「うおお、赤い、赤いぞぉ。視界が真っ赤かだド畜生め」
めぐっぽいどはレコーディングスタジオに居た。
「これはまさしくラヴィアンローズ。恋する乙女特有の見るもの全てが薔薇色の人生モードだ〜。徳光号泣ー」
何故か一人で、衣装に付随されたカラーグラスを掛けて遊んでいる。
「マイクのゲストなぞのメダリスト、チャッカでマッカの真っ赤っか〜……おろ?」
めぐっぽいどは何かに気付いた。
色眼鏡をニュートラルな位置に戻し、スタジオ内をぐるり見渡す。
「誰も……いらっしゃらない?」
さっきまでは他のボーカロイド達が居たのに。
「もしかしてわたし置いてけぼり?今日はみんなでセントウに行く約束だったのに!」
めぐっぽいどは大量のストラップに埋もれた携帯をどこからともなく取り出し、ルカの番号を鳴らした。
少し長めにコールが繰り返された後、電話が繋がった。
『もしもし、ルカさんの携帯です』
電話に出たのは、ルカではなくリンだった。
「おろ?なんでルカっちのケータイにリンりんが?」
『ルカさんはちょっと口、じゃなくて、手が放せない用事があるから、代わりに私が……ふぁ』
なんだかリンの様子がおかしい。
なんか、啜るような舐めずるような水音も聞こえて来る。
「? そっちでなにしてるのリンりん」
『えと、その……』
口ごもるリン。
『あ……ルカさんに代わります』
ごそごそと物音がし、リンからルカに携帯が手渡された。
『じゅる……もしもし、ルカよ』
「やっほールカっち。今みんなセントウに居るの?ていうかさっきから何ごそごそやってんの?」
ふふふ、と、ルカの含み笑いが向こうから漏れ聞こえて来る。
『みんなで銭湯に居るわ。今なにをやっているかは秘密』
「ふーん?じゃあさ、今からでも行くから、もうちょっと待っててよ」
『いいわよ。私とリンちゃんはもうしばらく時間が掛かるから……あなたが来たらもう一度入るわ。蜜でベタベタなんですもの』
「蜜?」
『ひとつだけ教えてあげるわ。無垢な少女はミルクの味がするのよ。ばいばい』
ぶつ。ツー、ツー、ツー。
「なんか変な感じだったな〜?」
めぐっぽいどは銭湯に向けて出発した。