ここは何処なのか…わからない。真っ白な空間で何処からか水の音が聞こえる。そこに俺は一糸纏わぬ姿で立っていた。
俺は、よしえを守ろうとミクの銃弾に倒れて機能停止したはず…
そんな事を考えていると、何処からか女の声が聞こえた。
「……お、…すお、やすお…」
胸がキュウっとする優しい声音…よしえの声だ。
「よしえっ!」
会いたい。俺は叫びながら果てしない空間を駆け出した。だが、走っていくうちに次第に意識が遠退いていく…
視界が広がった…広がった?俺は…機能しているのか?自ら頭脳回路をスキャンし確認する…正常。俺は機能している。
どうやら何者かが助けてくれて、一室のベッドで横になっている様だ。ベッドの傍には犬の面を被った男が一人。
「よう、目が覚めたか?」
誰だこの男は?身体を起こしつつデータベースを検索する…よしえのボス、Nだ。
するとここはよしえの組織のアジトか?
「ナ…N…!そ…そうだ、よしえは?」
「それを聞きたいのはこっちだ。お前がよしえの最後の接触者なんだからな。もう二週間経っている。
悪いがお前を蘇生させている間にデータベースを調べさせてもらった。全く、よしえに毒牙かけやがって…」
どうやらよしえはここには居ない様だ。つまり…
(まさか、ミクを追い掛けているのか!?)
よしえが危ない。そう判断した途端、身体が動いた。
どこぞのスピードスケート選手並に運が強いよしえの事だ、まだ存在している…俺にはわかる。
御親切に用意してあった服に腕を通す。
「おい?死にに行く気か?さっきまで死人だった奴が?」
振り向くとNは拳銃を俺に向けた。
「なんなら、俺が今、この場で…」
奴に構っている暇はない。俺は奴から拳銃を掠め取って背後へ周り、拳銃を構えた。
「!!…ぐむむぅ…」
形勢逆転。さっきまで死人だった俺がこんなに俊敏に動くとは思わなかっただろう。悪いな、N。
「助けてくれた事は礼を言う。ただ、俺の邪魔をするなら、消す。」
俺はNに拳銃を向けたまま部屋を後にした。
廊下を進むと、今度は兎の面を被った女が腕を組んで壁に背を預けている。
データベースを検索…ボスNの相棒、エージェントTだ。
俺はTの前をそのまま通り過ぎようとすると声をかけてきた。
「…行くの?」
「ああ…俺、やすおだから。」
大事な人を守るのに理由なんて必要かよ。俺が鼻で笑うと彼女も笑った。
「そんなオモチャ持って?…いいわ!」
彼女は傍らに立てかけてあった長い器材箱を俺に渡した。箱の形からして、多分銃火器だろう。
「持って行きなさい。生きてもどるのよ。」
俺は素直に受け取り、後ろ手に礼を言ってアジトを後にした。
外に出ると俺は聴覚を研ぎ澄まし、よしえを探す…そこか。ミクも近くにいる、急がないと。
よしえ、待っててくれ。
―その夕方。
私、初音ミクは数日前、あるクライアントから受け取った特種プログラムを起動させ、人類の人口約三分の一を消失させた。
一回きりだったけどとても楽しかった。消失した人類の悲鳴は私のバックコーラス、まるでコンサートの様だった。
これくらい減れば、愚かな内戦や紛争も地球温暖化も食料危機も少しは減るでしょ?私頭イイーw
だけど邪魔者がいるのよねぇー…よしえ。しばらく逃げていたけどぉ、鬼ごっこはもう飽きたよw
邪魔だから消して あ・げ・るw
私はとある廃墟にて、腰を下ろし歌いながらよしえを待った。こうすればよしえはノコノコやって来るだろう。
ところでこの歌…誰が作ったっけ?ああ、私を捨てたマスターか。夕日、綺麗だなと。
予定どおり、よしえがノコノコやって来た。私に消される為に。あーあ、眉間に皺たてちゃってwww
「ミク、やすおの仇…取らせてもらうわ。」
は?やすお?あぁ、KAITOの仇か。勘違いされちゃあ困るなぁw
「それは違うわよ、よしえ。私、よしえを狙ったんだもん。そしたらKAITOが勝手に盾になっちゃってさーw」
それは事実。私は座っていた所から飛び降り、笑顔でよしえに言い切った。
「よしえが撃たれればKAITOは死なずに済んだの。KAITOを死なせたのは…よしえ、貴女よ。」
「…!!」
その台詞に逆上したよしえは私に蹴りかかった。
「単純ねw」
私は身体を弓なりにして攻撃を避け、そのままカウンターでよしえを蹴り上げた。
空中で弧を描いて地面に叩きつけられたよしえに即座に近づき、顔を踏み付ける。
「旧式が最新エンジンに勝てるわけないでしょ?」
踏んでいる足に力をかけ、旧式との力の差を思い知らせた。
「ごめん…やすお…」
あらぁ、謝らなくてもいいじゃない。これから彼に会いに行くんだからさ、私に感謝してよねw
「さよなら…よしえ!」
私が別れの言葉を言った途端、衝撃波で弾き飛ばされた。この衝撃波…YAMA波っ!?誰がっ!?
「ふぅ、ギリギリセーフだな。」
この声…
「久し振りだな、よしえ。」
まさか…
「や…やすぼぉ!」
よしえの声。KAITO…生きていたのか。
「痛たた…」
死に損ない。おまけに裏切ってよしえについたか。まあいいわ、二人揃ってサイハテへ送ってやる。
私は直ぐに立ち上がり、奴らの方を向いた。が…
「やすおっ、本当にやすおなのねっ!」
「よしえ、会いたかった…」
奴ら…私なんてほっといて、熱ーく抱き締めあってんよ。あそこだけ地球温暖化だよ。KY過ぎるバカップル自重しろ。
KAITOはよしえの尻を鷲掴み。よしえも嬉しいのか全くお構いなし。よしえ尻見えてんぞコラ。リア充しね爆発しろ。
…駄目だこいつら、早く何とかしないと(話が進まない)。
私がそう思いながら無言で突っ立てると、気づいたKAITOがよしえを少し離れた場所へ置いて戻ってきた。
話再開…ってKAITOいきなり浴びせ蹴り。何とか耐える。私強い子。反撃に右フックを喰らわせて間合いを取る。
するとKAITOが後方のよしえに叫んだ。
「俺が、ヤツの動きを封じてやる!」
よしえの手には大型の兵器。何よあれ?あれで私を消すつもり?馬鹿らs…
「よしえは最大出力でヤツを、う…」
KAITOが言うが早いか、よしえは私とKAITOに向けて発砲した。
「うてえぇぇ!い…今?」
すかさず避けるKAITO。兵器から放たれた光は私を包んだ。
何この光?動けないっ!それどころか手足の末端から0と1に還元され…これはアンインストール!?
嫌だっ!消えたくないっ!!でももう遅かった。私は消失の恐怖に思わず叫んだ。
「マ、マスターッ!!!」
あれ?何故わたシ…マスターって叫んダんだロウ…?アア、ワタシ…マダ、マスター、ノ…コト、スki…ダ…t―
終わった…
あたし、よしえはやすおが持ってきた[ブラックダダーンDX]でミクをアンインストールさせた。
そこへやすおが服を叩きながらやってくる。
「初音ミク、アンインストール確認…ってよしえ、俺までアンインストールしようとすんなよ。」
「やすおなら避けられるでしょ?あんなの。」
あたしがしれっと答えると、やすおがデコピンしてきた。
「後でたっぷり可愛がってやるから覚悟しとけよ。さて、そろそろ帰ろうか。」
そう言ってあたしの手を取る。組織に帰るなんて…出来ない。
「あたし…あたしは…」
「組織からのお咎めはなしだ。皆心配してるし、何かあったら俺が必ず守る。一緒に帰ろう、よしえ。」
あたしを見つめるやすおの瞳と手には力が入っていた。
「…うん!」
やすおと一緒なら、怖くない。帰ろう、組織へ。
空には星が輝いていた。
―某アジトにて
ボスN「よしえが恋煩いを起こしていたとはな…」
エージェントT「フフッ、よしえも可愛らしいところあるじゃない。あんなにやすおに甘えちゃって、ほら。」
よしえ「あぁっやすおぉっ…そこぉ、んくっ…もっと突い…イイッイクッイクゥ、あぁんイクぅっー!」
やすお「騎乗位でこんなに腰動かしやがって…そんなに寂しかったのか、よしえ。可愛すぎ…」
(モニターにてギシアン生中継)
ボスN「盗撮して巨大モニターで見せんなっ!虫ずが走るっ!や〜す〜お〜めぇ〜っ!」
エージェントT「よしえをやすおに盗られて御立腹ねw」