昔々あるところに初音ミクというボーカロイドがいました。
しかし彼女には行うと動作保証外になる項目があったのです。
それは三つの約束事。
曰く、夜12時以降はネギを与えてはいけない
曰く、携帯電話の光に当てない
曰く、酒に濡らさない
製造メーカーである栗布団重工では、
この三つを特にユーザーへ気をつけるよう呼びかけていました。
しかしこの禁を破る使用者が続出することになったのです。
一つ目は見た目以外にはさほど被害を及ぼさなかったとされていますが、
二つ目以降は使用者のモチベーションやボーカロイドに対する認識すら、
捻じ曲げてしまう程に危険なものでした。
同族嫌悪に駆られ、あるいは自暴自棄に陥った彼女たちを、
元の初音ミクに戻すことのできたユーザーはさほど多くは無かったと伝えられています。
このため、オリジナルとなる初音ミクを失った使用者たちは現世に絶望し、
宗教に心の救いを求めるようになりました。
僧房へと続く道の水場には、髪を剃り落とすために立ち寄る者が絶えなかったそうです。
民明書房刊「坊化路井戸の夕暮れ」より抜粋