これは僕がKAITOとMEIKOと出会った頃のお話。  
 
「では次の方、面接どうぞ」  
「はい」  
「え−劾さん。この特技の人造人間操れるというのは?」  
「はい。人造人間操れます」  
「それが我が社の利益にどう繋がるんでしょう?」  
「人造人間ですよ人造人間。この超音波笛で操るんです」  
「はー。それは凄い」  
「凄いでしょう」  
「お帰りください」  
「およ? いいんですか、そんな態度取って。笛吹きますよ」  
「どうぞどうぞ」  
「残念、ここには人造人間がいないようです」  
「帰れ」  
 
 当時の僕は所属していた組織を伝説の戦士プリキャアに壊滅させられ、再就職先を探していた。が、普通の会社では悪の組織の幹部経験は不必要と採用されず、  
また悪の秘密結社を探そうにもほとんど魔法少女や正義のヒロインに壊滅させられていた。  
 くそっ、なんて時代だ!  
 
 もう何社目だろうか。採用試験を落ちたのは。公園のベンチにぽとんと座り、  
視線は自然下を向く。  
「うう……」  
 泣くもんか。泣いたら負けだ! 希望があれば夢は叶うんだ!  
「は〜」  
とため息を吐く僕の前を小さな足がとことこと歩いていく。見上げると母親に連れられ、  
3歳ぐらいの幼女がとことこ歩いていた。  
可愛いなぁ。ベッドに連れて行って裸にして、体中ぺろぺろ舐めたくなる。  
「ママー、あの人はぁはぁしてるよ」  
「しっ。見ちゃいけません」  
 ああ。行ってしまった。  
 こうしてる場合じゃない。新しい就職先を見つけないと。求人誌をぱらぱらめくって、  
自分に合う仕事を探していく。  
 んー。なんかこう、怪人を引き連れて破壊の限りを尽くす仕事がいいなー。  
「およ? 『ボーカロイドの育成、プロデュース。経験不問』」  
 その一文に僕の目は釘付けになった。ぼーかろいど? 初めて聞く名だが心惹かれるものを感じた。  
 うん、これだ。早速電話してみると、必要書類を持って会社に来て面接してくださいと言われた。  
 
「ほう」  
 要塞のようなビルを見上げ、僕は感嘆の声を上げる。いい。なかなかいい雰囲気じゃないか。  
世界中の全てを敵に回そうが戦っていく、そんな雰囲気の会社。TV局や管理団体なんて目じゃないぜ。  
 
「学歴は海軍士官学校卒業。立派じゃないかね」  
「いやぁ。それほどでも」  
「いやいや。軍での戦歴もどうしてどうして」  
 会社の応接室。開発主任という初老の人物だけが面接官で、いろいろ質問してくる。  
 
「で、この人造人間を操るというのは?」  
「はい。この超音波笛で」  
「少し見ても構わんか?」  
「どうぞ」  
 開発主任さんは興味深げに笛を取り、  
「ほう……。プロフェッサー・ギルの使用していたものに近いが……独自の改良を加えておるな」  
「お分かりになりますか? 出力は以前より上がっています」  
「ふむ」  
 長々と観察してから、笛を返してくれる。  
「ところで、御社の開発したボーカロイドというのは?」  
「ああ。人間同様に歌えるアンドロイドと思ってくれて構わん」  
「歌……? それだけですか?」  
「まあ、やろうと思えばいろいろ出来るが。とりあえず主な機能は歌うことじゃ」  
 ふむ。音響兵器の類だろうか? 宇宙では歌が有効な戦闘種族もいるという。  
 
「すでに国内や海外でも稼動中じゃが。見たほうが早いな。おーい」  
と呼ばれ、扉から男と女が姿を現わす。マフラーをした長身の男と、ショートヘアの女。  
「紹介しよう。我々が開発した日本語用ボーカロイド、KAITOとMEIKOじゃ。  
デュエットできるように相性ばっちりに作られておる」  
「どうも」  
 僕がぺこりと挨拶するが、二人ともぴくりとも動じない。ただ突っ立ったまま。  
「ほれ。挨拶せんか」  
 ぷいと横を向く二人。  
「やれやれ。まだロールアウトしたばかりでな」  
「経験を積ませる必要があると?」  
「まあそれもあるが」  
「少し見ていですか」  
「構わんよ」  
 今度は僕がボーカロイドをじろじろと眺める。見られても全く動じない。  
「ほう…。光明寺博士のロボット工学だけでなく……緑川博士の改造人間の技術も使われてますね」  
「そこまで分かるか。見事じゃの」  
「僕もいろいろと見てますから」  
 しかしこれは……ふむ……。  
「良心回路を組み込んでます?」  
「うむ。だが不完全なものじゃ」  
「それだと超音波笛と拒絶反応を起こしますよ?」  
「構わんよ。ボーカロイドは歌えればよい」  
 そういう設計思想か。なかなか興味深い。  
「ところで」  
 僕はMEIKOの下半身に視線を移して、  
「この下はどうなってます?」  
 スカートをめくろうとしたら膝が飛んできた。痛い。  
 
 そんなこんなでめでたく僕はボーカロイド部署への採用が決まった。ひゃっほー。  
これでもう女子小学生から給食を分けてもらう日々からおさらばだ。  
「さてお前ら」  
 KAITOとMEIKOを前にして僕の初仕事がはじまる。  
「とりあえず、一曲歌えるようにしろとの辞令だ」  
 作りたての二体、もとい二人を歌えるようにする。  
 それが僕の初仕事。  
 
「スタジオに行くぞ」  
「やだ」  
 僕の言葉にいきなりMEIKOが逆らう。  
「なんでー?」  
「めんどい」  
と彼女はKAITOの肩にしだれかかっていた。  
「えい」  
 僕はぴーひゃらーと超音波笛を吹く。  
「いたたたたた!」「痛い痛い痛い!」  
 笛から発する命令に良心回路が拒絶反応を示し、痛がる二人。さらに僕は足元にハカイダーショットを撃ち込んだ。バンバン。  
「次は当てる」  
「分かった。分かったから」  
 分かればよろしい。銃口を降ろす。  
 
 スタジオに移動し、まずは発声練習。  
「機関車、機関車。  
 強い機関車、走る機関車、無敵の機関車。  
 機関車、機関車。  
 町を壊す機関車、山を崩す機関車、谷を潰す機関車。  
 機関車、機関車。  
 黒い機関車、ドス黒い機関車、甘い機関車。  
 機関車、機関車」  
 
 うーん。声はキレイなんだが抑揚がない。平坦すぎる。  
 KAITOもMEIKOも機械がただ録音された音を再生しているよう。実際機械だが。  
「うーん」  
 腕を組んで唸る僕に、MEIKOが、  
「飽きたー」  
 するとKAITOも一緒になって、  
「もういいか」  
 よくない。しかしただ練習しても無駄なようだ。  
「表に出ろ」  
 実地訓練に切り替えよう。  
 
 会社の実験用の敷地。  
「ほらほら。当たったら壊れるぞ」  
 僕が繰り出すハカイダーショットをKAITOは紙一重で避け、距離を詰める。  
動体視力はなかなかのものだ。  
 KAITOの電撃パンチをハカイダーショットから持ち替えた電子棒で受ける。  
手に伝わる重い衝撃。電撃は電子棒が吸収してくれる。だが衝撃までは吸収しきれない。パワーも大したものだ。  
僕は勢いに逆らわず後ろに自ら飛んで衝撃を流す。そこにMEIKOからビジンダーレザーが飛んできた。  
「くっ」  
 電子棒を地面に突き刺して回転し、かろうじて光線をかわす。そして腰の電磁鞭を抜いてしならせた。  
実戦では攻防の切り替えの早さが生死を、勝敗を分ける。  
「きゃっ」  
 電磁鞭をかわさず腕に巻きつかせるMEIKO。そこから電気が流れ悲鳴を上げた。  
「痛がる暇があったら反撃しろ!」  
 それが戦場で覚えなければならないこと。腕が切られようと頭が無くなろうと、  
最後まで立っていた者が勝者。  
 
 MEIKOに電磁鞭を巻きつかせ、動けない僕にKAITOが腕を交差させる。  
「電磁エンド!」  
 その電撃も電子棒が吸収する。だがばちばちっと腕が痺れた。わずかながら放電したらしい。  
それでも僕の腕を痺れさせるには十分。  
「今!」  
 鞭が弱まったのを感じ、MEIKOが間合いを詰める。  
「させるかぁ!」  
 MEIKOの蹴りに対し、僕は頭突きを見舞う。  
 がっ  
 頭にまともに衝撃がくる。視界が赤に染まる。出血したらしい。  
 だが同時に突き出された僕の指が、MEIKOの左目を抉っていた。  
『痛がる暇があったら反撃』  
 その教えを僕は自分で実践してみせた。  
「きゃああああああ〜!」  
 指を引き抜くと顔を押さえるMEIKO。指の隙間からどろっと白いモノがこぼれる。眼球だろう。  
「開発室で直してもらえ」  
 僕は訓練の終了を告げて、携帯電話を取り出す。修理の依頼だ。  
「MEIKO!」  
 電話しながら見ると、KAITOが心配そうに片目を失ったMEIKOに駆け寄っていた。  
なかなか親密になってきたじゃないか。  
 
「ほれ。しっかり直したぞ」  
 工作室から出てきたMEIKOはすっかり元に戻っていた。腕の一本や二本、  
眼球の一個や二個ならすぐ治せるのがボーカロイドの良いところ。口と喉は重用だから傷つけるなと言われているが。  
「ところで」  
 開発主任が聞いてくる。  
「歌のほうは進んでいるのか?」  
「ぼちぼちと」  
 え? 戦闘訓練も歌の練習の一環ですよ?  
「それより。お前さんも治療を受けたらどうだ?」  
 おお。さっきから頭から血がだらだら流れてる。頭蓋骨にヒビぐらい入ってるかな。  
 そんなわけで会社の保健室に移動。すたすた。  
 保健室まで来ると、何やら歌声が響いてきた。  
 
「ジングルベール、ジングルベール」  
 
 ジングルベルの歌。もうすぐクリスマスだっけか。そんな行事とはしばらく無縁だったが。  
 保健室に来ると、社専属の女医と、ベッドで一人の少女が横になっていた。  
さっきの歌はこの少女が歌っていたらしい。寝ながら。  
「あら。どうしました?」  
「ちょっと頭蓋骨にヒビが入ったみたいで」  
「では、レントゲンを取りましょう」  
 レントゲンを撮られてじっとしてる間、僕はベッドの少女に語りかける。  
「さっきの歌は君が?」  
「は、はい……」  
「この子、新人歌手なんですよ。まだデビュー前ですけど」  
と女医が説明してくれる。  
「へー。さっきの歌よかったよ」  
「そ、そんな……」  
「いや本当。僕がプロデューサーになりたいぐらい」  
 
 顔を赤くして、その顔を布団で隠す少女。  
「さっきの歌はクリスマスに?」  
「は、はい……。その、教会の子供たちに聞かせるんです……」  
 クリスマスに教会の子供たちに歌を聞かせるのか。良い話だなー。  
 
 ……  
 
 それだ!  
「き、君。良かったら、うちのボーカロイドに教えてくれんかね」  
「ぼ、ボーカロイドて……歌うロボットのことですよね?」  
「そうそう。教会の子供たちに一緒に歌うから」  
 KAITOとMEIKOにも分かるだろう。歌がどういうものか。  
「頼むよ。話はこっちから通しておくから」  
「は、はい……」  
 よし、目標ができたぞ。貴重な体験になるだろう。  
 
 レントゲンの結果、やはり僕の頭蓋骨にはヒビが入っていた。道理でガンガン痛いわけだ。  
「全治一ヶ月。最低一週間は安静にしててください」  
「ありがとうございます」  
 ぺこりとお辞儀する僕。もっとも病院で寝ている暇はないが。  
「ところで」と気になってたことを聞いてみる、「あの子はどうしてここに?」  
 女医は目を伏せ、悲しそうに眉間に皺を寄せる。なんかまずいこと聞いたか。  
「実は……あの子、生まれつき体が弱くて。成人するまで生きられるかどうかなんです……」  
 うわっ、いきなり重い。そんなんいきなり言われても。  
「だから無茶なことはしないでください」  
 うん、そうする。しか当然湧き上がる疑問。  
「なんでそんな子を歌手に!?」  
「あの子……せめて歌だけでも残したいって……」  
 ぐわっ、重い。重すぎるよ。  
「どうか、よろしくお願いします」  
 そんなこと言われても……。  
 
 とりあえず。スタジオで例の少女と一緒に、KAITOとMEIKOを歌わせることにした。  
本番はクリスマス、それまでにものする。  
「ジングルベール、ジングルベール」  
 「じんぐるべーる、じんぐるべーる」  
 少女に比べると、KAITOとMEIKOはどこかぎこちない。いやメロディーは完璧なのだが、やはり平坦すぎる。  
 それでも。  
 少女と一緒に歌ううちに、歌詞だけは覚えていった。  
 
 クリスマス当日に向けてただ歌い続ける、そんなある日。  
 
「がはっ(吐血)」  
 少女が口から血反吐を吐いて、その日の練習は中止になった。僕は慌てて保健室に連れて行く。  
「ご、ごめんなさい……迷惑かけて」  
 その子の頭に手を置くと、ぎゅっと熱い。  
「私……歌わないといけないのに」  
「いいさ」  
 この情熱の少しでもKAITOとMEIKOに伝われば。いやもう伝わっているかも。  
 スタジオに戻ると、KAITOとMEIKOが二人だけで歌っていた。  
 
「ジングルベール、ジングルベール」  
 しかも上手くなっている。気持ち的に。  
 戻った僕に気付き、KAITOが言う。  
「クリスマスに子供たちに聞かせるんだろ?」  
「ああ。サンタクロースのプレゼントだ」  
「それは気合入れないとな」  
 ふっ。分かってるじゃないか。  
 KAITOとMEIKOは互いに目を見合わせ、大きく頷く。  
「ねえ、プロデューサーさん」  
「ん?」  
 今度はMEIKOが聞いてきた。  
「プロデューサーさんはこの近くに住んでるんでしょ?」  
「ああ」  
 僕は会社近くのマンションを買って住むようにした。KAITOとMEIKOは会社内の宿泊室に一緒に寝ている。  
「今夜は泊まっていい?」  
「いいよ」と、僕はあっさり返事。  
「KAITOも?」  
「いや」  
とKAITOは断り、その日は僕の部屋にMEIKOだけが泊まっていく。  
 
「殺風景ね」  
「まだ引っ越したばかりだからな」  
「ふーん」  
 ぺたっ床に座り込むMEIKO。じっーと僕を見上げ、  
「ねえ」  
「何?」  
「脱いで」  
 いきなり何!?  
「……なんで、そんなこと言うのかな?」  
 僕はズボンをしっかり握って言う。  
「KAITOがね、朝になると時々股間が膨らんでるのよ」  
 はー。ボーカロイドにも朝立ちはあるのか。メモメモ。  
「それで、私もなんだか体が火照っちゃうのよね」  
 そういう機能も付いてるのか。メモメモ。  
「男の人の股間に付いてる物ってちんこと呼ぶんでしょう?」  
 呼ぶ。呼ぶがそんなにはっきり言うな。  
「だから」  
 MEIKOが僕の股間を指差して、  
「プロデューサーさんのここはどうなってるのかなーと思って」  
 それで泊まりに来たのか!  
「い、いや、ほら……その……」  
 僕は内股になって股間を守りながら、  
「僕、まだしたことないし」  
「何を?」  
 うっ、そこから説明しないといかんか。  
「あー、MEIKO。人間がどうやって子供をつくるか知ってるか?」  
「知ってるわよ、交尾してでしょ」  
 知ってるなら話は早い。  
「僕に子供はいない。分かるな?」  
「あー」  
 MEIKOはぽんと手を打って、  
「つまりまだ童貞なんだ」  
 なんでそんな言葉は知ってるぅー!  
「大丈夫、大丈夫。私、優しくするから」  
「いや、そういう問題じゃない」  
 
 四つんばいで近付いてきたMEIKOが「えい」とズボンのベルトを掴んできた。  
「いやー。やめてー。僕、童貞なんだから」  
 3才の幼女の裸体をぺろぺろ舐めたり、ちんこを股に挟ませたりはしたが、  
まんこに突っ込んだことはないからまだ童貞。そしてこれからも守る。  
「だーめ、私だって初めてなんだから」  
「だったらKAITOとすればいいだろー」  
 そうだよ、MEIKOにはKAITOがいるじゃないか。  
「うーん。だってKAITOったら、裸になると照れて逃げちゃうし」  
 KAITOも童貞だからな。仕方ない。  
「あーあ。最初は裸で一緒に寝てたのに」  
 子供が無邪気に触れ合うようなものか。そして思春期を迎えて恥ずかしくなる。  
「じゃあ、プロデューサーさんが教えてよ。交尾」  
 何でそうなるかな。  
「いや、僕童貞ですから」  
「一緒に勉強すればいいじゃない」  
「いーやーあー」  
 やおら立ち上がったMEIKOが、腰を屈める僕の頭に手を回し、自分の胸に押し付けた。  
 
 むにっ  
 
 柔らかい感触にサーと血の気が引く。  
「きゃー」  
 なんでこんなに胸が大きいの? 次のボーカロイドは絶対小乳にしてもらうんだから。  
「助けてレンタヒーロー」  
 涙でぐしゃぐしゃになった僕の顔を豊かな乳房で挟み、MEIKOはぷるるんと振動を伝えてきた。  
「ぎゃーす」  
 
 もう。駄目。ばたん。  
 
「うーん」  
 気が付くと、目に飛び込む眩しい陽光。ああ、もう朝か。  
 よっと身を起こして僕は気付いた。手に触れるむにっとした感触。見ると、MEIKOが同じベッドで寝てた。裸で。  
「きゃー!」  
「うん……?」  
 僕の悲鳴で目を開け、MEIKOは目をこすって、  
「あ、プロデューサーさんおはよう」  
「おはよう」  
 反射的に返事してから気が付いた。僕も裸ということに。ちんちんがぷらぷらと揺れている。  
「ふふっ。プロデューサーさんたら、すぐに寝ちゃうんだもん。つまらなかった」  
「な、何したの? というか、どこまでした!?」  
「ふふっ」  
 ぺろっと指を舐め、MEIKOは立ち上がる。その豊満な肢体から僕は咄嗟に目を逸らした。  
「シャワー借りるわね」  
「いや、その前に。僕の貞操は? ねえ、貞操はどうなったの? 答えてよMEIKO!」  
 結局MEIKOはあれから何したか教えてくれなかった。  
 しょぼーん。僕まだ童貞なのに。  
 
 食パンとサラダで朝食を採り、その日も会社に出勤する僕とMEIKO。  
「あ、プロデューサー」  
 スタジオで先に待っていたKAITOが声をかける。うう、胸が痛い。  
「おっはよー、KAITO」  
 MEIKOは上機嫌でKAITOと手を打ち合わせる。最初の人形のようだった頃が嘘みたいだ。  
いつの間にここまで人間らしくなったのだろう。KAITOよりも成長が早い気がする。  
人間もそうだが女のほうが成長は早い。  
 今日はあの少女は休みとのこと。昨日あれだけ血を吐いたのだから仕方ない。  
「あーあ。あの子いないとつまんない」  
 椅子に座り込んでMEIKOが言う。ちなみにKAITOとMEIKOにはあの子が二十歳まで生きられないことは伝えていない。  
あまりに重いからだ。僕でさえ時々泣きたくなる。  
「KAITO」  
「何か?」  
 ぽろろんとどこからか持ってきたギターを奏でるKAITOにMEIKOが、  
「ね、交尾しようか」  
「ぐはっ」  
 KAITOに代わって僕が咳き込む。なんでやねん。  
「交尾?」  
 KAITOは首を傾げ、  
「それは動物が子供をつくる行為か?」  
「うん、そう」  
「MEIKOは俺の子を産むのか?」  
「そうなったらいいなーと。それに」  
 椅子から立ち上がったMEIKOがすっとKAITOの頬を撫で、  
「交尾ってとても気持ちいいの」  
「ふむ」  
 KAITOはギターを置くと僕に向き直り、  
「プロデューサー、MEIKOと交尾してもいいか?」  
 なんで僕に聞く。  
「好きにしろ」  
「了解」  
 KAITOも立ち上がり、やおらズボンに手をかけた。  
「慌てないで」それをMEIKOが止める。  
「交尾は裸でするものだ」  
「んっ」  
 それ以上は何も言わず、KAITOの背中に手を回し、つま先を上げてMEIKOの唇が触れた。  
彼の口に。  
 目を閉じたMEIKOに、KAITOはずっと目を開けたまま口を重ねる彼女を見下ろす。  
「これがキス」  
 口を離し、MEIKOが微笑を浮かべて言う。  
「キスするときは目を閉じてするものよ。気持ちよかった?」  
 KAITO,自分の口に手を当て、  
「よく……分からない」  
 僕も自分の口に手を当て考える。MEIKOにキスはされなかったかと。  
「じゃあ、もう一度」  
 顔を上げ、瞳を閉じるMEIKO。  
「ゆっくりとキスして。ゆっくりとよ」  
「了解」  
 言われたように、ゆっくりとKAITOは顔を寄せる。どことなく緊張しているように見えた。  
 ちゅっ。唇が重なり、KAITOもMEIKOの背中に手を回す。  
 
 ぎゅっと抱きしめられ、口を重ねるMEIKOの頬が紅くなった。二人はそのまま抱き合ったままキスを続ける。  
ただ口を合わせるだけのキス。シンプルだからこそ熱い。  
 
 そして三時間が経過した。  
 
「ぷはー」  
 口を離すと、どちらからも深い息が漏れた。さすがボーカロイド、息が長い。  
僕なんか三回もトイレに行ってたよ。  
「ふふっ」  
 嬉しそうに笑みを向けるMEIKO。KAITOも照れたように笑みを返す。  
 へー。あの二人はこんな風に笑うんだ。  
「ほら」  
とKATOの手を取り、自分の胸に当てるMEIKO。むにっとKAITOの手が豊かなのめりこむ。  
「すっごくドキドキしてるでしょ」  
「ああ。心拍数が平常よりも高い」  
「KAITOも」  
 彼の大きな胸板に耳を当て、じっと聞き入る。  
「ほら。すっごくドキドキしてる」  
「MEIKOとこうしていると心拍数が上がる。俺は壊れたのか?」  
「そんなわけないでしょう」  
 上を見上げクスクスとMEIKOは笑った。  
「あなたは正常よ。だからドキドキするの。OK?」  
「よく分からない」  
 頭を振るKAITO。  
「KAITO。服を脱いで」  
「さっきは止めた」  
 三時間もキスしといてさっきか。  
「ムードを高めてから脱ぐものよ」  
「今はムードが高まった?」  
「そう。だから脱ぐの。ほら」  
 あっけらかんとMEIKOが自分のスカートを脱ぎ去った。素足が奇麗。  
「了解」  
 KAITOもてきぱきと衣服を脱ぎ、丁寧に畳んでいく。  
「あっ」  
 そうして晒された股間をMEIKOは指さした。  
「KAITOったら。もうこんなにして」  
 そこはもうビンビンに勃起し天を向いている。むう、見事なイチモツ。  
「なぜかこうなった。機能は正常に作動しているのに」  
「いいのよ、それで」  
 そしてMEIKOはくるっと一回転する。裸で。  
「ねえKAITO。私、キレイ?」  
「ああ。キレイだ」  
「ふふっ」  
 嬉しそうに手を合わせるMEIKO。  
「ねえ。もっと言ってよ」  
「キレイなMEIKO」  
「KAITOは私のこと好き?」  
「好き」  
「そう。私もよ」  
 裸でぎゅっと飛びつき、またキス。今度はすぐに離した。  
「俺はMEIKOが好き」  
「私はKAITOが好き」  
 好き。それはとても神聖な言葉で。  
 ところで僕はずっと除け者。  
 
「ふふ。KAITOのすっごく固くなってる」  
 肌を重ね抱き合う二人。KAITOのペニスはMEIKOのお腹に突き刺さってるように触れている。  
MEIKOはいったん身を離し、立ったまま股を開いて見せた。  
「ほら。あなたのそれが、ここに入るのよ」  
 薄い陰毛が覆っている肉の裂け目。そこに指を二本添え、MEIKOは見せ付ける。  
「入れたい?」  
「うん。入れたい」  
 その言葉どおり、ペニスがビンビンに揺れていた。今にも襲い掛かりそうに手を向けて前かがみになる。  
「慌てないで」  
 その手を取って、MEIKOは再び胸に導いた。今度は素肌の乳房にむにっと指が埋め込まれる。  
「入れるのは……後で。ああぁん」  
 不意にMEIKOが身震いした。KAITOの手が乳房を揉んだから。ぐにっと潰されるMEIKOの豊乳。  
「だめっ……。もっと優しく」  
「ああ」  
 すぐにKAITOの手が開き、ゆっくりと揉んでいく。  
「んっ……。そう、そうよ。ゆっくり」  
 MEIKOの瞳が潤み、手の動きに合わせて揺れた。  
「はぁ。あぁ……」  
 KAITOの手が乳房を揉むたびに切ない吐息が漏れ、脚がガクガクと揺れる。  
「きゃっ」  
 そしてとうとう崩れ落ち、MEIKOは床の上に尻餅を付いた。  
「あ。ああ……」  
 見上げると、そこにはKAITOの大きなペニス。そしてギラギラ輝くKAITOの目。  
彼はすっかり雄の本能に目覚めていた。  
「MEIKO……。俺もう」  
 大きく膨らむペニスを近付け、KAITOも腰を降ろす。MEIKOの脚の間を狙って。  
「え、ええ」  
 MEIKOは自分から脚を開き、彼を受け入れた。  
「ゆっくり……ゆっくりとよ」  
 MEIKOの紅い頬に汗が流れる。そして秘所はもうしっとりと濡れていた。  
 床で脚を広げるMEIKOに、KAITOも腰を落としながら、ゆっくりゆっくりと近付いていく。  
天を向く勃起を手で支え、照準を付けながらゆっくりと。  
「あ、ああっ」  
 先端が入り口に触れた瞬間、MEIKOの体が大きく跳ねた。そこにグッとKAITOが身を寄せ、二人の身が結ばれる。  
「くっ」  
「はぐぅ!」  
 小さな呻き声。一気にMEIKOを貫いたKAITOはペニスを支えていた手を背中に回し、床に引きずり倒した。  
 
「アアー!」  
 
 MEIKOの背中が冷たい床に触れ、その上に覆いかぶさるKAITOはただ無我夢中で腰を振り、突き動かす。  
「ああっ。がっ、あっ! そんな……激しい、よぉ……」  
 二人はただ肉の塊りとなって床の上で跳ね回る。  
「くっ。ううっ」  
 KAITOは汗を飛ばしながら、はじめての快楽に翻弄されていた。  
 
「ああっ。があぁ……。ひぐうぅ」  
 ガンガンと腰を叩きつけられ、ただ彼の下で悶えながら、MEIKOは口から涎を流していた。  
長い脚が自然に上を向き、腰の動きに合わせてゆらゆらと揺れる。  
「あああっ。はあっ……。ああっ! アッ! アアアーッ!!!」  
 やがて二人のリズムが合い、MEIKOの嬌声にもどんどんと甘くなる。  
結合部からじゅっじゅっと肉がこすれる音が響き、汁が漏れ出ていた。  
「ああっ。はああっ」  
 汗で濡れた顔を左右に振り、ショートヘアを振り乱すMEIKO。KAITOはただ体の下の彼女を抱きしめ、腰を振るだけ。  
KAITOの顔からこぼれる汗がMEIKOに落ち、そして流れていった。  
「アアッ。んふうぅ。ぐううぅ」  
 獣のような声を上げ、MEIKOの手がKAITOの背中に伸びる。そして爪を立てた。  
「はっ。はぁ。はっ」  
 爪を立てられた背中から血が流れる。だがKAITOは全く気付かず、腰を打ち続けた。  
「があっ! あああがああぁ! がうううぅ!!!」  
 結ばれた腰が二度三度と大きく跳ね、MEIKOの上を向く足がKAITOの腰に絡みつく。  
そしてMEIKOは全身でKAITOにしがみついた。  
 
「アアァ……アグウウウウウウゥゥゥ!!!」  
 
 同時、KAITOの腰の動きも止まり、どくっと結合部から白い汁がこぼれる。  
ボーカロイドのそれが精液かは知らないが、二人同時に達して、放ったらしい。  
「ハァ。ハァハァ」  
「ああ。あぁ」  
 抱き合いながら床に重なるように脱力する二人。  
 息が整うと、どちらからともなく口を重ねた。  
「ね、ねえ。気持ちよかった?」  
「ああ……。どこか故障したかと思った」  
「もう」  
 上に覆いかぶさったままのKAITOをきゅっと抱きしめる。  
「ごめんね。背中」  
 KAITOの背中は爪を立てられ、傷跡から血が滲んでいた。  
「いいさ。すっごく気持ちよかったから」  
 本当に想像も付かないほど気持ちよかったのだろう。KAITOの表情はこれまでになくさっぱりしている。  
 そして。  
「MEIKOの中……とってもあったかいよ」  
「やだ」  
 KAITOのペニスはまだMEIKOのお腹の中。  
「まだ……したい?」  
「何度でも」  
「じゃあ、して」  
「了解」  
 ニッと笑うKAITO。なんだか表情が豊かになった。経験したからだろうか。  
 繋がったままの二人が、再び揺り動く。若いっていいね。  
「プロデューサーさんも」  
 KAITOに抱かれながら、MEIKOが僕を呼ぶ。  
「いや。僕童貞だからいいよ」  
 丁寧に辞退して僕は立ち上がった。後は二人で勝手にしろ。  
 スタジオを出ながら、僕は自分のペニスが勃起しているのに気付いた。あんなのを見せ付けられたら仕方ない。  
 今日は近所の幼稚園で抜いてくるか。  
 
 翌日。  
「おはようございます」  
 出勤した僕にあの少女が挨拶してきた。  
「おはよう。もういいの?」  
「はい。おかげさまで」  
「そう。良かった」  
 僕と少女は二人して練習用のスタジオに向かう。昨日KAITOとMEIKOが交尾した場所。  
 扉を開けて、  
 
「アアアアーッ!!」  
 
 僕も少女も硬直した。  
 KAITOとMEIKOが裸で交わり、甲高く喘いでいる。  
 まさか……昨日からずっとか? 二人とも汗びっしょり。  
「あああんっ。KAITO,KAITIOー!」  
「MEIKO! MEIKO!」  
 がんがんと腰がぶつかり、肉と肉がぶつかるパンパンという音が響いている。  
 二人とも交尾に夢中でこっちには全く気が付いていない。  
「ぐはっ(吐血)」  
 ああっ、少女が血を吐いた!  
「やめー! KAITOもMEIKOもやめー! ああっ、こんなに血が出て……救急車ー!」  
 
 ぴーぽー、ぴーぽー  
 
 少女は病院に運ばれ、入院となった。刺激が強すぎたらしい。  
 
 そしてクリスマス当日。少女はまだ入院中。教会ではKAITOとMEIKOだけで歌うことになった。  
「分かってるなお前ら」  
 僕の言葉に二人はしっかりと頷く。  
「分かってるさ」  
「ああ」  
 KAITOとMEIKOが顔を見合わせ、しっかりと頷く。  
「ここで歌わなかったら、ボーカロイド失格だろ」力強くKAITO。  
「子供たちが待ってるからね」暖かくMEIKO。  
 あの日以来、二人とも感情豊かになった気がする。いやそれは確かな変化だったのだろう。  
 愛を知ってボーカロイドは人に近付いたのかもしれない。  
「よし。行くぞ」  
 ばーんと教会の扉を開くと、  
「サンタさんだー!」  
「わーい。サンタさんだー」  
 くそっ。なんで僕がサンタクロースの役を。  
 まとわりつく子供たちにプレゼントを渡し、幼女のお尻を触り、その間にKAITOとMEIKOが臨時のステージに立った。  
「はーい。みんなー」  
 手を振るMEIKOの後ろで、KAITOがギターを構える。  
「今日は、お兄さんとお姉さんの歌を聞いてください」  
 そして教会はボーカロイドの歌に包まれる。  
 これが世界で最初のKAITOとMEIKOのライブ。  
 
 こんこん  
 
 小さなノックをして僕は部屋に入った。  
 
「メリークリスマス」  
「あっ。サンタさん」  
 ベッドから身を起こした少女がくすっと笑う。  
「どうしたんですか? もう面会時間は過ぎましたよ」  
「うん。だからこっそり入った」  
 僕に続いてKAITOとMEIKOも入ってくる。  
 夜の病院。教会からまっすぐ僕たちは、少女が入院するここまで来た。  
クリスマスプレゼントを渡すために。  
「教会は大成功だったよ」  
 MEIKOがVサインし、KAITOもぐっと親指を立てる。  
「よかった……。ありがとうございます」  
「礼をいうのはこっちだよ」  
 KAITOとMEIKOに「歌」を教えてくれて。  
 だからここに来た。もらったもののお礼をこめて。  
「ねえ。ちょっとぐらい歌ってもいい?」  
「え?」  
 MEIKOの言葉に目をぱちくりする少女。  
「ほら」  
 KAITOがカーテンを開けると、月が燦然と輝いていた。  
「クリスマスプレゼント」  
 にっと笑い、MEIKOがウインクする。  
「はい。ぜひ」  
 はにかむ少女。  
 そして。  
 ボーカロイドの歌声が小さな病室に満ちていく。  
 
 
    Dashing through the snow,  
     In a one horse Open sleigh,  
 
    O`er the fields We go,  
     Laughing all the way; Bell's on the bobtail ring,  
 
     Making spirits bright; What fun it to ride and sing a sleighing song tonight  
 
     Lingli, bells! Jingle,bells! Jingle all tha way!  
     Oh, what fun it is to ride, In a One horse open sleigh!  
 
     Lingli, bells! Jingle,bells! Jingle all tha way!  
     Oh, what fun it is to ride, In a One horse open sleigh!  
 
 
 
 
「わあ」  
 歌を聞きながら、少女は瞳を閉じ−  
 そして静かに眠っていった。  
 
 これは初音ミクが誕生する前のお話。  
 
(おしまい)  
 

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