クイズ夏オネア開催。
huke氏が、リビングでソファに腰掛けてファッション誌を読んでたブラックロックシューターの隣りに突如どっかりと座り込み、
重々しい口調で問題文を滔々と韻いんと読み上げた。
「この夏、ブラックロックシューターがどうしても体験したい夏イベントを次のうちから一つ選びなさい。
A、花火大会。B、夏祭り。C、初体験。D、夏コミ」
「えぇ?うーん、選べって言われても困っちゃうなぁ」
「分かりました、フィフティフィフティですね」
「なにそれ?」
「夏休みは有限であります姫様。ふたつ消えて、残るは二択。
A、花火大会。B、夏祭り。さぁどっち?!」
残念ながら初体験は選択肢から消えてしまった。
ブラック★ロックシューターは部屋着に着てたTワンピの裾を引っ張って正しながら、
むー、と唸って部屋の天井に目を細めてから答えた。
「うーんと、お祭り、かなぁ……花火って煙たいし、煙たいのはキャノンで飽き飽きしてるし」
「銃キャラだから火薬に厭きるのは仕方ないわな。じゃあ夏祭りでファイナルアンサー?!」
ブラックロックシューターはこくりと小首を傾げる。
「ふぁいなるあんさぁ、ってなに?」
「……みのもんたが以下略。知らないならあえて知る必要もない」
「ええ〜?なんか気になるよぅ」
ブラックロックシューターの質疑に応答もせずhuke氏は黙ってリビングを出て行く。
「ますたぁ?なんか怒ってる?わたしがふぁいなるあんさぁ知らなかったから?ごめんなさい」
「そんな事で怒るか。俺はどんだけみのもんたフリークなんだ」
戻って来たhuke氏の手には何やらピンク色の布製構造物。
「祭りに行くときコレ着てけよ」と言いながらパッと広げたそれは、沢山の花が描かれた浴衣だった。
ブラック(ryは「わぁ」と歓声を上げた。
「かわいい浴衣!マスターが選んだの?ありがと!大好き!」
ブラックロックシューターは、ぎゅっ、とhuke氏に抱き付く。
huke氏は嬉しそうなブラック(ryの頭をぐりぐりと撫でくり回し、
「やめろー、髪型くずれるー」とか言いながらなおも嬉しそうなブラックロックシューターに和むのだった。
「ますたぁ、どこいっちゃったの……」
例によってブラックロックシューターは夏祭りで迷子になっていた。
夜の神社って、祭りの賑わいから少しでも離れると、暗くて怖かったりするものである。
境内の裏っ側の電灯も付いてないような暗いとこでブラック(ryはさまよっていた。
なぜそんなひと気のないところまで入り込んでしまったのか?
「おしっこもれちゃう……」
自分の状況を確認するように呟き、浴衣の下でもじもじとヒザを擦り合わせる。
ブラック(ryはトイレを探しているのだった。
海でかき氷を食えなかった事へのリベンジとばかりに、かき氷を食った。
口の中が甘ったるくなったからお茶を飲んだ。
イチゴ飴(リンゴ飴のイチゴバージョン)を食った。みっつ。
口の中が甘ったるくなったからお茶を飲んだ。
焼きそばを食った。
口の中が油っこくなったからお茶を飲んだ。
huke氏がかっ食らっていたビールを少し飲ませてもらった。
苦かったからお茶を飲んだ。
ビールがとどめをさしたのか、今やブラック★ロックシューターの膀胱は臨界水位に達していた。
トイレを探しているうちにhuke氏とはぐれ、huke氏もトイレも見つからず。
(……もういいや。そのへんでしちゃお)
境内の松林に歩み入る。
ブラック(ryは事理弁識を一時的に欠いていた。
トイレの場所くらい誰かに聞けばすぐ分かるのに、そのことに考えが及ばなかった。
多分にビールのアルコールがブラックロックシューターの理性を吹っ飛ばしていた。
わざわざ土が柔らかくて水捌けが良さそうな部分を探り、ブラックロックシューターはしゃがみ込む。
パンツを脱ごうとして、
──ガサッ
突然の物音にブラック★ロックシューターは、びくっ、と全身で驚き、慌ててパンツを上げた。
巣穴周辺を見守る監視役のプレーリードッグみたいに、きょろきょろと辺りを見回す。
遠くに祭りの囃しが聞こえ、あたりは真っ暗。
排尿戦線異常無し。
ブラックロックシューターはしばらく辺りを警戒し、改めて木陰にしゃがみ込んだ。
パンツを降ろしていては散布後の領域離脱に余分な時間が掛かる。
(パンツ穿いたままおしっこなんてしたことないよ……)とか考えながら、
ブラック(ryは右手で浴衣の裾を吊り上げ、左手でパンツの秘部を覆う布をずらした。
チョロチョロチョロチョロじょろじょろじょじょー……。
と、水音を響かせるはずの奔流が、ちっとも出てこない。
さっきまであんなにしたかったのに、全然出てこない。
というか今だってブラック★ロックシューターの膀胱はぱんぱんで、開放して楽になりたい気分満天なのだが、
ビールの酔いが醒めてきたせいで急に羞恥心がむっくりと起き出してきて、
どうも下腹にうまく力が入らないのだった。
とはいえこのまま迷っていてはお尻丸出しの露出プレイが永続するばかりである。
「神様ごめんなさい。えと、なむあみだぶつなむあみだぶつ……?」
御社の方にとんちんかんな謝罪を述べて、ブラック★ロックシューターついにおしっこを。
「めえぇ〜」
出来なかった。
草むらから、羊(もしくは山羊)の鳴き声を出す生首が飛び出してきたのだ。
「っ、〜!?〇×Ω△τっ??!!」
ブラック★ロックシューターは言葉にならないほど驚いて尻餅をつき、
下着が汚れるのを気にする余裕もなく後ずさった。
──どんっ
後ずさった所で何かに行き当たった。
それは木にしては温かく、しかも柔らかく、ブラックロックシューターは絶対に振り向いてはいけない気がした。
しかし抗いがたい衝動につき動かされ、恐怖に奥歯をカチカチ鳴しながら、
ブラックロックシューターは軋むように振り返った。
「それ、私のものなの。返してくれる?」
振り返ると、草むらから転がり出た生首そっくりの女が、
上から覗き込むようにブラック(ryを見つめていた。
じょわじょわわー。
ブラック★ロックシューターは失禁し、ふっつりと意識を失った。
「ふぅ……困ったわ。家で飼えないから神社の軒下で飼っていたのに、
図らずして少女を失禁に追い込んでしまうとは」
「ぷぎー(おお、幼女よ、もらしてしまうとはなさけない)」
ブラック(ryを驚かせたのはルカと境内で内緒で飼われているたこルカだった。
ルカとたこルカは気絶したブラックロックシューターを前に途方に暮れていた。
とりあえず神社の石段に寝かせたが、パンツはびちょびちょだしたこルカに驚いて躄ったせいでどろどろである。
濡らさぬために浴衣は捲られ、おもらしパンツ丸出し状態である。
「幸か不幸か社の神の思し召しか、今日は生理なの。
私の換えの下着があるから、それを穿かせましょう」
「わおーん(中出しオッケーな日ですね)」
「……たこルカ、あなた、少し自重しなさい」
ルカはブラック★ロックシューターのぐっしょりパンツを脱がせ、自分のハンカチでブラック(ryの秘部を拭った。
ハンカチで優しく拭うと「んっ……」とか、一言三言呻いたが、目は覚まさなかった。
ブラック★ロックシューターの天然物(?)は薄い体毛が小さな三角型の淡い茂みを形作っており、
未熟の美が生み出した煽情に富んでいた。
ルカはしばし見とれる。
「にゃー(ヨダレ出てるよ)」
「え?あっ、じゅるっ……いやぁ、なんというか、美しいものですね」
「ばうわう(自重しなさい)」
ルカは自分の換え用の下着をブラック★ロックシューターに穿かせ、ちょっと悩んだ。
「……まぁ、なんとか、ぎりぎり気付きません、よね?」
「つくつくぼーしつくつくぼーし(あたししーらないっ)」
ルカはブラック★ロックシューターのパンツを丁寧にハンカチで包んで、自分のバッグにしまった。
「にゃんごろにゃーん(それどうするの?)」
「飼い主の趣味嗜好を詮索すると餌が目減りしますわよ。うふふ」
ルカはたこルカを抱えて神社を後にした。
ブラック★ロックシューターがhuke氏に発見され起こされたのは、
ルカとたこルカが去ってからしばらくしての事だった。
「お前に酒は飲ませられんな。あんなちょっとで酔っ払って寝るとは」
「ますたぁ信じてくれてないでしょ?ほんとに生首が転がってきたんだから!」
「はいはい」
ブラック★ロックシューターはhuke氏の背中におんぶされながら、「オバケってほんとにいるんだよっ!」とか喚いていた。
家に帰って浴衣を脱いだブラック★ロックシューターは、
見たこともない漆黒のTバックを自分が身に着けていることに気付いて戦慄した。
終