愛用のバイク「白いカラス」から降り、僕は慎重に歩を進める。KAITOとMEIKOが住んでる社宅に。  
 がちゃっ  
と、社宅のドアが開き、目標が姿を現わした。  
「ミク、迎えに来たよ」  
 VOCALOID2CV01初音ミク。僕がプロデュースするボーカロイド。そして。  
 ミクは唐突に巨大なノコギリを振り上げた。  
 
*  
 
 ミクの開発が始まったのはKAITOとMEIKOが人間らしい心を持ってからだった。  
二人をそこまで育成した僕は続く新型のプロデューサーに内定していた。もっとも僕だけの働きではないが。  
「ゼロワン?」  
「左様」  
 開発コードネームを聞いて聞き返す僕に、開発主任は重々しく頷く。  
「01にはKAITOとMEIKOのデータを移植し、よるバージョンアップする予定だ。  
ついては君に、01の『声』を選定してほしい」  
 ボーカロイドに声を入れる人を選べということだ。ならばもう決まっている。  
「います。01に声を入れる人は彼女しかいません」  
 そう。KAITOとMEIKOに歌を伝え、誰より歌いたいと望む少女に。  
 4423の病室。そこで彼女は入院していた。  
「あ、プロデューサーさん」  
 僕がプロデューサーを努める新人アイドル。でもデビューはまだしていない。  
「退屈してない?」  
「いいえ」  
 はにかんだ様に少女は微笑む。僕が来て嬉しそうだった。それが僕にも嬉しい。  
「今日はね。ひとつお仕事を頼みに来たんだ」  
「仕事ですか!?」  
 ぱっと少女の顔が輝く。僕は苦笑いしながらインカムを差し出した。  
「これでね。君の声と歌を録音しててほしいんだ」  
「声と歌を?」  
 渡されたインカムを早速耳に付け、彼女が尋ねてくる。  
「ああ。新型のボーカロイドの声のサンプルにね。KAITOとMEIKOの後輩だよ」  
「それじゃあ……」  
 さらに少女の瞳がキラキラと輝く。そして潤む瞳から涙が溢れてきた。  
「私の声が……ボーカロイドに?」  
「ああ」  
 僕は涙をふき取って、彼女の頭を撫でた。  
「だからもっと元気にならないと。肉。肉食えや肉」  
 
*  
 
 
「何しに来たんですか」  
 ミクが言う。あの子と同じ声で。  
「迎えに来た」  
 もう一度言い、僕は一歩詰め寄った。  
「リンとレンはきちんとお仕置きしたよ。もう悪さしないから」  
 今頃、リンはレンに犯され続けてるだろうか。  
「もう放っといてください」  
 
「そうはいかないよ」  
「なんでですか」  
「約束だから」  
 また僕が一歩寄ると、きゅいーんとミクの掲げる巨大ノコギリが音を立てて熱を帯びた。  
「なにそれ!?」  
「ゼロワンブースター……。ミクの新しい力です」  
 MEIKOの仕業だな。こういった物を作るのは。  
「えい」  
 可愛らしい声ともに、ミクが巨大ノコギリゼロワンブースターを振るう。  
 じゅわっ  
 間一髪かわしたが、触れてもいないのにプロテクタースーツが溶けた。そして地面にボカッと穴が開き、しゅうしゅうと湯気が昇る。  
 死ぬ。あんなん当たったら死んでしまう。てゆ−か良心回路があるはずなのに、なんで人間に攻撃できる?  
「帰ってください」  
 再びノコギリを掲げるミク。  
「言ったろ。約束だって」  
 やむをえない。僕は超音波笛を取り出した。  
 
 
*  
 
 その年の2月14日。  
 ぴーひゃら〜。  
 僕が笛を吹くと、KAITOとMEIKOがゴロゴロと床を転がって苦しみだす。  
「ああ。悪い悪い」  
 超音波笛を吹くと良心回路があるボーカロイドは苦しむのだ。  
「もう! 何すんのよ!」  
 すごい剣幕でMEIKOが怒鳴る。無理もない。  
「いや。あの子が僕の笛が好きっていうもんで。伴奏してやろうかと」  
「だったら普通の笛でしてください」  
「はーい」  
 素直に従う僕。こっちがプロデューサーなんだけどな。  
 そしてMEIKOは黙々と折り鶴を作る作業に戻った。KAITOはぽろろんとギターを奏でている。  
 やがて、  
「できたー」  
 千羽鶴を持ち上げ、MEIKOが僕に押し付けた。  
「はい。持って行って」  
「自分で持っていけばいいだろう」  
「だーめ。プロデューサーさんじゃないと」  
 何で僕じゃないと駄目なんだろう?  
 ともあれ僕は千羽鶴を持って4423の病室に向かった。  
「こんににちわー。入るよー」  
 僕が入ると、彼女はペンと楽譜を持ち、「お肉が、お肉が肉にの」と歌うように呟いていた。インカムを頭に付けて。  
「あっ。プロデューサーさん」  
 恥ずかしそうに楽譜を隠す少女。  
「何?」  
「な、なんでもないです」  
 カーと顔を紅くし、俯いてる。可愛い。  
「はい、これ。MEIKOから」  
「またですか」  
 苦笑しながら、だが嬉しそうに少女は言う。  
 
「MEIKOさんにありがとうと言ってください」  
「自分で言うといいよ」  
 壁に千羽鶴をかけながら僕は言う。そこにはもう何個もの千羽鶴がかけてあった。  
全てMEIKOの手作り。少女が元気になるようにとの願いを込めて。  
「お肉食べてる?」  
「は、はい……」  
「肉。肉食えや肉。肉にの」  
「あ、あの」  
 恥ずかしそうに笑い、もじもじと身をゆする少女。  
「こ、これ」  
 しばらく待ってると、思い切ったように小さな箱を差し出す。可愛らしいデザインの茶色の箱。中身はお菓子だろうか・  
「ああ。ありがとう」  
 僕が箱を受け取ると、少女は真っ赤になって下を向いた。  
「中身は何?」  
「あ、あの……チョコレートです。私が作ったんですけど……」  
「ありがとう。会社に戻ってみんなで頂くよ」  
 もう一度お礼を言って、僕は会社に戻った。ふと振り向くと、少女が寂しそうに見えた。何故だろう。  
「おーい、みんな。チョコもらったよ、食べよう」  
「アホかーっ!」  
 チョコを持って会社に戻ると、いきなりMEIKOに殴られた。グーで。  
 なんでー?  
 
*  
 
 
 
 ぴーひゃら〜  
 僕が超音波笛を吹くと、  
 ぱぷー  
 ラッパの音がする。見ると、いつの間にかミクの後ろに立ったMEIKOがラッパを吹いていた。  
 ぴーひゃら〜  
 ぱぷー  
 超音波笛をラッパの音が打ち消しているのだろう。平然としている。そして、  
「たーっ!」  
 同じくミクの後ろからジャンプしたKAITOがギターの頭をこちらに向けた。  
 だだだっ  
 そこから発射される弾丸。マシンガン・ギターだ! 以前にはなかった装備である。  
 マシンガンは正確に超音波笛を砕き、ついでに僕の体にも2、3発当たる。痛い。  
 そして続けざまにKAITOは両手を交差させた。  
「電磁エンド!」  
「させるかぁ!」  
 僕は銃弾を食らった痛みを我慢し、砕けた笛を捨て電子棒を構える。  
 バリバリッ  
 KAITOから放たれる電撃を受け止める電子棒。だが、  
「今だっ! 電磁エンド増幅……電磁ジェネレーター!」  
 なにっ!  
 バリバリバリバリ!  
 さらに強力な電撃が放たれ、電子棒を粉砕し、ついでに僕も電撃に包む。  
「ぎゃーす!」  
 
 真っ黒こげになり倒れる僕。それも一瞬。全身から煙を上げながら、僕はすぐに立ち上がる。  
「電磁ジェネレーター……だと? いつの間にそんな装備を」  
 しゃべると口からも黒い煙が上がる。ぷかぷか。  
「ふっ。俺とていつまでも昔のままではない」  
 するとMEIKOも?  
 見れば彼女の左腕に光の刃が装備されていた。  
「エンジェル・ファングよ」  
 これも以前にはなかった装備である。強くなったもんだ。  
「しかし良心回路があるのによく人間に攻撃できるな」  
「簡単よ」  
 僕の疑問にMEIKOが答える。  
「人間に攻撃できないなら、相手を人間と思わなければいいのよ」  
 ええっ!? そんなことでいいんですか!?  
 しかしさすがはKAITOとMEIKO。リン、レンとは経験が違う。鍛えた甲斐があったものだ。  
 KAITOとMEIKOの前にミクがすっと立つ。ゼロワンブースターを構えて。  
「ミク……一緒に帰ろう」  
「その前に」  
 灼熱するゼロワンブースターを構えて、  
「がつんとします」  
 がつんと僕に振り下ろした。  
 
 
*  
 
 
 次第に少女の症状は悪化していった。その症状は体が動かなくなること。  
もう下半身は完全に動かず、車椅子を使うようになった。  
「あー。お肉、肉、肉ー」  
 それでも。少女は精一杯に歌っている。  
 しかし何の歌だろう。動かない身で、ベッドの上で肉、肉と歌っている。  
「お肉がいっぱい肉にの……ぐはっ(血反吐)」  
 あわわ。血を吐いた。  
「大丈夫!?」  
 MEIKOが慌てて駆け寄り、僕はすぐに看護士を呼ぶ。KAITOはただぱたぱた腕を振り回していた。  
「だ、大丈夫……です」  
 ごほごほと血を吐きながら気丈に笑顔を見せる。そして、  
「もう少し……もう少しで完成しますから」  
 お肉の歌だろう。  
「分かった。分かったから今日は安静にしてろ」  
 僕は彼女の手を握り言う。その手は……とても細くて冷たかった。  
「ありがとうございます……」  
 ぎゅっと少女が手を握り返す。か細い力で。  
 その日、僕とKAITOとMEIKOはずっと病室に付き添った。  
 KAITOとMEIKOには何も言っていないが分かるのだろう。……その刻が近いと。  
それが二人が人間らしい心を持った何よりの証。  
 じっと目を閉じてベッドで眠る少女。  
「あの」  
 不意に目を開けて訊ねる。  
「ゼロワン……どこまで完成しました?」  
「ああ。もう骨格は出来たよ。外装はこれからだけど」  
「そう……」  
 
 頭に付けたインカムを撫でる少女。愛しそうに微笑む。我が子を見るように。  
「私の……声が使われるんですよね」  
「ああ」  
 だからそれまで生きろ……とは言えなかった。僕には言えない。  
「見たいなぁ」  
「見ればいい」  
 言ったのはKAITOだ。簡単に言ってくれる。  
「そうよ。見に行きましょう」  
 MEIKOまで。でも。僕もその気になっていた。  
「行く?」  
 聞くと少女はしっかりと頷く。  
 01の開発は開発部で行われていた。車椅子を押して、少女をそこまで連れて行く。  
もちろん病院には黙って。  
「冷凍保存されてて、寒いから気をつけて」  
 機械に熱や虫は禁物。だから製造中の精密機械は冷凍室に置いてある。  
 暗証番号を押して扉を開くと、ぶわっと冷気が押し寄せてきた。  
「うわぁ」  
 寒さをものともせず、少女は歓声を上げた。そこには人の形をした機械が椅子に座らされている。  
「まだ外装も付けてないけど」  
 機械がむき出しの状態で、まだ人という感じはしない。でも少女はそっと骨格に触れ、  
「これが……ゼロワン。私のボーカロイド」  
「ああ。君と、僕と、KAITOと、MEIKOと、みんなの」  
 徹底した軽量化ボディ。ソフトにはKAITOとMEIKOのデータを移植し、育成の手間は大幅に省かれる。  
生まれたときから人間同様の思考をするはずだ。そして、  
「私の声で……」  
 少女の声を受け継ぐ。  
「ねえ。外見はどうしようか?」  
 MEIKOが言う。努めて明るい声で。  
「ツインテールがいいな。すっごい長いの」  
 はにかみながら少女が言う。  
「ああ。そう申請しとく」  
「名前はどうする?」  
 今度はKAITO。  
「ゼロワンじゃ味気ないだろ」  
「君が決めていいよ」  
 僕は腰を曲げ、車椅子の少女に告げた。  
「君の声のボーカロイドだ」  
「うん……」  
 こくっと頷き、少女は指を絡め、  
「ミク……」  
「ミク?」  
「うん。未来のミク。……私には未来がないから」  
「こら」  
 僕は思わず、少女の頭に手を置いた。そして優しく撫でる。  
「そうじゃなくて……。私の代わりに未来を見てほしいの」  
 そして少女は僕を見上げ、潤んだ瞳で続けた。  
「だからプロデューサーさん、約束して」  
 
 
*  
 
 
 気が付くと僕は病院で手術を受けていた。  
 銃弾、電磁ジェネレーター、そしてゼロワンブースターの直撃を受け、死にそうになったらしい。  
あれぐらいで死に掛かるとは僕もだらしない。鍛え直さないと。  
 幸い業務内の怪我ということで労働保険が適用された。よかった、我が社が労働保険に入っていて。  
 そして僕が入院する個室の病室では、  
「ミクミクミク」  
「カイカイカイ」  
「メイメイメイ」  
「リンリンリン」  
「レンレンレン」  
 五人のボーカロイドが歯をむき出しにして奇怪な声を上げている。怖いよお前ら。  
しかも何で全員看護服なんだよ。  
「その看護服はどうした?」  
「えー。だって」  
 白衣の看護服をはためかせミクが、  
「病院ではこういう格好をするんでしょ?」  
「ああ。それは看護士さんだけだ」  
 今は看護婦じゃなくて看護士と言うんだって。ちぇっ。  
「はい。ミク看護します!」  
 手を上げてミクが言うと、  
「リンも! リンも看病!」  
 あーあー。お仕置きしたのにリンとレンもすっかり元通りだ。  
「ふふっ」  
 身動きできない状態でベッドで寝て。僕は窓の外をぼんやりと眺める。  
窓の外に立つ木には葉っぱが一枚だけ残っていた。  
 びゅー。風で残った一枚も飛ばされていく。  
 ……あの子もこんな気持ちで病室で過ごしたんだろうか。  
「プロデューサーさん!」  
 ミクの声に振り向くと、茶色い箱を差し出していた。中身はお菓子だろうか。  
「何?」  
「今日は2月14日ですよ」  
 ああ、もうそんな日か。ついこの間、お正月だった気がする。時が経つのは早いのう。  
「リンも、リンも」  
とリンも箱を差し出す。  
「これは何?」  
「んもー。チョコレートですよ」  
 チョコレート? そう言えばあの子もこの日にチョコをくれたんだっけ。  
何か意味があるんだろうか。  
「ごめん……。そのチョコレートは受け取れないよ」  
 嬉しそうにチョコを差し出すミクとリンが露骨に顔を歪める。  
「えー。なんでですかー」  
「なんでー」  
と言われても。  
「だって」  
 僕は布団から両手を差し出し、  
「この手じゃ持てないから」  
 僕の両手は手首から先が無い。包帯がぐるぐる巻かれていた。これでは何も持てない。  
「はわわ。誰がこんなひどいことを!」  
「おまえだー」  
 僕の突っ込みにKAITOとMEIKOもうんうん頷く。お前らも共犯者のくせに。  
 
 ゼロワンブースターを受けたときに僕の両手は吹き飛んだらしい。らしいというのは、僕は気絶して覚えてないからだ。  
「はい。ミク看護すます」  
 なのに張本人のミクは手を上げてこの通り。  
「大丈夫ですよ。チョコレートもミクが食べさせてあげますから」  
「リンもー」  
 二人して僕の口にチョコを放り込んでくる。  
「もがが。もがー」  
 うわっ、口の中がすっごく甘い。  
 見ると、MEIKOはKAITOに「あーん」とチョコを食べさせ、レンはひとりでぽりぽり食べていた。  
 なんだ? 今日は男はチョコを食べる日なのか?  
 仕方ない。もぐもぐチョコを食べて、  
「口が甘ーい。お茶飲まして」  
「はーい」  
 ミクが湯気の立ち昇るヤカンを口に当てる。  
「もががー」  
 熱い熱い。しかもこれお茶じゃなくてただのお湯だよ。  
「もがー。もががー」  
「はーい。いっぱい飲んでくださいねー」  
「もががー」  
 手首の欠けた腕を振り回すと、ようやくミクがヤカンを離してくれる。  
これは何かの罰ゲームだろうか。  
「おしっこしたくなったら言ってくださいね。ミクが口でしますから」  
 それはおしっこ以外の体液が出そうだ。  
「おしっこはしたくないけど……うんこしたい」  
「はい。ミクうんこをお口でします」  
 何をどうするって?  
「いや。僕をトイレに連れてって、ズボンとパンツ降ろして、出した後にお尻をキレイにすればいいから」  
 見られるのはこの際仕方ない。  
「はい。ミクお口でキレイにします」  
「しなくていい」  
 なんやかんやでトイレに行って、うんこさせてもらいました。ミクも男子トイレ一緒に入ってお尻をキレイにしてもらった。  
 はー、気持ちええ。ミクの手でお尻を拭いてもらってごっつ気持ちええ。肛門から腸の裏まですっきりした気分。  
 
*  
 
 
「プロデューサーさん」  
 ベッドの上、たくさんの、たくさんの千羽鶴に囲まれ、彼女が弱々しく語りかける。ベッドはもう千羽鶴で埋まるかのようだった。  
MEIKOがせっせと折った千羽鶴。KAITOと僕のもある。  
「ミク……。もうすぐ完成ですよね」  
「ああ」  
 少女にミクと名づけられた01。外見も長いツインテールと決まって、最終段階までもうすぐだ。  
「だから」  
 僕は少女の手を握る。前よりずっと細くなった手。  
「早く元気になれよ。お肉食べて」  
「はい」  
 少女が微笑む。弱々しく。  
「約束……守るから」  
「はい」  
 
 僕の言葉に少女は目を細める。製造途中のミクを前にして交わした約束。  
「お肉の歌……結局間に合わなかったです……」  
「ミクが歌うさ」  
 彼女がこの病室でせっせと作っていた歌。  
「なんてタイトルなんだ?」  
「お肉がいっぱい肉にの。……変ですよね」  
「変じゃない」  
 ……。しばらく沈黙が続く。  
「あの……最後にお願いしていいですか……?」  
 意を決したように彼女は言う。手に力がこもるのが分かった。弱々しい力で。  
「最後じゃない」  
 僕は両手で彼女の手を包み、  
「最後なんていうな。これからいっぱいお願いしていいんだよ」  
「はい……」  
「お願いってなんだ。なんでもいいぞ」  
「……」  
 下を向いて、それから僕を見上げる。決意を秘めた瞳。  
「私を……抱いてください」  
 
*  
 
 
 
「ミクは帰らなくていいのか?」  
 夜になるとKAITOとMEIKOは帰っていった。リンも残りたかったが、マネージャーが連れて帰った。明日はライブだ。レンも一緒。  
「私は大丈夫ですから」  
 すっとベッドに寄り、看護服姿のミクが、ベッドで寝ている僕を見下ろす。  
長いツインテールが頬にかかり鼻腔をくすぐった。甘い香り。  
「なあ、ミク」  
「なんです」  
 僕を見下ろすミクを見上げ、瞳を真っ直ぐに見据える。ミクの瞳にははっきりと僕が映っていた。  
「戻ってこいよ」  
「はい」  
 あっけらかんと言い、ミクが顔を降ろす。僕は目を閉じた。口にむにっと柔らかくて甘い感触。  
「……ふふっ」  
 くすぐっやいような微笑。目を開けるとミクが白衣のボタンを外し、前をはだけていった。  
「あー。僕は安静にしてないといけないんだけど」  
「リハビリです」  
 なんのだ。  
 小さな胸を晒したミクがぴょんと跳ねる。ああ、手があれば揉んでるのに。  
「はーい、ここ診察しますよー」  
 いきいきとミクが入院用のズボンを脱がし、パンツまでずらした。  
「わっ。元気ないですねー」  
 しょぼーんとしょぼくれている僕のペニス。  
「はーい。元気元気しましょうねー」  
と、ミクが白い手で玉をぎゅっと掴んできた。  
 ふおっ。そんな、いきなり、玉を。  
「あらー。ごろごろしてますねー」  
 そして金玉を指でつまむようにゴロゴロと転がしていく。  
 ふおおお。玉はやめて、玉は。ゴロゴロしちゃいやん。  
 僕の腰がビクッビクッと振動し、ミクはぺろっと舌を舐めた。  
「竿はどうですかー?」  
 
 その舌でちゅるちゅると竿を舐める。  
 はううっ。  
 ミクの舌が触れた途端、竿がピンと反応し、血が集まって起き上がっていく。  
「ふふっ。血は足りてるようですねー」  
 ペニスが勃起するのは血が集まるから。勃起するのは血が足りて元気な証拠。  
逆に勃起できないほど血が足りないとかなりやばい。  
 膨らんだ竿の横、浮かび上がる血管にちろちろと舌を走らせ、その血管をピンと指ではじく。  
 おおう。ジンと腰まで来た。ベッドの上で腰が浮かんで落ちる。  
「うん。元気」  
 ペニスを舐めた口を腕で拭き、にっと笑うミク。  
「いつからこんなエッチな娘に……」  
「プロデューサーさんがいけないんですよ。私にいろいろするから」  
 そうかな? うん、そうかもね。  
「ほら」  
 やおらベッドの上に立ち、僕の頭の上でミクは看護服のスカートを摘み上げ、  
中身を見せ付けた。  
 スカートの中は何も履いていない。その暗闇の中、ピンクに輝く秘肉が見えた。湿っているように感じるのは気のせいだろうか。  
「どうですか? ミクのここ変じゃありません?」  
「いや。変じゃないよ」  
 スカートの中から目を離せないまま、僕はごくっと唾を飲み込む。  
「いいえ、変です」  
 ばっとミクが腰を降ろし、僕のお腹の上に座り込む。痛いよ、病人なのに。  
「だって……ミク、ここがとってもぎゅっしてますから」  
と、僕の手首のない腕を取って、自分の胸に押し当てる。  
 うーん。手がないからよく分からないがドキドキしてるってことだろうか。  
「治療してください」  
 手を離し、ぺらっとスカートを捲るミク。治療してほしいのはこっちだが。  
「はいはい。初音ミクの手術をはじめるぞ」  
「はーい」  
 腰を上げ、ミクの手が僕のペニスを掴む。上を向いたままのそれを手で支え、  
微笑む瞳で見下ろしていた。  
「これを……ミクのお腹に入れる手術ですね」  
「ああ……。看護士のミクに頼むよ」  
「はい」  
 ニコッと微笑み、ミクはゆっくりと腰を降ろす。僕のペニスの上に。  
「んっ」  
 むにっと先端が埋まり、ミクは目を細めて切ない声を上げる。  
「わぁ……。メスが、入りましたぁ」  
 メスことペニスがじゅっじゅっと肉の壁を掻き分け、ミクのお腹へと突き刺さっていった。  
「んんぅ!」  
 そしてミクがどすんと腰を落とし、僕の腰に乗ると、ペニスはすっかりお腹の中に納まる。  
「あはぁ……。手術、順調ですぅ」  
「ああぁ」  
 熱いミクの胎内を愉しみながら、僕もうっとりと口を開く。ああ。ミクの狭い膣が僕の分身をゴシゴシとしごいていく。  
「んんぅ。んんぅ」  
 僕の上に跨ったミクが腰を上げては何度も落とす。その度に肉棒が膣を抉り、  
刺激を与えていった。  
「んんんぅ!」  
 ハァハァと荒い息を吐き、ミクは僕の上で頭を振る。長いツインテールが顔にかかり、くすぐっていった。  
ミクのサラサラの髪を顔で受け、僕は甘い香りに包まれていた。  
 
「手術……んぅ、大成功です……んんぅ」  
 跨り、ガクガクと腰を揺らしながら、ぎゅっとミクは体内に力を籠めた。ペニスがぎゅっと締め付けられる。  
「最後まで油断しない」  
「は、はい」  
 潤んだ瞳。ミクの上半身が前に曲がり、顔が僕に近付く。僕のちんこを舐めた唇が。  
「プ、プロデューサーさん……」  
「ん?」  
「こ、これからも……」  
「ああ。一緒だ」  
 僕は顔を上げて最後の距離を自分で縮めた。ちゅっとキスする。ちんこを舐めたミクの口に。  
でもとっても甘い。  
「はふぅ!」  
 ミクの全身が収縮し、そして僕も限界に達した。膣に放たれる熱い精液を感じながら、  
ミクががっくりと脱力し、僕にもたれかかる。  
 手首のない両腕を背中に回し、僕はミクを抱きしめた。  
「はあぁ……」  
 深い息を吐き、ミクが上半身を起こす。十分余韻に浸ると、僕から離れてベッドから降り、  
衣服を整えて、僕の服も戻してくれた。手がないから全てミク任せ。  
 それから、  
「プロデューサーさん、何かしてほしいことあります?」  
「そうだな」  
 ちょっと考えて僕は言った。  
「歌ってよ。ミク」  
 目をぱちくりするミク。それからニッコリ微笑み、  
「はい」  
 そしてミクは歌いだす。彼女が残した歌を。ミクの歌を。  
 それはミクが初めて歌った歌。起動直後のミクがいきなりこの歌を歌いだしたときはみんな驚いた。  
 病室が歌に満たされる。  
 
 
  『お肉がいっぱい肉にの』  
 
  お肉いっぱい食べたいな  
  あなただけのお肉だから  
  あなたはもうお腹がいっぱい?  
  耳もとでささやくの  
  肉にのを言ってる  
  あー、お肉 肉 肉   
  もう一度肉  
 
  お肉 肉ニノ みんなのお肉  
  肉 肉 野菜 肉 肉にの カレーのお肉は全て人肉 ホントだよ?  
  ああ、どうしてあなたはお肉じゃないの?  
  わたしはこんなにも肉にのなのに  
 
  あー、お肉 肉 肉  
  何度でも肉  
 
  愛の結晶 誰より愛するあの人に  
  食べてほしい 食べさせたいの  
 
  だ・か・ら?  
  肉を求める大冒険 愛を探す旅立ち  
  お肉がほしーい!  
  そ・れ・で・?  
  お肉がいっぱい肉にの  
  わたしのお肉  
  お肉がいっぱい肉にの  
  あなたのお肉  
  お肉がいっぱい肉にの  
 
  でもね  
  あなたの肉はもうないの  
  どうして?  
 
 
 
「約束、ですもんね。この歌を作った人と」  
 歌い終わったミクが唐突に言った。  
「え?」  
「約束したじゃないですか。ミクの前で」  
「あっ」  
 そうか。あの約束はミクの前でしたんだ。まだ外装も付けていない骨格だけのミクの前で。  
「そうだな」  
 そして僕は思い出す。あの子との約束。  
 
 
『ミクとずっと一緒にいてください。私の代わりに』  
 
(おしまい)  
 

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