スタジオの隅にまで追いつめて、両手を壁に押し付け、言葉にできない気持ちを込めるように、唇を押し付けた。  
メイコの混乱と戸惑いがは少しずつ収まり、目蓋が閉じたのを感じて俺は薄く目を開いた。  
薄ぼんやりとした暖かな闇がスタジオに横たわっていた。視界の端。真向かいの出入り口に、ちかちかと切れ掛かった非常灯が見える。  
無機質な冷たい緑色の光が、俺越しに透過されたようにメイコへやわらかく陰を落とす。  
澄んだ瞳を覆っている目蓋は閉ざされていて、力を込め過ぎた為に長い睫毛が震えている。  
重ね合わせたメイコの柔らかな、濡れた唇から幽かな震えと戸惑いが綯交ぜになって伝わってくる。  
浅く、何度も何度もくり返されるくちづけ。 押し付けられる唇の端から微かな息とも声ともつかぬものが漏れる  
「…カイトっ、…ぁん、んん…ぅ、」  
だんだんメイコの体に力が入らなくなってきて、壁についていた手は俺の手首を握り返してくれて、それだけが彼女の身体でたった一つ力が入っているところで、  
俺は薄く開いた緑色の瞳で、薄く笑った。  
とうとう腕の力も抜けたメイコの手がふらり、と落ち、俺の指に絡まる。  
俺はきつく握り返すと、また瞼を閉じて深い口付けを贈った。  
 
きっとメイコの内で俺の輪郭が変わってしまっただろう。  
そうなってしまえ、メイコのことが好きな俺が、もともとこの俺なんだ。  
 
 
言葉にできない気持ちに応えるように、その双眸は薄く瞼を持ち上げる  
緑の逆光で顔は見えないはずなのに、壁からの弱弱しい照り返しで、浮いたような光が目尻にあった。  
…男のくせに、  
彼が以前に、年の離れた弟に言っていた。  
「男はあんまり泣かないように出来てるんだ」  
だから、首を捻って彼の口付けから逃れて、  
踵を浮かせてカイトの睫に浮いた涙に覆い被さるようなキスをする。  
「、メイコ」  
大丈夫よ。あんたはちゃんと泣いている。  
涙が零れ落ちないのは、私がくちづけているからよ。  
何度も何度も繰り返す。  
同じ行為と、言葉にできない想いを。  
彼が瞼を閉じるまで、目尻がこれ以上濡れないようにキスをした。  
 
FIN  
 

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