「めーこ姉、最近スカートの下にレギンス履いてるね。どうして?」  
 
家族揃って夕飯を食べている時に、リンがそんなことを言い出した。  
私は、うっかり手にしたスープカップを落としそうになるのを必死で堪える。  
リンは、今までそういった物を身に付けなかった私が使い始めたことが、単に不思議なだけなのだ。好奇心の塊のようなこの子は、どんな事柄でも疑問があれば口に出さずにいられない。それ故に空気読まない。  
リンの言葉に家族の視線が一斉に私へ向けられる。  
「そうそれ! ミクも気になってたんだー。どうしたのお姉ちゃん?」  
向かいの席でミクがフォークを持ったまま首を傾げている。リンはレンと顔を見合せながら好き勝手話し始めた。  
「冷えて寒いとか?」  
「今更かよ?」  
ちょ! 失礼ね! 年だって言いたいのあんたたち!!  
いやいいや落ち着くのよ私。しっかりしなくちゃ。ここで動揺を見せるわけにはいかない……!  
腹に力を込め、至って冷静な声が出るよう意識する。  
「この間服を買いに行ったら、可愛いレギンス売ってってね。使ってみようと思って買い込んだのよ」  
よし! 普通に言えたはず。が、状況はそんなに甘くはなかった……らしい。  
「え、でも、お姉ちゃんレギンスとかスパッツは好きじゃないって言ってなかったっけ?」  
「あ〜わかったあ! めーこ姉、外でぱんつ見えちゃうようなコトあったんでしょ〜。風が吹いて、スカート捲れちゃったりとか?」「ぶっ! いつの時代の少年マンガだよ」  
なにを言い出すのよこの子たちは! 私がそんなヘマするわけないじゃない!  
「そんなわけないでしょ! 外じゃ鉄壁のガードよっ」  
しまった! つい声を荒げてしまった。これじゃ突っ込んでくれと言わんばかりじゃないの。私のバカ!  
 
「「「じゃあなんで?」」」  
 
私を見る年少組の目には明らかに「このネタ面白そう!」と告げている。目は口ほどにものを言うとは良く言ったものだわって感心している場合じゃない。普段からかいの的になりづらい私が見せた隙に、ここぞとばかりに食いついてくる。入れ食いだ。  
「……だから言ったでしょ。可愛いレギンス買ったから」  
こうなると何を言ってももう全部嘘っぽいが、本当のことを言うわけにはいかないのでさっきの台詞を繰り返した。  
ていうか、嘘なのは子供たちに見透かされているんだろう。案の定、納得していない顔をしている。「もういいでしょ。みんな」  
 
苦笑交じりにそんなこと言い出したのは、普段のいじられ役のカイトだ。いつも通りの穏やかな声だけど、私の身体はちょっとだけ強張った。  
「いい加減にしないと、めーちゃんが本気で怒っちゃうよ? いじられるの慣れてないんだから」  
「え〜。カイト兄は気にならないのー?」  
食い下がるリンにカイトは穏やかに返す。  
「いいじゃん、レギンス。めーちゃんは家での私服もミニスカート多いから、履いててくれている方が目のやり場に困らないし。僕は賛成。ねえレン」  
「んー。それはそうだけど」  
我が家の男性陣は私のぱんつが見える度、ミクとリンに『すけべ!』と謂れのない非難を受け割を食う。そんな時、特にレンは思春期も手伝って、いつも気まずそうに目を逸らしていた。ごめんねレン。お姉ちゃんが悪かったわ……。  
「変なの。なんだかお姉ちゃんとお兄ちゃんいつもと立場が逆な感じ」  
う。ミク、痛いところを……。  
「ホント。いつもならカイト兄がイジられて、めーこ姉がいいかげんにしなーって言うのにね。やる気のない棒読みで」  
「それより、三人とも早く食べないと。せっかくのグラタンが冷めちゃうよ?」  
カイトの、のほほんとした台詞に、あ。と年少組は思い出したように自分の食事に取り掛かる。今日のメニューは料理番組で紹介していたグラタンを見た子供たちに、「アレ食べたい! 作って!」とせがまれたものなのだ。  
冷めてしまえば美味しさも半減になってしまう。興味は目の前のグラタンに移ったようで、ミクが味のアクセントにネギは必要!と熱弁を奮い双子はウンウンソウダネーと適当に聞き流している。  
……食事に執着する子たちで良かった……。  
ほっと小さく息をつくと、視界の隅でカイトが声を出さずに笑っていて、思わず睨みつけた。  
だってねえ。私がレギンス使っているのも、その理由を言えないのも。  
全部あんたのせいじゃないのよーーー!  
 
コトの発端は、先日和室で天袋の整理をしていた時の出来事だ。  
とある『事故』があって、あろうことか、私はすぐ下の『弟』と……あってはならない一線を越えてしまった。  
朝、自室で目が覚めた時、あれは夢なんじゃないかと思った。我が家のキング・オブ・ヘタレのカイトが私をどうこうするなんて、性質の悪い夢じゃないかって。  
むしろそんな夢を見た私がもしかして欲求不満なの? とベッドで頭を抱えてしまったほどだ。  
だけど、シャワーを浴びようとバスルームで下着を下した時、現実だったと思い知らされる。  
――あの馬鹿! がっつり中で出してるーーーー!  
アソコから糸を引き、下着にべっとりついた粘つく白いソレは、まごうことなくカイトの……アレだった。  
『夢』を現実のものだと信じたくなくて、あえて無視していたこの腰のダルさも股関節の痛みも……マジで?  
私たちはボーカロイド。血縁関係も皆無で、そもそも人間じゃない。中で出されたって妊娠するわけではないけど、正直ショックだった。  
人間だったら禁忌の行為。カイトに姉としての私を否定された気がしたからだ。  
どうしよう。どんな顔してカイトと接したらいいか分からない。  
良く考えてみれば、カイトや他の家族と私の接点って、『家族』と『きょうだい』しかなんじゃない? でも、この白いネバネバに家族関係きっぱり否定されてる。  
同じエンジンを使用する『仲間』っていうのもあるけど、私たちの関係はそれよりもっと深いと思う。それじゃ世に出回ってる見知らぬエンジン1は、みんなカイトと同じカテゴリーだ。広範囲すぎる。  
しかし部屋に閉じこもっているわけにもいかず、カイトとどう接するか考えあぐねながらキッチンに顔を出すとカイトが朝食を作っていた。  
「おはよう。めーちゃん」  
にこっと、いつもと同じ穏やかな笑顔。あまりにも常と変らないカイト。下着の証拠を見たのにやっぱり欲求不満(認めたくないが)の成せる夢だったんじゃないかと思った。が。  
 
「身体大丈夫? あと喉も。昨日、僕止まんなくってめーちゃんに無理させちゃったからさ」  
 
気まずさも恥じらいも全く見せず屈託のない笑顔のまま言ってのけるカイトに、私は固まったまま二の句を告げることができなくて。  
私服がほぼミニスカしか持っていなかった私は、その日の午後にショップでレギンスを買い込むハメになった。  
 
食後、私は家族から離れて練習室へ逃げ……もとい掃除しに向かった。  
何時もなら食後はリビングで家族団欒の時間を過ごすけど、弟妹たちがさっきの話を蒸し返されたら目も当てられない。  
今度は本当のことを言うまで解放してもらえないかも。冗談じゃない! ……それに、カイトと普通に話す自信もない。あいつのことは、現状避けまくっている。  
練習室は防音加工されてて窓もなく、壁一面に細かい穴が空いている。その壁に机や譜面立てや椅子を寄せ、用具入れからク○ック○ワイ○ーを取り出し床を磨き始めた。  
……はあ、なんでこんなコトになっちゃったかなー。  
外でこそヘンな失敗しないように気をつけていたけど、家だと気が抜けちゃってミニスカの裾を気にしてなかったし、風呂上がりも平気でタオル一枚で出てきたりとかやりたい放題してた。  
気弱なカイトに何度か窘められたけど、笑って一蹴し「『弟』のくせにお姉ちゃんに欲情する気?」ってからかって、赤い顔して口ごもるカイトを面白がってた。  
今はそれも止めた。カイトを刺激したくない。  
やっぱ、あの『事故』が発端よね。  
とんでもないタイミングで下着が外れて全てをカイトに晒してしまったあの『事故』。  
さすがに自分で見ることも殆どなく、ましてや他人に見られることもなかったソコを見たカイトは、『弟』から『男』にクラスチェンジした。あとはもう……。  
余計なことを思い出しそうになって、慌てて頭を振ってそれを振り払う。ありえないありえない忘れろ! 力強い腕とか舌の感触とか結構引き締まった身体とか体温とかって、いやー! 思い出してんじゃん!!  
いけない、頭振りすぎてクラクラしてきた。柄に重心をかけて息を整える。  
落ち着け。カイトを意識しるぎるから、年少組にだってヘンに気取られるのよ。私が『お姉ちゃん』なのに最近はきょどる私に替わって、カイトが家族を仕切るのも気に入らない。  
大体、好きとかなんとか言ってたけどあんな状況で信じられるかっての。あいつは見慣れないもの見て、発情して、たまたまそこに居た私を抱いただけ。私を好きなわけじゃない。  
 
「…………」  
つんと鼻に痛みが走って、堪えた。なんで目頭が熱くなるの!  
私は結局、カイトに抱かれたことがショックなんだ。まるっと『姉』を否定されたこと。可愛い『弟』がホントは『男』だったこと。好きでもない女を抱ける奴だったこと。『私』という、最も手近な女で欲求を満たしたこと……全部が。  
じゃあ私は? カイトが『弟』を否定するなら、『男』の私はカイトにどう接して欲しかったの?  
思考回路は一向に出口を見つけられず、同じ問いをぐるぐると駆け巡る。  
……止めよう。なんだか悪い方向に思考が向かっていく気がする。でも、本当に……あいつ、どうしてあんなことをしたんだろう。 そんなことを考えていた時、練習室のドアが開いた。  
「めーちゃん、いる?」  
ひょこっと顔を出したのはカイトだ。ドアを閉め、足早に驚いて固まる私に近づく。  
「どうしたの? 髪ぼさぼさにして?」  
私の頭に手を伸ばし、髪を整える大きな手のひら。呆然とそれを眺めていたが、我に返りその手を振り払った。  
「なんの用?」  
「ミクに練習室の掃除してるって聞いたから、手伝おうと思って」「あ、後は机戻すだけだから一人で平気よ!」  
私はカイトに背を向け、ク○ック○ワイ○ーを乱暴に用具入れにブチ込んでから、壁に寄せた机を元の位置に戻そうと机に向かったが、後ろからカイトが私よりも先に手を伸ばす。  
「僕がやるよ」  
「結構よ。私がやるから、あんた皆の所に戻って」  
ああもう、尖った言葉しか出てこない。これじゃカイトを意識しているのが丸わかりじゃないのよ。  
そんな私を見たカイトは小さく溜息をついた。  
「……力仕事は僕がやった方が早いよ。めーちゃんは譜面立てお願い」  
私の返事も聞かずにカイトは机を動かし始めた。な、なんて生意気な……!  
私は譜面立てやマイクスタンドを元の位置に戻しながら、机を動かすカイトの背中を盗み見た。広い背中。机を持ち上げる腕の筋肉。  
カイトはいつもにこにこ笑ってて、弟妹たちにイジられれば私に泣きつくわで頼りない感じだったから、こうして力仕事を楽々こなすのを見ているとカイトと私の性差をはっきりと感じる。  
何時の間にこんなに男っぽくなったんだろ。昔はめーこさんって私の後ろをついて来て、私がいなきゃ何にもできなかったのにな。  
 
……それにしてもよ。カイトはどうだか知らないけど、私はものーーっすごく、気まずい。私がカイトを避けているからなんだけども、さっきから話す事も無く超無言。同じ空間に居るだけで疲れるってなんなのよ……。ちょっと前ならこんな時、軽口きいてたのに。  
気軽に取りとめのない話をして笑っていた日々が、なんと遠くなったことか。  
決めた。やっぱり『きょうだい』がいい。カイトとこんな風にぎくしゃくしてしまうのなら、普通に話せないのならあの日のことは無かったことにして、『きょうだい』でいた方がよっぽどいい。たとえカイトが『姉』を否定していても……。  
いっそ殴ったら記憶を消去することできないかしら。と、物騒なことを半ば本気で考えてた時だった。  
「めーちゃん」  
「……なによ」  
渋々、といった態で返事をした。  
「あの誤魔化し方は無いよ。年少組の挑発に乗ったらお終いだよ? こっちに都合の悪い隠し事にはハイエナのように敏感なんだからさ」  
言葉の端にかかる含み笑い。一気に熱が顔に集まるのを感じた。ちょっと! よりにもよって、なにを言うかーーーー!  
思わず手にしていた譜面立てを握る手に力が入った。  
「誰のせいだと思ってんの」  
「僕のせいなの? 挑発したのはめーちゃんじゃない」  
きっ、と私はきつくカイトを睨みつけた。赤い顔してるから迫力不足なのは否めない。  
「……言っとくけど、あんなこと、二度はないから」  
「どういうこと?」  
向き直るカイトの深く青い目が、真っ直ぐ私を見つめている。怯まずに真っ向からカイトを見据えた。  
「お、『弟』の相手は出来ないっていうこと。私たちはきょうだいなんだから。欲求不満ならそういう店に行くなり、彼女作りなさい。あんた、結構モテんだから彼女ぐらい直ぐにできるわよ」  
私はくるりとカイトに背を向け、自分の作業に戻った。というか、何故か自分で言った台詞に胸が痛んでカイトを正視出来なかったからだ。  
私に触れた手が、あの時と同じように見知らぬ女の子を抱くんだ。掠れた熱っぽい声で『好きだ』と呟きながら。自分の言葉が痛いなんてバカみたいだ。  
「……」  
後ろでカイトの身動ぎする気配を感じる。ああ、ここから出て行くのね。さっさと出て行け。これ以上私を悩ませないでよ。欲求不満の相手にされるのはイヤなの。傷つくのよ。  
涙が溢れそうになって、固く目を閉じた。  
「!?」  
 
急に身体を持ち上げられ、焦って譜面立てが手から離れた。かしゃんと譜面立てが倒れる音を耳にした時には、私の身体はカイトに抱えられていた。  
「な……!」  
カイトは練習室から出て行かず、私の背後に近付いていたのだ。そのまま並べていた机の上に座るように腰を降ろされる。  
座り込む私の両脇に手を付いて、結果、カイトの腕に囲われる形になった。これじゃ逃げられない。  
「ちょっと! なにすんのよ、どいてっ」  
「僕のこと、まだ『弟』だって本気で思ってるの?」  
「! そうよ……」  
合わされた目線。見つめてくる青い眼差しに引き込まれそう。近すぎる距離に、指一本触られていないのにあの日の感覚を呼び覚まされ、身体が熱くなった。  
「僕さ、ミクたちの前で『お姉ちゃん』しているめーちゃんは気にならないんだ。むしろそうであって欲しい。でもね、……僕に対して『姉』の顔するめーちゃんには、もううんざりしてたんだよ」  
え? 長めの前髪から覗く、揺らめく瞳が熱を孕んで私を静かに見ている。  
「二人で暮らしていた時はきょうだいなんて言われること無かったのに、ミクたちが来て気が付いたら『家族』として扱われるようになってさ。家族が増えたのは嬉しかったけど……まいったよ、実際」  
そういえば、カイトが来た頃私たちは『きょうだい』ではなかった。仲の良い同居人で、私は世話焼きの先輩で、カイトは気の良い後輩だった気がする。  
「ずっと傍にいた僕まで、『弟』扱いするんだもんな。僕、めーちゃんのこと『姉』だなんて思ったこと一度も無かったんだよ?」  
微笑みながらそう言うカイトはどこか寂しそうだ。その言葉にまた胸が疼く。ずっと? じゃあ、今まで私はカイトに『きょうだい』って思われていなかったの? カイトに突き放されたようでもの凄く悲しい。  
私はまた鼻の奥が痛んで目が熱を持つのを感じた。  
ずっと『姉』でいた私を否定され、どうしたらいいのか分からない。  
「僕が本当の『弟』だったら良かったのにね。でも僕たちきょうだいじゃないし、『弟』は嫌なんだよ」  
 
しっかり視線を合わされ、断言されて私はとうとう我慢できなく涙を零した。とっさに俯いて泣き顔を隠したけど、カイトが怯んだのが気配でわかる。  
そうよね。私がこんな風にカイトの前で泣いたのって、初めてだもん。  
「……っ、な、んで」  
しゃくりあげる私の背中を温かな手のひらが戸惑いがちに撫でている。これじゃまるでカイトに抱き締められているみたいな格好だ。「あ…あんなこと、したの……っ。私、のこと、好きじゃ、ないのに、あんなことすんの……っ」  
 
背中を撫でる手が一瞬止まり、私の頭を肩口に押し当ててから、カイトはまた背中を撫でた。  
「……なんでだと思う?」  
「う……欲求不満、だったから?」  
「…………あのさ、さっきも言われたけど、その欲求不満ってなに?」  
両肩を掴まれ、そっと身体を離してカイトは涙で濡れた私の顔を覗き込む。眉間に皺を寄せて、なんかこう、少し呆れ顔だ。  
「だって、私を『姉』だと思って、ないなら、あの時私を襲ったのは、私が、手近な女だったからじゃ、ないの?」  
盛大にしゃくり上げながらも頑張ってそう言うと、カイトはがっくり肩を落とした。あれ?  
「……だから私、悲しくて……っ。そんな風にカイトに見られてたんだって、思って……っ。『家族』って、思いたく、ない程、嫌われて、たのかなって……」  
ぽたぽたと涙が、とめどもなく膝の上に落ちていく。  
 
「全然違うよ!」  
 
何時にない大声を出され、きょとんとする。半分呆れて、半分怒った表情でカイトは大きく息を吐いた。  
「なんでそうなるんだよ! も〜〜〜っ……。好きでもない女なんて抱けないし、あの時抱いたのはめーちゃんが『下着見てもなんにもできないくせに』とか言うからその気になったんだし、下着どころかあんなご馳走見せられたら普通理性飛ぶでしょ!  
そもそも、僕めーちゃんを嫌いだなんて一言もいってないだろーーっ!」  
一気に捲し立てられ、涙が引っ込みポカンとしてしまった。言われたことに頭が付いていかない。カイトは酸欠気味になってたけど、呼吸が整うと力強く私を見据えた。  
「……めーちゃんが好きだよ。もうずっと前から」  
「……」  
「欲求不満だからっていうわけじゃなく、まして女なら誰でも良かったワケじゃないんだ。めーちゃんが僕のこと『弟』扱いするから、ちゃんと『男』だってこと分かって欲しかった。だから、あの時……」  
 
さっきはあんなに悲しかったのに、今は不思議と安心している。というか、どうしてだろう。嬉しい。  
 
カイトが私を好きって言った。私はカイトにとって唯の性の捌け口じゃなかった。  
 
「めーちゃんにしてみれば、酷いことされたって思うのは当たり前だけど、ああでもしないといつまで経っても『弟』から抜け出せないと思ったから」  
 
好きじゃない女を抱くようなヤツじゃなかった。  
 
―――『男』の私はカイトにどう接して欲しかったの?  
先程の自問が脳裏に浮かんだ。今なら答えが分かる。……私は。  
 
「めーちゃん」  
緊張を含んだ声で、カイトは私の名を呼んだ。  
「めーちゃんは僕のこと、男として好きになれない?」  
 
カイトが『弟』を否定するのなら、――カイトにとって、特別な存在として触れて欲しかったんだ。  
不安と期待の入り混じる、真剣な青い眼差し。  
私はカイトへ両手を伸ばし――ほっぺたを思いっきり左右に引っ張ってやった。  
 
「いひゃい! いひゃいよめーひゃん!」  
「……あんたねぇ、色々順番間違えまくってんじゃないのよ!」  
おー良く伸びること。カイトが涙目になったので、ぱっと手を離してやった。赤くなった頬を擦りながら、恨みがましい視線を送ってくる。  
 
「でも、告白は前にしたよ。ヤってるときにさ」  
「ばっ、バカ! あんなの告白の内に入んないわよっ」  
「……返事、聞かせてよ」  
声のトーンが変わった。そうね、ちゃんと応えなくちゃ。お互いこれ以上悲しくなったりしないように。  
「……好きよ」  
「ホ、ホント?!」  
がばっと勢いよく詰め寄るカイトに、私は思わず身を引いた。  
「あ、多分」  
「多分?!」  
「だって、今気付いたんだもん! しょうがないじゃん」  
ううう〜〜。と唸るカイトが、困った時にいつも見せる情けない顔をしていたので、つい笑ってしまった。いつもと変わらないカイトだ。  
「やっと笑ってくれた……ね、キスしていい?」  
顔を寄せてくるカイトにふいっと横を向いて、逸らす。カイトをチラ見すれば、ちょっと傷ついた表情をしている。  
「あの時はキスもしなかったわね」  
「したよ? めーちゃんがイって気を失った後……」  
私は容赦なくカイトの脳天に拳を力いっぱい落とした。ゴッとヤバ目な音がしたけど、気にしない。「……痛いよ……」  
「だから、なんで肝心な部分のタイミングが一々おかしいのよアンタは!」  
「ゴメンね」  
唇に乾いた感触がして、カイトのそれに塞がれたと気がついた。脚の間にカイトの身体が入り込み、腰と肩を引き寄せられて私も広い背中に手を回した。  
「……ん、んん……っ」  
舌先が唇の淵をなぞってきて、びっくりしてつい開くと、カイトの舌が口腔に潜り込んできた。舌を器用に動かし、粘膜を交わし合えば互いの唇が潤いを増す。抱擁とキスはどんどん濃厚なものへと変化し、唇や舌を吸われると頭の中がぼうっとしてくる。  
なにより、気持ちがいい。  
ようやくキスから解放されると、カイトは身体を密着させたまま額をこつんと合わせる。激しい口づけに顔を上気させ、ぼんやりしている私を困ったように覗く。  
「ごめん、ちょっと止まんない……このまま、したい」  
「……えっ」  
一瞬何を言われているのか分からなかったけど、次にカイトがした動きで何を言わんとしているのか理解した。  
「だってさ……」  
脚の間にあったカイトの腰の位置は、ちょうど私の、その、大事な部分。そこにカイトは自分の腰を押し当ててくる。  
欲望に首を擡げているそれを着衣越しに感じた。  
「ね、ダメ……?」  
「あ、待っ……」  
言いながら、カイトの手のひらは身体を探ってくる。そのイヤらしい手付きが、カイトに奪われた時の感覚を呼び覚まし抵抗なんかできるはずもなかった。  
 
耳朶を舐め、首筋に軽いキスを幾度も降らせて、大きく前を開けたシャツの内側にカイトの手が潜っていく。  
ブラのホックを外され乳首を爪弾くと身体がびくびくしてしまう。  
「勃ってきた……」  
囁きと刺激がぞくりと背筋を這う。私は机の上に座り身体を逸らせ、後ろ手を付いてカイトの愛撫を受け入れていた。  
ブラをたくし上げ、質量を確かめるよう乳房を揉みしだく手のひら。青い髪が降りてカイトはその谷間に鼻先を埋めた。  
「柔らかいなあ。触ってるだけで気持ちいい」  
「おっぱい、そんなに好き?」  
「大好き!」  
嬉しそうにそんなこと言われると、こっちが照れる。自分の顔に挟むように乳房を寄せ、頬ずりしてきた。肌に触れる髪と吐息の感触がこそばゆい。  
「や……、くすぐったい」  
「じゃあ、こう…は?」  
掴んでいた両の膨らみの硬くなってる中心を、親指でぐっと押し潰す。そのまま指をくりくり動かされて悲鳴を上げた。  
「ああっ! やぁんっ」  
「乳首、本当に弱いよね。お風呂で身体洗ってる時も感じちゃうの?」  
「ん、なワケ、なぃ……あぅっ!」  
「ふーん? ホントかな? 今度試してみようよ。僕が洗ってあげる」  
親指の刺激が退いたと思ったら間髪入れずソコを咥えられた。ちゅっちゅっと音を立てながらねぶり、舌先で弾いて吸う。  
もう片方の乳首も指で抜くように引っ張られ、堪らず快感を逃がす様に頭を振った。  
「ひ、あ、あんっ! そ、そこばっか、やぁっ……」  
「だってとっても綺麗な色してるし、反応好いから弄りたくなるんだよね……それはこっちも、なんだけどさ」  
胸から離れた手が、今度は膝に置かれる。脚を開いているから、デニムのミニスカはかなり上まで捲れ上がって、グレーを基調に小花柄の散ったレギンスが大きく覗いていた。  
レギンス越しに腿を撫で回しながら、私を机に押し倒した。腰までデニムの裾をたくし上げ、レギンスに覆われた下半身を露わにされる。  
「……染みてる」  
「え……っ?」  
「グレーの生地って、濡れるとこんなに目立つんだね。下着通り越してレギンスに染みてるよ」  
「!!」  
 
カイトの言う意味をやっと理解して赤面する。やだ、なんてこと言うのよ。  
「それにさ、レギンスが身体にぴったりしてるから、ココの形がはっきり分かる」  
笑みを浮かべたカイトは脚の間、大事な部分の形を指先で辿る。時折ぷにぷにとソコを抓まんで感触を楽しみながら。  
「や……っ、止め……」  
「どんどん染みが広がってく。あ、ここクリトリスかな?」  
爪の先がちょっと硬くなってるソコをこりこりと引っかいて、布地越しなのに過敏に反応しちゃう。「は、あっ!」  
面白そうに悪戯するカイトに、悔しいやら恥ずかしいやらで涙が浮かんでくる。レギンスは下着が見えないように、『事故』を起こさないための配慮として身に付けたアイテムなのに。これじゃ私を辱めるための道具じゃない。  
「止めてよ、ヘンタイ……」  
「……うーん。困ったな、否定できないや」  
カイトが眉を下げて苦笑して、腰の辺りを覆うレギンスの縁に指をかける。  
「腰、上げて。降ろすから」  
ちょっとだけお尻を上げると、脚の付け根まで下着ごとレギンスを降ろされた。  
下腹部の前面だけ出されたけど、それでも大事な部分はカイトの眼前に晒されてしまい、不安で身体が竦む。  
「ここの毛、ぐっしょりだ。薄いのに張り付いてる」  
陰毛を軽く引っ張る刺激にも声が出そうで、口元を手で覆う。だってはしたないにも程があるわ。カイトに触られる程に感じちゃって仕方ないなんて。  
下腹部に顔を寄せて舌が割れ目に沿って動き、差し込まれた。じゅぷじゅぷ音をさせながら暴れる舌が、その先端を硬化させクリトリスを擦り攻めてくる。我慢できずに動いてしまう腰をしっかり押さえこまれ、逃げられない。  
「……うっ、あ……あっ」  
必死で声を噛み殺そうとしても与えられる快感は予想を超えていて、今からこんなじゃ、この先は一体どうなってしまうの?  
舌はまるで別の生き物みたいに私のアソコをぬめぬめ動き、たまに鼠径部を辿る。粘膜を啜りあげる音と唇に腰が震えた。  
カイトは既に私をどうすれば乱れさせるか、それはもう前回で把握済みのようで、敏感過ぎる肉の尖りを執拗に舐め回し小さな口づけを何度も繰り返して、緩急つけて吸って……追い詰められる。  
……あっ。  
「は……っ。カ、カイトっ、ダメ、もう……ねぇっ」  
 
私のアソコに吸いつく青い髪に両手をかけて、カイトの名を呼ぶ。腿が震えてじっとしていられない。ざらりとした生温い舌が尖りをひと舐めし、舌先でコリコリ嬲ってから強く強く吸い立てた。  
「カイ、ト! ひっ、あ、あ……っ!」  
半身を押さえこまれ、びくびくっと激しく震え胸が大きく喘ぐ。恥ずかしい位に呆気なく、私は達してしまった。  
 
 
カイトは口元を袖で拭い、私の上に乗ってぎゅっと抱き締めた。ほっぺたに何度もキスされ、イったばかりの身体はそれすら性感として反応し、小さな声を漏らしてしまう。  
「めーちゃん、ものすごくエロくて、ものすごく可愛いよ」  
「……! バカっ」  
「一緒に気持ち良くなろ」  
耳元でそんなこと呟いて私から離れてから、後ろを向かされ立たされた。机に手を付かせると、カイトはスカートを腰の上まで上げた後、レギンスを膝の関節まで一気に降ろした。  
とうとう秘所を隠すものが無くなり、全てがカイトの前に曝け出された。今更ながら羞恥で身が一杯になる。あの時も似たような格好でカイトに全部見られちゃったんだわ。  
「ちょっと、カイト、や……!」  
思い出したらじっとしていられなくて、つい暴れだしそうにって……あ、あれ? 脚が、脚がレギンスが邪魔で動かせない! ……まさか?! 背後ではカチャカチャと鳴る金属音と衣擦れの音。何をしているのかなんて、見なくったって分かる。  
往生際悪く、じたばたしようとする私のお尻をカイトが掴んだ。そして尻たぶに熱くて硬いモノを押し付けられる。  
「あっ……」  
覚えのあるソレに身体がびくんと跳ねた。  
「まだ挿れないから。めーちゃんのぬるぬる、ちょうだい」  
秘所の溝に合わせ、カイトのソレが擦りつけられる。くちゅっくちゅっと触れる度に立つ音。どんどん硬度を増していくソレに不安と、期待が入り混じる。  
「濡れ方がハンパないね。くっ付けてるだけでぬるぬるが太腿まで垂れてきてる」  
クリトリスに先端が当たって、お尻を揺らしてしまう。その様を見たカイトが喉で笑った。  
「ふふ。中途半端に服を脱がされる姿って、全部脱いでいるより興奮するかも」  
「な、なにいってんのあんた」  
「自分がどういうカッコしてるか分かってる? ブラウスの前全部開けて、外されたブラが肩から引っかかっておっぱい出してさ、スカート捲られてアソコ丸出しにしているんだよ?」  
「全部、あんたがしたんでしょぉ?!」  
 
改めて言われると恥ずかしさも頂点で、叫びだした声はもう泣き声に近かった。  
「うん、自分で知らなかった性癖にびっくりしてる。半端に脱がされた服とレギンスって、拘束にもなるんだね」  
「も……ヘンタイっ」  
「だから、否定できないって……いくよ」  
アソコがカイトの親指で広げられ、先端が入り口を探りぐっと圧力がかかる。ぐち、と侵入してきたソレにお尻がぴくんと跳ねた。  
「……あ……っ!」  
慣らすよう、少しづつ出たり入ったりするカイトのソレ。圧倒的な質量が私の膣を圧迫して、内側を焦れったく擦る。  
「はっ……。すご、締まるなあ」  
「……ん!」  
根元まで押し込んで、腰を掴みながら軽く揺すぶられた。早くもぞわぞわ立ち上る快感が新たな体液を呼ぶ。  
「あ、あっ、ふっ……ん」  
「可愛い声。堪んない……!」  
じゅくっ! と結合部が派手に音が鳴ったのを皮切りに、カイトが激しく動き出した。  
腰を引き寄せながら反動を利用し、硬く太く反る自らを欲求のまま打ち込んでくる。その勢いに、私の手が縋る机ががたがた不満の音を立て始めた。  
「あん、あっ! やぁ……っ、はげ、しっ、んっんっ」  
「は……っ、めーちゃ、メイコ……」  
カイトの乱れた吐息。貫かれる度に感じるアソコは、カイトを悦んで体液を零し床を汚す。そんなに動いたら、ぶるぶる揺れてるおっぱいが痛いわ。  
不意に腰を掴んでいた手のひらが離れ片腕が私の下腹部に絡みついた。  
「……?」  
不審に思って首を巡らせるとカイトと目が合い、微笑まれた。そして、カイトの空いた手が私の前に回る。  
「んっ! あ、ああっ」  
動かす腰の勢いはそのままに、前に回った手の指先が私のクリトリスを押し潰した。  
「ダメ! ダメ、それやぁ!」  
「うそばっか……ふっ……」  
「やんっ、摘んじゃ、やあ、あ、あっ!」  
快感が強すぎる。イヤって、ダメって言ってるのにカイトは全然止めてくれなくて。むしろ攻めまくってくる。力なくイヤイヤと頭を振るしか私には出来ない。このままじゃ、私……!  
「……メイコのナカ、動く……はっ」  
「ひっ、あ、あ、そんなに、したら、イっちゃう……!」  
粘膜で濡れそぼる、意地悪な指の腹が膨れたクリトリスを刺激し、ナカのカイトに小刻みにイイ所を突かれ限界だった。  
「んっ、あ、やぁ……あ、あああっ」  
身体の至る所に快感の痺れが走り、カイトを置き去りにして絶頂に身を任せた。  
 
ぐったりした私を抱え上げ、カイトはもう一度机に座らせた。向かい合って抱き締めながら抜いたアレを私の胎内に戻す。  
「……んっ」  
依然硬さを失わないアレは簡単に埋没し、私のナカは悦んで締め付けた。カイトはさっきとは違い、ゆったりと腰を使う。  
そして私のお尻を片手で抱き寄せ、もう片方の手は乳房を握り送られる緩やかな快楽に私は身を任せた。  
「気持ち良い?」  
「ん……」  
カイトの肩口に顔を埋め、うっとりと吐息をつく。激しく求められるのもイヤじゃないんだけど、身も心も流されてしまう感覚が怖い。こうやって密着して体温を交わしながら、ぬるま湯みたいな快感に浸るのは安心する……。  
視線を上げると、私の様子を窺っていたカイトと視線が合う。カイトの顔が降りて、キスをした。ちょっとだけ舌を絡ませ離した。  
「こういうのも悪くないね」  
生意気な顔で笑うから、鼻の頭を軽く齧ってやった。  
「痛いなあ……」  
「はっ……あん!」  
仕返しなのか、強めに揺すられて甘い声が上がってしまう。肩に置いた手にぎゅっと力をこめた。  
「……生意気なのよ、弟のクセに」  
「まだ言うの、それ」  
「ん……」  
気分を害したのか、耳に舌を這わせ穴に潜りこまそうとしてくる。ぞわぞわと悪寒に似た快感を背筋に感じ、本音がぽろりと零れ出た。  
「皆の、前では……お姉、ちゃんが、いい……あっ……」  
皆の前では。言葉の真意を酌んでくれたようで、また動きが緩やかになる。それでも私より正直なアソコからは、濡れた音がどんどん増していった。まるで高められた性感が身体中を過敏にしたみたい。  
「すごいね、アソコからぐちょぐちょ音がする……。突く度締まるし、気持ち良すぎ」  
はぁ、とカイトが熱い溜息をつく。  
「めーちゃんは、きっと感じやすいんだね」  
「……知らない」  
顔を見られたくなくて、また肩口に顔を埋める。恥ずかしい。  
「僕、正直上手くないし、それでもめーちゃんはいっぱい反応するし、濡れるしさ……今だって」  
 
ぐじゅぐじゅっと、わざと結合部の音を立てさせる。あ、あっ……。  
「んっ! ……違うわよ、ばか」  
え? とか聞こえた気がしたけど知らんぷりしてカイトに擦り寄る。ああもう、なんにも分かっちゃいないわこいつ。  
身体が感じやすいだけだったら、まるで私が他の男に抱かれても同じように反応するみたいじゃない。  
「なにが違うのさ」  
「や、ダメっ!」  
 
乳房をまさぐっていた手が、また乳首を愛撫し始める。言わせる気? もう〜〜。  
「ねえってば」  
「〜〜〜〜……だから」  
「え? 聞こえない」  
「あんただから! カイト限定なの!」  
あたりまえじゃない。あんたが触れるからどうしようもなく身体が疼くの。好きな男に抱かれるから喘ぐのよ。  
ああ、最初にこのことに気がついてたら、私もこんなに悩まなかったのにね。  
カイトの動きがぴたりと止まり、ん? と思ってたら、私のナカでぴくんとアレが跳ねた気がした。へ?  
「めーちゃん!」  
名前を叫ばれ両手でお尻を鷲掴みされて、ぐりぐりと股間を押し付けられた。奥へ奥へと潜ろうとする動きに強い快感が再び私を襲う。いきなり打って変った強い刺激に困惑しつつ身体は直ぐに反応した。  
「……は、んっ……あ、ひゃんっ」  
「なにそれ、そんなコト言われたら、止まんないよ……!」  
「ひっ! ま、まっ……んぁっ」  
奥を求めて抜差しするカイトは細かく腰を使う。かと思えば、ねっとしとした動きでどうしようもなく感じてしまう所を執拗に刺激した。荒い息が耳元に当たり、カイトの興奮が如実に伝わって、私も煽られる。  
私を求めるその激しさに翻弄された。  
「好き……はっ、めーちゃ、大好き」  
私のナカがまだ足りないと言わんばかりにカイトをきゅうっと求める。もっと、もっと欲しい。カイトを感じたい。  
「あ、あっ、私もっ……私もす、き」  
攻められ続け、喘ぐ唇を塞がれた。穿つ下半身の速度が増していく。貪るように唇を吸われ、舐められて離された時にはもう絶頂は直ぐそこまで迫っていた。  
「あっ、あああっ! カイト、カイトっ……も、う……」  
卑猥な音がより一層耳に付く。苦しそうな息の下でカイトは絞り出すように口を開いた。  
「僕、も……イきそ……」  
「一緒……一緒がい、い。は……ぅっ」  
脚をめいいっぱい開き、もっと体温を感じたくてカイトの背にしがみ付く。あ、あ……!  
「きて、ああっ……あ、あっ……んっ!」  
「っあ! イク……メイ、コ……メイコ!」  
びくびくと中でカイトが爆ぜ、抱きついていた身体が大きく震えた。息を乱し私に寄りかかってくるカイトが愛しい。  
私たちはセックスの余韻に浸りながら、燻る体温を交わし合い机の上に重なって身を横たえた。  
 
「めーちゃん! そんなカッコでうろつかないでよ!」  
カイトの声が廊下に響く。ちっ、見つかったか。  
私は風呂上がりでタオル一枚という出で立ちだ。素知らぬフリをして真っ赤な顔したカイトの脇をすり抜け、キッチンに向かう。  
「だって暑いんだもーん」  
「パジャマぐらい着て! 頼むからさぁ……」  
冷蔵庫から缶チューハイを出していると、付いてきた来たカイトがぶすっとして缶チューハイを取り上げ、プルトップを開けてくれた。  
「ありがと!」  
満面の笑みで礼を言っても、カイトは渋面のまま。おまけに大仰に溜息まで吐いた。  
「最近また恥じらいのない格好するようになったよね。レギンスも履いてないし……」  
「レギンスは外出する時に履くようにしたの」  
「あ、そうなんだ。それなら……って、違う! 家の中でも履いてよっ。レンだっているんだよ?」  
「レンにはこないだ、『メイコ姉のパンチラは豪快すぎてむしろエロくないことに気がついた』って言われた」  
へへ、と笑うとカイトは「レン……遂に悟りを……」とがっくり肩を落とした。  
あれから気持ちを確かめ合った私たちは、普段は家族として、二人きりの時は恋人として生活するようになった。  
色々順番を間違えたり、家族に固執する私の妙な思い込みで空回りしていた関係も、収まるところに収まった態だ。  
小言から逃げるように、缶チューハイ片手にリビングへ行きソファーに座ると、ぶつぶつ言いながらあいつもやってきて私の隣に座る。ちびちびチューハイを味わってたら、言いづらそうにカイトが口を開いた。  
「もう少ししたら皆帰ってくるよ。それに、その、そんな格好でいられると、皆が帰って来た時僕が治まりつかないんだけど……」  
 
視線を逸らし、頬を染めて口ごもりながらぼそぼそ言うカイトは、あの日以来身体を重ねる度私を求め、激しく攻め倒すケモノとは思えないほど純情振りだ。  
 
「……あの子たち、今日は帰ってくるの遅いわよ」  
きょとんとしてカイトが私を見つめる。疑問符を浮かべるカイトに笑いながら教えてあげる。  
「レコーディング中にマスターが煮詰まっちゃったんだって。まだかかりそうだから遅くなるって、風呂入る前にミクから電話あったわ」  
「え、じゃあ」  
ぱあっと、カイトは期待に満ちた目で私を、というか私の身体を凝視する。馬鹿正直なカイトに失笑してしまいそうだ。  
そうね。ちょっとご無沙汰だったもんね。  
そうっと私の上に圧し掛かって「めーちゃん」と囁くカイト。私は持っていた缶チューハイをカイトの首筋にそおっと押し当てた。ゴメン!  
「冷た!!」  
驚いて固まってるその隙にカイトの身体の下からするりと抜け出し、リビングの入り口まで逃げる。  
「ちょ、え? めーちゃん?」  
ソファーで何が起こったか分からない様子のカイトに、入り口の陰からごめんねって精一杯かわいく手を合わせてみた。  
「あの子たちのレコーディングの次は私たちよ? あっちが押してるんなら、明日の私たちのレコーディングは怒涛の突貫作業なのは目に見えてるもん。体調は万全に行きたいじゃない……だから、今日はダメ」  
一時の欲望に負けて、明日のレコーディングを不完全なものにしたらマスターに申し訳が立たないわ。ボーカロイドに有るまじき失態を起こす気はないもの。  
「そんなぁ!」  
「部屋で譜面読んでるから、ミクたち帰ってきたら教えて?」  
情けない声を上げるカイトをリビングに残し、私はとっとと自室へ向かう。   
あっちの方ではカイトにリードされるのは仕方ないけど、それ以外ではやっぱり主導権を握っていたいの。だって、私は『お姉ちゃん』だもんね!  
 
 
鼻歌混じりに譜面を眺めながら、カイトのおあずけされた顔をおもいだし、私は残った缶チューハイを喉に流し込んだ。  
 
 
おわれ!  
 

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