「さて。世の中は皆既日食・天体ショーと大変賑やかですが――僕は先日、虹を見ました」  
「トレンドに対抗するのはマスターの反骨精神ですね。昔の学生みたい」  
「ミクさん、皮肉か侮辱かよく分からないのはやめましょう」  
「それで?」  
「これが二重の虹でした。幻想的で実に美しかった」  
「地震でも起きるんじゃないですか?」  
「そして視界一面に橋を架けるように――そんなに綺麗に見られたのも、何年ぶりかの出来事でした」  
「だからって今日の歌を虹関連にしなくたって……ぶつぶつ」  
「ミクさん今日は不機嫌ですね」  
「どうせこれから行ったかどうかも定かでないホノルルで見た虹の話、が始まるんでしょ?」  
「いいえ。ただ、ハワイの虹もとても印象に残っています」  
「…マスターは最近、独り善がりな傾向が強いです。もっと頑張りましょう――っと」  
「通知表を付けられているとは知りませんでした。すいません」  
「オンエア中に頭下げないで下さいよ」  
「…えー、皆さんも日食のような特別な時でなくとも、たまに空を見てみては如何でしょうか。何か新たな発見があるかもしれません」  
「……」  
「ではそんなむすっとしたミクさんが、歌ってくれた本日の一曲です。お届けしましょう、ピロウズでハイブリッドレインボー」  
 
「メール頂きました。長崎県のフラッシュカイトさんから――楽しく聴かせてもらっています。ミクさん、どうしちゃったんですか? 高橋さんも妙にらしくないというか」  
「……」  
「お二人の仲の良いトークが好きです。早く仲直りして下さいね。応援しています――ありがとうございました」  
「…続いて、福岡県グミの木さん――こらー高橋ぃ(笑)! ミクさん怒ってるでしょ? 胸に手を当ててよく考えなさい、そして謝りましょう」  
「どうもご迷惑かけて、すいません」  
「ミクさんも、険悪ムードは似合わないと思います。程々で許してあげてね(はぁと)――ありがとうございました」  
「…」  
「……」  
「はい、ではこれから二時の時報です。ニュースと天気予報を挟んで、十五分後にまたお耳にかかりましょう」  
 
「ミクさん」  
「……」  
「ミクさん?」  
「…余所余所しいです。まるで仕事の道具みたい」  
「……!」  
「――ごめんなさい。いらいらして、放送中なのに当り散らして」  
「…明日の放送、サボるか」  
「ダメですよ、何言ってるんですか!」  
「最近、プライベートのミクさん――いや、ミクのこと、少しも考えてやれていなかった。自分だけ、ラジオの為に曲を選んだり話題を探したり――」  
「……」  
「だから、また見られるかは分からないけど、明日は二人で虹を探しに行こう。デジカメで見るよりも、ずっと良い」  
「気にしないで下さい。単なる反抗期です」  
「気にするよ。僕は最近忙しいミクを、なるべく休ませてあげたかった。自由な時間を、なるべく多く――と」  
「……」  
「でも勘違いしていた。僕はミクのマスター。一緒にいてやれなくて、何がマスター」  
「もう良いです。ちょっと、寂しかっただけです。前はもっと――でも、今は今……って、あっ…!?」  
「…ミク、ごめんね。今は、こうしてやることしか、出来ないけど」  
「マスター……はい」  
 
 

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