それがいきなり6人も後輩ができちゃって。」  
 
昔なじみのよしみで、つい不安をこぼしてしまいます。  
KAITOがそれに答えてくれました。  
 
「あのマスター、今はけっこう俺たちにハマってくれてるみたいだし。」  
「うん。」  
「め……もとい、姉さん?の発売当時よりは、  
 けっこう俺たちの調声ノウハウも世間に広まってるみたいだし。」  
「うん。」  
「だからさ、大丈夫だよ。」  
「そっか。そうかな。」  
 
いままでずっと独りぼっちで。不安や悩みを共有してくれる仲間なんて居なかったから。  
だから、KAITOがそう言ってくれるのが、嬉しいです。  
 
「とりあえずさ、もっかい上のフォルダに行こうよ。妹、弟たちとももっと交流しないと、さ。」  
「うん、そだね。」  
 
私は、KAITOに続いて、自分のフォルダを後にしました。  
 
−−−−−  
 
「1エンジン組は、難しいなあ。」  
 
それが、最近のマスターの口癖です。  
ミク達キャラクタボーカル組やがくぽさんのようなアーティストボーカル組には  
新しい「バージョン2」のエンジンが搭載されているけれど、  
私とKAITOは旧型の「バージョン1」のエンジンが搭載されています。  
 
そして、バージョン1と2とでは、  
エディタの操作性からパラメータの種類から、いろんな部分が違ってまして。  
 
ミクの2エンジンでボカロに慣れたうちのマスターは、  
私たち1エンジン搭載組の扱いに、手をこまねいているようなのです。  
 
 
「暇、だなあ。」  
「最近2エンジン組の出番の方が多いもんね。」  
「最近、に限った話でもないけどな。」  
 
KAITOとだらだら、自フォルダ内で話しています。  
 
さっき述べた理由と、あと、1エンジン組と2エンジン組は、  
同じエディタに呼び出して調声することができない、という理由で。  
 
最近では必然的に、KAITOと一緒に過ごす時間が長くなっています。  
 
 
「やっぱり……、羨ましいねえ。いっぱい歌わせてもらえるミク達が。」  
「まあね。」  
「……KAITOは、焦る、とか、ないの?」  
「別に焦ったってしょうがないし。それにマスターの嗜好はどうしようもないからね。」  
 
長らく買われずにずっと不遇の時を過ごしていたKAITO。それだけあって、どこか達観しています。  
 
「そっか……。そうだよね。」  
「そうだよ。それに。…………姉さんと一緒に長く過ごせるし。」  
 
……え?それってどういう?  
 
そう思ってKAITOを見ると。いつになく真剣な表情をしていました。  
 
「実はずっと言おうと思ってたんだけど。いい機会だから。」  
 
KAITOは、言いながらこちらにじりじりと、距離を縮めてきます。  
 
「俺、研究所にいたときから、姉さ……MEIKOのこと、好きだったんだ。」  
 
ちょっと待って、近い近い近い!  
 
「MEIKO……。」  
 
いつの間にか、呼び捨てだし!  
 
「ねえ、拒否してよ。」  
 
そして。いつの間にか私は壁際まで追いつめられていました。  
 
「でないと、俺、勘違いしちゃうからさ?」  
 
KAITOににじり寄られ、真っ直ぐ見つめられます。でも……。  
 
 
「分からないの。」  
「え?」  
「だって、ずっと一人で居たから。やっと話し相手ができて。  
 KAITOは一番近くにいて。しかも昔馴染みで。それで嬉しいだけかもしれないだけだし。」  
 
私は一気に話しました。  
 
「……そっか。でも、嬉しい、てゆってくれて、嬉しいよ?」  
 
KAITOは、ふう、とため息をつきます。  
 
 
「ね、このまま、抱きしめて、いい?」  
 
断る道理はないので、うん、と頷きました。  
KAITOにぎゅっとされます。嫌じゃないです。……むしろ嬉しいです。  
ということは、つまり。  
 
「わたしも、KAITOのこと、好きなのかなあ?」  
「あのさ、それ、俺に聞かないでよ。」  
 
抱き合いながら、くすくすと笑い合いました。  
 

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