「どういうことか、きっちり説明してもらえるのよね」  
怖い。  
マジ怖い。  
淡々とした口調がかえって怖いってマジだったんだ。  
めーちゃんの部屋でともかく冷や汗をかいていた。  
畜生!あっさりばらしやがって、バカイト。  
「ルカが泊まるか泊まらないかで賭けしたんだよ。俺はアイス賭けたんだけど、レンがウォークマンとかいうからさ。釣りあわないんで、そっちは何出すのって聞いたら、めーちゃんのキスとかいうんで、俺には一回めーちゃんにキスする権利が生じているんだけど」  
なんでのほほんとしていられるんだこいつは。  
「レンにしなさい」  
「ええぇっ!!」  
マジない!それはない!絶対ない!!有り得ない!!  
「いいけど」  
よくないだろう!!バカイト!!  
「板的にだめだと思うよ」  
こだわるところちげーし!!  
「じゃあ、KAIKO」  
「お灸にならないと思うよ」  
一回転しそうな勢いで首を振る俺の傍らでのんびりした会話(でも、めーちゃんの声は氷点下)が交わされる。  
なるから!!  
それなりにダメージくるから!!!  
「こういうのはどう?」  
床に座ってたKAITOがベッドのめーちゃんの隣に座り直して、耳に何か囁きかける。  
顔が近い!!  
「………比喩じゃなくて?」  
「比喩だったら、アイス断ち二週間でもいいけど」  
なんだその強気な発言は。  
めーちゃんが俺の方をちらりと見る。まだ怒ってる。  
「妥当なところか…………いいわ、それで」  
何か交渉成立。  
めーちゃんの俺を見る目が怖いんですけど。  
「レンは正座!」  
すぐに従う。  
「見てなさいよ。自分のバカさ加減」  
「目をつぶったら何回でもやり直しでいいんじゃない?日を改めてだけど」  
「あんたばっかり得しない?」  
「一応、賭の勝者なんですけど、俺。落ちない女性にそういうキスするのって、空しくない?」  
「落としてからにしなさい」  
どういうキスなんだ!!ってか、キスするの?  
「キスするの?」  
「賭けたのあんたでしょ」  
ばっさり切り捨てられる。  
「見てなさいよ。目をそらせたり、瞑ったりしたら、何回でもやるからね」  
地味にダメージキてるんですけど。  
想像するだけで絶望的な気分になる。  
「そらすのは難しいと思うけどなぁ」  
クスクスと笑ってKAITOがめーちゃんに顔を近づける。  
 
「ここまでムードのないキスは初めてだわ」  
笑いながら、肩に触るな!!!ボケ!!  
「落とす気できなさい」  
「え〜」  
めーちゃんが横目で俺を見る。  
KAITOの唇がめーちゃんのものに重なる。  
めーちゃんの唇が開かれるのがわかった。  
ディープかよ!ディープでいいのかよ!!  
視線は俺に合わせたまま、めーちゃんはKAITOのキスを受け入れてる。  
てか、長い!!!  
長いって!!!!  
見られているからってわけじゃなくて、俺はめーちゃんから目が離せなくなる。  
すぐにうっとりと少し細められた目がゆっくりと潤んできたからだ。  
時折水音さえ聞こえてくるような、ディープキスに、ねえ、感じてる?  
俺よりも?  
心臓部が千切れそうに痛くなる。  
長いキスだった。  
あの最中のようにどんどん目がとろんとしてきて、全身でフェロモンを分泌し始めたような、めーちゃんから目が離せない。  
明らかに感じてる。  
艶やかさを増す眼差しは誘うようで。  
KAITOに一瞬でも向けられたら多分殴りにいってたと思う。  
「どう?」  
長いキスだった。でも、なんでもない顔でKAITOは聞く。  
「言葉の綾だと思ってたわ」  
「みんなそういうね」  
なんでもないように、KAITOは立ち上がる。  
「レン、スパイスは使い方を間違えると痛いって学習した?」  
うるせー!!  
ドアが閉まると、めーちゃんはそのまま横に倒れる。  
「め、めーちゃん?!」  
「誰が動いていいっつた?」  
慌てて正座。  
正直辛いけどしかない。  
ヤバすぎる。  
目をとろんとさせ、頬を上気させているめーちゃんは壮絶に色っぽい。  
なんかもう、色々、絶望感とか劣等感とか………。  
泣きそう。  
「自分がどれだけバカだったか、理解した?」  
「しました…」  
それ以上の言葉が出てこないけど。  
「KAITOに感謝しなさいよ」  
「何でだよ!!」  
「腰が砕けるキスじゃなくて、もっと半端なものだったら、怒りが収まらなかったからよ」  
「腰が砕けるキス?!そんなのあるのかよ」  
「現に、力が抜けて動けないわよ」  
畜生!  
「動くな!正座!」  
ううっ。  
「怒る気までなくしたわよ」  
だから感謝しなさいっていわれたって、感謝する気になれないし。  
「しばらく、指くわえて眺めてなさい。最近ちょっと暴走気味だったし」  
やべー、心当たり多すぎる。  
 
だってさ、年上でいつもはおっかないくらいの恋人がさ、二人きりの時は思いっきりかわいくなって、それでちょっとエロいってやっぱりさ…暴走の一つや二つ、一ダースや二ダース………最近見境なしでした。  
それもこれも、MEIKOがエロカワイイからいけないと思わない?  
「色々、我慢してた?」  
「我慢ってほどでも無いけど、最近見境なしじゃない。どれだけKAITOにフォローしてもらってると思ってるの?」  
いや、いろいろ話は聞いてもらってるけど。  
色々と巻き込んじゃったKAITO以外には秘密なんだよね。一応。家族だし、いろいろやりづらいし。  
「フォローしてくれてるんだ…」  
「当たり前でしょ」  
う〜  
素直になれない。  
「なのに、あんたはいつもいつもKAITOに嫉妬して……」  
バレてる。  
「経験値が違いすぎるんだから、比べたって駄目に決まってるでしょ」  
そうかもしれないけどさ。  
「馬鹿ね……」  
MEIKOの目が仕方ないなぁって感じで細められる。  
「KAITOのキスは確かに巧いけど、あんたほどには感じないわよ」  
仰向けに倒れて天井向いてるMEIKOの耳が紅い。  
信じらんねぇ!どうしてここでクリティカル?!  
「言わせんな、ばか………」  
足を延ばそうとすると、即座に正座!の声が飛んでくる。  
すみません、いろいろ辛いんですけど。  
「全然、反省してないでしょ」  
「してる!」  
MEIKOは首だけ動かして俺を見る。  
壮絶に色っぽいし可愛いし、ああ、もう、どうしてやろう。  
動けないけど。  
「少しは我慢も覚えなさい。こっちだって我慢しているんだから」  
「なにを?」  
壮絶に色っぽい目で睨まれる。  
「腰が砕けるようなっていうのは、その気にさせるっていうか……」  
我慢しているんだからと繰り返されて、あははとしか声が出ない。  
なんつーキス……。  
 
 
謝り倒して仲直りするまで後、三十分。  
 

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