「ハッピーバカイトー!」
横からばたばたと走ってくる音に混じってミクの声が聞こえたかと思いきや
振り向く間もなく突然押し倒され、直後視界が真っ暗になった。仰向けに
倒され、後頭部を打ちつけて一瞬飛びそうだった意識をかろうじて頭の中に
留めて、この超展開気味な状況を整理しようと試みる。
──俺は1秒前にミクに押し倒された。今僕は仰向けに倒れていて、顔の上に
柔らかな、否柔らかくも何か内に芯の入ったものがのしかかっていて視界は
ゼロ。乗っかっている何かの重さは、おおよそ40kg前後か。うん、衝撃を受け
てもカイト体重計の精度に狂いはなし……って、えぇええ??!?!?──
「えへへー、カイトお誕生日おめでとー」
パニックになっているのにも気づかずミクが声を上げる。ミクの声は空気を
介してだけでなく、のしかかっているミクの体からも直接振動が伝わってくる。
──神様仏様感謝します。ミクと戯れ続けて長いこと2年半、この絶妙な感触と
重みを顔いっぱいに堪能できるチャンスを下さってありがとうございます──
「今からチョコ出してあげるねー」
──……は?え、うそいや待ってくれ!!俺流石にそっちの趣味は──
反射的に嫌な予感がしたカイトは渾身の力でもがき出す。カイトの火事場の
馬鹿力の前にはさすがのミクも押し上げられて、カイトの上から転げ落ちてしまう。
結局ミクの乗っかっていた時間はわずか11秒だった。
「冗談よー。そう都合よく出るわけないじゃんー。あ、こっちが本物のチョコねー。
大体下着穿いてるのに何処から出そうってわけー?」
──すまんミク、それ以上言わないでおくれ。もしそれが冗談だったら、
僕は飛んだ思い違いで最初で最後の機会を、たったの11秒で台無しにして
しまったと認めることになってしまうんだよ……──
「なぁ、ミク……もういっかい」
「……」
──あぁぁミクそれは笑顔とは言わないんだよ、やっぱもうだめだ、
かくなる上は他のSS書きさん、僕にチャンスを今一度だけどうか!!──
「……ってマスターがテキストファイルに書いてるんだけど、ねぇカイト」
──ぎゃあああマスターのばかやろーくぁwせdrftgyふじこl──
その後、カイトの姿を見た者は、誰もいなかった。