えっちなメイコお姉さんと新人カイト君のはなし 5 
 
その日私は、所属する音楽事務所の休憩室にいた。  
 
「どう?」  
「メ、メイコさん……?」  
「……お姉さま、なの?」  
 
めーことルカが目を真ん丸にして私を見ている。その二人の前で、私は姿が良く見えるように右足を軸にしてくるっと一回転してみせた。  
膝上丈の、チェック柄の短いプリーツスカートが翻る。  
友人兼後輩二人の驚いた様子に、私は満足して微笑んだ。  
二人がびっくりするのも無理はないのだ。というのも、今の私は『MEIKO』の姿ではなかったから。  
いつもより低い身長。ふんわりとした栗色のショートボブ。胸はあるけど少女の身体付き。  
極めつけは、見た目が十代半ばにしか見えない女のコの姿ということ。  
いつもは「エロ系お姉さん」の私が、「清純派少女アイドル咲音メイコ」の容姿をしているのだ。  
「は〜。これがお姉さま……見違えましたわ。なんてカワイイ生き物なの!」  
「でもやっぱり『MEIKO』の名残というか、面影はちゃんとあるんですね」  
私を囲んでルカがほっぺをつつき、めーこが頭を撫でる。ちょっと! くすぐったいわ!  
「でもなんで咲音コスじゃなくって……女子高生の制服なんですか?」  
めーことルカが同時に首を傾げた。二人の疑問は尤もだ。  
今の私は「咲音メイコ」のあのコスチュームじゃなくて、シャツの上にニットベストを着用し、下は短いプリーツスカートといういかにもな女子高生の制服姿だった。  
「PV撮影で使うの。歌の内容が教師と生徒の禁断モノだから、制服らしいわ」  
ちょっと短すぎるプリーツスカートの裾を抓んでみた。  
今日の午後から、PV撮影の仕事がある。今回は主演の相手役としての出演で歌唱がないお仕事。  
PVの内容はがっつりエロ! というより微エロ路線だけど、エロ要素のある仕事を受ける女の子はあまりいない。  
馴染みのプロデューサーから「十代の女のコ」として出演して欲しいと指名でオファーを受け、今回は咲音メイコで仕事をすることになったのだ。  
仕事が舞い込んだ時は、女子高生なんてなったことないからちょっと考えたんだけど、歌唱と主演がカイト君だったからOKした。  
ただ、今日の撮影で出演する『咲音メイコ』が私だということを、カイト君は知らない。スタッフにも口止めをした。  
「……お姉さま、なに笑ってんですか?」  
「今の、いかにもイタズラ企んでますって感じの笑顔ですね。メイコさん」  
感がいいというか、私の性格を良く知っているめーことルカの顔は怪訝そのもの。  
「そんなことないよー? 楽しくお仕事できるの嬉しいなって」  
にーっこり笑って二人に向かうと、めーこが頬に手を当て、悩ましく溜息をついた。  
「……いいですけどね。軽はずみなことして後悔しても知りませんよ?」  
「なによーそれ」  
口を尖らす私に、めーこもルカもやれやれといった態度。  
な、なんだか見た目が幼くなったせいか、子供扱いされている……? 面白くなくない。  
でも、めーこの忠告が後で身に染みることになろうとは、この時の私は気付くことができなかった。  
 
別にそんな性質の悪いイタズラをしようと思っているワケじゃない。  
ただ、せっかく滅多にない咲音の姿なんだから、この容姿でカイト君と遊ぼうと思っただけ。  
『咲音メイコ』の姿になるにはボーカロイドの研究所に依頼するから、ちょっと手間暇がかかる。仕事だけでこの姿を使うのは、もったいない気がした。  
カイト君に内緒にしているのも、ちょっとしたサプライズのつもり。  
カイト君は、私以外の女のコとはセックスをしたくないと言う。私も彼が他のコと寝たりとか、イヤだ。カイト君には妙に独占欲を駆られてしまう。  
だけど、見た目は他の女のコでも中身が私なら話しは別。  
相手が私ならなーんの問題もないじゃない!  
もちろん後でカイト君に、この咲音は『私』だって教えるよ?  
今夜は仕事が終わったら一緒に映画に行く約束をしている。その時にでも「今日の仕事で一緒だった咲音は私だよ」って、びっくりさせようと思ってた。  
でもその前に、この姿でカイト君に迫ってえっちなコトをたくさんしたい。  
最近はお互い仕事が立て続けに入っていて、彼とは三週間ほど会っていなかった。ここの所カイト君は仕事が増えたみたいで忙しそう。セックスが大好きな私は、いい加減カイト君と気持ちよくなりたい。  
今のカイト君もカワイイけどあの頃の彼は、こう……いっぱいいっぱいな感じがしていた。  
会う回数が増えて、段々と女の身体を知ったカイト君は、私をうっとりさせる快感をくれる。  
私だってカイト君を気持ちよくしてあげたかった。それにはこの姿でのえっちだって有効なハズ。少し変わったコスプレプレイの感覚だ。  
未成年設定っていうのも面白い。16歳の身体だけど結構おっぱいあるし、大きいおっぱいが大好きなカイト君だって気に入りそうだもんね。  
十代の女のコに迫られたら、カイト君は一体どんな反応をするんだろう。  
きっと出会った頃のように、真っ赤になって焦るに違いない。  
こんなに仕事が楽しみなのは久しぶり。私はうきうきしながら撮影現場と向かった。  
 
 
撮影現場は廃校になった中学校だった。ここを準備を含め一日借り切って、一気に撮影を終わらせると進行係から訊いていた。  
私は起動したときから大人だったから、未成年の子供たちがかつて学び舎として使用していたこの建物が珍しくて仕方がない。目に映る一つひとつが新鮮だ。  
学校へ入った私は、ヘアメイクをしてもらいに控室に使う部屋へ行った。  
メイクさんに衣装のまま来ると思わなかったと苦笑された。16歳の姿なんて滅多にならないから満喫したいのと答えれば、今度は大笑いされてしまった。  
ちゃんと、帰り用の私服は持ってきてるのよ? 借り物だけど。十代の女のコが着るような服なんて持ってないし、サイズ合わないもの。  
現場の教室へ足を踏み入れると、セットは殆ど組まれて機材の確認や行き交うスタッフで慌ただしい。そんな教室の隅に、監督と主演のカイト君が居た。  
どうやら監督と演技指導を兼ねた打ち合わせをしているようだった。資料を持って話し合っているカイト君は何時になく真剣な顔つきだ。主演だものね。  
初めて一緒に仕事した時なんて、ガチガチに緊張しているのがこっちにも伝わるぐらいだったのに。成長ぶりにびっくり。  
「あ、メ……咲音ちゃん」  
ちょっと離れたところで二人を見ていた私に、監督が気付き手招きをされる。口止めはちゃんと効いているみたい。  
近寄ると、監督が私をカイト君に「今日の共演者」として紹介してくれた。  
カイト君は暗い色のスーツを身に付けメガネをかけている。そんな姿、初めて見たわ。意外に似合うのね。いつもよりずっと大人びて見える。  
にっこり笑って会釈すると、カイト君が少し困ったような笑顔で応える。  
どうしたのかな? と首を傾げていると、直後に監督がスタッフに呼ばれ場を離れた。  
残された私たち。カイト君は困った笑顔のまま、私に話しかけた。  
「……あのね、今回のPVなんだけど……大丈夫、なのかな?」  
「え?」  
きょとんとする私に、カイト君は言い辛そうに重ねる。  
 
「いや……このPV、結構、その、大人っぽい内容だから。演技とはいえ触ったり、キスの真似事するシーンもあるし。  
 ……まさか本当に十代の女のコが出演すると思わなくて」  
「…………」  
「……大丈夫?」  
意外な言葉に面食らってしまった。  
そりゃ、確かに今の私はカイト君と初対面の女のコだけど、初めて性的要素のあるPVに出演したときだってこんな気遣いされたことなかったから、言葉に詰まる。  
そうだ。カイト君、気遣っているんだ。十代の女のコがちょっとアレな作品に出演すると思っているから……。  
「だ、大丈夫。ちゃんとPVの内容を理解して、引き受けた仕事だから」  
ど、どもっちゃった……。  
どうしたらいいか対処に困って表情の硬くなった私を、PVの内容に緊張しているとでも解釈したのか、カイト君は私の頭をポンポンと軽く叩いた。  
「ダメそうだったら、無理しないで言ってね。監督とできるだけ交渉するし、女のコが本気で嫌がること、僕もしたくないからさ」  
違うわ! そうじゃないの!  
って言いたいけど、言えなくて黙り込む私を青い瞳が覗き込む。そして、今度は安心させるように笑った。  
「今日はよろしく」  
明らかに私を年下のコ扱いするカイト君に結局何にも言えず、私はぎこちなく「こちらこそ」って答えるほかなかった。  
もお、調子狂うったらない。  
 
 
PVの内容は、男性教師と女子生徒の恋愛モノ。教師と生徒が人目を忍んで禁断の恋に溺れ、人気のない放課後の教室で絡み合うという内容だった。  
現場で監督の話しを聞けば、思っていたよりエロ度は低く仄かにエロ臭が漂う感じ。生徒を性的に見る教師の役柄の方に、多少の演技力を求められるようだった。  
性的要素はともかく、恋愛要素があるPVは出演したことないから、オファーがきた時、私は実のところちょっと不安だった。  
でも、カイト君が相手なら何とかなりそう。どうしてかな? カイト君と一緒なら大丈夫って思ってしまう。根拠もないのにね。  
それにしても、昔のカイト君じゃ多分できなかっただろうな。コレ。それを思うと何だか感慨深い。  
カイト君と知り合ってから、一年も経ってないんだけどなあ。こんな歌も役柄もできる様になったんだぁ……。  
そんなことを考えつつ、リハーサルを終えた。ちょっとイタズラしてね。  
監督から私とカイト君に演技指導があった後は、出演者は本番までしばらく休憩となった。スタッフは相変わらず右へ左へ行き交って、忙しない。  
宛がわれた控室は元保健室らしい。といってもベッドも薬品棚もなく、ただ外から人の目を遮るために今日のみ付けられたカーテンがそよぐ、殺風景な部屋だ。  
そこに外から会議用の長テーブルとパイプ椅子を数脚持ち込まれ、控室の体裁を取っていた。  
どうやってカイト君を誘おうかな〜って考えていたら、出入り口をノックする音が聞こえた。  
「はーい?」  
やってきたのは当のカイト君だった。  
「スタッフから伝言。なんか機材の調子が悪いみたいで、調整するから本番の撮影まで時間かかるってさ」  
「そうなんだ」  
ラッキー。だったら今すぐにカイト君と遊んでも、しばらく誰も呼びに来ないね。  
だけどカイト君の私を見る表情は何だか曇っている。ん? 機材トラブルがそんなに気になるの?  
「じゃ、そういうことで」  
「待って」  
踵を返したカイト君を引き止めた。飛んで火に入る夏の虫を逃す私ではない。  
怪訝そうなカイト君に私はPVの資料を掲げた。  
「PVでちょっと分からないことがあるの。監督忙しそうだから、カイト君付き合って」  
 
「あ、あの〜。くっつき過ぎじゃない、かな?」  
「そうかなあ? この資料だって、これぐらいくっついてるよ?」  
「や、でもね、へ?! ソ、ソコはダメ!」  
「ココ?」  
「ちょ、ちょっと、ちょっとタンマ!!」  
「んー? 聴こえなーい」  
耳に舌を伸ばすと、ひぇ! と裏返った声がした。  
カイト君が私の控室に来てから十数分。あっという間に私はカイト君のお膝の上にいる。我ながら早業だ。  
パイプ椅子に座るカイト君の膝に正面から乗っかって、焦る彼に上半身をくっつける。おっぱいの感触がカイト君に分かるようにね。  
カイト君と密着してる上半身は、ニットベストを脱いでボタンも三つくらい開き、ばっちり見える谷間は彼の胸板に押し付けられて形が変わっていた。  
「な、舐めたりとかっ、演技指導になかったよね?」  
「あったんじゃない? きっとあったわ。うん」  
それにしても、さっきからカイト君に結構抵抗されて、私はちょっと面白くない。  
今だって、私を膝から降ろそうと躍起になっているのだ。カイト君の力なら私を振り落としたりできるのに、敢えてそれをせずやんわり私の肩を押して距離を取ろうとしている。  
そのせいで、私たちが座る椅子はさっきからガタガタと抗議の音を立てていた。  
「待って、一旦資料を確認しよ? 先ずは僕から降りよう?、ねっ」  
「やだー。そんなに私がイヤなら落とせばいいじゃん」  
「怪我したらどーすんの? 撮影前なんだよ? ってか、女のコに怪我なんてそんなの……大人しく降り、うわ!」  
首筋をつーっと舐めて怯んだ隙にネクタイを緩める。カイト君の弱いところなんて、お見通し。抵抗する手をくぐって、痕が残らない程度に肌を吸う。  
息を詰めるその間に、ネクタイをするりと解いてYシャツのボタンも何個か外した。  
「もう、動かないで……」  
強引に唇を重ね、指をYシャツの中へ潜らせた。  
「…………!」  
カイト君が目を見開いた。ちょっと大げさよ?  
Yシャツの下は肌が透けないようにか、インナーに薄手のTシャツを着込んでいた。唇にちゅ、ちゅっと軽く音をさせて吸い付いて、布地の上から乳首を探る。  
既に硬くなっているそれを見つけるのは難しいことじゃない。布越しに指先で引っ掻けば、びくりと反応を返してくる。  
ふふ。私は声を出さずに目元だけで笑った。乳首を抓んだり押し潰しながら舌を差し入れると、カイト君のソレが逃げる。  
む〜。なんでかなぁ? ひょっとして、この姿カイト君の好みに合わないの? おっぱい大きいのに。  
さっきからやんわりと、頑なに私を受け入れようとしない。  
そっちがその気なら、その気にさせてやろーじゃない! と、ちょっと意地になり私はインナーを手早く捲り上げ、胸板へ口付けて乳首をれろりと舐めた。  
「あっ……!」  
次いで、ちゅっと小さな突起を吸い立てると、カイト君の身体がびくんと震える。  
その拍子に身体のバランスも崩れた。さっきから私たちの攻防に軋んでいた椅子が、とうとう限界を迎えてしまった。ぐらりと身体が揺れる。  
「あぶな……っ!」  
「きゃ……!」  
がくんと身体の落ちる感覚。直ぐにくるであろう衝撃に、私は反射的に固く目を閉じてしまった。  
 
派手な音を立てて椅子と共に倒れこんだけど、思った程の衝撃はなく身体のどこにも痛みもなかった。  
それもそのはず、だってカイト君が私のお尻の下にいるんだもの。  
カイト君は落ちるとき私が床に激突しないよう、尚且つ自分が下になるように気を配ってくれていたようだった。  
仰向けに倒れ、強かに背中と腰を打ってしまったカイト君。その上で四つん這いになって私はカイト君の顔を覗き込んだ。  
「大丈夫? カイト君っ。怪我してない?」  
カイト君はちょっと呻いて、私の姿を確認すると心配そうに見上げた。眼鏡が外れちゃってる。  
「いたた……だ、大丈夫。咲音ちゃんこそ怪我ない?」  
「カイト君が下になってくれたから平気。カイト君こそ頭とか打ってない?」  
「うん。ボカロだし、人間より頑丈だからね。大丈夫」  
「……本当に大丈夫なのね?」  
青い髪をそっと撫でる。  
「うん。心配してくれて、ありが……んん?!」  
髪を撫でていた手をカイト君のほっぺに移動させ、両手で挟んで少々強引に唇を重ねる。  
身動きできないカイト君の唇をちゅーって吸って、舐めて、甘咬みしてから開放し、胸板に手を付いてにっこり微笑みながら見下ろした。  
対してカイト君は私が何をしようとしているのか察しがついたみたい。まだ終わってないことに気が付いて、ヤバい! って顔で青褪めていた。  
背中から落ちちゃったから怪我でもしたんじゃないかって不安だったけど、大丈夫なら問題なしだもんね。  
じたばたし始めたカイト君のお腹の上にしっかり座りなおして、私は乱れた服からインナーを捲くり上げ、カイト君の素肌を撫で回した。  
「わ〜〜〜っ! ダメだよ、頼むからカンベンして〜〜っ」  
「やー。そんなにイヤがらなくったっていいじゃん!」  
いくらマウント取ってたって、カイト君とじゃ力じゃ負ける。今だってカイト君は、乱暴に扱って私に怪我や痛みを与えないよう手加減して、説得しながら逃げているんだから。動きを止める行動に出ないと。  
ブラのホックを外しカップを押し上げ、自由になったおっぱいをカイト君の前に晒すと、一瞬抵抗が止まった。ぷよんと揺れた白いソレの威力は絶大だ。  
「……っ!」  
その様子を見ている私に気が付くと、おっぱいに釘付けだった視線が顔ごと逸らされた。顔が赤い。  
その隙にカイト君に身体を重ね、膨らみを平らな胸板に押し付ける。私の胸の感触に息を呑んだカイト君は、それでも重なる身体を押し返そうと私の両肩を掴んだ。  
「悪ふざけはもう止めようよ……」  
「どうしてそんなに嫌がるの? ココは硬くなってるよ?」  
押し退けられる前にカイト君の股間をそっと撫で上げた。ソコは半分勃ってて、私のおっぱいと愛撫にちゃんと反応しているのに。  
「……っ、ダメだ。咲音ちゃん……っ、く……!」  
股間をナデナデしつつ、乳首に吸い付く。カイト君の咽が反って喉仏が動き、苦しげな吐息が噛み締めた唇から漏れた。  
手のひらの中のアレは直ぐに形を作って、もう勃起状態。嫌だ止めようと口では言うけれど、カイト君の身体は素直に欲情して私は目だけで笑った。  
肩に乗せられた大きな手はそれでも私を退かせようとするけれど、身体を弄ってあげればその刺激に阻まれて、さっきより力が弱くなっていく。  
息を弾ませ始めたカイト君の様子を見計らって、股間のチャックを下ろす。抵抗される前に、下着越しに硬く太くなったおちんちんに触れた。  
む、この感触だと、今日のカイト君のパンツはボクサーパンツかな?  
「……く……っ」  
指の動きをより一層感じているみたいで、カイト君は首を横にし快感に耐えている。もう……、我慢しないで素直に感じてくれればいいのに。  
乳首を強めに吸って口から外し、下腹部の愛撫も止めて私は身体を離した。  
いきなり彼を玩ぶ全てが無くなって、カイト君は驚いて私を見上げた。  
 
「よいしょっと」  
「え? ちょ、え? な、何してるの?!」  
カイト君の上で四つん這いになってゴソゴソ動く私に、上擦った焦った声が問う。  
「パンツ脱いでるの」  
呆気に取られたカイト君の身体から身を起こしながら、自分の脚からショーツを引き抜いてぽいっと投げた。カイト君目がけて。  
脱ぎたてのショーツは狙い違わずカイト君の顔面へ。  
「ちょっと……!」  
ショーツを払いのけるとカイト君は赤い顔を顰め、そして私の姿を見て絶句した。  
「ここまでやってるのに、どーしてそう頑なかなぁ?」  
カイト君が固まったのは、私が床に膝を付き彼の上に跨ってスカートをたくし上げていたからだ。  
見えるかどうかのぎりぎりのトコロで一旦止め、カイト君を窺う。  
彼は肘を突いて上半身を軽く起こし、身体を硬直させて私を見上げていた。ちゃんと視線が私へ向けられていることを確認して、スカートを上げる。  
カイト君の眼前へ、私は全部晒した。肌蹴た制服のブラウスから零れるおっぱいも、捲られたスカートの中の秘められた女の部分も、全部だ。  
彼の身体を跨いでいるから、私の脚も自然に開いている。当然アソコもちょっと口を開けていた。  
薄い陰毛、それを透かし隙間から見えるだろうクリトリスに、ひらりとした襞。  
あられもない姿に息を呑むカイト君を見て、私は満足して微笑んだ。  
「私がそんなにイヤ?」  
「や、あの、咲音ちゃんがイヤっていうか、その、なんだろ……」  
引き締まった腹部に、ちょっと湿った剥き出しのアソコを乗せると、弱りきったカイト君の顔が強張る。  
私は圧し掛かる身体の脇の辺りに両側に手を付いた。白く大きなおっぱいが下がって、膨らみと尖った乳首がカイト君の胸に乗った。  
「私、カイト君と気持ちよくなりたいの」  
「へっ? ぼ、僕ら初対面、だよ?!」  
私の発言に面食らう青い瞳が私を捉えた。  
何言ってるの? 『MEIKO』の私と初めてやった時も、初対面だったじゃん。  
「イヤじゃないなら、いいでしょ? カイト君だって、こんなにおちんちん硬くしてるじゃない」  
ちょうど私のお尻の後ろに位置する、欲情を示すアレを一撫でした。びくっと震える腹筋が、アソコに伝わる。  
煽るように何度も指を辿らせる。頃合を見て手を離し、眉を寄せ指先の愛撫に耐えるカイト君へとゆっくり前傾し、顔を寄せた。  
困惑を隠せないカイト君の顔を覗き込む。  
「私に興奮してるからおちんちん硬くなったんでしょ? どうしてそこまでガマンするの?」  
図星に唇を噛む彼の耳元に唇を近づけて、声色を作って囁いた。  
「カイト君だって欲情したら、女のコとえっちななコトしたいでしょ?  
 ……だったら相手は、私だっていいじゃない」  
そのまま私は、耳朶を舐めようと舌を伸ばし――――。  
勢い良く、視界がぐるんと巡った。  
「っ、きゃ……ぁ?!」  
一瞬、何が起こったのか分からなかった。  
気が付いたときには私の身体は起き上がった状態で、カイト君の膝の間でお尻をぺたんと床に付け座りこんでいた。  
カイト君が腹筋を使って、ものすごい勢いで身体を起こしたんだって、ようやく気が付く。私、カイト君のお腹から滑り落ちちゃったんだ。  
「…………?」  
目の前には完全に身体を起こしたカイト君。俯き加減で表情が見えない。  
「…………いい加減にしなよ」  
一瞬、誰の声か分からなかった。搾り出される低い声には、はっきりと怒りが込められていた。  
こんなカイト君の声、聴いたことない。怖くて肩が震える。どうしちゃったの……?  
そのままカイト君はさっき放り投げたショーツを手繰り、私の膝にぺしっと置いた。  
「え? カ、カイ……」  
「それ穿いて。服の前も閉じる!」  
強い声。混乱する頭が状況についていかなくて呆けていたら、「早く穿く!」とカイト君が怒鳴る。上げた顔は、私を真っ直ぐ睨んでいた。  
「は、はいっ」  
有無をも言わさない威圧感に、私は跳ねるように立ち上がってもそもそとショーツに脚を通した。  
 
何でこんなことになったんだろう……。  
起動されてから今まで、こんなに思考回路を働かせたこと、ない。  
どうして、何で? 答えを捜そうと脳内を検索するかのごとく、ぐるぐる巡るけど、目的のモノは一向に見つからない。  
もしかしたら、答えは私の中にないのかもしれない。  
「咲音ちゃん、聴いてるの?」  
苛立ちを滲ませた声におずおずと視線を上げると、カイト君が腕を組んで私をじっと見ていた。  
柔和なカイト君の眦が釣り上がってて、気圧される。コワい……。  
カイト君の上から落とされて服の乱れを直された後、私は結構な時間――――カイト君に怒られていた。  
しかも床の上で正座をして。私だけじゃなくて、カイト君まで正座だった。  
二人して向かい合いながら正座! 何コレ? 理解不能。全然分かんない!!  
「大体ね。PVのキスシーンの時だってそうだよ。監督は『フリ』でいいって言ってたよね? リハのとき、どうして本当にしたの?」  
カイト君がこの部屋に来たとき、妙に表情がおかしかったのはそのせいだったらしい。しなくてもいいコトを、私がしたから。  
そしてカイト君は、好きでもない男を誘っちゃダメとか、女のコが簡単に身体を許しちゃダメとか、まだ十代なんだからとかもっと自分を大事にしてとか、そんなことをず――――っと話している。  
もうホント、お説教だコレ……。  
カイト君が言っていることは一貫して、「好きでもない男と寝るもんじゃない」ってコトだった。なによソレ……。  
カイト君の怒った顔を初めて目の当たりにし、萎縮していた私だったけど段々腹が立ってきた。  
ワケ分かんない。カイト君の話していること、納得できない。  
自分だって『MEIKO』の私とセックスしてるくせに。私のこと、好きじゃないのに。自分のことも私のことも、全否定じゃないの。  
こんなお説教される筋合いなんて、これっぽっちもない。  
不貞腐れているのがもろに顔に出ていたんだと思う。カイト君は深い溜息をついた。  
「……全く理解できないって顔してるね」  
ぷいっと顔を逸らす。ココロ読まないでよ。  
「こっち向いて」  
カイト君の両手が私の顔を挟んで、無理矢理顔の向きを戻された。ほっぺたにいつもの温かみを感じて、その手を振り払うことができなかった。  
「あのね。その、キスとか、ハグとか……セックスはさ、絶対に好きな人とした方がいい」  
諭すように語り掛ける言葉は、お説教真っ最中だったときより随分と柔らかい。  
だけど、私は硬化した態度を改めることはできなかった。  
「……なんで? 別にいいじゃない。お互い気持ちよくなれば」  
「好きな相手とだったら、もっと気持ちいいと思うよ」  
「ウソ」  
「嘘じゃない」  
「ウソよ。男の人は、簡単に欲情するじゃない。  
 カイト君だって、ちょっと触っただけで勃起してたでしょ?」  
つい、詰るように言葉が尖ってしまう。でもそれを抑えることができなかった。  
まさかカイト君に拒絶されるなんて思わなくって、自分でも驚くぐらい酷く動揺している。  
咲音の姿で誘えば、喜んでくれると思ってた。温もりを交し合って、いつもみたいに楽しくセックスできると疑わなかった。  
それなのに、想像していたこと全てが上手くいかない。全部が全部、私の予想とかけ離れていく。  
しかも、好きな相手ってなんなの。その言葉も動揺に拍車をかけた。  
何よソレ。だったらカイト君は、どうして私に連絡してきて約束を取り付けるの? 会って、遊んで、寝たりするの?  
ウソつき。ウソばっかり。だってカイト君は別に私のこと好きじゃないでしょ?  
私とセックスするのは、手軽に性的欲求を満たすことができるからのくせに!!  
「……そんなの信じない。気持ちよくなれれば相手なんて誰だっていいんだわ。私だってそうよ。相手に恋愛感情なんか求めてないもん。  
 カイト君もやりたくなったら、好きじゃないヒトとでもセックスするでしょ?!」  
ああ、支離滅裂だわ。言いたいことはこんなことじゃないのに……!  
水を打ったように部屋の中が静まり返った。胸が苦しくて、沈黙が肌を刺すように痛い。  
 
「……僕は」  
カイト君の低音が、静寂の中に染み渡るように響く。  
 
「僕は好きなヒトとしか、セックスしない」  
 
…………。  
青い光彩が凪いだ湖面のような静けさと、逸らすことのできない強さを湛え、私を見つめていた。  
 
「……咲音ちゃんは可愛くて、正直僕の好みだからさ、あんな風に迫られたら……すごく欲情するし、やりたくなる」  
とても穏やかな声音が、私のささくれた気持ちを撫でた。  
でもね。と、カイト君は動けない私へ言葉を続ける。  
「男の生理で身体は反応するけど、それはまた別の話で……僕がセックスしたいのは、好きなヒトだけなんだ」  
好き……? 待ってよ。だって……。  
「そのヒトとしか、したくないんだよ」  
瞬きも忘れ、目を見開いたまま動けない私の頬を、ずっと包んでいた手のひらが離れて今度は頭を撫で始めた。  
髪を梳く指先の優しさが辛くて、私は唇を噛み締めた。  
「今は、無理に理解しようとしなくてもいいよ。咲音ちゃんに好きなヒトが出来たときに、自然に分かると思うから」  
「……自然に……?」  
ようやく開いた口から出た言葉は、妙にたどたどしい。  
でも私の台詞を受けて、カイト君は目元を緩めて穏やかに笑った。  
「うん。好きなヒトとしか、したくなくなるよ。ココロも身体も満たされるからね」  
髪に触れるカイト君の手のひらが、くしゃりと髪を一撫でして去っていった。  
温もりが完全に離れる。カイト君の温もりが、私から……。  
「咲音ちゃんは、僕が好きなヒトとちょっと似てるね」  
正座を崩し、痺れたとちょっと顔を顰めたカイト君は私をまじまじ眺めてきて、少し焦る。  
って、何を焦るんだろう。カイト君が好きなヒトは、私ってわけじゃないのに。  
「無邪気で天真爛漫なところとか、でもどこか危ういところとか、ね。だからかな、おせっかい焼いちゃったのは」  
立ち上がり腰の後ろに手を当てて背中を伸ばすと、すっかりいつもと同じ状態に戻ったカイト君は、私の前にしゃがみ込み笑顔を向けてくれた。  
「いきなり怒ってゴメン。怖かったよね」  
確かにあの時は怖かったけど、私は首を横に振った。毒気を抜かれたというか、憑き物が落ちたというか……なんとも言えない気分だ。  
「僕、自分の控え室に戻るね。随分時間経ったし、もうすぐスタッフが呼びに来ると思うから」  
脚を崩しぺたんと床に座り込んで、じっと見つめる私に「また後でね」と一言残して、眼鏡も回収してカイト君は部屋から出て行った。  
取り残され、どのくらい放心していただろう。カイト君の話していたことが、水面に浮かび上がる泡のように頭に浮かんでは消え、纏まらない。  
不意に入り口の扉が開く音がして、はっとして顔を向けた。……戻ってきた?  
「スイマセン。撮影の準備ができたんで、メイク直し……って、なにしてるんですか? 床に座り込んで!」  
撮影班の女性スタッフだった。彼女の顔を認めた瞬間、落胆した自分に気づく。  
「……あ……ごめんなさい。なんでもないの」  
「……あれ? ちょ、どうしちゃったんですかメイコさん? なんで泣いているんですか?」  
「え…………?」  
自分の頬に指を当てた。指先に濡れた感触。それは乾くことなく、新たな雫が次から次へ、私の指を濡らしていく。  
「メイコさん……?」  
「あれ? ご、ごめんなさい……っ。なんでも……」  
気遣わしげなスタッフの声音が耳を通り過ぎた。  
なんでもない。こんなこと、泣くほどのことじゃ……。  
「…………っ」  
両手で顔を覆うと、嗚咽が咽を登る。  
自分でも知らない内に泣いていたいたなんて。だけど、流れ出した涙を直ぐに止めることはできなかった。  
 
PV撮影は滞りなく終わった。  
カイト君との絡みも、恐ろしいほどスムーズに。  
泣いてしまった私が、現場入りする時間がかかっている間に監督と話し合ったのか、キスシーンは唇でなくカイト君から私の額にするものに変わっていた。  
実際カメラの前で演じてみたら額にキスの方が妙にエロく映ったようで、監督はご満悦だ。  
帰り際、監督の元へ挨拶に行くと意外な言葉がかけられて驚いた。  
「メイコちゃん、恋愛モノもできるんじゃない。生徒の恋を知った初々しさと可憐なエロさが出てて、今回すごくよかったよ。  
 歌の幅も広がっているんじゃないの? またよろしくね」  
……呆気に取られてなにも言えなかった。  
私はただ、カイト君に促されるまま演じていただけなんだけど……。  
 
 
「メイコさん?」  
カイト君の顔が覗き込んできて、驚いて瞬きをし我に返った。  
「ごめ……ちょっと、考え事してて」  
慌てて取り繕うと、カイト君は首を傾げる。  
「なんかぼんやりしてますね。疲れてます?」  
あ、ある意味疲れてるけど、カイト君に悟られたくなかった。  
「平気。気にしないで?」  
にっこり笑って返すけど、カイト君はまだ怪訝そう。  
「それならいいんですけど……。映画、もうすぐ始まりますよ」  
「うん」  
今、私たちはレイトショーを見るため映画館にいた。スクリーンから大分離れた、ペアシート列の一番後ろに座って、映画が始まるのを待っている。  
館内はレイトショーのせいか人も疎らで、後方から見渡すと座席に座る人の数はかなり少ない。  
仕事が終わった後、ボーカロイドの研究所に寄って身体を『MEIKO』に戻し、服も下着も自分の物に着替えてカイト君との待ち合わせ場所へ向かった。  
本当は行こうかどうか、迷った。さっきの今だもん……。  
でも脚は歩みを止めることはなく、待ち合わせの時間から十分ほど遅れて、私は待ち合わせていたカフェに着く。  
時間ぴったりに来ていたらしいカイト君は私を認めると、柔らかく笑って手を振った。  
何も気が付いていないカイト君の笑顔に、やっぱり来てよかったと安堵し、また罪悪感に胸の痛みを感じた。  
館内に映画の始まりを告げるブザーがなり、照明が落ちる。画面に目を向け予告を眺めながらも、私の頭を占めるのは私を叱ったさっきのカイト君だった。  
思い返せば、全部私が仕組んだことだ。  
誘えば簡単に乗ってくると思ってた。男のヒトは女よりもっとセックスが好きだから、嫌がられるとか全然頭になくて。  
カイト君が他の女のコと寝るのがイヤだからって、『咲音メイコ』という別人に成り代わり、反応を楽しもうとしてその気もない彼に絡んで困らせた。  
どれもこれも、全部私の身勝手だ。くだらない独占欲でカイト君を振り回して、挙句に怒らせてしまった。  
しつこく迫る『咲音』を、傷つけないよう優しく断っていた彼に気が付かないで……。  
膝に置いていた握り拳に力がこもる。  
自分のしたことが猛烈に恥ずかしかった。私、自分のことばかりだ。  
――軽はずみなことして後悔しても知りませんよ?  
出かけ際の、めーこの言葉が突き刺さる。  
そうねめーこ。私、馬鹿だ。あなたが正しい。  
楽しい遊びを思いついたつもりで勝手に浮かれて、相手の迷惑なんてこれっぽっちも考えなかった。  
拒絶をされたことが、信じられないほどの私にダメージを与えている。  
――僕は好きなヒトとしか、セックスしない  
――そのヒトとしか、したくないんだよ。  
頭の中で繰り返される耳に馴染んだ低音。  
映画の内容が頭に入らず、膝に置いた手を見つめる私の視界の隅に、カイト君の手がちらりと入った。  
『咲音』の頬や髪に触れていた、大きな手。『咲音』を拒絶して離れていった温かさ。  
……じゃあ、『私』だったら……?  
 
視界に捕らえたカイト君の手は、微動だにしない。映画に集中しているんだ。  
スクリーンを反射する光に照らされるカイト君の横顔を盗み見て、拒まれた時の記憶が呼び起こされた。胸がざわついて堪らなくなる。  
カイト君の袖口をぎゅっと掴んだ。私の指の感触に、彼が不思議そうな顔を向けてくる。  
衝動を止められない。私は拒絶されるのを怖れながら、カイト君の袖を引き唇を重ねた。  
「――――」  
驚きに見開かれるカイト君の目。見れなくて、瞼を閉じた。  
舌で唇の隙間をなぞって、開けて欲しいとお願いする。ここは映画館で、映画は上映中なのに、私はどこまでもイヤらしくて自分勝手だ。  
こんな風に男の気を引くことなんてしたことない。数回寝るだけの男に、そんなことをする必要もなかった。  
重なる唇が開いて嬉しくて舌を入れようとしたら、カイト君の方から私の口内へそれが忍び込む。音を立てないよう注意して、絡めて吸い合い、混じる唾液を味わった。  
息が苦しくなった頃、どちらともなく顔を離す。カイト君が私を引き寄せて、耳元で囁いた。  
「……出ようか」  
キスの余韻に小さく息を吐いて、私は頷いた。  
 
 
場内を出ると、今上映しているのがレイトショーのせいか人もいなければ、売店も閉まっている状態だった。係員も奥へ引っ込んでいるようだ。  
更に人の来なさそうな、奥まった場所にある非常階段の踊り場の隅。そこでカイト君を壁に押し付けて、貪るようにキスした。  
唇だけじゃなくて、頬も、額も、首筋も。シャツを捲り上げて、指先を這わせながら胸元を舐め乳首に吸い付く。  
「……う……」  
ジーンズの前を撫でると確かな昂ぶりを感じる。カイト君の脚の間で膝を付き身体を屈めて、ボトムと下着を性急に下ろし陰茎をしゃぶった。  
触れる前から勃ち上がっていたそれを咽の奥へと誘い、夢中で舌を這わせる。  
私の舌使いにカイト君の咽が呻いて、鼓膜に届くそれにぞくぞくしながらも、あっという間に太く硬く反り返った肉棒を頬張った。  
亀頭と竿の境目を舌先を回しながら刺激して、鈴口をちゅうっと吸った後に今度は血管の浮く肉棒を根元から舌の腹を使って舐め上げる。  
カイト君は一連の動きに、歯を食いしばって喘ぎを殺していた。  
さっきは服越しにしか触らせてくれなかった肉棒。私の愛撫で感じて、ぴくぴく震えている。  
嬉しくて、陰毛に鼻先を埋めながら袋も裏筋にも吸い付くようなキスを繰り返し、手で扱いた。  
何人もの男と寝たけど、こんな風に誰に見られるか分からない場所でセックスをするのは初めてだった。  
息と声を潜め、他人の気配を窺いつつ耽る行為は、燻る欲望をつついて高揚させる。  
それは彼も同じようで、興奮の度合いを表すように舌の上に乗る肉棒がひくんと反応した。  
「……っ、は……!」  
殺しきれない吐息が階段の踊り場に響く。私の髪に手のひらの感触がし、頭を包み込むように撫でた。  
「気持ち、いい?」  
視線を下げたカイト君は、乱れた息と共に頷いた。  
「メイコ、さん。それ以上したら……出る……」  
「出して……」  
「口に、いいの……?」  
前髪の隙間から、快感に潤むカイト君の青い眼差しが私を見下ろしている。私は答えの代わりに肉棒を咥え、強く吸った。  
「うぁ……!」  
カイト君の筋肉の緊張が、私にも伝わる。  
頭と手を動かして唇で食み、上顎と咽の境目の柔らかな部分に先端を擦り付けた。口の中に粘つきとしょっぱさを感じ、先走りの味がじんわりと広がる。  
「はっ、う……」  
頭を撫でていた手に力が入り、髪に指が埋まる。私の頭の動く速度が上がり、咥える唇からちゅばちゅばと激しい唾液の音が耳についた。  
水音と堪え切れない吐息が狭い非常階段の踊り場に満ちて、カイト君の全身が緊張し、私の頭を抱える指先にぐっと力が入った。  
「――っは! ぁく…………っ」  
手で扱き強く吸い込む私に、カイト君の腰も小さく前後に振られる。次いで、咽の奥に熱く苦い飛沫を感じた。  
肩で息をするカイト君の吐き出した粘つくソレを飲み込み、まだちょっとだけ滲む先端を舐める。  
お残しなんか、一滴もしたくなかった。  
 
ぴったり身体をくっつけ合い、カイト君の唇が私の首筋から耳の裏へとなぞる。性感帯を微妙なタッチで触れられ、競り上がる吐息を噛み締めた。  
服の隙間から忍び込んだ手が身体を煽り、背中に押し付けられる冷えた壁が自分の体温で温かくなるのが分かる。  
さっきとは逆の体勢で、私はカイト君と壁に挟まれた状態で彼の愛撫を一身に受けていた。  
私はブラを着けないから、カイト君の手は簡単に胸を捕らえて質感を確かめるように、やわやわと揉んでくる。時折勃った乳首を押し潰す指に、喘ぎ未満の音が口から零れた。  
目元に唇が落ちて睫毛が震えてしまう。その唇が私の口元へ寄せられて、小さく首を横に振った。  
「だめ……。下、舐めた後だから……」  
「構わないよ」  
「ぅん……っ」  
すかさず唇を攫われ、深く吸われた。キスに夢中になっている私の腰へ、カイト君の手が下りてくる。括れの部分を数度撫で、スカートの中へと潜り込んだ。  
太ももを伝い下着越しに割れ目を指が擽って、私は思わず唇を外して身体を反らした。  
「……脚、開いて」  
言われるままに脚の力を弛めると、カイト君が身体を入れてその分脚が開く。  
すっかり濡れた下着のクロッチをずらして、ぬかるむ襞の間に指が二本ずぶずぶと侵入する。  
同時に開かれた服から顔を出す、おっぱいの頂点をカイト君が口に含んだ。  
「……う……は……っ」  
乳首を唇で吸いたて食まれ、下はクリトリスを親指で押さえながら膣を引っ掻かれる。身体を駆け巡る快感に、どうしようもなく身体が疼いた。  
カイト君とセックスする度に感度を増す身体は、制御が利かなくなって本能がもっと欲しいと訴えてくるみたい。  
「ものすごく、濡れてきた」  
胸元でカイト君が囁いた。言われなくっても指の動きに合わせて鳴る水音が、私がどれだけ興奮しているか教えてくれる。  
乳首もアソコも、感じる場所をピンポイントに刺激されてどんどん発情していく。  
「あ、あ、んぅ……」  
舌が乳首を舐め回し、ちゅぽっと小さな音を立てて離れてはまた乳首に吸い付く。ぴりぴり背筋を上る快楽に腰が揺らめいて膣が反応した。  
それなのに、涎を垂らしながら嬉しそうに食む膣を深く中をまさぐる指が、急に引き抜かれてしまう。私は喪失感に微かに喘いだ。  
「今日は、いつも以上に大胆だなぁ……」  
熱い溜め息を吐きながら、カイト君は私を抱き締めた。  
「こんな所でしたがるなんて、どうしちゃったの?」  
拒絶されたのが怖かったからなんて、言えない。  
身体を押し付けるカイト君に縋って腰を擦り付けると、背中の手が腰に下がり引き寄せられる。カイト君の下腹部も、すっかり欲望の形を示していた。  
「ね……このまま、挿れていい?」  
呟く密やかな声が荒い息で乱れてて、カイト君も興奮しているのが分かった。  
「ん、早くぅ……」  
欲しくて欲しくて仕方ない。カイト君の首に両腕を回して抱きついた。  
片脚を高く持ち上げられ、股が大きく開く。指で弄っていた時よりもクロッチを更に脇に寄せられ、下着を穿いたままのヒクつくアソコへカイト君の肉棒が襞を押し分けて、一気に貫いた。  
「――――っ! ん、は……っ」  
貫く感触に総毛だった。カイト君も一瞬息を詰めて、胎内に収めた肉棒を馴染ませるように、空いた手で私のお尻を引き寄せながら自分の腰を回してくる。  
いきなり奥を先端がぐりぐり刺激して、我慢できず首筋に口元を埋めて喘ぎを殺した。  
「メイコさん、我慢できないなら噛んでいいよ」  
「……っ、でも……」  
そんなことしたら、痕ついちゃう。仕事に支障が。  
「大丈夫。しばらくは露出の仕事、入ってないから。いざとなったらアイテム使う……動くよ」  
「あ、待っ――――!」  
間髪入れず突き上げられて、私の言葉は穿つ肉棒に遮られた。  
 
身体の中心を滾った肉棒に何度も何度も抜き差しされて、私は息をつくこともままならない。  
抜かれる感触に身震いし、強引に押し広がれれば良い部分を先端に引っ掻かれてぞくぞくする。一方、抱き合い伝わる温もりに安心して、身体を委ねられた。  
『咲音』を拒否されてすごくショックだったのは、いつでも優しいカイト君に知らぬ間に甘えていたからだ。  
カイト君は私を拒否したんじゃない。『咲音』だから拒否した。  
……私じゃない、女のコだったから?  
不思議とそれを嬉しく思う反面、結果的に騙してしまったことに申し訳なく感じ、固い身体に縋りつく手に力をこめた。  
「……っく……ごめん、ね」  
鳴きそうになる咽から零れた声にカイト君が怪訝そうな顔をし、次いでああ、と答えた。  
「映画のこと? 別にいいよ。ホントいうと、全然集中してなかったし……」  
「え……?」  
腰を緩やかに使いながら、カイト君は続けた。  
「今日、仕事がエロ系で……うん、影響されちゃってさ。会うの久しぶりだし、メイコさんとしたくって仕方なかったんだ」  
私、と……?  
「映画見ながら早くウチに連れ帰りたくって、そわそわしてた」  
「あ、んっ、んん……っ!」  
腰を回して擦り付けられ、繋がる下半身からぐちゅりと卑猥な音が立ち、狭い非常階段に響いた。  
『咲音』のことを、他の女のことを伏せるカイト君の心根は、やっぱり優しい。  
悦ぶ身体と心が、カイト君が咲音に言った言葉を鮮明に甦させた。  
――僕は好きなヒトとしか、セックスしない。  
カイト君は、誰が好きなのか名前は出さなかった。ただ、『咲音』に似ているとだけ。それだけ。  
……カイト君に好きなヒトがいることを知って、複雑になる。  
男に恋愛対象として見られたこと、一度もない。だから、カイト君がしょっちゅうセックスをする相手が私でも、彼が好きなヒトが自分だなんて到底思えなかった。  
ただでさえ自分のしたことを恥じているのに、この上勘違いして更に上塗りするのはイヤだった。  
「……っ!」  
大きな声が出そうになって、カイト君の肌をつい噛んでしまった。  
肉棒に膣を抉られ、意思とは関係なしに中がきゅっと締まる。眉を顰めたカイト君は、私の中からずるりとアレを引き抜き抱えていた脚を下ろした。  
私の粘膜に濡れそぼった肉棒は勃起したまま、弱く白っぽい照明を受けててらてらと光っていた。  
困惑してカイト君を見上げると、上気した顔で微笑んでいる。こんな大人っぽい笑い方、いつからするようになったんだろ。  
「ゴメン。あんまり気持ちイイからちょっとヤバくて」  
「……イっていいのに……」  
「一人じゃヤだよ。後ろ向いて、壁に手をつけて」  
促され、壁に向くと腰を引かれてお尻をカイト君へ突き出す格好になる。果実の皮を剥くように下着を下ろさた。  
こんな場所で大事な部分を丸出しにされ、今更ながら心許ない。  
内股まで垂れて流れる粘膜に濡れそぼる秘裂を、カイト君の指が一撫でし期待にお尻が震えた。  
「ふ……!」  
「挿れるね」  
自分の昂ぶりを私に知らしめるように、ゆっくりと肉棒が襞の狭間に沈み込む。  
膣を広げ侵入してくる欲望に、私は甘ったるい溜息をついた。  
 
「ふ……っ、く、はぁ……!」  
カイト君の腰の動きに合わせて上がる嬌声を吐息に昇華し、私は口からそれを逃がす。  
卑猥な水音を立てながら身体の芯に向かって出入りする肉棒は、益々勢いを増して私を悦ばせた。  
私の弱い部分をカイト君はすっかり学習している。緩急つけながらソコを狙う刺激にお尻が跳ね、悶えてしまう。  
「……っあ、メイコさん……イイ……」  
深く息を吐き、カイト君が腰を掴む指に力を入れた。  
「うん……ひ……っ」  
後ろから伸びてきた大きな手のひらが、下向きで揺れるおっぱいを捕らえた。  
握り込まれ、確かめるようにむにむに揉んでから乳首をくいっと引かれる。  
「はぁ……っ、あ、あ」  
「ん、締まる……」  
感じる度に膣がカイト君を求めてきゅんと収縮した。胎内で猛威を奮う肉棒は私をどうしようもなく乱れさせるけど、どこか安心感があった。  
私が求めていると同じだけ、カイト君も私を求めているって実感できるから。  
拒まれた衝撃は思いのほか引きずっていて、カイト君を感じる程に冷えた胸が温まっていくみたい。  
「んんっ……」  
捲り上げられて晒された背中を、舌が這う感触に身震いした。  
「そろそろ、限界……いい?」  
熱っぽい声に、頷くことで答えた。両手ががっちり腰を掴んだ途端、胎内を埋め尽くす肉棒がストロークの速度を上げた。  
「ひっ……! っ、は……う……っ」  
力強く打ち込まれる衝撃と強烈な快感に、下肢が震えておっぱいも痛いぐらい揺れる。壁についた指に力がこめられ、腱が浮いた。  
喘ぎを吐息に変えようとしてもついていかず、半開きの唇から唾液が垂れる。苦しい。だけど気持ちいい……。  
掠れた低い声も、声にならない吐息も、触れる指先も、重なる体温も、全部を私の身体は受け入れて敏感になり、粘膜を際限なく垂れ流す。  
「ふ……ぅ……、んっ」  
気持ちを揺さぶられて、私の全てがカイト君に向かって開かれる。  
「んぅっ、あぁ……っ、あ!」  
漏れ始める濡れた喘ぎをもう殺せない。間断なく吐かれる荒い息を背後に感じ、更に水音が激しく辺りに反響した。  
「あ、イク、はっ……、んぁ……ひぃん……っ」  
「……っ、メイコさん……っ」  
膣を擦る強かな感覚に追い詰められるように、急速に絶頂へと駆け上がる。  
「…………っ! んひっ、うぅ……んん……あぅ、はぁんっ!」  
達して蕩けた声が踊り場に反響した。  
反った身体が痙攣みたいにびくびく震え、狂おしくカイト君を欲しがり胎内がぐっと締まった。  
吸い上げるその動きに肉棒が最後を迎え、指が食い込むほど掴んだ腰を引き寄せながら、膣にカイト君が精液を吐き出す。  
「……うっ、あ……くっ!」  
熱い迸りを感じ、カイト君は注ぎ込みながら肉棒を激しく中で扱く。  
動きが止まり、快感に脚が萎えて崩れ落ちそうになる私を背後からカイト君が抱え込んだ。  
背中に熱い体温がじんわりと広がる。達した余韻に浸りながら身体をカイト君に預け浅い吐息を繰り返し、しっかり回された腕に応えるように手を重ねた。交わす言葉はないけれど、それで充分だった。  
力を失った陰茎が自然に抜け、膣がこぷりと音を立てて出されたばかりの精液が流れ出す。  
内股を伝って垂れていくそれに名残惜しさを覚えながらも、私の中は充足感に満ちていた。  
 
深夜、意識が浮かび上がる感覚がして目が覚めた。  
目の前には筋肉質な裸の胸。霞みかかっていた意識が段々鮮明になって、ここがどこかを思い出す。  
あの後、映画館から出た私たちはカイト君の部屋に行って、また身体を重ねた。  
上になりたいです! と主張するカイト君がおかしくてつい笑ってしまったら、押し倒されて身体の隅々まで愛撫された。  
ご無沙汰だったからなのか、『咲音』に煽られたせいなのか、カイト君は私を離そうとしなくて、何度も登り詰めては果てて抱き合った。……これ以上、ないくらいに。  
私へ枕替わりに差し出してくれた腕に乗せた頭を動かすと、小さな呻き声が聴こえてカイト君が瞼を開けた。  
眠そうな瞳がぼんやりと私を映し、青い光彩が次第に光を宿していく。  
「ゴメン、起こしちゃった?」  
「いえ……あ、身体辛くないですか?」  
「? え?」  
「その、やりすぎた……から」  
バツが悪そうに口ごもるカイト君は私の顔を窺う。  
「それに下着。……ダメにしちゃったし」  
途中まで下着を下ろさずにやってたため、私の下着は二人分の体液が下着を汚した上に脚を通す部分のゴムが伸びきって、もう使い物にならなくなっていた。  
「ゴメンなさい」  
しょんぼりするカイト君が可愛くてくすくす笑うと、拗ねてしまったようだ。  
だって! と口を尖らせる。  
「映画終わるまでガマンしようと思ってたのに、メイコさんがキスしてくるから……。  
 久しぶりなのに、あんな場所で口でされたら耐えらんないよ」  
非常階段での行為を出され、私はあの時の衝動の原因を思い出して口を噤んだ。  
カイト君は、『咲音』は拒絶したけど私を拒みはしない。私がいいと言う。  
でも彼には好きなヒトもいる……らしい。  
好きなヒトって、誰なんだろう?  
私とセックスするのは、好きなヒトと両想いじゃないから?  
カイト君の性格からして、気が向いたときにその辺のコを食うなんてありえない。優しくて誠実な男の子だ。  
付き合っているコがいたら他の女と寝るなんて真似、まずしないだろう。それに、カイト君がズルく立ち回っているようにも見えない。  
好きなヒトとは告白以前の関係なのかな?  
出会った頃はフリーでも、私と知り合った後に好きなヒトが出来たのかも。  
良くも悪くも優しいから、私と切れたくても言い出せないとか。  
もし、カイト君がそのヒトと上手くいったら、私とはしなくなっちゃうよね……。そう思うと、胸の奥がひんやりとする。  
ああでも、私としかしたくないとも言ってるし、何度もえっちする理由も分からないわ。  
カイト君の発言と行動は矛盾だらけで、私はまるで迷路で立ち往生している気分になる。  
煮詰まって、カイト君を見上げた。  
「ねえ、カイト君」  
「はい?」  
「カイト君は、どうして私とセックスするの?」  
「は……?」  
きょとんとするカイト君を、私はじっと見据える。本当は『好きなヒトいるの?』って問いたいトコロだけど、それはカイト君が『咲音』に話したコトだから無理だった。  
このタイミングで言ったら、私が『咲音』だったことがバレちゃう可能性が高いもん。考えるの疲れてしまったし、もう訊いた方が早いわ!  
「ま、前に、メイコさんがいいからって言いましたよね?」  
若干焦った感じのカイト君に、更に詰め寄る。  
「それは聴いたけど、今のカイト君なら女のコに不自由すると思えないから……どうしてかなって」  
「……どうしてって……」  
うーんとカイト君は唸りながら、視線を空に飛ばして考え込んでしまった。  
なんだか、言葉を捜している様子。そんなに答え辛かった?  
「メイコさんとしかしたくない……としか」  
眉を下げて、弱ったって顔してる。でも、それじゃ納得できないの。  
「僕、メイコさん以外の女のヒト知らないけど、他のヒトとしてもメイコさん以上に気持ちよくはなれないです。きっと」  
「そんなことないと思うけど……」  
だって、誰と寝たってやるコトなんて変わら……。あれ?  
…………だったら、私はどうしてカイト君とばっかり?  
やりたいだけなら、カイト君が忙しい間は他の男と寝ればいいことなのに。私はそれをしない。自然とカイト君を選ぶのだ。  
視界に影が差し、見上げるとカイト君が私の頭に手を伸ばして、大きな手のひらが髪を撫でた。  
 
「そんなんことはありますよ。メイコさんとセックスしたり、なにもしないでくっついてるだけでも、身体だけじゃなくて心も充実する……上手く言えないけど」  
青い瞳が柔らかく細められ、柔和な笑顔が私の胸に滲む。  
 
――好きなヒトとしか、したくなくなるよ。ココロも身体も満たされるからね。  
 
あ……。  
まさか、まさかカイト君。  
カイト君の、好きなヒトって。  
 
彼に出会って、何度も夜を過ごすようになってからの自分の変化だってそうだ。  
肌を重ねれば重ねるほど感じる身体も、正体不明の独占欲も、他の男とのセックスに興味がなくなったのも、触れ合う温もりの心地よさに満足するのも。  
私の中のそういった感情全部が、カイト君に向けられていく。それがずっと不思議だった。  
だけど、もし私が――――なら。  
ぐちゃぐちゃに絡まっていた糸がするりと解けたように、すっきりと納得できる。  
 
私がカイト君を好きだったなら。  
 
これは好きになってしまったから、生まれた感情なんだ。  
カイト君への独占欲で『咲音』になって構ってもらおうとしたり、拒まれて傷ついたり……離れていった温もりが、泣くほど哀しくて。  
そんなの、初めての気持ちだったから全然分からなかった。  
 
全部理解した途端、心と共に身体も震えた。そんな私に気が付いて、カイト君が首を傾げる。  
「メイコさん、寒いの?」  
言いながら掛け布団をより多くかけてこようとするカイト君に、私は自分の身体を寄せた。頬を固い胸にぴったりくっつける。  
「……ぎゅって、して」  
「えっと……こう?」  
背中を腕が包んで、苦しくないぐらいに密着した。脚を絡めてカイト君の背中に手を回し、もっと身体をすり寄せ胸に顔を埋める。  
「なんだか、今日は随分甘えたさんですね」  
嬉しそうな声が頭の上で弾む。背中から腰をゆっくりと撫でる手のひらが気持ちいい。  
緩やかな愛撫に似た感触。身体を包む温もりが、じんわりと体内に染みていって、段々瞼が重くなってきた。  
 
めーことルカは、カイト君への気持ちは自分自身で気づいた方がいいと話していたっけ。  
だけど、稼動して初めて知ったこの気持ちはとても不安定だ。  
未知の領域にいつの間にか足を踏み入れていた事実が、怖かった。  
心許なくて身体を満たす温もりに縋る。  
 
ねえカイト君。私のこと、好き……なの?  
どうして何も言ってくれないの?  
何を考えているのか、分からないよ。カイト君……。  
 
睡魔が再び訪れ、言葉にならない。  
未だ撫でる手のひらを身体に感じながら、私は微睡みの中に沈んでいった。  
 
 
おしまい  
 

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