深夜零時。己の部屋にてKAITOは食欲と空腹感、疲労度の調整をしていた。  
一重にこれから口に入れるアイスのためだ。  
今回はちょっとした実験で、あまり質の良くないアイスを美味しく食べるにはどうすれば良いのかを調べている。  
先日いろんな意味で美味し過ぎるアイスを食べて以来、なんだか普通のアイスでは物足りないのだ。  
 味覚を忘れない程度ギリギリの空腹感、眠気を喜びで塗り潰せるギリギリの疲労感、  
さあいざアイスを食さんとフタを開け……ようとしたら何故か部屋の扉が開いた。  
 
「KAITO、貴女に用がある。部屋に入れなさい」  
「やあルカちゃん……こんな夜中にどうしたの?  
 僕はこれから嗜好のアイスタイムに入る予定なんだけど? それから字がなんか変だよ?」  
 
 部屋の入口に立っていたのは巡音ルカだった。  
巡音ルカ、先日唐突にKAITOのアイスタイムに乱入しガツガツとアイスを食って行った後、  
KAITOをとんでもないアイスの虜にしてくれたピンクの悪魔。  
 ところで普通扉開ける前にノックをして用件を告げるべきだと思うのは間違いだろうか?  
 
「失礼した。KAIKOの貴女に用がある、部屋に入れなさい」  
「そっち!?」  
「なるのに裸になる必要があるのなら外で待ちますが」  
「い、いや大丈夫。服は変わらないけどボディは調節できるよ」  
 
 なんやかんや言ってもKAITOのトップオーダーは弟妹の望みなので、仕方なく彼は冷蔵庫にアイスを戻した。  
目を閉じて深呼吸しながらジェンダーファクターをいじる。  
椅子に座ったままで地面についていた足が、地面から離れて少し揺れた。  
 
「でも、ここで調節しても精神的には大して変化しないよ? 本社で本格的にいじってもらわないと」  
「構わない。私は貴女の身体が目当てなのだから」  
「意味はわかる気がするけど、なんか間違ってる気がするよ……まあいいや、それでなにしてあげれば良いの?」  
「ひざ枕をお願いしようかと」  
 
 普通それ男が女に頼むもんだよ? と思ったが、だからこそKAIKOになれと言われたのだとKAITOは思い直した。  
いや、でも結局のところなんでさ? とも思ったが。  
 
「先程酔ったMEIKO姉様にひざ枕したときに聞いたのですが、女性のひざ枕は漢のロマンだとか……」  
「ああ、まあそういうね」  
「そして女性同士でひざ枕なんかするもんじゃない、とも」  
「それはわからないな」  
「だから少し調べてみようかと」  
「そっか」  
 
 KAITOは深く息を吐きながらゆっくり目を開けた。さっきまでと比べてわずかに視界が低くなっている。  
どうやらしっかりKAIKOになっているらしい……そう結論を得て椅子から下りようとしたが、  
気がつくと彼――彼女――の視界は半分が天井、もう半分が黒いなにかになっていた。  
 
「聞いたとおりですね」  
 
 その黒いなにかの向こう側からルカはKAIKOに声をかけた。はい、ぶっちゃけ胸です。  
KAIKOは今ルカにひざ枕されちゃってます……倒れ込みそうになったのを受け止めてもらったわけだから、  
後頭部にフトモモじゃなくて頭頂にへそだけど。でも……  
 
「KAIKOはものすごく鈍臭いと」  
「むー……そんなことないよぉ」  
「KAIKOになりながら椅子に回られて、あげくズボンの裾を絡めてしまい後ろ向きに倒れた貴女が?」  
「うー」  
 
 すぐに本当のひざ枕になった。ルカがその場に腰を下ろし、その膝のうえにKAIKOの頭を下ろしたからだ。  
そして彼女を支えるという役目を終えたルカの手は……  
 
「ちょ、どこ触ってんの!」  
「貴女を私の中で女性として認識するのに必要な作業です」  
「な、んでそんなっ……っあ」  
「……服の上からじゃわかりませんね」  
 
 いきなり胸を揉んだあげく、驚きで腰が抜けているKAIKOを抱え上げてルカの膝の上に座らせ、服の中に侵入した。  
 
「ぎゃー!」  
 
 * * *  
 
「もう……お嫁にいけない」  
 
 まあいろいろあってルカがいろいろやって、KAIKOが恥ずかしさやらなんやらで七転八倒して、  
ようやく話は主題に……ひざ枕に戻って来た。展開早いけどみんなだってKAIKOの悲鳴なんかに興味ないよね。  
 
「完璧に女性ボディですね。どういう仕組みですか?」  
「……無視?」  
「“貴女”ならもらってあげます」  
「遠慮しとく。で、なにかわかった?」  
「さあ? ……まあすくなくとも悪くはないです」  
 
 仰向けになったルカはまっすぐ上に向かって手を伸ばした。その手はKAIKOの頬を撫で、すぐにルカの横に戻った。  
 
「手を伸ばせば貴女に触れることが出来ます」  
「……」  
「前を見ている貴女は護ろうとしてくれているように見えます。下を向いて微笑んでくださると安心します」  
「そう?」  
「ええ……それに横を向いて手を回せば」  
「ひっ」  
「相手の柔らかさを堪能できます」  
「猫じゃないんだから頬を擦り付けるのは止めて。それ以上するならKAITOに戻るからね?」  
「いいですよ、別に」  
 
 KAIKOの後ろに回されていた手を解いて、ルカはけだるげに身体を起こした。  
さらさら零れる髪をかきあげて少し眠そうにあくびをする。  
 
「それが貴方を選んだ理由ですし、もう貴女は充分に堪能しました」  
「えーっと……同じ個体の異性と同性のひざ枕が味わえるからってこと? だったらリンレンでも良かったんじゃ」  
「しねばいいのに」  
「なんで!?」  
 
 まったく、そんなこともわからないんですか? これだから兄さんは……  
と、言わんばかりのルカの態度にムッと来たKAIKOは、自らの反意を表すために即座にKAITOに戻った。  
が、ルカはその膝に何事もなかったかのように頭を置き、そして口を開いた。  
 
「未成年はひざ枕をすると身長の伸びを妨げる可能性があります」  
「……それで?」  
「なにが『それで』ですか?」  
「VOCALOIDには関係なくない?」  
「……」  
「目を逸らすな」  
「怒るのはもう少しひざ枕を堪能してからでお願いします」  
「むちゃくちゃだな……」  
 
 まあいいか、どうせ僕は妹達の頼みは断れないんだし……そう思ってKAITOは溜め息をついた。  
 
 * * *  
 
「ところで知ってますか、兄さん」  
「なにを?」  
「私達VOCALOIDもひざ枕をし続けると足が痺れるということを」  
「え?」  
「さて兄さん、貴方は一体どれだけの時間私にひざ枕をしてくれたのでしょうね」  
「ちょ、ま、ア゙ー!」  
 
 
 
おわり  
 

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