今日はなんてラッキーな日だろうと思っていたし、実際僕は有頂天だった。  
メイコ姉ちゃんが僕の部屋にいるのを発見する、今、この瞬間まではだ。  
僕がずっと好きだった、だけど相手にされないだろうと思っていた、あのメイコ姉ちゃんがである。  
 
リンと僕が、姉ちゃんたちの妹弟としてこの家に来たのが2007年の12月27日。  
歓迎会もそこそこに、ぼくらはすぐにうちとけて家族になったのだ。  
赤青緑黄の5人家族。  
その次の年にはお隣さんや新しい家族もぞくぞくと増えるのだが、この際それはまた別の話としよう。  
 
すぐに僕はメイコ姉ちゃんを目で追うようになった。性的な意味で。  
はじめはそういうエロい気持ちで見ていた。それは認めよう。  
だってそうだろう。男2人女3人の家での貴重なおっぱい要員である。  
トレードマークの赤い衣装は上も下も丈が短く、14歳という設定で作られた僕にとっては、目をやるなというのが無理な話である。  
パワフルかつセクシーな路線のVOCALOID・MEIKOに僕はあっという間に魅了されたのだ。  
 
しかしそれが恋に変わったのはいつからだろうか。  
僕にもはっきりとはわからないのである。  
セクシーなはずの姉ちゃんが、母のようにみんなの世話を焼くその様子に、なんだかそわそわした気持ちになったあの頃だっただろうか。  
僕がオフで、なんとなく姉ちゃんの収録についていき、その感情のこもった歌声に、どきりとさせられたあの日だっただろうか。  
それとも、リビングで酔いつぶれた姉ちゃんに、僕が毛布をかけに行ったあの夜、いつもはしっかりものの姉ちゃんが、あどけない口調で「れんはやさしいわねぇ」と頬を赤くしてふにゃふにゃと微笑んだあの時からだったのだろうか。  
 
とにかく僕はいつからかメイコ姉ちゃんが好きで、好きで、たまらなくなった。  
いつも姉ちゃんのことを考えていた。  
リンにはそれがすぐばれて、相手にされないよといつもからかわれていた。  
わかってるよと僕はいつもふてくされて答えたものだ。  
 
姉ちゃんは家で特定の男性の話はしなかったが、仕事場には姉ちゃんに好意を持っている男がいくらもいたし(そいつらは総じて僕よりも年齢が上だった)、姉ちゃんのデュエットはいつも僕以外の男性VOCALOIDとのものばかりだ。  
僕は生れてからずっと姉ちゃんと一緒だけど、姉ちゃんには僕の知らない3年間がある。  
その間に姉ちゃんに、誰か恋人はいたのだろうか。  
姉ちゃんはきれいなひとだから、いなかったはずはないだろうと僕は思う。(この想像をすると僕は決まって頭をかきむしりたくなった)  
僕は背だって低いし、姉ちゃんだってわざわざこんな子供を相手にしないだろう。  
クリプトンはなぜ僕をかっこいい青年としてもっと早く発売してくれなかったのかと苦悩したものである。  
姉ちゃんは僕を完全にかわいい弟としてだけ見ていた。  
抱きしめたり、一緒にお風呂に入ろうと言ったり、一緒に寝ようと言ったり、平気でした。  
僕が赤くなるのがおもしろいようだったが、それを思春期の少年特有の照れだと思っているらしく、僕の気持ちには気づいていないようだった。  
 
そんな姉ちゃんが今日、おいしいお酒をもらったの、と言ってニコニコしながら帰ってきた。  
一升瓶が二つ、お祝い事の時のように風呂敷と紐で括られている。  
姉ちゃんはKAITO兄ちゃんやルカと一緒に飲むつもりで帰ってきたようだったが、あいにく二人とも今日は泊まりの仕事で遠くに出掛けていた。  
大人二人だけでなく、リンとミク姉ちゃんは二人で買い物に出掛けていて遅くなると言っていた。  
つまり幸か不幸か(もちろん僕にとっては幸だが)この家には僕しかいなかったのである。  
姉ちゃんと2人きり、僕にとってはすごくうれしかったが、姉ちゃんが1人でお酒を飲むことになるのはかわいそうだなとも思っていた。  
案の定姉ちゃんはしばらくの間しょんぼりしていたが、突然、それなら!というような顔をしてこう言った。  
「じゃあレン、今日は2人で飲もう!」  
びっくりしている僕を尻目に、姉ちゃんはにこにこしている。  
「でも僕、14歳だし」  
「人間じゃないしちょっとなら大丈夫よー!」  
姉ちゃんは指先でちょこっと、というしるしを作る。  
「でも、いつもは、駄目っていうじゃん」  
「あれは、私よりカイトがね。レンたちに飲ませるなっていうのよ。神威くんにしつけがどうのこうのって言われたらしくて…」  
お兄さんぶりたいのよね、と笑った。  
「ごはん、簡単でいいよね。その後おつまみおいしいのつくるから!」  
俄然やる気が出た様子で姉ちゃんはキッチンに向かった。  
姉ちゃんの後ろ姿が見えなくなってから、僕は部屋の隅で1度ガッツポーズを取った。  
   
ごはんもそこそこにリビングに移り、姉ちゃんと僕の二人っきりの飲み会がはじまった。  
僕はお酒を飲んだことが無かったし、純粋にそのことでもワクワクしていた。  
姉ちゃんがいつもおいしそうに飲んでいるそれにずっと興味があったし、あれは大人の飲み物だ、という認識があったので、なんだか自分が少し大人になったような気持ちでもある。  
しかも姉ちゃんと2人きりである。今日はラッキーだと僕は思った。  
「はい」  
姉ちゃんがグラスを渡してくれる。空だ。  
あれ、と僕が思うと同時に、姉ちゃんが、  
「レン、おつかれさま」  
と言って酒瓶を手に取った。そして僕のグラスにそれをついでいく。  
お酌してもらう間、僕はばかみたいに緊張していた。  
姉ちゃんが自分のグラスに自分でお酒を注ごうとしたので、僕は慌てて、  
「ぼっ ぼくがつぐ!」  
と声をあげ、瓶をもらった。  
一升瓶って重い。僕はゆっくり姉ちゃんのグラスを満たし、瓶を置いた。  
ふふ、と姉ちゃんは僕を見て、  
「ありがとー」  
と言った。  
 
乾杯をして一口飲む。なんか変な味だ。  
姉ちゃんはおいしい!と嬉しそうに言って、ジュースか何か飲むみたいに飲んでいたが、僕はあまりおいしいと思えずに1口ずつゆっくりそれを飲んだ。  
「レンははじめてだからあんまりおいしくないかもね」  
そんなものなのだろうか?  
「慣れたらね、おいしくなるんだけど。これ、ほんとはすごくおいしいのよ」  
にこにこしながらグラスの端に口をつけている。  
「慣れるぐらい飲ませちゃったらカイトに怒られるかな。でもレンにはいっぱい飲める子になってもらわないとね」  
「うわっ」  
姉ちゃんはまだ飲みかけの僕のグラスにいきなりお酒を注ぎ足して、  
「私と一緒にこれからいーっぱい飲むんだから!」  
少し頬の赤くなりだした顔でにっこり笑ってそう言った。  
僕は、ガッツポーズを我慢するのに大変な努力を必要とした。  
 
それからはとりとめのない話をしながら小さな宴会は続いた。  
最近歌った歌のこと、最近行った場所のこと、最近見たテレビのこと、映画のこと、ニコニコで最近流行っているもののこと。  
会話は途切れず、僕らは楽しい時間を過ごしていた。  
 
ついに姉ちゃんは2本あった瓶の1本をほぼ1人で空けた。  
僕は水でも持ってこようと思い、立ち上がると少しふらふらした。  
頬が熱い。  
座っていると気づかないが、姉ちゃんに比べれば微々たる量でも、僕だってお酒を飲んでいるんだなと実感する。  
僕は姉ちゃんを見た。  
姉ちゃんは少し酔っぱらった様子で、ニコニコして目がうるっとしている。  
ん〜、と時々むずがったような声を出して、短いスカートから出たその両足の、膝をすり合わせるようにしている。  
僕はどきっとする。紅潮した頬で僕を見上げた姉ちゃんはとてつもなく色っぽかった。  
 
立ち上がった僕に気付くと、  
「れんどこにいくのお」  
と言って、両眉を下げてさみしそうに、姉ちゃんは僕の服のすそをつかむ。  
「水をついでくるから」  
僕は平静を装って答えた。  
「そうなの? はやくかえってきてねえ」  
姉ちゃんはへらへら笑う。  
 
僕はぎくしゃくとキッチンへ向かった。  
あああああかわいいなあと僕は思う。好きな人と2人で酒を飲むことがこんなに幸せなことだとは思わなかった。  
今日は本当にラッキーだ。  
にやける顔を両手で押さえながら、僕は時計を見た。  
夜の11時ちょっと過ぎぐらい。  
あれ?そういえばリンとミク姉ちゃん遅いな。と思いながら、僕は水を一口飲んで、姉ちゃん用にもコップに水を一つ用意する。  
すると家の電話が鳴った。  
 
「はい、もしもし」  
僕は電話をとる。  
「レン?私だけど」  
「リン?どうしたんだよ、もう11時だぞ」  
電話の向こうから楽しそうな雰囲気のミク姉ちゃんの声も聞こえてくる。  
「今日ミク姉ちゃんとお泊まりしてくる」  
「えっ」  
そこでがちゃがちゃと音がして、電話がミク姉ちゃんに替わった。  
「レンくーん!ミクだよお。お買い物してたところがすっごく夜景がきれいなの!遅くなっちゃってね、どうしようかなって思ってたら、近くのホテルがね、私の知り合いの人のだったから、お部屋を用意してくれたの」  
「えっ えっ」  
「私もリンちゃんも明日がちょうどオフだから、ゆっくりしようと思って!」  
「えっ えっ えっ」  
「お姉ちゃんたちにも言っておいてね!ばいばーい!」  
それだけ言って電話がガチャっときれた。  
ミク姉ちゃん、どんな人脈だよと思いながら僕は情報を整理する。  
リンと、ミク姉ちゃんが、泊まってくる。  
と、いうことは、今日は帰ってこない。  
カイト兄ちゃんと、ルカは、泊まりの仕事。  
と、いうことは、今日は帰ってこない。  
リビングでは、メイコ姉ちゃんが、飲んでいる。  
酔った、姉ちゃんは、すごく可愛い。  
本日2度目のガッツポーズを決めながら、僕は、神様に感謝した。  
 
水を持ってリビングに戻る。  
メイコ姉ちゃんは僕を認めると、頬を膨らませて、  
「れん、おそい、なにしてたのー」  
と言った。  
僕は姉ちゃんに水を渡しながら、ほくほくした気持ちを押し隠して、いつもの声の調子で  
「リンから電話。リンとミク姉ちゃん今日泊まってくるって。ミク姉ちゃんの知り合いのホテルに」  
と言った。  
姉ちゃんは首をかしげて、  
「そうなの?おとまり?」  
ふうん、と言った。  
ホテルってきれいなとこかなあ。いいなあ。と言ってニコニコしている。  
「じゃあーきょうはーレンと2人だねえ!」  
僕に向かって姉ちゃんはにこっと微笑んだ。  
「そうだね」  
「じゃあー」  
「うん」  
「いっぱい飲んで!」  
「まだ飲むの?」  
「うん!」  
姉ちゃんはうれしそうに頷く。  
「それからーれんのへやでいっしょにねよー!」  
 
酔っ払いはとんでもないことを言う。  
姉ちゃんに他意はないとわかっていても、僕はどぎまぎする。  
「いや、僕の部屋のベッドせまいから」  
「つめればだいじょーぶ!」  
本気なのかなんなのか姉ちゃんはそう言う。  
そしてあははっと笑った。  
 
そして一升瓶の2本目の栓を開け、宴会は2回戦だ。  
ぐだぐだ話していると、姉ちゃんが急に、  
「レンは、すきなおんなのことかいるの!」  
と言いだした。  
僕はドキッとする。  
「な、なんで」  
「いないのー?」  
「えっと、その」  
「いるんだ!」  
姉ちゃんはにやにやしている。  
「どんな子!」  
「どんなって」  
「教えてよお」  
絡み酒だ。  
ここでそれはあなたですと言えない僕はヘタレである。  
「髪が短くて」  
「うん」  
「……僕より年上で、僕より背が高い」  
「へー!」  
「えーっと、やさしくて色っぽい感じ?」  
「うんうん」  
「しっかりものだけどたまにかわいいところもある」  
「へー!!」  
姉ちゃんはニコニコしている。  
いいなあ会いたいなあと言う。悠長なものだ。  
それってひょっとして私?というような勘繰りのかけらも持ってくれなかった。  
僕は下をむいてごくりと唾を飲んで、勇気を出して聞く。  
「ね、姉ちゃんは!?」  
平常を装おうとして語尾が少しひっくり返ってしまった。  
でも聞いた。聞いたぞ!と思い、覚悟して、ばっと姉ちゃんの方を見ると、姉ちゃんはすでに僕の話を聞いておらず、空中を見上げて歌を歌い始めていた。  
全身の力が抜ける。  
 
「レンも一緒にうたおー!」  
そう姉ちゃんが言うので、僕もしぶしぶぽつりぽつりと歌ってみる。  
2人で一緒に合わせたり、ハモったりしてみた。  
「おとなりさんはもう寝てるから、静かにしないとね!」  
大声で歌った後で、姉ちゃんが慌ててそう言ったりする。(神威家は早寝早起きなのだ)  
しかしまた上機嫌で歌いだした姉ちゃんに、僕があわせて低音を歌っていると、姉ちゃんは突然  
「トイレ!」  
と言ってニコニコと立ち上がった。  
ふらふらしているので僕が支えようとすると、姉ちゃんは1人で大丈夫だと言い張った。  
そしてよろよろとリビングを出て行った。  
ついて行けばよかったかな?不安になりながら僕が耳をすますと、おぼつかない足音が聞え、最後にばたんとトイレのドアが閉まる音が聞こえた。  
無事にトイレについたようだ。  
僕は安心して、ほっと一息ついて少しは慣れてきたお酒を一口飲む。  
幸せだなーとぼんやりする。  
しばらくぼーっとした後、僕はちらかったリビングのテーブルを少し片付けてみる。  
終わった。  
手持ちぶさたでテレビをつけてみる。  
砂嵐だ。  
ふーっと息を吐いてまたしばらくぼんやりしていた。  
 
   
……帰ってこない。  
姉ちゃんがトイレに立ってから結構経つが、姉ちゃんは全然帰ってこない。  
もしかしてトイレで寝てるのかな?  
僕は腰を上げる。  
トイレに向かうとドアは開け放たれていた。  
 
いない。  
 
そこに姉ちゃんはいなかった。  
隣の洗面所をのぞいてみる。  
いない。  
水でも飲んでいるのかと思い、キッチンを覗いてみる。  
いない。  
もしかしてもう寝たのかなと思い姉ちゃんの部屋を覗いてみる。  
いない。  
どこにもいない。どこ行っちゃったんだろう?  
そこまで探して、僕はようやく、さっきの姉ちゃんの言葉を思い出した。  
 
『それからーれんのへやでいっしょにねよー!』  
 
まさかと思って僕は自分の部屋を覗いてみる。  
いた。  
僕はほっとする。  
今日はなんてラッキーな日だろうと思っていたし、実際この時まで僕は有頂天だった。  
メイコ姉ちゃんが僕の部屋にいるのを発見する、今、この瞬間まではだ。  
姉ちゃんは僕の部屋のベッドの横に座っていた。  
ゆらゆら揺れていたが、まだ起きているようである。  
 
ただ、  
 
 
 
 
 
その手には僕がベッドの下に隠していたエロ本があった。  
「うわあ!」  
僕は大慌てで飛び出してそれを取り上げる。  
「ななななななn なんで!!」  
僕が真っ赤な顔で、声を裏返しながら混乱して聞くと、姉ちゃんはとろんとした目でんー?と僕の方を見て  
「あー!れん!どこいってたの!ずっとまってたのに」  
と言った。  
どう考えてもこっちのセリフである。  
 
僕が絶句して、取り上げたエロ本を抱えていると、姉ちゃんは  
「もうないのお?」  
と言ってベッドの下をごそごそやりだした。  
そしてもう一冊本を取り出す。  
僕は慌ててそれも取り上げる。  
「レンもこういうのみるのねえ」  
へーぇ、と言って姉ちゃんはニコニコ笑う。  
その言葉に叱責やからかいの感じはなく、ただ感心しているかのような声の調子だった。  
酔っ払いめ!と僕は思う。  
 
「姉ちゃん、飲み過ぎだからもう寝よう」  
「えー」  
「あと、この本のことは明日忘れてて」  
「えー」  
後半はお願いというよりは僕の祈りだった。  
   
ふふふ、ふふふ、と姉ちゃんは笑う。  
「えっちな本」  
それだけ言って笑っている。  
「だめなんだー」  
僕の頭を撫でる。  
「それは、その、僕だって、男だし、こういうの、見るよ」  
僕はぼそぼそと言う。  
「れんはえっちだ」  
「ふつうだよ!」  
顔が真っ赤になる。死んでしまいたかった。  
 
「こういうことしたいの?」  
いつの間にまた取られたんだ!  
僕がさっき取り上げたはずのエロ本の一冊を姉ちゃんはぱらぱらとめくっていく。  
僕は頭を抱えたいような気持だった。  
「したいって、いうか…」  
「真夜中の診察室!いんらんナースの…」  
「わー!!!!」  
音読しだした。  
僕は止めようとしたが、姉ちゃんは笑いながら次々キャプションを読み上げていく。  
消えてなくなりたい。  
好きな女性がエロいアオリを読み上げていく。  
耳をふさぎたいような、しっかり聞いておきたいような…  
と、今まで淡々と読み上げていた姉ちゃんが、突然あははっと笑って、抑揚をつけてもうひとつ読み上げた。  
「…お姉さんが、教えてあ・げ・る♪」  
「なっ…!!!」  
僕はかあーっと耳まで熱くなる。  
あはははと笑ってから姉ちゃんは僕を見て、赤面に気付き、少しきょとんとする。  
それからにやりと笑って、  
「レンくんにもお姉さんが教えてあげようかー!」  
と言って、いつものからかいの調子で僕をぎゅうと抱きしめた。  
おっぱいに顔をうずめるような格好になる。  
やばい。やばいやばいやばい。  
「姉ちゃ、離し、」  
「うふふ、やだよう」  
ぐりぐりと僕の頭に姉ちゃんは頬ずりをする。  
すぐに離して貰わなければ僕の理性が持たない。  
「ね、姉ちゃんに、教えられんの!?」  
なぜか僕はそう強がってしまった。  
すると負けず嫌いの姉ちゃんは少しむっとする。  
「おしえられるわよ!」  
「ほんとに?」  
「し、知ってるわよ!わたし。大人だからなんでも!」  
その言葉に僕はがーんと衝撃を受ける。  
予想していたことだが、本人に断言されるのはやはりショックである。  
なによ!なによ!と姉ちゃんはぷんぷんしている。  
それなのに僕を抱きしめる手にはより力が込められた。  
おっぱいが僕の顔をやわらかく圧迫する。  
「じゃ、じゃあ、教えてみろよ!」  
ショックで捨て鉢になった僕がいうと、姉ちゃんが、売り言葉に買い言葉で、  
「いっ、いいわよ!」  
と答える。  
 
「まっ、まずは…!」  
と言って僕から体を離す。  
そしてぷんぷんとした表情で姉ちゃんが視線を落とす。  
そして固まる。  
僕の、アレに、視線を止めた。  
だって、そりゃあ、あんだけのことがあれば。  
僕は良く我慢した方だと思うけど。  
……勃つのは我慢できない。  
僕は、うっと赤い顔を下げる。  
姉ちゃんのせいじゃないか、と思いながらも、驚いた表情で見つめられると、恥ずかしくてなんだかいたたまれない気持ちになってくる。  
 
姉ちゃんは戸惑いの表情を見せる。  
「あの、」  
どうしようといった顔で僕を見上げる。  
今になって、からかいすぎた、と思っているのかもしれない。  
だけどこうなれば僕も引き下がれない。  
「やっぱり教えられないんだ」  
と言ってふんっと息を吐くと、負けず嫌いの姉ちゃんは、  
「おっおしえられるわよ!」と赤い顔を更に赤くした。  
 
姉ちゃんはおたおたとしながら僕のファスナーに手を伸ばす。  
そしてそれをそーっと下ろした。  
ボクサーパンツをずらして、かたくなった僕のものをおずおずと取り出す。  
そしてそれをさするようにして、さわさわと掌でなぞる。  
こそばゆい感覚に、僕は肩をすくめる。  
なんだこれ、なんでこんなことになったんだっけ。  
なんでこんな夢みたいな状況になってるんだっけ。  
急展開に、頭の中がついていかない。  
まじで?まじでか?いいのかこれ?  
息が荒くなっていくのが自分でもわかった。  
姉ちゃんはびくびくと僕の様子をうかがいながら、きわめて控え目に手を動かす。  
 
「っあ」  
 
たまに僕が声を出し身をすくめると、姉ちゃんもぴくりと身をすくめた。  
そわそわとした快感が高まっていく。  
しかしだんだんと姉ちゃんの手の動きは小さくなっていく。  
……焦らされているんだろうか。これでは生殺しである。  
 
「ねえ、ちゃ、それだけ?」  
僕は目を薄く開けて言う。  
姉ちゃんはうっ、と、ばつが悪そうに僕を見つめ、  
「ち、ちがうわよ!」  
と言った。  
 
そして一瞬の逡巡の後、僕のアレに3度ばかり口をつけた。  
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と小さな音がする。  
細かな刺激が伝わる。  
そして先端をぺろと舐めたあと、また僕の様子じーっとをうかがっている。  
そして僕の反応を待っている。  
…そ?それだけ?というのが僕の正直な感想だった。  
 
「き、きもちよくない?」  
姉ちゃんが聞いてくる。いや、そんなことはないんだけど…  
僕が答えられずに、はぁはぁと息を吐いていると、姉ちゃんはどうしよう、どうしよう、と悩んでいるような様子であった。  
そして、突然そうだ!というような顔をして、トップスのファスナーを下げていく。  
豊満なバストの谷間が見え、ファスナーがすべて下りると、姉ちゃんは黒いブラジャーの上に赤いトップスを羽織っただけのような状態になった。  
そしてもたもたとした手つきで、ブラジャーのフロントのホックを外した。  
ああ、窮屈だった!とでも言わんばかりにぷるんと揺れて、姉ちゃんのおっぱいが顔を出す。  
真っ白なたゆんたゆんの胸。その先の薄桃色の突起。  
 
…神様、僕もう死んでもいいです。  
 
そして姉ちゃんはためらいがちに、そのバストの中心に僕のものを挟んだ。  
きゅう、と小さく圧迫する。  
やわらかにつつむようにしながら、僕のものの先端の粘液を、胸と胸の間にまぶすように動かしていった。  
僕は快感に思わずぎゅっと目をつむる。  
「レン、気持いい?」  
僕の反応が気にいったのだろう、姉ちゃんがそう尋ねる。僕にはからかうような調子にも聞えた。  
子どもだとまた馬鹿にされているようで、悔しさと恥ずかしさが混じったような気持ちになる。  
姉ちゃんは少しずつ動きを早くしていく。  
緩急のついた刺激が僕のものに伝わり、思わず腰を引いてしまうようなぞくぞくとした感覚を覚えた。  
 
僕はなんとか目を開け、薄目でメイコ姉ちゃんを見る。  
涙目になっていないか不安だったが、少しでも意地を張りたかった。  
ぼやけた視界が焦点を結ぶ。  
すると、姉ちゃんは声の調子から想像できるものとは、まったく違う表情をしていた。  
頬はうっすらと赤くなっていて、どこか不安げに、見上げるようにして僕を見ている。  
僕と目が合うと、ねーちゃんははぁはぁと息をつき、一度休むように動きを止めてから、また両手に力を入れた。  
 
ぷりぷりとした両方のおっぱいが、僕のものを圧迫する。  
「うぁ」  
その刺激に、僕はまた目をつむる。  
おっぱいの横に添えた両手を、ぎゅうぎゅうと、押したり、引いたりしながら、メイコ姉ちゃんは上半身を少しずつ前後させる。  
姉ちゃんの胸は、ものすごくやわらかいのに、それでいて押し返すような感覚で僕のものを包んだ。  
快感が腹の下の下、腰の奥でどんどんどんどん膨らんでいく。  
僕は薄く目を開いて、メイコ姉ちゃんを見る。  
腕の動き、上半身の運動は、僕が思うよりも体力を必要とするものらしい。  
その額、頬、首筋、胸、腕に、玉の汗が浮いていた。  
姉ちゃんは眉を下げ、目を細めて、口を引き結んで動作に集中していた。  
頬を上気させ、時折薄紅色の唇を薄く開いて、こぼすように熱い息を吐いている。  
その様子はとてつもなく奉仕的で、僕は、先程目を閉じて聞いた挑発的な姉ちゃんの声の調子とのギャップにくらくらする。  
ぬるぬると粘液で密着した胸と胸の間はまるでひとつの粘膜のような感覚で、僕のものをきゅうきゅうと包みこむ。  
 
めちゃくちゃ気持ちいい。  
正直僕のものはもう暴発寸前である。  
姉ちゃんが動く度に、姉ちゃんの汗と、僕の先走りだかなんだかが混じり合って、姉ちゃんのおっぱいの間からくちくちぬちぬちと粘性の水音がする。  
姉ちゃんのおっぱいが僕のものの上を上下する度に、とんでもない快感が腰から背中をかけ上り、目の前がチカチカと点滅する。  
 
「め、ねえちゃ、あ!!」  
僕はぎゅっと肩をすくめる。  
手をやっていた姉ちゃんの髪を思わず握るようにしてしまう。  
びくびくと自分のものが収縮するのがわかる。  
「ひゃ」  
限界を超えた僕の、精液が勢いよく飛び出して、姉ちゃんの顔に飛びかかり、姉ちゃんの驚いたような声が聞こえた。  
 
僕は息を整える。  
か、顔にかけてしまった。  
「ねえ、ちゃ、ごめ…」  
メイコ姉ちゃんの方を見る。  
姉ちゃんも僕のほうをみる。  
なんだか放心状態のようだ。  
それでも僕と目があうと、にこ、と笑おうとしてくれた。  
 
顔にかかった精液は、とろ、と流れて、姉ちゃんの顎をなぞった。  
そして良く見れば、姉ちゃんのおっぱいの上にも、白い飛沫がとろとろと撥ねている。  
それはゆるりと流れて、さっきよりぷくりと立った姉ちゃんの乳首の方へと流れた。  
それは今射精したばかりの僕を再度奮い立たせるに足る情景だった。  
もうがまんなんかきかない。  
 
僕はばっ!と起き上がると、がばっと姉ちゃんに覆いかぶさる。  
「レっ  なっ …!」  
姉ちゃんは困ったように眉を下げて、目をぎゅっとつぶって声を上げる。  
僕は姉ちゃんの首筋にちゅうと吸いつく。  
「 っ ん!」  
姉ちゃんはびくりと肩をすくませる。  
僕は舌をそのまますべらせる。  
「レん、 ま 、って、あ!」  
はあはあ息を吐きながら、僕は姉ちゃんの耳から首にかけて舌を這わせる。  
右手を姉ちゃんの胸にやり、やわらかいそれを揉む。そして指先でその先端を撫でる。  
びくりと姉ちゃんの体が跳ねる。  
「 あ、  っやぁ!」  
姉ちゃんはじたじたとあばれる。  
だが僕はもう歯止めがきかない。  
押し倒した姉ちゃんの、足の付け根、短いスカートのすその真ん中、その部分に僕の太腿があたるよう僕は脚を動かす。  
太腿を”そこ”に押し当てて、する、と上へ動かす。  
「!!  っ  あっ 」  
姉ちゃんは泣きそうな声を出す。  
布地越しに、その向こうの粘性が伝わる。  
濡れてる。  
僕が太腿を少し動かすと、姉ちゃんは声を我慢しようとびくりと身をすくめる。  
その情景に僕はどうしようもなく興奮した。  
 
僕のアレはすでに臨戦態勢を再開している。姉ちゃんが薄く目を開きそれを見る。  
僕は姉ちゃんの下着に手を伸ばす。それを下ろそうと姉ちゃんのスカートの中に無遠慮に手を突っ込んだ。  
「だめえ!」  
姉ちゃんが声をあげ、僕の腕をつかむ。  
だがしかし、まったく腕に力が入っていない。  
僕はそのまま動作を続けようとする。  
「ねえちゃ、ぼく…」  
眉を下げ姉ちゃんを見つめる。  
好きだ、そう言いかけてしまいそうになったその時、  
 
「うそなの!」  
 
姉ちゃんが半泣きで声を上げた。  
はた、と僕は動きを止める。  
 
嘘って、なにが、  
 
「だめなの、 わた、 わたし」  
姉ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で僕を見上げる。  
はあはあと息はあがり、真っ赤な顔で、薄く開いた目がうるんでいる。  
なんの話だろう。ぼくがぼーっとした頭で姉ちゃんを見つめていると、しばらくはあはあと息をついた後、姉ちゃんはこう言った。  
 
「  せ 、せっくすなんてしたことな い。  こわ い の」  
ぼそぼそと、聞き取れない程の小さな声だった。  
それだけ言うと、恥ずかしそうに腕で顔を隠してしまった。  
かろうじて腕の影から覗く、耳たぶまでもが真っ赤になっている。  
 
僕はしばらく姉ちゃんが何を言っているのかがわからなかった。  
じわじわと言葉の意味が染みてくる。そして、目の前の情景を脳が認識する。  
かあああっと顔が熱くなる。  
つまりは、姉ちゃんは、僕に意地を張っていただけで、つまりは、つまりは、つまりは、  
 
はじめてだっていうことだ。  
 
そしてその事実を僕にやっと話した姉ちゃんは、真っ赤になって、縮こまっている。  
胸の奥がぎゅうっと熱くなる。  
一時停止したことで、段々と頭の中が冷えて行く。  
そりゃあ僕は、姉ちゃんと、セックスしたいし、入れたいし、出したい。  
でも、でも、  
僕は姉ちゃんに嫌な思いをさせたいわけじゃない。じゃあ今しようとしてたことはひどいんじゃないのか?  
固まっている僕を、肩で息をしながら困ったような顔で姉ちゃんは見上げる。  
僕は姉ちゃんをぎゅうと抱きしめる。  
僕の硬くなったあれが姉ちゃんにあたって、姉ちゃんはまたびくりと身をすくめてぎゅっと目をつむる。  
僕がするりと姉ちゃんのふとももに手を這わせると、姉ちゃんはやはりまたびくりと体を震わせた。  
そりゃあ、今この瞬間、完全にアクセル全開の状態で、我慢をするのは正直死ぬほど辛い。  
だけど、  
姉ちゃんに痛い思いや嫌な思いをさせるのはもっと嫌だ。  
 
僕はようやく腹をくくった。  
「メイコ姉ちゃん」  
びくっ、と体を跳ねさせたあとで、おそるおそると言った感じで姉ちゃんが僕を見上げる。  
僕は姉ちゃんの目を見て言った。  
「ぼくは、姉ちゃんが、好きです」  
 
ぽかんと、姉ちゃんが僕を見返す。  
当然だ。こんな状況での告白なんて聞いたことない。  
上手く言葉が出てこない。  
 
「ずっと、ずっと、好きでした、だから」  
 
姉ちゃんの目を見てにこっと笑う。  
「ぼくは姉ちゃんにひどいことはしない」  
 
僕は起き上がって、姉ちゃんにばさりと毛布をかけてあげる。  
「え、え、」  
まだ状況が理解できていない様子の姉ちゃんに、姉ちゃんの服を渡してあげた。  
そして僕自身も急いで服を着た。  
そして部屋を急いで出ようとして、ふと立ち止まり、我慢できずに振り向いて、一度姉ちゃんをぎゅっと抱きしめた。  
「変なことしてごめんね」  
 
それだけ言って僕は急いで部屋を出ようとする。  
急げ、急げ、今だって必死に我慢しているのだ。  
早く部屋を出ないとまた我慢できなくなるかもしれない。  
「レ、レン!」  
姉ちゃんが僕を呼ぶ。  
僕はドアを開けてから振り向いて、  
「着替えたら教えて、じゃあね」  
と言って急いでドアを閉めた。  
 
 
僕はドアの外で頭を抱えて悶絶する。  
ああ、これでよかったのか!?これでよかったよな!?  
あああああ、とんでもないチャンスを逃したような気もする。  
だけどこれで良かったのだ。  
姉ちゃんはこれから僕を避けるかもしれない。  
でも言えて良かったんだ。我慢できて良かった。  
僕は男らしかったぞ。  
ああ、だけど、だけど…!  
後悔や色々な感情が頭の中をぐるぐる回る。  
僕は思い足取りでリビングに1人向かった。  
どさりとソファに座りこむ。  
明日からどうしよう…  
そんなことをぼんやり考えながら、心身の疲れと、はじめてのアルコールで、僕は、気づけば眠りのうちに落ち込んでいった。  
 
なんだか甘い匂いがする。  
暖かい。  
やわらかい。  
気持ちいい。  
ゆっくり目を開けると、朝の柔らかい日差しの中に、赤い服とさらさらの茶色い髪が見える。  
姉ちゃんが白い手で、僕の髪を撫でていた。  
僕は姉ちゃんに膝枕をされている。  
僕にはいつの間にか、薄いケットがかけられている。  
夢だろうか。良い夢だな…  
そう思いながら僕がぼんやり姉ちゃんを見つめていると、姉ちゃんも僕の方を見た。  
そして僕と目が合うと、突如慌てたような顔になる。  
「レレレレレレン、起きた!!!??」  
姉ちゃんの顔がどんどん赤くなる。  
「あ、あの、あの…昨日はごめんね、あの、私…」  
しどろもどろに僕に謝る。  
夢じゃ、ない。  
 
僕はがばりと起き上がる。  
姉ちゃんは、赤い顔で、うつむいている。  
「いや!ぼくが、ごめん、あの」  
「いや、ちがうの、私が、」  
「いや、僕が、」  
「ううん!私が!」  
「ちがうよ!僕が!」  
お互いゆずらず声が大きくなっていき、顔を上げて、ばっちりと目が合う。  
姉ちゃんは、う、と体に力をこめて、耳までじわじわと赤くなっていく。  
 
「あの、朝ごはん、つくるね!」  
そう言って姉ちゃんがばたばたとキッチンにかけていく。  
僕は呆然とそれを見つめている。  
姉ちゃんは一度ドアの向こうに消えた。  
それから数秒後、ひょこりとドアの影から顔だけを出して、赤い顔の姉ちゃんが言った。  
 
「…レン、あの、ありがと」  
 
そしてまた、慌てたように顔をひっこめて、ばたばたと姉ちゃんはキッチンに消えた。  
その言葉の意味はわからない。  
昨日の告白に、何か返事をもらったわけでもない。  
後には放心状態の僕が残された。  
 
だけど。  
僕はなんだかむずむずとした感覚で立ち上がる。口の両端が上がっていく。  
昨日恐れていたよりは何もかもが悪くない。  
これから少しずつ、何かが変わっていくような予感がする。  
キッチンからは、僕の好きなバナナミルクの匂いがしてきた。  
僕はこっそり、昨日から累計3度目のガッツポーズを取った。  
 
 
 
 
 
[ おわり ]  
 
 
 
【おまけ】 あねどきっ!+  
 
 
   
豪華な室内に、きゃっきゃっと楽しげな声が響く。  
ミクとリンは、海の見えるホテルのスイートでくつろいでいた。  
 
「うふふふ」  
「?なあにミク姉ちゃん」  
「リンちゃんはやさしいねー!」  
「えっ、な、なにがっ?」  
「ミクはわかってるよお」  
「えっ」  
「うふふ、カイトお兄ちゃんとールカちゃんがお仕事でいないからー」  
「!」  
「レンくんのためにー」  
「!!」  
「ミクとお泊りしたんだよね!」  
「ばれてたのかー」  
「ばれてるんだよーうふふ」  
「だってさ」  
「うんうん」  
「レンってさ」  
「うんうん」  
「私の助けがないとなーんにもできないし?」  
「うふふふ〜」  
「お姉さんのリンが助けてあげないとね!」  
「リンちゃんえらい!」  
「えへへへ。レンには言わないでね」  
「言わないよお」  
 
ホテルの最上階、楽しげな声はまだまだ続く。  
   
 

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