8月31日、夏休みも終わり。  
世の怠慢な子供たち、学生たちが己の溜めた課題に喘ぎ苦しむ日。  
 
そして、ミクの誕生日だ。  
だが今年の今日は、それだけではない特別な日でもある。  
 
 
「がくぽさーん!」  
水で満たしたバケツを運びながら、ミクがやってきた。  
暗闇の中、彼女の白いワンピースが、ぼんやりと浮かんで見える。  
 
此処は、都会から随分離れた避暑地。  
夏休みの終わりであるが故か、人の気配はあまりない。  
貸し出し用のコテージに灯る明かりも、疎らだ。  
 
「ミク殿。ご苦労であった、重かったであろうに」  
「大丈夫です!お水、これで足りますよね?」  
「そうだな、足りるな。しかし汲みすぎではないか?」  
「う……頑張ったのにー」  
バケツの中を覗き込みながら、ぷうっとミクは膨れてみせた。  
 
「いや、有難い。これで火事の心配は不要だな」  
がくぽはそう言いながら、持ってきた花火セットを取り出す。  
二人で選んだものから、マスターが処分に困っていたものまで、種類も年代も  
様々だ。  
色とりどりの花火に、ミクの目が輝いた。  
 
「わーい!花火ー!」  
「お主は子供か。そのようにはしゃがれては、危なっかしくて花火など持たせ  
られぬな」  
「……ごめんなさい、大人しくしますから花火させてください」  
「うむ、よかろう。許可する」  
がくぽの独断と偏見で選んだ花火を、ミクに手渡した。  
ミクはそれを、嬉しそうに蝋燭の火に翳す。  
 
「わっ」  
青緑色の閃光が、迸った。  
その勢いに、ミクは驚きとも喜びとも取れる声を上げる。  
色が変わった!とはしゃぐ様子は、本当に嬉しそうだ。  
 
「あーあ……終わっちゃった」  
「どれ。我もやるか」  
「じゃあ、がくぽさんはこれで」  
「む、選ばせてはくれぬのか」  
「私の花火勝手に決めたの、がくぽさんじゃないですかー。あいこですよ、  
あいこ」  
そう言って手渡すのは、どこか地味な花火だった。  
まるで、少し小さい蒲の穂のような。  
 
「わざとか?」  
「何がですか?」  
この暗闇の中だ、恐らく無造作に選んだのだろう。  
嫌がらせに地味な花火を手渡した、というわけでもなさそうだ。  
 
「まあ、構わぬが。……ん?」  
「あれー?」  
点火を試みるが、点かなかった。不発である。  
首を傾げながら幾度となく挑戦するものの、結果は同じ。  
 
「湿気を吸ってしまったのかもしれぬな。古い花火であったようだし」  
「古い花火って、マスターの」  
「ああ、思い出の品だな」  
自分たちのマスターの顔を、そして彼の言葉を、二人揃って思い出していた。  
そう。思い出の品。悪い意味での。  
 
――はっはっは!いいんだよ、燃やしちまえー!あんな思い出、あんな女のこと  
なんかなー!……一緒に海行って、花火しようねって、お前が言ったんじゃ  
ねぇかぁあああ――  
 
「……あれだな。この湿気は、主殿の涙ということで」  
「がくぽさん、笑えません……」  
「うむ、確かに笑えぬ」  
結局、マスターから貰った花火セットは、3分の2ほどが湿気にやられていた。  
 
それから暫く、二人で花火を楽しんだ。  
二刀流!と言って両手に装備したミクを、がくぽが裏面の注意書き片手に窘めた  
のも、もう数十分前のことである。  
 
そんな小さな花火大会を締めるのは、やはり。  
 
「線香花火ですよね」  
 
袋に入っていたそれを取り出し、ミクは嬉しそうに言った。  
大きかったりカラフルだったりと色んな花火があるが、一番好きなのは線香花火  
らしい。  
 
「我も、線香花火が一番好きだな」  
「繊細で儚い感じに、何だか惹かれちゃうんですよねー」  
「……ミク殿の口から、そのような言葉が聞けるとは……。明日は雪だな」  
「あっ、ひどいこと言うし!がくぽさんのばかー!」  
ミクの手が、がくぽを容赦なく叩いた。  
小さな手で繰り返される攻撃は、それなりに痛いようで、流石の彼も「痛い、や  
めぬか」と漏らす。  
 
「ふんっ。線香花火に、違うことお願いしちゃうんだから」  
「何のことだ?」  
「ジンクスですよ。お願い事をしながら線香花火をやって、その火が落ちなかっ  
たら、叶うんですって」  
真剣に考えながら、線香花火を揺らしている。  
 
「好きだなあ。ミク殿も、やはり女子なのだな」  
「えーと、世界中がネギで幸せになりますように!……がくぽさん、何かさらっ  
と失礼なこと言いませんでした?」  
「いや、別に」  
意気込むミクを見ながら、がくぽは何気なく線香花火を始めた。  
小さく弾ける音と光は、やはり風情があって、良い。  
 
「あ。がくぽさんの火、大きい」  
そう呟くミクの線香花火は、控えめな火の玉が、やはり控えめに弾けている。  
 
「これ、しかと見ておかぬか。葱で幸せになりたいのだろう?」  
「へ?うわ、やだ!落ちたぁ!もー、次!願い事変えよう!」  
気合いを入れ直して、火を点ける。  
ミクは強い念を送りながら、線香花火を見つめ続けていた。  
 
 
***  
 
 
ベッドの縁で体育座りをしながら、落ち込むミク。  
あの後、彼女の線香花火は全て、燃え尽きることなく終わってしまったのだ。  
 
「上がったぞ」  
「ん……」  
「まだ21時前か。よし、冷蔵庫の中にな、ミク殿の好……いつまで落ち込んで  
おるのだ」  
「だって、願い事」  
しょんぼりしながらミクが呟くと、がくぽは溜息をついた。  
風呂上がりで下ろしていた髪を少し荒っぽく掻き上げながら、ミクの隣に腰掛ける。  
 
「……がくぽさんと、ずっと一緒にいられますように。って、お願いしたのに……」  
 
その言葉を聞いて、がくぽは思わず固まった。  
手の動きが止まると、ぱらりと落ちた髪が顔にかかる。  
 
「え?」  
「もう、やだ。線香花火のばか」  
「や、あの、ミク殿。お主、葱で幸せ云々と申しておっただろう?」  
「違うもん。本当は、がくぽさんとずーっと一緒にいたいんだもん」  
そう言って俯くミクが、可愛らしくて堪らない。  
沸き上がる愛しさに任せて、その華奢な体を抱き寄せた。  
 
「がくぽさん……?」  
「そのようなことは、きちんと我に言うてくれぬか。神の気まぐれに任せてはおけぬ。  
我が叶えてやりたい」  
真っすぐに腕の中のミクを見つめながら、がくぽが言った。  
ミクも僅かに頬を染めながら、こくんと頷く。  
 
「あ、」  
優しくベッドに押し倒されると、がくぽの唇が、ミクのそれをすかさず塞いだ。  
熱っぽい、くちづけ。  
酸素を求めて息をすると、エアコンの冷えた空気が流れ込んできた。  
 
「んん……っ」  
舌を絡ませ、吸う。  
ミクがキスに夢中になっていると、がくぽの手が、彼女のパジャマのボタンを探っ  
ていた。  
唇を重ねたまま、器用に外していく。  
 
「ふぁ。……っふ、ふ。ふふふ」  
「ん?わ、笑っておるのか?」  
如何した?と尋ねてくるがくぽの表情は、複雑なものだった。  
それがまた可笑しかったのか、ミクは本格的に笑いだす。  
 
「1年前の今頃は、がくぽさんとまさかこんなことになるなんて、思ってなかっ  
たのになーって。覚えてますか?」  
ミクは、ぽつりぽつりと口にする。  
 
仕事で山奥に行ったが、帰れなくなって、二人で安いホテルを探し回ったこと。  
うっかり、ダブルベッドの部屋を取ってしまったこと。  
ソファーで寝ようとしていたがくぽに、ミクがベッドに寝るように言ったこと。  
 
そして、そこでがくぽがミクに告白したこと。  
交際を決めたこと。  
手を繋いで、眠ったこと。  
 
「ああ……あれから1年だな。折角の誕生日なのに仕事とか有り得ない!と、  
ミク殿が半泣きになっておったが」  
懐かしむように言うと、ミクの髪を撫でてやる。  
 
1年。  
あっという間だった、と言うには長く、遠い道のりだった、と言うには短い。  
 
「誕生日、おめでとう。そしてこれからも、よろしく頼むぞ」  
「はい。こちらこそ」  
どちらからともなく、軽いキスをした。  
目が合うと自然に笑みが零れてきて、思わず前戯の途中であったことを忘れて  
しまう。  
片方の例外を除いて。  
 
「……さて、ミク殿。続きをしても構わぬか?」  
「へ?続きって?」  
「ほう、我を焦らすとは良い度胸ではないか。悪いが、もう我慢など出来ぬ」  
貪るようにくちづけて、パジャマのボタンを少し手荒に外してやる。  
あ。とミクは思い出したように小さく声を漏らしたが、それすらもがくぽの唇に  
奪われた。  
 
「ちょっ、や……待って……っ」  
パジャマのズボンだけではなく、ショーツにまでかけられた手に、思わず慌てて  
しまう。  
上を脱がせたばかりだというのに、そんなに急いでどうするつもりなのだろうか。  
――がくぽがいかに限界なのかを知らないミクは、ぼんやりと考えていた。  
 
「待たぬぞ。もう待てぬのだからな」  
容赦なく奪われていく、ズボンとショーツ。  
せっかく可愛いものを着けていたのに、これでは全く意味がない。  
 
「あ、やだっ、がくぽさん、だめ……!」  
開かれそうになった脚を、必死で閉じる。  
明るい電灯の下で、そこをまじまじと見つめられるのには、まだ少し抵抗があった。  
1年付き合い、何度も体を重ねてきたがくぽが相手だとしても、だ。  
 
「そのっ、電気。明るいから、消してください」  
「電気?……ああ、確かに」  
不機嫌になりかけていたがくぽも、ミクが大慌てで言った言葉に頷いた。  
 
「消せば良いのだな?」  
近くにあったリモコンで、照明を落とす。  
真っ暗にはせず、あくまでも絞る程度だが。  
 
「あのー、がくぽさん?まだちょっと明るいような気がするんですが?」  
「……良いか、ミク殿。男は、相手の顔や体が見えるほうが燃えるのだ。ボーカ  
ロイドとて変わらぬ、少なくとも我はな」  
ミクの脚の間へと自分の体を割り込ませながら、がくぽは真面目に言った。  
相変わらず、ミクはじたばたと抵抗を続けている。  
 
「がくぽさんの、ばか!えっち!すけべ!」  
ベタな言葉で抵抗するが、がくぽは全く気に留めない。  
振り上げる腕や手首も、簡単に捕らえられてしまった。  
 
「あまり暴れると、縛るぞ?乱暴にされたいのか?」  
「いっ、嫌です!」  
「冗談だ、本気にするな」  
呆れたような声色で言いながら、浴衣を脱ぐ。  
そうして首筋、鎖骨、胸元へと舌を這わせると、「冗談に聞こえません……」と  
呟いたミクの体が震えた。  
熱い吐息が漏れたのを聞いて、がくぽは彼女の腕や手首を解放してやる。  
 
「は……っ」  
胸の淡く色づいた尖端を、唇と舌で弄ぶ。  
甘く艶めいた声が、がくぽの劣情を煽った。  
 
「ミク殿……」  
「っ」  
大きな手と長い指が、ミクの秘部を撫でた。  
指先で、溢れ出してきた蜜をそこに馴染ませる。  
 
「また溢れてきた。凄いな、ミク殿は」  
「やっ。言っちゃ、やだぁっ」  
低く甘い笑い声に混ざる、湿った音。  
ミクは恥ずかしさのあまり、涙声になる。  
がくぽの指がふと離れると、結び目を解くような、布擦れの音がした。  
 
「……良いか?」  
押し当てられる、硬度と熱。  
ぼんやりと、優しい顔をしているがくぽが見える。  
ミクは少し頼りなく、静かに頷いた。  
 
「では行くぞ、っ……」  
「ん……ふ、あ……!」  
僅かに体重をかけながら、ゆっくりと挿入していく。  
シーツの上を泳いでいたミクの手が、がくぽの背中に回された。  
 
「あ、がくぽさ……っ」  
全部収まると、緩やかな抜き差しが始まる。  
上下に、時には左右にも揺さぶられながら、ミクは全身でがくぽを感じた。  
 
荒い吐息が、ミクの耳元にかかる。  
時折漏れる低い声は、やけに艶かしい。  
思わず小さく震えると、唇が重ねられた。  
甘く優しい、それでいて熱いキスに、ミクも舌を伸ばして応える。  
 
「く……っ、ミク殿」  
薄暗い中でミクを見つめる、がくぽの瞳。  
普段はあまり見せない、ミクにとって最も愛おしい表情――がくぽにも、これくらい  
見えているのだろうか。  
何故か少し恥ずかしくなって、目を逸らした。  
 
「……っ!ふ、ぁ……!がくぽ、さんっ、そこ、だめっ……」  
限界まで引き抜く際に、ミクの弱いところを、引っ掛けるようにして擦る。  
奥ではなく手前の、お腹側。  
 
「ゃっ……あ、あ、あぅ、がくぽさん……っ」  
「可愛いぞ、ミク殿……」  
切なげな表情をほんの僅かな微笑みに変えて、がくぽは囁いた。  
やっぱり見えてるんだ――そう思うと、ミクの体が熱くなる。  
それが羞恥のためなのか、興奮のためなのかは、彼女にも分からない。  
 
達きたいか?とがくぽが囁く。  
ミクの丸い頭が上下に揺れて、頷いたように見えた。  
何か言葉を発したような気がしたが、今はもう押し殺したような声だけで、肯定と  
取れるものは聞こえない。  
 
「ふぁっ……あ、あっ」  
漏れる声が涙声になった、ような気がした。  
それを確認してみたい衝動と、やはり顔を見て愛し合いたいという思いが、同時に  
沸き上がる。  
 
「ん……がく、ぽさん?……やっ、なに、何……?」  
腰の動きを止めて、がくぽはミクを背後から抱きしめた。  
そのまま横たわると、それぞれの体を回転させる。  
繋がったまま、ゆっくりと。  
そうして二人は再び、いつもの向かい合う形になった。  
がくぽの髪がさらりと流れ、ミクの顔に影を落とす。  
 
「この方が、良いな……ミク殿の可愛らしい顔が、よく見える」  
「ばか、ぁ……んっ、や、あぁ……っ」  
熱の篭ったような動きで腰を揺らせば、ミクもそれと同じように応える。  
甘く啼きながら揺らす腰は、可愛らしく慎ましくもあり、そして何処か焦れったい。  
 
「あ、あっ……」  
ミクは涙を零しながら、がくぽから与えられる快楽に身を委ねる。  
深く貪り合い、息もつかせぬキスを交わした。  
唇を離すと、酸素を求め、荒い呼吸を繰り返す。  
 
「がくぽさ、っ……がく……がくぽさん、もう……ぁ」  
そう途切れ途切れに呟くミクに、がくぽは静かに頷いた。  
彼も、限界が近い。  
ぎゅっとミクを抱きしめ、少し強く、腰を打ち付ける。  
 
「っふ、あ……あっ、ぁああ、」  
「は……ミク殿……っ」  
ミクの華奢な脚が、がくぽの腰に絡みつく。  
誘われるがままに求め、溺れていく。  
 
「「――……!」」  
互いの唇が、同時に発せられた言葉や声を奪った。  
愛しさと息苦しさの中で、深い快楽に飲み込まれる。  
戦慄き、熱く収縮するミクの胎内に、がくぽは全てを注ぎ込んだ。  
 
「……はぁ……あ、あ……」  
荒く息を吐きながら、受け止める。  
満たされた下腹部の温もりを、ミクは霞んだ意識の中で感じていた。  
 
 
続く  
 

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