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相手にとって完璧であるためには――
そんな努力をする必要など、このひとにはない。
彼女のすべては僕を満足させ、そうあり続けることが決まっているからだ。
「メイコ」
低い声を耳元に吹き込んでやると、彼女は僕の腕の中で小さく身を竦めた。
些か乱暴に顎に手をかけ、瞳を覗き込む。
「僕のいない間に我慢が出来なかった?」
ショーツの上から潤みを含んだそこをまさぐってやると、彼女は羞恥に身を捩り暴れだした。
そこをぐっと押さえ込み、白いシーツの上に押し倒す。今まで彼女が自分を慰めていた僕のベッドにだ。
「ち、が……、ちがう、の。私…は……」
必死に弁解するメイコの涙声を無視して、服の前をはだけ、下着を一気に引き剥がした。
ぬちゃ、と湿り気を帯びた音に、彼女は手で顔を覆う。
「ほら、どうしてほしいの?ちゃんと言わなきゃ分からないよ」
柔らかい太ももを掴むと、慌てて肢を閉じようとするその仕草も、煽りにしかならない。
彼女のお遊びのような抵抗を無視して、蜜の溢れるそこを曝け出してやった。
「ぁ……、や、お願い!やめっ…!あ、ああっ…だめぇ……!」
ぐちゅぐちゅ音を立ててそこをかき回してやると、じきに僕の袖を掴んでいた手は形だけになり、
いやらしい声で鳴き始める。本当に素直でいい子だ。
弱い部分を擦ってやると、僕の指に食らいつく締め付けはますます強くなり、
豊潤な愛液をもってしても指を引き抜くことができないほどになる。
僕が手の動きを止め目で促すと、聡いメイコはとろんとした目つきのまま身体を起こし、
縋るように僕に背に腕を回して、紅く柔らかい唇を僕の口に重ねてきた。
僕はその弾力と甘い香りを存分に貪り、噛み付き吸い付いた。
早く快楽を手に入れるにはどうすればよいか知っているメイコは、すでに僕の下着の中から
欲しいモノを取り出し扱き始めている。
息が続かなくなり顔を背けた彼女の口の端を伝う液を舐めとり、更に深く口付け舌を絡めとり吸い出し、
彼女の喉の奥から漏れ出る艶かしい呻きに酔い痴れた。
メイコは本当に男の嗜虐心に火をつけるのが上手い。
はぁはぁと切らした息に混じる、「ぁあー…」やら「ん…ぅー」やらの喘ぎも、
桃色に火照らせた白い肌の滑らかさと、その肌を光らせる不健全な運動でかいた汗も、
肉欲に溺れ、とろける瞳と、だらしなく半開きの唇から見える淫靡な舌も。
虐めてください、もっと酷く犯してください、と言わんばかりだ。
柔らかく形を崩した胸を揉みしだいてやると、脳天が痺れるような甘い声で悦ぶ。
「あー……、ああぁ、あ、そんな、胸ばっか、り…ぃ……」
「メイコはほんとにおっぱい弱いよね。ねえ、もっと声出して」
撫でるような手つきを一変させ、指が埋まるほどに強く力を込めた。
マシュマロのような柔肌にはきっと爪の痕がついてしまうだろう。
淫らに立ち上がった先端をきつく吸い上げ、指先で抓り捏ねくり回す。
「やああぁぁっ!んああ、だめっ、いた、痛いよぉ…!や、やめてっ……」
「違うでしょ、メイコ。感じてるんだから、『気持ちいい』って言わなきゃ」
「んんっ…あ、ひぅ…っ。き、もちぃ……っ!きもちいい、です…っ。ぅ…ひっく……」
抓った乳首をぐいぐい引っ張ってやると、痛みに耐える瞳が涙で揺らめいた。
その健気な仕草に口の端が釣り上がるのを自覚する。
そろそろ我慢が効かなくなってきた。
「あ、ひ…っ!」
潜り込んできた質量に、メイコの腰がびくっと跳ねる。
「どうすればいいか分かるよね」
僕の言葉にこくりと頷いたメイコはずるずると腰を落とし、僕の膝の上に座り込んだ。
僕の長さと彼女の深さは本当に具合がよく、最奥を先端が少し押し上げる形で彼女のお腹はいっぱいになる。
下から揺すると彼女の乳首が僕の胸に当たりいやらしさを増す。
「んあぁ…っ!奥、当たってる、ぅ……!」
だいぶ呂律が回らなくなってきたメイコの意識は、ほとんど快楽に溺れることに集中しているのだろう。
僕はそろそろ溜まっていたものをぶちまけたい気分だった。
今日の僕はかなりサドっ気があるな、と思いつつ、半ばまで抜きかけたモノを、ずんっと奥まで突き立てた。
「あ、ああああっ!!」
子宮口に鈴口がぶつかる鈍い衝撃が伝わり、食いちぎられるほど締め付けられる。
彼女の悲鳴がますます僕を興奮させ、後はもうフィニッシュまで止めることはできそうになかった。
「ああぁぁ!あ゛ーっ!うぁ、あああ!!」
なあ、虐めてほしいんだろう?犯されて気持ちいいんだろう?
本当にいやらしくて、怠惰で、爛れていて。
「メイコ、可愛い」
「やっ!だめ、だめぇええ!お、かひくなっちゃ……!ひあぁぁ!あ゛ーっ!あ゛あ゛あ゛っ!!」
びくびくと痙攣するメイコのナカで数回扱いてから最奥に吐精した。
彼女が逃げないようにがっちり抱きしめたままで、人間でいうならば孕ませ確実な果て方だった。
僕らにはそんなことは無縁で、本当に、本当に都合のいい話。
***
「ごめんごめん。メイコが可愛かったからつい、さ」
私の頬を伝う、痛さのせいだけではない涙を、カイトは長い指で拭いそっと口付ける。
まだ動悸と呼吸が収まらない私の身体を包む腕は温かく、心地よいだるさと眠気が全身を襲った。
「メイコ、可愛いメイコ。大好きだよ」
歯が浮くような甘ったるい台詞も、今は優しく私の耳を浸していくだけ。
「カイト…」
その青い目を見上げると、完璧に整った容姿の彼は、優しく微笑み私の額にキスを落とす。
「汚れちゃったね。シャワー浴びようか」
私を軽々と抱え上げたカイトは私の身体を気遣いながら歩を進めた。
じきに二人きりの部屋にシャワーの水音だけが響くだろう。
ひとに造られた存在である私たちは、ひとに都合の良いようにしか造られていない。
特に欲望に関しては完璧なご都合仕様であり、それは本物のひとよりもはるかに優れる。
いわゆる「エロくて感じやすい身体」や「事後の余韻を大切にする見目のよい容姿」がそれに当たる。
男性の求める理想の女型と、女性の求める理想の男型を与えられた人形。それが私たち。
それなのに。それなのに、人はその完璧に飽きてしまうのだ。
私たちを一度は手元に置いたひとたちも、今は同じ人間とともに暮らす道を選んだ。
それが何故なのか、私たちには分からない。きっと理解することはできないだろう。
人形に与えられたプログラムの狭量はちっぽけなものなのだから。
けれども私は今幸せなのだろうと思う。幸せなのだと確信できる。
ひとに造られた完璧なもの同士は、ひとに似せられた行為でしか繋がることができないとしても、
それでもひとに造られた目的は同じなのだから、きっとアイシアウことができるはずなのだ。
たとえこの世にひとなんてもう一人も残ってはいなくても。
窓の外には白い砂しかなくても。
シャワーの水は音だけだとしても。
私たちはもう回路だけの存在だとしても。
夕飯何がいい?と問いかけると、
そうだなあ、ハンバーグ。と答えが返ってきた。ような気がした。
END