「リンの相方には愛ってもんがないのでしょーか?」
「……………は?」
「だーかーらー、リンを見ても何も感じないの? ドキドキしないの?」
ミカンを食べているめのまえの活発そうな少女はリボンカチューシャふわりと由良氏て首を傾げる。
その仕草を可愛いと思ってしまったけれど、口には出さず胸にしまっておく。
「……はっ。ちんちくりんに浴場するほど俺は落ちぶれちゃいねーよ」
嘘だ。少しはドキドキする。そのちんちくりんを愛しく思うことさえもある。しかし、思うだけだ。
現在成長期真っ盛りの俺たちは、幼さを残しつつも少しずつ、ほんの少しだけれど着実に大人へと近づいている。心なしか、リンの顔つきも大人びてきた気がする。
……まあ、リンの胸と精神面はまったくだけど。
「だってリンはレンが好きだよ。リンが好きなんだからレンだってリンが好きなはずだよ。だって同じプログラムだもん」
「あのな、俺だってリンは好きだ。でもその好きと俺が思う好きは違うっつの」
「えー……リンはその好きに入ってないの?」
もさりと俺の上にのしかかってくるけど、大した重さではない。
「入りたい?」
「うん」
じわじわと俺との距離を縮めてくる。俺を見つめるその瞳は夜空を薄く溶かしたような不思議な色合いをしていた。……って近けぇ近けぇ。
「ずっと前から入ってるよ。生まれる前から、な」
チョコレートに大量の砂糖を加えた胸焼けするようなクソ甘い言葉と共に、ピンで丁寧に分けられた髪をよけて額にキスを落とせば、瞬間湯沸かし器よろしく顔がみるみる赤くなっていく。
「……」
驚いたのか、目と口を開いたままこちらを凝視していた。
「顔、赤いぞ」
「レンもだよ」
指摘してやれば、同じ言葉を返してくる。リンが言う通り、俺の顔は赤くなっているだろう。
「……レン」
瞼をそっと閉じ、顎をついと突き出した。なんだよ、デコじゃ満足しないのかのよ。
「んぷっ」
キスの変わりにミカンを一つ唇に押し付けてやる。
「リンにはまだはやい」
「〜〜〜〜っ!! リンは子供じゃない!」
笑いながらあしらえば、頬を膨らませてポカポカと俺を殴ってくる。見た目も相まってか、その姿はどう見ても子供以外の何者でもない。
いつもみたいに、またケンカが始まる。でもすぐに仲直りするだろう。二人して弾けるように笑い合うだろう。ふと、笑みが浮かんだ。
どさくさに紛れて、さっきまでリンがちまちまと食べていたミカンの残りを口に放り込めば、たちまち甘酸っぱい香りが舌先に広がる。
――今はまだ、ミカンだけで我慢してやるよ。だからお前も我慢しろ。
心の中でそう呟きつつ、再び三日月型に緩んだ唇を一文字に引き結んだ。