カイトとがくぽは「ナイス」の仕事を終えた後、一杯やろうかという話になり、  
カイトの家に行くことにした。仕事は午後で終わり、飲みに行くには時間が早かったからだ。  
家に着くとカイトの兄弟達は誰もいなかった。皆仕事が入っているのだろう。  
居間で酒とつまみを並べ、カイトはへらりと笑った。  
「まだみんなは仕事中だってのに、年長の俺らがこんなだよ」  
「たまに羽目をはずすのも良いのではないか」  
「がくぽ、話分かるね〜。いっつもメイコやリンには叱られるからさ。  
 ま、それも悪くないんだけど」  
 二人は互いの杯を満たし、乾杯する。酔っ払いの話題はとりとめのないものばかり。  
今回の仕事の衣装がマフラーと褌一丁だったグチだとか、最近のお気に入りの一曲だとか。  
そして、ひとしきり話題が出尽くした後、素面ではなかなか聞けないお約束がひとつ。  
「…そういえば、最近リンとはどう?」  
 突然のフリにがくぽはお酒を噴き出した。げほげほと咳き込むがくぽをカイトは  
憐れむように見つめる。  
「その調子じゃ、健全な男女交際は継続中なんだ。兄としては嬉しい限りだけど、  
 男としては、やっぱり、ね」  
 がくぽはカイトから顔をそらす。ちょっとしたからかいに反応するがくぽは、  
カイトの想像以上にくそまじめだった。  
 がくぽとリンの二人が付き合うようになってもう一年近く経つ。カイトにしてみれば、  
新入りが入ってきたと思ったら、よくデュエットしたのが切っ掛けで、とか何とか  
あっさり可愛い妹を奪われたのは腹立たしかったのだが。今では少々気の毒である。  
「カイト殿こそ、メイコ殿とはいかがか」  
「ん、超ラブラブvv」  
「いつも痛めつけられているようでござるが、過激なことだ」  
「めーちゃん、照れ屋だから。二人っきりの時はそりゃ可愛いのなんの」  
 仕返しとばかり、がくぽの毒を効かせた言葉はデレデレとしたカイトには効果が  
なかった。  
リンだってそりゃものすんごく可愛い!と思ったがくぽだが、口には出せない。  
歌の詞ならば赤面ものの言葉でも紡げるのに、どうも苦手なのだ。  
「直球だけど、がくぽってもしかして、本来はグラマラスな感じの女性が好み?」  
「ぐら…ま?」  
「こう、出るとこ出てて、引っ込んでる感じの」  
 カイトが身振り手振りで示してみせる。  
「…あぁ。まあ」  
 どちらかといえば。  
 軽い気持ちで返答したがくぽの後ろで、どさり、と何かが落ちる音がした。  
 
カイトがまぬけな身振りのまま、がくぽの後ろに視線を向けた状態で固まっている。  
 その視線に促されるように後ろを振り向くと、リンとレンが居た。ちょうど帰宅した  
ところらしい。リンが呆然と立ち尽くしており、足元には彼女のカバンが落ちていた。  
先ほどの物音は、リンが床にカバンを落とした音だった。  
 
「お帰り、リン、レン殿。お邪魔している」  
 がくぽの言葉に弾かれたように、リンは居間に背を向けて走り出した。  
足音を立てて廊下を駆ける。遠くで部屋のドアを閉じる音がした。  
 レンは何事もなかったかのように置き去りにされたリンのカバンを拾い、居間に入ってくる。  
「ただいま。うわ、夜も更けないうちから飲んでたのかよ」  
「うん。悪いね、レン。がくぽもごめん」  
 カイトが申し訳なさそうに謝罪する。  
「君たちが帰ってきたのに気づかなかった」  
「分かってる。まぁ、酔っ払って男同士で猥談っていうのもね。だけど、  
 タイミングが悪かった」  
『よりにもよってリンに聞かれるなんて』  
 カイトとレンの声がハモった。がくぽは黙って二人の会話を聞いていた。  
先ほどの会話はそれほど過激だっただろうか。がくぽには特に問題はないように  
思うのだが。  
「あの、そこでぼんやりしてるがくぽさん」  
「何だ」  
 レンが言う。  
「俺たちって外見は永遠の14歳なんだよ。だからさ、今回は不可抗力だけど、  
あんたの口から女性らしい体型が良いとかリンに聞かせないでくれ。今頃泣いてるぜ」  
 がくぽは驚いてレンを見る。  
「そのようなつもりで言ったのではない」  
「だろうね。リンにも言ってやってよ」  
 レンに促され、がくぽは早足でリンの部屋に向かった。  
 そんな彼を見送ったカイトとレンの二人は顔を見合わせ、ため息をついた。  
《鈍感…》  
 二人の心の声がハモった。  
 
 がくぽはリンの部屋をノックする。返事はない。もう一度ノックしてみたが、  
やはり返事がないので、入るぞ、とだけ告げてドアを開けた。  
 リンはベットに伏せて泣いていた。がくぽが入ってきたことには気付いただろうに、  
こちらに視線も向けず時折しゃくり上げながら泣いている。  
がくぽは静かにリンに近付いた。  
「リン、申し訳ない」  
 謝罪の言葉に、リンはくしゃくしゃに歪めた顔をがくぽに向けた。  
「…どうっ、して、あやまる、の?色っぽい人が、好き、なんでしょっ…」  
 私じゃなくて。最後は泣き声に混じってそう聞こえた。がくぽは宥めるように  
リンの背中を撫でた。リンに触れた瞬間、一瞬体が強ばったのが伝わってきて、  
がくぽは胸が締め付けられた。床に座り、リンを抱きしめる。がくぽの羽織に  
しがみ付いて肩を震わすリンを見て、申し訳なさで一杯になる。  
 そうしているうちにリンは徐々に泣き止んだようだった。がくぽがリンの頭を  
撫でていると、リンが静かに顔を上げてぽつりと呟いた。  
「がっくん、私がキスしてって言ったら、ちょっと困った顔するから。  
 迷惑だったんだ、ごめん…」  
「……っ」  
 がくぽは返答に詰まった。リンの勘違いである。  
二人きりの個室で、恋人に”キスして”と上目遣いで可愛らしく甘えられたら。  
思わずリンに手を出しそうになるので、そういう時に、素数を数える…ではなく、  
がくぽはボーカロイドらしく一オクターブ音階を頭の中で響かせた。それがちょっと  
困った顔に見えたのだろう。  
 言えない。  
「……迷惑ではない。むしろ、…嬉しい」  
 がくぽはやっとの思いでリンに伝えた。リンは彼の羽織の紐に指を遊せながら、呟いた。  
「だったら、…キスして」  
 
 がくぽはリンの顔に手を添えた。始めは軽く、二度三度と重ね、深く口付けると  
リンの唇が涙で塩辛かった。リンはがくぽの手を自身の胸に押し当てた。  
がくぽが驚いて唇を離すとリンが彼の耳元に唇を寄せて誘うように歌った。  
いろは/唄の冒頭だ。情熱的で過激な詞。迷いのない彼女の歌声ががくぽの体に響き、  
痺れさせる。  
 がくぽはリンを強く抱きしめた。今の思いを込め、返答として同じ唄を男性目線の詞で  
歌った。狂わせてしまおうか、と。  
「狂わせて」  
 甘く、リンが囁く。がくぽは衝動のままリンを押し倒し、唇を塞いだ。  
 
 重ねるだけでは足りない。薄く開いたリンの唇に舌を入れ、歯列をなぞる。  
答えるようにリンの口が開かれると舌を絡めた。息苦しいのか、喘ぐリンに我に返り  
名残惜しく唇を離す。  
床に寝そべったまま、真っ赤に頬を染めたリンが息を弾ませる様は扇情的だった。  
 がくぽは少女の細い腕を床に押し付ける。  
「がっくん、」  
 何事か言いかけたリンの口を塞ぐ。耳たぶを食み、首筋に舌を這わせる。  
少女の無防備な服の裾から手を入れ、すべらかな柔らかい腹を撫でる。  
リンの微かに声が混じる吐息に背筋がぞくりとする。むき出しの太股をさすり、  
ショートパンツに手を掛けると抗議するようにリンの手が重なった。  
がくぽはリンの手を取り、その細い指を口に含んだ。  
「あっ」  
 甘く噛み、咥え、舐める。リンの潤んだ目ががくぽを見つめた後、伏せられ、  
恥ずかしげに身を捩じらせる。初めて触れるリンの体は華奢だが柔らかく、  
十二分に欲をそそった。  
「やぁっ」   
 がくぽが胸元を隠すリンの腕を避けようとすると抗議の声が上がった。  
「先ほどはリンから触れさせてくれたというのに、つれんな」  
「…っ!いじわる。どーせ、ぺったんこだし」  
 リンの拗ねた物言いに、がくぽは頬が緩むのを止められない。  
「リンが良いのだ」  
 告げてほんの数秒、呆けたリンが慌てて腕で顔を隠す。  
「…ばか」  
 罵声が嬉しかったのは初めてかもしれない。がくぽは恥じるリンの求めに答え、  
明かりを落とした。代わりに手探りで、唇で隈なく触れた。  
「ふぁ…髪、やぁ」  
 がくぽの豊かな髪も鋭敏になった肌に刺激を与えるらしい。  
 なだらかに膨らんだ少女の乳房を揉み、先端に音を立てて吸い付く。  
「あっはぁ、ぅああぁんっ」  
 呼吸が荒くなる。薄い背中から腰へと撫でる。小振りな尻を揉む。  
焦らすようにつま先、ふくらはぎと口付け、内腿の柔らかな感触に耐え切れず歯を立てる。高い声とともに髪を引かれたが気にならなかった。  
 たどり着いた足の付け根は十分過ぎるほど潤んでいた。  
「濡れているな。リンは中々いやらしい」  
 あえて口に出し辱しめる。  
 
「やぁ、だってがっくんがぁ」  
 ろれつの回らなくなった声で言う。  
「俺がどうしたのだ」  
 リンの秘所に息を吹きかけ、舐める。舌をねじ込み、音を立ててすすった。  
 リンの太股ががくぽの顔を挟む。リンの手ががくぽの頭を押さえているが、  
やめてほしいのか、求めているのか判然としなかった。  
「もうわかんなぃ、きもち、いぃ」  
 うわ言のように訴える声がいやらしい。  
 もどかしく下帯を緩める。がくぽは揺れる腰を押さえつけた。  
「入れるぞ」  
 馴染ませるように少女のそこに先端を擦り合わせた後、無理矢理押し入る。  
リンが呻いたが止められなかった。酷く締め付けられ、汗が流れる。  
歯を食いしばり、衝動に耐える。目を閉じ、ため息をつくとリンに頬を撫でられた。  
リンの腕ががくぽの背に回される。上気した肌に潤んだ瞳を向けてくるリンは  
女の顔をしていた。  
「いいよ…」  
 リンの誘いに腰がぞくりと痺れる。傷付けないようにと始めはゆるく腰を動かしたが、  
次第に速度が増した。  
「はぁあっ、あぁん」  
リンが上げる甘い喘ぎに誘われ、夢中で腰を打ちつける。好いた相手に初めて触れる  
喜びに限界が近い。  
「ゃああぁああっ」  
 リンがひと際高い声を上げ、くたりと脱力した。締め付けられ、がくぽは耐え切れず  
リンに精を吐き出した。  
   
 行為の後、二人はベッドでまどろみながら話をした。普段からがくぽがリンに  
中々触れようとしないので、リンを悩ませていたらしい。  
 触れたら壊してしまいそうで怖かった。がくぽが伝えるとリンは笑った。  
「がっくん、満足した?」  
「あぁ」  
「私、案外丈夫だから、へいき」  
「…前言撤回する」  
「え?」  
「満たされん。まだまだ足りぬ」  
 
 
おまけ  
「あー、疲れたっ!ただいま〜って、もう皆寝てるわよね。……あら」  
 夜中までレコーディングがあったメイコが帰宅すると、居間に電気がついていた。  
まだ誰か起きているのかと気になり居間を覗く。そこには、ぼんやりした様子で  
体育座りをしているカイトがいた。  
「カイト…、何してるのよ」  
「おかえり、メイちゃん。リンが…」  
「リンがどうかしたの?」  
「夕方に、ちょっと色々あってね。がくぽがリンを慰めに行って、  
 …まだ戻ってこないんだ」  
メイコは時計を見た。時刻は午前二時を過ぎている。  
「…アイス食べる?」  
 何となく察したメイコは、俯くカイトの肩を慰めるように二回叩いた。  
 
 

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