えっちなメイコお姉さんと新人カイト君のはなし 4 
 
「ちょ、待って……んっ!」  
「うふふ。気持ちイイ?」  
お尻に力を込めて膣をきゅっと締めてみたら、カイト君の身体がびくんって跳ねた。  
ホテルのベッドの上。私たちはいつものようにじゃれ合って、イヤらしいコトの真っ最中だ。  
枕に背中に預け、上半身を後方へ傾けているカイト君の膝に跨って、散々弄って膨れ上がった肉棒を私の中に迎え入れていた。脚を広げて上下に動いていると、奥深く私の胎内に潜り込んだソレが膣壁を擦ってゾクゾクする。  
「すっごくイイんだけど、あんまり締めないで! マズイからっ」  
カイト君は私の動きを止めようと、腰を掴んで押さえ付けてくる……というか繋がってる自分の下腹部に、ぐっと押し付けた。  
でも、それじゃ上下運動しか止められないよ? 私はニンマリ笑って、今度は腰を前後に動かす。途端にうわっと悲鳴が上がった。  
「イイのに、どーして嫌がるの?」  
くすくす笑いながら訊けば、カイト君は膣の中でぴくぴくしちゃって、それどころじゃないみたい。必死な表情で射精を耐えてる。  
そんな顔されたら、もっとイジワルしたくなっちゃうのに。  
「で、出ちゃう……からっ、ホント、カンベン……っ、あ!」  
腰を動かしながら中を軽く数度締める。言葉尻が跳ねあがってカイト君の身体がぶるぶるっと断続的に震えた。  
膣で扱くように腰を振ると、目を閉じ苦悶に似た表情を浮かべていたカイト君が瞳を開いて、睨まれた。  
赤い顔して、青い瞳を潤ませながら睨んでも効果はあまりないよ? 私は勢いを失いつつある肉棒を収めたまま、笑顔で応じる。  
「ん?」  
「ひど……出ちゃったよ、もう……」  
カイト君は失敗した〜って、がくりと項垂れてしまった。あれれ?  
「そんなにがっかりしなくったって」  
「メイコさんは分かってないよ。男が先にイクなんてさ……」  
溜息をついてカイト君は私から顔を背けて、完全に拗ねてしまった。  
「一緒にイキたかったのに」  
可愛い物言いに、吹き出しそうになるのを噛み殺した。ここで笑ったら、多分益々拗ねちゃうね。  
そっと身体を伸ばし、カイト君の胸板に手をついて明後日の方向を見ている頬にキスした。拗ねたままの顔で、カイト君が視線だけ向けてくる。  
「ゴメン。カイト君のイキそうな顔を見てたら、つい」  
指を胸の上で彷徨わせ、ちっちゃな乳首を捉える。押し潰しながら優しく刺激してあげるとぴくりと反応が返ってきた。  
鎖骨に唇を這わせ、舐めながら指も動かしていると、カイト君の息がまた乱れ始める。  
「……っ、ズルイ……う……」  
「ね……おっぱいも触って……」  
手を取ってカイト君の大好きなおっぱいに導いた。膨らみに指が沈んで揉み始めたのを感じ、自然に頬が緩んじゃう。  
かわいいなあ。カイト君は本当にかわいくって、身体も心も素直なコ。  
まだちょっと不貞腐れ気味の表情を残す顔に、幾つもキスする。額や目元、ほっぺた、最後に唇を重ねると、舌が伸びてきて私のソレと絡んだ。  
ご機嫌は直ったみたいだ。  
萎えて、私の膣から押し出されそうになっていたカイト君も、次第に形と硬さを取り戻す。それを助けるよう軽く腰を揺らし中を締めたら、奥からさっき出された精液が掻き出されてきた。  
それが潤滑油代わりになり、ぐちゅぐちゅ卑猥な音を鳴らして、膣の奥まで肉棒を運んでくれる。  
段々気持ちよくなって、腰の動きを大きく大胆にしていった。  
「ぅあ……メイ、コ、さん……」  
カイト君が快感に眉を顰め、おっぱいから手が離れて腰を掴む。  
「また、おっきくなった」  
「誰のせい、だとっ」  
「ふふ。わたしー」  
完全に勃起した肉棒が奥を小突いて、ぷるっと震えた。セックスでしか得られないこの快楽が大好き。身体が過敏になって性欲を掻き立てられる。  
ねっとりとアソコを使ったり、ピストン運動したりやりたい放題していたら、カイト君が何度も息を詰めた。喘ぎを堪えてるって感じ。我慢しなくったっていいのにな。  
本人は気が付いていないみたいだけど、感じている時やイキそうな時のカイト君の表情は、ものすごくそそる。  
あの低音が泣きそうな声で私を呼んで、焦らしている時はイかせて欲しいと懇願し、今日みたいな時は喘ぎながら止めてくれと頼んでくる。そんなカイト君が見たくって、私はついついイジめたくなっちゃうの。  
 
「も……ダメだって……!」  
ゆっくり腰を上げ、ちょっと勢いを付けて降ろす動作を繰り返していたら、カイト君はすっかり涙目。  
「ほら、頑張って」  
お尻を振ってぐりぐり腰を押し付ける。中の肉棒がびくんって脈打ち、また射精が近くなってきているのが分かった。  
「〜〜〜っ。ダメ、きもち……」  
快楽に顔を歪ませるカイト君はとっても色っぽい。彼は私をよくエロいって言うけど、男の人のこういう時の顔だって十分エロいと思う。その中でもカイト君は格別だ。  
「じゃ、もう一回イこっか。 今度は一緒、ね」  
にっこり笑って大きく脚を広げ、濡れそぼる結合部を見せてあげれば、かあっと赤くなる頬。引き抜く寸前まで腰を持ち上げ、思いっきり落とすとお腹の奥に快感がずしんと響く。  
「んあっ……!」  
「あ、うぁ……っ、はっ……メイコさん……っ」  
カイト君の伸ばす両手に自分の手のひらを重ね、指を絡ませ握り合った。重心をそこに少し乗せてバランスを取りながら、腰を落としてひらすら快感を追う。  
お腹の底を穿つ衝撃は、あっという間に私の理性を奪っていった。身体を痺れさせる快楽が思考も思慮も剥ぎ取って、プログラムされた擬似本能だけがただ走る。  
「あんっ、あ、あぁん……気持ちい、い……」  
「は……あ、ぅ……あ……っ……」  
淫らな水音が弾け、貫く肉棒が膣の中を引っ掻き暴れる。その感覚が、早急に私たちを追い詰めていく。  
互いに絶頂を迎えるのは時間の問題だった。  
 
 
「もう一回、しませんかー……?」  
私を後ろから抱きすくめ、おっぱいを緩く揉みながらカイト君が耳元で囁いた。  
「ダーメ。もうタイムリミット。今日も仕事、でしょ?」  
終わった後からシャワー中も、さっきからずっとこの調子。お願いは訊いてあげたいけど、時計の針はとうに深夜を回っている。  
寝坊なんかして仕事に支障を来す訳にはいかない。それとこれとは話しが別だ。  
おっぱいを握り込む手を外すと、カイト君は心底がっかりした情けない顔になった。  
「悔しいなぁ。今日はメイコさんにやられっぱなしだ」  
ぼすっとベッドに背中を預けてカイト君がボヤく。  
今日はずっと私のターンで、主導権を一度も彼に回さなかったからだ。  
「だって、カイト君カワイイんだもん」  
寄り添うように私が横になると彼も身体をこちらへ向け、憮然とした視線とかち合った。  
「カワイイって」  
「カイト君があんまりカワイイから、イジワルしたくなっちゃったの。イキそうな時が、一番イイ顔するね」  
思い出してにぃーっと笑う。カイト君は瞬時に頬を赤く染めて口を尖らせた。  
「ちょ、それは……あーもう、敵いません……あの、明日は空いてますか?」  
「明日は近所の友達と家呑みする約束してるからムリかな。 なあに? そんなにしたいの?」  
珍しい。カイト君はあんまりがっつく方じゃない。むしろ私の方がセックスをしたがるのに。  
「……いえあの、僕がメイコさんをイかせたかったなって。リベンジしたい」  
思わず目を瞬かせた。私を見ているカイト君は、実に残念そう。  
「明後日の夜なら空いてるよ。仕事の後になっちゃうけどね。それでいいなら」  
そう告げると、ぱっと表情が明るくなって「はい!」っていいお返事が返って来た。その顔が、なんだか躾の良いワンコを連想させてつられて微笑む。しっぽがついてたら絶対ぶんぶん振り回してるわ、きっと。  
「本当にそろそろ寝ないとマズいね」  
部屋の照明を搾り、カイト君に顔を寄せ、その鼻先にちょんとおやすみのキスを落とす。  
「おやすみ」  
くすぐったそうに目を一瞬閉じたカイト君は、おやすみなさいと薄暗い中でも分かる青い瞳を細めた。  
 
最近、珍しくも一人の男のコとばかりセックスしている。  
相手はもちろん、青い髪に青い瞳がトレードマークの成人男性型ボーカロイド『KAITO』のカイト君だ。  
成人男性型っていっても、新米ボカロで年下であり、ちょっと気弱で草食男子系の彼は、男性というより男のコっていう印象が強い。私の方が稼働が早いからだろうか、行動や所作が初々しく映る。  
そんなカワイイところが気に入っていた。だってちょっと挑発的なポーズをとるだけで真っ赤になるのだ。女慣れしていないとこも新鮮だ。  
なにより身体の相性が抜群に良い。それもあって今はカイト君とばかりセックスしていて、一人の男性と長続きできない私が唯一、何度も身体を重ねるのが彼だった。  
知り合った時、童貞で女性を知らなかったカイト君は、今や行為中の主導権を主張するまでになった。  
そんなカイト君と頻繁に会うようになってから気がついたことがある。  
カイト君は今まで寝た男と彼はかなり違う。大体何度も連絡をくれる所から変わっている。  
これまで関係のあった男は、大抵1〜2回寝れば連絡が途絶えてしまうことが多かった。私もそれを疑問に思ったことは無く、そういうものだと考えていた。  
私が寝た男の人は殆どが人間の男で、成人女性型ボカロへの好奇心や、メディアに出るために見栄え良く作られた顔と身体に、興味を持って近づいてくる。ぶっちゃけ、一発やりたいって思われてるのも分かっていた。  
最初の内はそういった誘いに戸惑ったけど、セックスがもたらすあの快感を知って、男が誘ってくるのも理解できた。こんなに気持ちが良ければ、性的欲求が募るのも無理はない。作りモノの身体の自分でさえ、そう思う。  
快楽を身体が覚えてしまうと、私はイヤらしいこともえっちなことも、大好きな女になっていた。  
相手は数回寝れば満足して、以降の連絡はしてこないのが常だった。私も連絡をしない。そのことに不満を持ったことは無かった。男のヒトは、色々な女のコと寝たいらしいし。  
それに、私はいわゆる「恋愛感情」を理解できない。  
事務所の女の子が「ヤリ捨てられた」と泣いているのを見かけた時に、それに気がついた。  
合意の上でセックスして連絡が取れなくなってどうして悲しいのか、なんで泣くのか、彼女の気持ちが全く分からなかったのだ。  
私は生活する上で「恋愛感情」が分からなくっても全然困らなかった。私の唄う歌には恋愛要素は無く、刹那的な男女の関わりをエロく表現するようなものが殆ど。  
直ぐに連絡を取らなくなるせいか、身体のみの関係のせいか、これまで寝た男に恋愛感情を抱いた事など今まで一度もなかった。  
私が男の人と寝るのは、純粋に快感を得たいだけ。そこに余計な感情は無い。私の性衝動は単純明快。したい時にする。それだけ。男の人だってそうだ。私が本気じゃないんだから、相手にも本気を求めない。  
セックスは性的欲求を満たすだけの、ただの行為。だから連絡が途絶えればそこでサヨナラ。未練も何も感たことなかった。  
……そのはずなのに。  
「……よく分かんないのよね」  
缶チューハイを頬に押し当て呟くと、友人二人は目を丸くして私を凝視していた。  
「え、なによー?」  
穴が空くんじゃないかってくらいの視線を向けられて、ちょっとびっくりした。  
「いえ、お姉さまから男性についてそんな発言を訊けるとは思わなくって……ねえ、めーこ?」  
ルカが隣に座る、私と同型の『MEIKO』に目配せした。めーこと呼ばれた『MEIKO』も、微妙な表情で桃色の髪の後輩と目で会話している。  
私の住むマンションは、カイト君の暮らすアパートと同じように私を所有している事務所の借り上げ。女性ボカロ専用マンションだ。  
今夜は久しぶりに近所に住む友人兼後輩のめーことルカと共に、私の部屋で家呑みをしていた。  
私たちは事務所が同じで部屋が近いうこともあり、事務所でも特に仲が良く、買い物や旅行につるんで行くこともある。二人は気の置けない友人だった。ちなみに私の部屋の向かいに、めーことルカが隣同士で住んでいる。  
 
「私、そんなにヘンなこと言った?」  
「そうじゃないんですケド、今度のヒトとはそんなに頻繁に会っているんですか?」  
めーこの柔らかな声は彼女の性質そのままだった。めーこは『MEIKO』にしては我が弱く、大人しい。  
「うん。えっちなことしたくなったら、自分を呼んでって言われたから」  
おかげで私のアソコは、カイト君のカタチを覚えてしまいそうだ。  
「そ、そうなんですか」  
あ、めーこが怯んだ。このコは下ネタ系の話しが苦手なのだ。一方ルカは興味津々なのを隠せない様子で尋ねる。  
「お姉さま! その『カイト君』は、今までの男の人とどう違うんです?」  
「ん……と、先ず連絡を何度もくれるでしょ、私としかセックスしたくないとか言ったり、実際私以外の女のコとはしてないみたいだし……モテるみたいなのにねー」  
早い時間に会う時は、やるだけじゃなくてデートスポットっぽい場所へ誘われたりね。そういえば、そういうことも初めてかも……。  
それに最近のカイト君とのセックスは、ものすごく感じる。最初の頃、拙い手付きで焦らされたのがウソみたいだ。  
丁寧なのか、女の身体に慣れたのか、相性の問題なのか分からないけど、愛撫されると直ぐに濡れるし、もっと触って欲しくなる。行為の最中に掠れた声で「メイコさん」って耳元で囁かれるだけで身体が疼くのだ。  
……それに、自分でもびっくりなのだけど、カイト君の傍にいるととても安心する。事後、眠りについて目覚めた朝に、離れる温もりを無意識に追ってしまう。  
寝惚けたまま温もりを探す私の手を、握り返す感触に意識が戻って目を開ける。嬉しそうなカイト君の笑顔にちょっと気恥ずかしくなるのは、本人には内緒だ。……なんとなく、ね。カイト君年下だし。  
「……えっちなことしてなくても、体温とかだけで気持ちがいいことがあったり……それに優しいわ。とっても」  
こんなこと初めてだった。抱きしめられる体温だけで心地よくなったり、嬉しくなるとか。  
これまで性的欲求のまま身体を重ねる相手に対し、深く考えたことなんてなかった。  
だから分からない。これまで寝た男に感じなかったことを、カイト君にはどうして感じるのか。  
う〜んと首を傾げていたら、また微妙な顔してめーことルカが私を見ていた。  
「えっと、お姉さま? その、それって……答え、出てません?」  
「ん?」  
ルカには分かるのかな? どういうことって訊こうと思ったら、めーこがルカを遮るように口を開いた。  
「相手について考えること、私はいいことだと思いますよ。そのヒトがメイコさんをどう思っているかとか……メイコさんはどうなのか、とか」  
「私? カイト君はカワイイけど……身体の相性も最高だしね」  
「いえ、相性とかは置いておいて!  
 私やルカが答えを教えるのは簡単だけど、メイコさんは自分で答えを見つけた方がいいです。絶対」  
えー? 不満げにめーこを見れば、めーこはルカに「メイコさんに答えを教えちゃダメ!」と、口元に人差し指を立てている。  
「教えてくれてもいいじゃない」  
「ダメ。私たち、メイコさんに幸せになって欲しいんです。そのためには、自分で自分の気持ちに気がつかないといけないの」  
大人しいめーこの何時になく厳しい口調と、それに賛同して頷くルカ。後輩二人に諭されて、私は柄にもなくタジタジになる。カイト君のことを考えると、私の幸せに繋がるってどういうことよ。  
「でも、本当に分かんないの」  
「じゃあヒント! お姉さま、例えばそのカイト君が、他の女のコといちゃいちゃしてたらどんな気持ち?」  
「え?」  
ルカの台詞に私が詰まった。知らない女のコとカイト君が?  
「………………」  
「メイコさん?」  
考え込んでしまった私に、目の前でひらひら手を振るルカと、伺うようなめーこの声に我に返る。凝視してくる二人に笑って、私は立ち上がった。  
「お酒もうないね。取ってくる」  
私を見つめる二対の視線から逃げるように、キッチンへ向かう。  
なんだろ。結構な不快感が……酔った?  
「ノロケ聴かされてんのかと思いましたわ」  
「恋愛感情を理解できないって、ホント厄介……絶対……なのにね」  
ルカとめーこが声を潜めた会話が聴こえてきたけど、冷蔵庫を漁る音にかき消えて私の耳には届かなかった。  
 
翌日の仕事は次に私が担当する歌とPVの打ち合わせのみだったので、午後から事務所に顔を出し、資料をもらい打ち合わせ場所のレコーティングスタジオへ行くよう指示された。  
なんでも、担当してくれるプロデューサーがそのスタジオで一日詰めているので、時間の有効活用のため呼び出されたらしい。仕事内容は相変わらず微エロ路線の内容だった。  
カイト君とは打ち合わせの後待ち合わせしている。彼も今日は仕事だと話していた。順調に仕事が終われば、待ち合わせに間に合うはず。  
会議室で件のプロデューサーと数人のスタッフで打ち合わせをし、数時間後部屋を出ると結構いい時間になっていた。そろそろカイト君も仕事終わる時間かな?  
取り合えず連絡を入れようと携帯をバッグから取り出し、廊下を歩いていると聴きなれた声が響いてきた。  
「はーなーせーっ」  
「頼むから! 後生だから一緒に行ってくれよカイト!」  
声の方向に振り向くと……カイト君がいた。もちろん私と約束をしているカイト君だ。一緒にいるの赤い髪の同じ顔した『KAITO』は、お友達のアカイト君かな?  
カイト君もここのスタジオで仕事だったんだ。   
それにしても……なにしているんだろ? アカイト君が、カイト君の肩からたすき掛けにしていたワンショルダーバッグに縋りついている。進行を阻むアカイト君に負けず、カイト君は彼を引き摺りながら脚を前に動かしていた。  
意外と力持ちなのねカイト君。でも、半ば怒鳴り合いながらじゃれあっているから、悪目立ちしているわ。周りの人、かなりの引き気味。  
「嫌だったら嫌だ! 僕はこれから約束が……」  
「頼む! 助けると思ってさ〜〜。ん?」  
なにやら懇願していたアカイト君の顔が、私に向けられた。微笑み返すと、ダッシュで私の元へとやってくる。  
「メイコさーん!」  
「え? メイコさん?!」  
びっくりした顔のカイト君も、私を認めるとアカイト君を追いかけて来た。  
「メイコさんお久ぶりッス。相変わらずエロエロフェロモンがダダ漏れ……いてぇっ」  
すかさずカイト君が、アカイト君の後頭部をすぱんと平手でぶった。相変わらず仲良しね。  
「なに失礼なこと口走ってんだ! ……メイコさんも仕事、ここだったんですか」  
「うん。偶然ね。私はもう終わったけどそっちは?」  
「あ、僕も……」  
「もしかして、カイトの約束ってメイコさん?」  
アカイト君はちょっと涙目になって後頭部を擦っている。  
「ちょうどよかった。申し訳ないんスけど、今夜カイト貸してくれません?」  
「ちょ、アカイトっ!」  
? 貸す? アカイト君の申し出に驚いてカイト君を見上げれば、ちょっと顔色を無くして眉を下げ、困ったような表情をしていた。  
 
「…………と、言うわけなんでカイトが必要なんですよ」  
えへ。と、茶目っけのある笑顔を向けてくるアカイト君が話すには、なんでも今日これから合コンがあるらしい。  
私とカイト君が共演したPVを見たアカイト君の知り合いの女の子が、カイト君に会ってみたいと言い出したのが切っ掛けで、人数集めて合コンしようという話しになったという。  
「あのPV、結構話題になったじゃないですか。カイト五割増しぐらいカッコよくなってたし。それ見てカイトに会いたがる女のコ多いんですよ〜。そんで今回コイツに客寄せパンダになってもらいたくって」  
「全力で断っているだろ、さっきから!」  
「だから頼むって! お前の分の会計もこっちで持つし、いてくれるだけでいいんだからさ」  
あからさまに渋面を作るカイト君に、アカイト君はそんなこと言うなよ友達だろ〜と泣き落としを始めた。  
「メイコさんとの約束の方が先だし、僕は合コンに行く気な……」  
「行ってきたら?」  
私の一言にピタリと動きを止めた二人が、同時に勢いよく私に振り向いた。  
「メイコさんっ?」  
「まじッスか? 助かります!」  
焦った様子のカイト君とは対照的にアカイト君は顔を輝かせ、カイト君の腕を逃がさないと言わんばかりにがっしり掴んだ。  
「たまには他の女のコと遊ぶのもいいんじゃない? 私のことなら気にしないで。じゃあねー」  
ひらひら手を振って踵を翻し出口へ向かう。後ろから私を呼ぶカイト君の声が聞こえたけど、私はそのままスタジオを後にした。  
私のことなら別にいいのに。カイト君は義理固いな。  
外は陽が沈み辺りはすっかり薄暗くなっていた。駅へ向かう途中に大きな公園があって、私はそこへ足を向ける。少々暗くても、時間はまだ早い。街灯はあるしマラソンする人もいるし帰宅する人も通る公園だ。危険なことはない。  
取りあえず、その辺にあったベンチに腰掛けた。頭上には藤棚があって、季節じゃない今は枯れた枝と蔓が棚に力なく巻き付いている。  
これからどうしよう。予定外の出来事で時間が空いてしまった。めーこやルカもまだ仕事中だろうしなぁ。  
誰かに連絡を取ろうと、手にした携帯の液晶画面にアドレス帳を表示させるも、指はいたずらに登録名を行ったり来たりするだけ。  
胸の奥にわだかまる、もやもやした不快感を払おうと溜息をついても、徒労に終わる。  
合コン行くのを勧めたのは私だというのに、どうしてこんな気分になるんだろう。それはまるで、昨日の夜ルカに「ヒント」を言われた時みたいな感じに似ていた。  
合コンを勧めたのは、アカイト君が困っていたのもそうだけど、カイト君に対してちょっと悪いなって思ったからだ。  
今はカイト君とばかり肌を重ねているけど、私は自由気ままに男と寝てきた。それなのに、カイト君が他の女のコと遊ぶのを邪魔する権利なんて私にはないもの。  
どっちが先に約束したかなんて関係なく、行きたい方へ行けばいい。私に気を使わないで欲しかった。  
私とカイト君の関係は対等だと思ってる。お互い誰と寝ようが遊ぼうが、口出しすべきことじゃないのだ。だって、付き合ってるワケじゃないんだから。  
私には恋愛感情が分からない。カイト君だって私を好きじゃないはず。私に拘っているのは、女慣れしていない彼が呼び出せるのが私ぐらいだからだ。  
他の女のコと遊ぶようになれば、カイト君とも連絡取れなくなる。今までの男の人がそうだったように。  
「…………ん?」  
……ひょっとして、私はそれが嫌なのかな。この不快感はそのせい?  
頭をひとつ振って、堂々巡りの思考を振り払った。もう、誰でもいいや。誰か呼び出して、その辺のホテルでも入ってこのもやもやを忘れてしまおう。男はカイト君だけじゃないもん。  
あ、でも最近カイト君としかしてなかったから、他の男と全然連絡取ってない。連絡自体つくかしら……?  
男関係の番号は遊ぶ時に使うぐらい。しかもカイト君と知り合ってからは、その番号にかけたことなかった。  
まあいいやと、名前の確認もそこそこに適当に選んだ携帯番号、通話ボタンに触れた指に力を込めた寸前だった。携帯電話を持つ手ごと大きな手のひらに掴まれて、後ろから何者かに押さえ付けられた。  
驚いたのと見知らぬ人間に触れられたことに、身体が硬直する。  
「……っ、ちょっと、待って……っ」  
悲鳴を上げそうになった私は、息を乱しながら苦しそうに吐かれた声に目を見開いた。  
 
「や……っ、えっ? カ、カイト君、なの?」  
顔を後ろに向けると、ぜーぜー苦しそうな息をつくカイト君がそこにいた。まさか走って来たの?  
うろたえる私の手から携帯を取ると……何故か電源を切って、膝に置いていたバッグに戻す。それから私の前に立って屈んで視線を合わせてきた。何時も優しい眼差しが、厳しい。  
「置いていくなんて酷いじゃないですか」  
息を整え、やけに静かな低音が耳朶に響いた。私はぽかんとしたまま疑問を尋ねる。  
「あれ……合コンは?」  
「きっちり断って追いかけてきたんですよ。合コンは興味無いし、メイコさんとの約束が先でしょ。  
 それより、さっき携帯出してたけど……誰かに連絡したんですか?」  
男とか。と、ぼそりと付け足した。  
「ううん……まだ」  
「よかった……!」  
カイト君は下を向いて、ほっとしたように息を吐く。次に顔を上げた時にはいつもの柔和なカイト君の顔に戻っていて、私の顔を覗き込む青い瞳が細められた。  
さっきまでの厳しさは、欠片も感じなかった。  
 
 
カイト君は私を追いかけて駅前まで走ったらしい。でも歩いてる私に追いつけないのは変だと感じて元来た道を戻り、目に留った公園に入ってみたらベンチで携帯電話をいじっている私を発見した。と語った。  
「置いていかれて本当に驚いたんですよ。電話しても出てくれなさそうだったしさ……」  
長い指が私の下腹部に差し込まれ、粘ついた水音が絶え間なく鳴った。  
「あ……あっ……」  
首筋に埋められた顔。もう片方の手が服の上から乳首を刺激してくる。  
「携帯手に持ってるメイコさん見て、もしかして他の男と連絡取ったんじゃないかって、焦った」  
指が膣の奥まで侵入し、内側を撫でる感触に肌が粟立った。ベッドに預けていた背中が指の動きに合わせて反り返る。  
「う……んっ……」  
服の裾を一気に捲られ曝け出されたおっぱいを、カイト君の舌がゆっくり舐める。舌先が段々登ってきて、硬くなっている乳首を咥えられると身体が跳ねた。  
「僕が先に約束したのに」  
甘噛みしてちゅうっと吸われ、また歯を立てられた。胎内の指は繊細に動いて性感を煽る。  
歯で挟んだ乳首を軽く引っ張り、離される。おっぱいが揺れる感覚が分かった。それをしばらく見ていたカイト君は、私の脚の間へ身体を下げていく。  
「メイコさんを、取られると思った」  
中の指が左右に小さく振られ、アソコがくちゅくちゅ濡れた音を立てながら、新しい粘膜を零していった。  
「ああ……ひっ……!」  
カイト君に見つけられた後、食事もそこそこにホテルに連れ込まれた。  
部屋に入って早々ベッドに押し倒されて圧し掛かってきたカイト君は、さっきから粘着質な愛撫で私を責めたててくる。  
一方私といえば、追いかけてきたカイト君の行動と拗ねた態度に、戸惑いっぱなしだった。  
合コンはカイト君目当ての女の子が来るような話しだったのに、なんであんなに必死に私を追いかけて。  
それに、この触れ方。なんてねちっこく意地の悪い愛撫なんだろう。後少しで絶頂を掴めそうなのに、その寸前で引き戻される。  
言葉の断片から置いていったことと、他の男に連絡を取ろうとしたことに気分を悪くしているのは分かったけど。それにしたって。  
「……ふぁ……っ、あっ、カイ、あっ」  
脚と性器を広げられ、クリトリスを舌先がつつく。身体の中を痺れさせるその感覚に、ついカイト君の頭を太ももで挟んでしまった。しかし、力ずくでまた脚を広げさせられる。  
小さな肉の尖りを丹念にねぶられ、吸いつくようなキスを何度も受けた。膣を探る指は感じる部分を撫でてくれるけど、最後を与えてはくれない。  
カイト君は意図して私の身体を煽っていた。いつだって優しいカイト君から、こんな意地悪な触り方をされて困惑する。  
一昨日の夜は、私が一方的に可愛がって切なく喘いでいた彼が、今は落ち着いた様子で私を責める。その豹変ぶりが少し怖い。  
感じ、思考をかき乱されて先走る私の身体。いつも通り、なにも考えず楽しむことなんてできなかった。  
 
「ふ……っ、んんっ!」  
ぶるっと震えて軽く達したけど、こんなんじゃ到底満足できなかった。アソコから顔を離して、内腿に唇を寄せているカイト君に私は懇願した。  
「も……挿れて、お願い……」  
「まだダメ。リベンジしたいって言ったよね?」  
れろりと肌を舐める感触にも吐息が漏れる。性器がじんじん熱を持って疼いて、カイト君を欲しがっていた。  
「ど……して、いじわる、するの? 怒ってる、の?」  
腿にまたキスが落ちる。湿った音を立てて唇を離したカイト君は、視線を上げて脚の間から私を見た。  
「うーん……怒ってる、とはちょっと違うかな。ただ、僕の意見を聞かずに置いていかれたのは、ちょっと気分悪かった……確かに、意地悪な気分だったかも」  
「私……カイト君が私に遠慮しているのかと思って」  
「そんなワケないでしょ。なんでメイコさんより、知らない女のコを選ぶと思うかな〜」  
苦く笑いながら、きっとまだ足りないんだねとカイト君が呟く。なんのこと……?  
「男の人は、色々な女のコとしたいんじゃないの?」  
「……そういう人もいるね。でも、僕はメイコさんがいい」  
指が開かれた性器を下から上へつうっと撫でた。それに反応し、悲鳴と共にお尻が跳ねる。  
「メイコさんは?」  
「……え?」  
「メイコさんはどうなの? さっき、電話しようとしてたよね」  
指先がほんの少し中に埋まる感触がした。でも、入り口辺りを弄るだけでそれ以上は挿ってこない。  
「僕だけじゃダメなのかな……?」  
じれったい指先の愛撫に息が乱れる。喘ぎを堪えてカイト君に目を向けると、やけに真剣な眼差しが私を射ていた。  
不意に、昨日のルカの言葉が脳裏を過ぎる。  
――例えばそのカイト君が、他の女のコといちゃいちゃしてたらどんな気持ち?  
あの時、私が思ったのは。  
「……だって、私だってカイト君が他の女のコと遊ぶの、ヤだったけど……でも、そんなこと言う権利無いし……」  
今分かった。ルカのヒントと合コンを勧めた自分に感じた不快感も。私、イヤだったんだ。  
自分の口から飛び出した意外な言葉に驚いて、手で口元を押さえる。  
私がこんなこと……。  
ホント何を口走っているんだろ。カイト君、びっくりして目を丸くしている。  
急に恥ずかしくなって目を閉じ顔を背けた。  
何コレ、脚を開いてアソコをカイト君に見せている姿勢より、自分の発言の方が恥ずかしいってどういうことなの!  
顔が熱い。そっぽを向いて羞恥に耐えていると、身体の上にカイト君が覆い被さってきた。  
 
「そっか、僕が他の女のコのとこに行くの、イヤだったんだ」  
そっかと繰り返す声に目を開けると、カイト君が私を覗き込むように見下ろしていた。  
「イヤなら、引き止めてくれたらよかったんだよ」  
「何度も言わないで……っていうか、カイト君」  
「なに?」  
「……なんでそんなに嬉しそうなの……?」  
見上げるカイト君は、もうこの上なく全開の笑顔だった。先程の拗ねた態度はどこにいったんだってくらい、幸せそう。  
「……内緒」  
顔が降りてきて、唇を塞がれた。直ぐ舌が入ってきて私のそれを絡め取り、同時に性器をなぞっていた指も奥へ潜り込んできた。  
「…………っ」  
深く口づけられ、口腔にカイト君の唾液と私自身の味をほんのり感じる。  
万遍なく私の口を味わって、カイト君は身体を起こして指も抜いてしまう。私の服を脱がせ、自分も脱いで衣服をベッドの下に落とした。  
細身だけど筋肉質な身体。引き締まった胸と腹部。綺麗な鎖骨は私のお気に入り。  
脚を開かされ、その間にカイト君が身体を据える。天井を向いて硬く勃起しているソレをアソコに擦りつけて、期待で下肢が震えた。  
「今日は、いつも以上に頑張れそう」  
カイト君はにこにこ笑ってて、あんなに拗ねたたのにとってもご機嫌になっちゃった。私はそれどころじゃないのに……。  
「あっ……!」  
圧迫感がして、膣口がぐにっと広がった。肉棒の形に添い、徐々に性器が開かれて奥へ侵入してくる。  
「……きっつ……」  
眉を顰めながらも腰を緩やかに前後に動かして、少しずつ肉棒を埋めてくる。膣壁を擦る刺激が気持ちよくって、熱い溜息が零れた。  
「ん……あ……はぁ……」  
時間をかけて全部沈めると大きな手のひらが腰骨を掴んで、引き寄せながらカイト君が自分の腰を打ち込んできた。  
最奥をコツコツ小突かれると、痺れるような快感が身体を襲う。  
も……どうしちゃったんだろ、私。こんなに余裕がないの、経験ないよ。  
「ひゃっ、あ、あっ……あぁ」  
「なんだか、今日はすごいね。感じ過ぎてるっていうか……」  
流石にカイト君も私の様子に気がついた。そうよね。一昨日の夜は、私がカイト君を……。  
「中、熱い……すごく搾られる……っ」  
「んぁっ、そんなに揺すったら……! イっちゃ、あっ、あっ……ひぃんっ」  
ガマン出来なくて、カイト君を置いてけぼりにして私は達してしまった。  
早……! なんで、こんなこと一度もなかったのに。  
呆然として荒い息を吐く私を、カイト君もぽかんと見下ろしている。  
イっちゃった私の胎内のカイト君は、まだ硬度も太さも失わず隙間もない位私の中を埋めていた。  
 
「ゴ、ゴメン……」  
「……え? メイコさん、イっちゃた?」  
「ホントにゴメン。その、なんか、よくって……きゃっ」  
悲鳴を上げたのはカイト君がまた動き出したからだ。内側の壁を擦られて、膣が反応を返す。  
「や、あっ、ダメ、まだダメぇっ!」  
イったばかりの中はいつもより過敏になっていて、肉棒に穿たれると過剰に感じちゃう。  
「よくってって、なにそれ。今日のメイコさん可愛過ぎる……」  
「んっ、んんっ……は……っ」  
責めに悶えてじっとしていられない私を、カイト君は力任せに抱き締めた。耳朶やその裏に這う舌の感触と止まらない腰に喘ぎながら、くっつく肌の温度に性感とは別物の心地よさを感じる。  
……そうだわ。初めてだった。追いかけられたのなんて。  
いつだってその場限りの関係ばかりで、追いかけられることも、ましてや自分から追いかけることなんてしなかった。  
怒ってたくせにどうして追いかけてきたの?  
自分から突き放したのに、抱き締めてくれるカイト君に、私はどうして嬉しいなんて……。  
鋭敏になっているのは身体だけじゃない、心もだ。追いかけてきた温もりが、こんなにも気持ちを揺らす。  
重なる体温と素肌の感触に、もう少しで私を悩ませる疑問が、大切なことが分かりそうな気がした。  
私の中で芽生えた新しい感情の名前が。  
「……ひっ!」  
奥を突き上げられ、思わず広い背中に縋った。腕が首の後ろと腰に回り、腰の方をぐっと引き寄せられる。より深く、中へ奥へと進んでくる肉棒を、まるで襞が離れないでと絡みついていた。  
「……今日は一昨日のリベンジに、徹底的に焦らしてやろうと思ってたんだけど……やっぱ、だめだ」  
はあ、と髪に熱い溜息を感じる。私の中でカイト君は脈打って、絶頂を堪えているのが分かった。  
「え……?」  
「いつもはもっとイヤらしいのに、どうして今日は……」  
ぐじゅんと音が鳴るほど強く貫かれ、身体が反った。  
弱いところばかりを狙うかのように責め立てられ、跳ねる腰を腕がしっかり抑えて、逃げられない。  
「待って、まっ、て、強い……っ」  
「っ、なんでそんなにカワイイかな……っ」  
カイト君は力いっぱい腰を打ち付けてきて、私はもう鳴くことしかできなかった。さっきまで考えていたことが、圧倒的な快楽の前に全て消し飛ぶ。  
もう、ダメ……!  
「メイコさん……っ」  
「ひぁっ、んっ、ひぃん……っ、あ、あああ―――っ!」  
縋りついていた背中に、思いっきり爪を立ててしまう。戦慄いた身体を、強い腕にしっかり抱きすくめられた。  
「っく、あ……うぁっ!」  
腰を振っている動きが次第に緩慢になっていく。  
くったりとした私はただ、カイトくんの体温に浸りながら身を任せるしかなかった。  
 
夕方の街を、私とルカは食材の詰まった買い物袋を両手に提げて歩いていた。  
三人揃った休日は久々なので、冷蔵庫の整理も兼ねて夜ごはんを一緒に食べるつもりだった。めーこに下準備を任せ、私たちは足りない食材を買いに行った帰り。  
「お豆腐買った。ネギ買った。春菊も買ったし、お肉も買った!」  
「マグロのお刺身もね」  
指折り品物を諳んじるルカの言葉に付け加える。大間産とまではいかないけどね。  
今夜はすき焼きを三人で囲む予定。ルカの好物もちゃんと買い物カゴに放り込んでおいた。  
ルカがぱっと表情を輝かせる。  
「お姉さま大好き!」  
「ん、お礼よ」  
「お礼……ですか? なにかしましたっけ?」  
ぱちぱちを瞳を瞬かせるルカに、私は笑いかけた。  
「この間の『ヒント』のこと」  
ああ、とルカが頷く。  
「答え、分かりました?」  
「う〜ん。完璧に分かったってワケじゃないけど……」  
期待に満ちた目で私を見ていたルカは、がっかりして肩を落とす。  
「な〜んだ。正解に辿りつけたら、今夜は皆で祝杯って思ったのに」  
「あは。でも、正解じゃないけど、ちょっとだけ分かった気がしたのよ」  
西日を背にしている私たちの足元から、長い影が伸びていた。それの頭辺りに視線をなんとなく当てる。  
「私、携帯のアドレスを整理しようと思う。特に男関係」  
「何ですいきなり。南国に雪が降りますよ」  
「……必要無いかなって。そう思えるようになったのは、ルカとめーこがヒントくれたからよ」  
この間の一件から色々考えた。考えに考えた末、私はカイト君に対して独占欲があるんじゃないかって、思い至った。  
今まで寝た男に対してそんな感情を持ったことなんてなかったから、『独占欲』なんて単語が出てきた時は我ながらびっくりしたけど、そう思ったらすとんと納得出来たから不思議。  
だって『独占欲』ならカイト君が合コン行くことや、ルカのヒントに不快感を感じたっておかしくない。  
今のところ、私はカイト君以外の男とセックスをする気が起きないし、だったら携帯に登録してある男関係のアドレスはもう無用だ。  
そんなことを話すと「おお……!」とルカは瞳を輝かせた。  
「独占欲って、お姉さまが言うなんて!」  
「でもどうしてそんな気持ちになったのか分からないの。やっぱりあの身体かなあ?」  
「……は……?」  
カイト君を独占したいと思うのは、他の誰にも感じたことのない快感を得ることができるから?  
ううん、それも違う気がする。答えは間近にある気がするのに、指の間をすり抜けて、すごくもどかしい。  
……こんなことで悩むのも、カイト君と知り合ってからだ。何の疑問もなく男と寝てきた私なのに。不思議だった。  
「相性いいと離れ難くなるものなのかな〜。でも、それもしっくりこなくって。  
 やっぱ相性だけじゃないのかな。ルカはどう思う? って、ルカ?」  
ルカはいつの間にか足を止めていて、私の後姿をジト目で見ていた。ルカったら美人が台無しだわ……その目コワい。  
「?」  
振り返る私に、わざとらしく大きな溜息をついてきた。  
「……お姉さま、本当は分かっているんじゃないの? なにその焦らしプレイ……高度すぎる」  
「なにそれ」  
「たった今、相手のカイト君とやらにエールを送りたくなりましたよ」  
がんばれーと、棒読みで呟きながらルカは私の横に立つ。  
「ま、進歩してるケド! 帰ったらめーこに報告ですね。早く帰らなきゃ」  
「待ってよルカ!」  
歩みを速めるルカに今度は私が置いていかれそうだ。  
早足で先を進むルカの背中。私は夕暮れの歩道を踏む踵に力をこめて蹴って、ルカを追いかけた。  
 
おしまい  
 

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