『miki好きの憂鬱』
mikiの長い髪を掻き上げて、しっかりとその真紅の瞳を見つめる。
俺はmikiの顎をそっと引き寄せ、ほんのり色づいた唇に自分の唇を重ねた。
「んぁ……ん、ま……ます、たー……?」
やがて唇と唇だけだった触れ合いは舌と舌の絡み合いへ。
ちゅ、ちゅっと言う音が狭いアパートの一室に響き、
残響音が俺をさらに掻き立てる。
「ちゅ、む……っ、ぷぁ、ん……んんぅっ……」
頭の上のピョンと跳ねた髪の毛はまるで犬の尻尾のように感情を表している。
今はくたっと垂れているが、もう力が抜けているのだろうか?
ただでさえ華奢なボディを支えながら、俺はmikiをゆっくりベッドへと寝かせる。
「マスター、私……こんな」
「どうした?」
「おかしいです。私、VOCALOIDなのに…」
そう、今俺が押し倒しているのは歌うために生まれてきたはずのVOCALOID。
しかし俺がmikiに抱く感情は、すでに人間と楽器の境界線を軽く飛び越えて恋愛感情になっていた。
……まぁ、嫌な予感はしてたんだ。
「あのメーカーはロボッ娘の何たるかを分かってねぇぜ!」と言って、
メジャーなクリプトン製でなくわざわざ新進気鋭のAHS製に手を出す俺のことだから、
もしかしたらこうなるかも知れないとは薄々感じてはいたが……。
「VOCALOIDがマスターと結ばれたらおかしいのか?」
「え、そんな訳じゃ…」
ベッドの上でぺたんと座り、mikiは俺から目を逸らす。
mikiが見せる表情、仕草、一つ一つすべてが俺の心にジャストに突き刺さる。
「mikiは俺のこと嫌いか?」
「……そんな事ありません。愛してます」
たかが数週間一緒に暮らしただけでご覧の有様だ。
mikiもmikiなら俺も俺。お互いにゾッコンだ。
二人で協力して曲を作って、一緒に腕組んで買物に行って、一緒の布団で寝て。
脳味噌が蕩けるんじゃないかと言うくらいのディープなキスももう何回もした。
そろそろ最後まで行っても……いいんじゃないかね?
「よし」
「っあ……」
ベッドに体を預けるmikiの背中に手を回し、ウエストラインをなぞる。
甘い声がmikiの口から漏れ、腰が自然と浮いた。
片手はmikiの手と絡め、もう片方の手は腰から背中へ。
青いファーの中に隠れたファスナーを一気に下ろし、まずは背中からあらわになる。
なんだかんだ言ってmikiのサポートも貰いつつ、
mikiのボディを寿命間近の蛍光灯の下に晒した。
「や、マスター……やっぱり、恥ずかしいです……」
しましまニーソックスと手袋はそのまま。
しかし一番体を覆っていた服を剥がれ、mikiは手で胸を隠していた。
下には真っ白いパンツが残っている。
こいつを脱がす前に、mikiのボディに舌を這わせる。
これもやってみたかったんだ。
「ひぁあっ!? ひゃ、め、っ!! っあぁあっ!」
mikiの首筋をつつっと舐めていくと、甘い声が耳に入ってくる。
何だか人工物っぽい味でもするのかと思っていたが、そんな事は全く無い。
女の子を感じることの出来る甘い香りがしている……ような気がした。
「綺麗だ、miki」
「え、あ……ありがとう、ございます」
「miki、じゃあ」
「待って! マスター、あの」
「いや、もう限界だ」
「あ、むぅぅっ……!?」
何か言おうとしたmikiの口を改めて塞いでやる。
最初はなにか大事なことでもあるのか抵抗していたが、
やがてそれも諦めたらしく、俺の舌を一心不乱に舐ってくる。
舌が絡み、ゾクゾクする快感が口の中から背筋に叩き込まれる。
「ん……っは、むっ、んくうっ……!!」
作り物のボディが熱を帯びて、人間の興奮状態と同じ熱気を感じる。
冷却水なのかなんなのか知らないが珠のような汗がmikiの頬を伝い、
それでも冷やすのが間に合わないのか、顔がピンクに染まっている。
「っぷぁ、ます……たー……だめ、です。そこは……」
もうすっかりトロンとした目つきをしてるくせにまだ言うか。
俺はそれまでじりじりと下ろしていたパンツを一気に下ろしてやった。
ピクンとmikiの体が跳ねたが、もう力が無いのかそのままベッドに体を預けた。
いよいよmikiのアソコに手を滑り込ませるのだ。
ロボットらしい関節を隠しもしないボディライン。
ぺったんこの胸から、腹へ。そして恥丘へと滑らせて行く。
「マスター……その、ごめんなさい……」
mikiは一体何を謝っているのだろう?
むしろ俺の方が強引に迫っているというのに。
そんな事を考えながら、なだらかな恥丘からそのまま両足の間、
最終到達地点に手を滑り込ませる。
「……………!?」
そこで俺は言葉を失った。
こいつ……『股間に穴が無い』!?
―――――ああ、そういえば買った時点でmikiは服フル装備だったから、
mikiの股間がどうなってるかなんて、俺は今まで知らなかった。
「だから『ごめんなさい』って言ったんです……」
そうだったのか。
せっかく盛り上がっていた心が一気に萎えたのも堪えたが、
それより何より収まるべき凹を失った、俺のいきり立った凸の処理はどうすればいいんだ……。
翌日俺は、すでに数ヶ月前に初音ミクを買っていたツレとメイドカフェで話をしていた。
「あー、そりゃ残念だったなぁ……」
ツレは俺の話を聞きながら、メイドが持ってきたコーヒーに口を付けた。
なんとなくその言葉の裏にバカにしたような含みがあるのを俺は敏感に感じ取り、ツレを問い詰めてみた。
じゃあお前は初音ミクとどうなんだよと。
「え、俺? もう毎日ミクとラブラブエッチですよ。うねりながら俺のザーメン根こそぎ搾り取る名器だぜあれh」
全部言い切る前に、俺の拳がツレの顔にめり込んでいた。
それでも俺はクリプトン製VOCALOIDを買った奴が勝ち組だとは思いたくない!
俺にとってのVOCALOIDはmikiだけだ!
そんな決意をしながらも、俺の目からは血の涙が滴り落ちていた。
おわり。