―――最近ルカにあとをつけられている。  
 そう言ったら、めーちゃんに鼻で笑われた。お酒飲んでるから、対応がいつも  
よりストレートだ。  
 と思ったら、急に真剣な顔になるめーちゃん。  
「ルカが? カイトを?」  
「うんっ」  
 どんなアドバイスがもらえるか、期待してしまう。だってめーちゃんは僕の姉  
で、僕より世間を知っているから。  
「ぐっすんぷりぷり」  
「えっ、何、何なの!?」  
「ぷすーっ。いや、妄想乙」  
「めーちゃんひどい……」  
 むくれると、めーちゃんは天使みたいな笑顔でこう言った。  
「んもう……ルカに直接聞いてみればいいじゃない」  
「何て?」  
「僕のことつけてますかって」  
「わかった!」  
「えっ、ちょっ、カイト!?」  
 他ならぬめーちゃんのくれたアドバイス。これは全力で実行せねば!  
 めーちゃんが何か言ってた気がするけど、僕は走ってルカの部屋に行った。  
 
「ルカーっ」  
 部屋の中に呼び掛けてみたけど、返事はない。  
「変だな、どこにいるんだろう」  
「誰かお探しですか」  
「ひぃっ!」  
 真後ろにいた。  
「お、驚くから、ゆっくり出てきてよっ」  
「……I see.もう一度tryします」  
 ちょこっと壁から顔を見せて、それからゆっくり近づいてくる。  
 それも怖い。  
「気配消すのやめよう?」  
「はい」  
 うなずいたけど、ルカからあんまり生気を感じない。  
「ところで、相談があるのですが」  
 ルカの思ってもみない提案に僕は目を輝かせた。だってお兄ちゃんなのにあん  
まり頼られないし。  
 お兄ちゃんなんだぞー!  
 まぁ最近の子は出来がいいから……と、そこまで考えて、ふと気付く。  
「僕、ルカに教えてあげられること、あるの?」  
「はい。立ち話も何なので、中にどうぞ」  
 促されて、目の前の部屋に入る。ルカの部屋は思ったより女の子らしかった。  
「かわいい部屋だね」  
「ありがとうございます」  
 あんまり部屋を眺め回すのもどうかと思って、本題に入ることにした。  
 
「それで、相談って?」  
「えぇ、他の人には頼めないことなのです。それには事前準備が必要なのですが」  
「うんっ。何でも言って」  
 期待に胸を膨らませながらルカを見る。ルカは一瞬鼻を押さえて、それから無  
表情でベッドを指差した。  
「最近眠れないのです。それを解決するため、まず、ここに横になってください」  
「え、ベッドに?」  
「えぇ、必要です」  
 言われるままベッドに横になる。  
「そ、それで?」  
「目を閉じてください」  
「えぇ?」  
「必要です」  
 目を閉じると、スプリングのきしむ音がして……腕を持ち上げられた。  
「目は閉じたままで」  
「う、うん」  
 それから暖かい何かが横に置かれた。甘い、ルカの香り。  
「えっ、え?」  
 思わずそれを見ると……枕だった。  
「目を開けましたね?」  
 わー、ルカの顔が怖いよ。  
「計画変更です」  
 枕に僕の腕を枕にさせていたルカは……つまり枕が僕の腕を枕に……僕の腕枕  
を枕が……あれ?  
 まぁいいや。  
 ルカは枕を引っ掴むとベッドの外に落とした。  
「えぇっ!?」  
 次にルカがしたのは更に驚くべきことだった。  
 ベッドに乗ってきたルカはそのまま横になり、僕の腕を枕に……うん。枕にし  
て目を閉じた。  
「る、ルカ!?」  
「あなたの腕を枕にしてみたかった。この適度な堅さと柔らかさ……これぞ私が  
求めていたperfecな枕」  
 僕の胸に頬ずりするルカ。体温が上がる。  
 ドキドキしていたら、ルカは寝てしまった。規則正しい寝息が聞こえる。  
 僕の腕の真上に頭を置かれているから、しばらくしたら腕の感覚がなくなるん  
じゃないかな。だけど暖かいルカの体は忘れていた何かを思い出させてくれるよ  
うな、懐かしさを感じた。  
 その内ドキドキするより穏やかな気持ちが勝って、僕はルカと一緒にお昼寝を  
満喫した。  
 起きたらルカが僕の顔を見つめていて驚いたのはまた別の話。  
 
終わり  
 
 

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