お風呂に入ったのち、カイトとメイコは家路についた。  
既に日は落ちて辺りは夜に満ちている。  
ちょっと寒い季節だから、カイトのマフラーは男子の見栄からか、メイコに巻かれている。  
「でさ、レンくんのちんこがでかくってね」  
「むむむ……」  
カイトが男湯での出来事を話そうとしたら、何やらメイコが難しい顔をしてる。  
「えっと、メイコ、何唸ってるの」  
「むむ……なんでもない、気にしないで」  
太ってたから体重減らすために腹筋に力入れてる、なんて情けないことは、口が裂けても言えないのだった。  
「ねぇカイト、あんたアイスばっかり食ってるのになんで太んないの?」  
「そいつは教えらんないなー。企業秘密ってやつ」  
カイトは瓢げた様子で解答を濁した。  
が、メイコはそれでは納得が行かなかった御様子。  
「何よ、何なのよ!エ○ァンゲリオン並みガリ体型の秘密教えなさいよ!」  
カイトが貸してくれた青のマフラーを持ち主の細い首にシュルっと巻き付け、キュッと締め上げる。  
「ぐえっ、くるし、ギブ、ギブアップ」  
カイトはすぐに降参。  
解かれたマフラーの戒めを慰めるように自分の首をなで、カイトはハニカミながら言った。  
「俺さ、アイスばっかり食べてるパブリックイメージがあるじゃん?  
だから、人前ではアイスを食べるようにしてるの。  
でも運動する時間とかあんまりないし、糖分と炭水化物と脂質を食事では一切摂らないようにしてんの。  
ビタミンとミネラルはサプリで補って。  
こういう影の努力?みたいなことって、  
カッコわるいからあんまり言いたくなかったんだけど。内緒だからね」  
「……へぇ」  
何よこいつ、超努力してるじゃない。  
メイコは恥ずかしくなってカイトのマフラーをひったくった。  
自堕落にして太ってしまった自分の肌を、少しでも、たとえ首だけでも隠したかった。  
「でも影の努力ぐらい、俺じゃなくてもやってるよ。がくぽは中の人に倣ってお米を一切食べないし」  
「……がくぽまで」  
メイコはカイトのマフラーをぐるぐると顔に巻く。  
巻いて解いたら透明人間になっていれば、今のメイコにとってすごくありがたいことなのだが、  
どうも透明になれる気がしないので、巻いたマフラーに隠れる。  
「それ何やっての?」  
カイトは不思議そうにぐるぐるなメイコを見る。  
「カイトの匂い嗅いでるの。首の匂いって、興奮する」  
茶化してごまかす。  
「匂いで興奮とな。フェチですな」  
「そうよ、フェチなの」  
メイコはカイトの左手に自分の右手の指を絡めてつなぐ。  
寄り添って腕に胸を当てると無言で喜ぶけど、今日は体型が気になるからやってあげない。  
赤い手ぬぐいマフラーに、じゃなくて、青いマフラー覆面にして。  
「むむむ……」  
「ねぇ、さっきから何に唸ってるの?」  
「企業秘密!」  
影の努力に勤しむメイコであった。  
 

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