えっちなメイコお姉さんと新人カイト君のはなし 6 
 
下剋上の人です。  
お久しぶりの「えっちなメイコお姉さんと新人カイト君のはなし」の続きを投下  
カイトのターンに戻ります  
 
 
【 注 意 事 項 】  
 ・メイカイメイ(メイコ攻め強め)  
 ・モブ(♀)に迫られるカイト  
 ・エロまでの導入部アホみたいに長い上に長文  
 ・若干カイトにアナル被害(描写ぬるいです)  
 以上が苦手な方はスルー推奨  
 ※校正はしていますが、誤字脱字はご容赦を  
 ※15〜16レス使用。エロのみ! って方は6〜14  
 
 
 
 
僕は今の現状を掴み損ねている。  
周りはざわつく喧騒に満ち、視界の端には紫煙の残滓が漂う店内。手には酒が注がれたグラスがあって、胡坐をかく僕の膝に何故か盛大にデコられた爪と手が。  
極め付けが、寄りかかられて腕に密着してくる柔らかいナニカ。香水の香りが強くて咽そうになる。  
「…………あの」  
「なあにカイトくん?」  
「……ちょっと近過ぎるんだけどな……」  
「そうかなぁ? 私、ちょっと目が悪くてこのくらいの距離じゃないと顔が見えないんだよねー」  
「手とか、膝に置かれるのは……ていうか、寄りかかるのはちょっと」  
「そお? カイトくんて些細なこと気にするタイプなのね?」  
……駄目だ。話がさっぱり通じてない。会話の相手はご満悦に笑って離れてくれなかった。  
さっきから遠まわしにやめて欲しいと訴えているのだが、全然聞き入れてもらえないのだ。  
弱り果て、こんな状況を作った張本人を睨みつける。長テーブルを挟んだ斜め前で見知らぬ女の子の肩を抱くアカイトをな!  
視線に気が付いたアカイトは、軽く「ゴメンな!」とジェスチャーを返すだけ。そしてまた女の子との会話に戻ってしまった。オイ!  
僕は再び周囲を窺って現実逃避に走る。  
ちょっと離れた席にから聴こえる、日本語アヤシイあの女性の声は同じ事務所で仕事仲間のアンさんだな。  
しかも酔っているから余計に言葉がおかしくなってら。  
男二人を侍らせてなんか超ご満悦……。うげ。なんか腕にもっと重みが。  
僕の隣の女の子は僕にしな垂れながら熱っぽい視線を送ってこられ、処置に困って顔を伏せるしかない。  
その視界にも女の子の茶色い巻き毛がくるんと揺れて、僕の溜息に揺れた。  
ああ信じたくないけどこの状況。不本意にも僕は、アカイトに騙され合コンに来ている現実を受け入れるしかなかった。  
事の発端は、男二人を左右に従えて心底楽しそうに酒をかっ喰らっているあの女性、アンさんだ。  
あそこでケタケタ笑う金髪の女性は、僕らと同じボカロのSWEET ANNという。  
彼女はエンジン2で、僕らより後に発売されたボーカロイドだけど、僕とアカイトより早く事務所に購入されていたため、アンさんはいわゆる『年下の先輩』だった。  
まあ、見た目は『KAITO』より年上に見えるから『先輩』で全く違和感ない。  
気さくで気のよい先輩で、僕を含め事務所には彼女に頭が上がらない人も多かった。ちなみに、僕らが住むオンボロアパートの住人でもある。  
そのアンさんが、最近付き合ってた男に振られたらしい。  
事務所でじめじめと腐っていて、余りにも「新しい男が欲しい!」周りに絡みまくって迷惑だったから、アカイトが合コン設定したんだけど……それがマズかった。  
僕は「ふーん」くらいで人数集めするアカイトを眺めていたのだけど、何故かヤツは途中から自分の欲求も満たそうとしたみたいだ。  
ついでに自分も楽しめるようセッティングし始めたらしい。  
最初はアンさんに男を作る趣旨だった合コンは、アンさんとアカイトのためのそれになってしまった。  
そうなるとアカイトは俄然やる気が増したようだ。  
 
傍からその様子を見ていた僕は、もちろん参加する気などゼロだった。僕は合コンとか気を使うような飲み会は苦手なのだ。大体、本命いるしさ。  
店の選定やら人数確認とかしているアカイトに、「よくやるなー」と感心していたぐらいだ。丸っきり他人事だった。  
しかしアカイトは知らないところで、女の子を集めるために僕を「人寄せパンダ」として仕立てていたらしい。  
……僕はとあるアダルト仕様のPVにゲスト出演してから、その、少し女の子に人気が出た……らしい。(あまり実感はない)  
以前もアカイトは僕をダシに合コンを企画したことがあったが、その時はきっちり断った。  
というか走って逃げたので、そんなことがあったのも忘れてた。  
今日呑みに行くから付き合えって声かかった時も、ただの飲み会だと思ってたから僕はちょっと顔出して直ぐに帰るつもりだった。  
まさか本日がアカイト企画の「アンさん及びアカイトの救済合コン」その日だなんて知らず、来てみればこの有様。  
こういった場が苦手な僕は即刻帰ろうとしたのだが、あれよあれよという間に捕縛されてしまった。何も知らず、のこのこやって来た自分が憎い。  
「カイトー! 呑んでるか〜? お? いい思いしてんじゃん」  
ほろ酔いもいいところのアカイトが僕の傍にしゃがみ込んできて、思わず睨みつけてしまった。  
「……どういうことだよ。合コンだなんて聴いてなかったぞ」  
場を壊さないよう、小声で抗議した。しかしアカイトは僕の憤慨など何処吹く風だ。当然だといわんばかりで胸を張る。  
「正直に言ったらこないだろうからよ」  
ああ全くその通りだよ!  
「いいじゃんよ〜。カイトだっていい思いしてんだろ? ねぇ?」  
最後の問いかけは僕にではなく、僕にくっついている巻き毛の派手目な女の子にだ。女の子はアカイトくんだ〜と甘ったるい声で叫んだ。耳がキンとした。  
「ホントにカイトくん連れてきてくれて、嬉しい♪」  
「でしょー? 俺、約束は守る男よ! 君も女のコ集めてくれてありがとねっ」  
……どうやら、この子が女子側の幹事らしかった。(アンさんは僕ら側なので除く)  
「お前を誘き出すために、わざわざ会場を女の子受けする小洒落た店じゃなく、居酒屋にしたりして骨折ったんだぞ〜」  
そして僕は不審に思わずホイホイ来てしまったと。あああ僕のバカ!  
「勘弁してよ、僕これから約束あるんだ」  
ウソじゃない。語気を強めると、アカイトは眉を顰めて小声になった。  
「なんだよメイコさんか? しょっちゅう会ってんだから今日ぐらいいーだろこのリア充が」  
「今日は特別なんだっつの!」  
「黙れ。この間の合コンもお前来ないからぽしゃったし、ワビに俺らにも女の子の恩恵分けやがれ!」  
「あいたっ!」  
べしっと僕の頭をはたいた。そして僕の襟首を掴んで引き寄せる。酒臭い。  
「とにかく、しばらくはここに居ろ。男どもと女の子たちがいい雰囲気になったら上がっていいからよ」  
言うだけ言って、アカイトは幹事らしく他の席へと盛り上げに行ってしまった。ちょ、お前待て!  
「アカ……っ」  
思わずアカイトの背中を追おうとした僕の腕が反対側に引っ張られ、バランスを立て直す。  
「カイトくんっ、アカイトくんばっかと話さないで私ともお話ししてよー! 私、カイトくんのファンで、ずうっと会いたかったんだからっ」  
うおー、腕に乳を当てるの止めてください! 顔も近いです。なにより何だかコワいYO! 肉食系女子の肉食っぷりにたじたじだ。マジで頭から食われそう。  
ぎゃー誰か助けてー!  
 
女の子のマシンガントークは一向に終わりが見えず、僕は途方にくれて聞き役に回るしかなかった。だって口を挟む隙がない。  
どれだけ僕のファンかってことを話してくれているけど、申し訳ないが自分をごり押ししてくるスイーツ系の女の子は苦手なのだ。  
僕のファンで、好意を持ってくれているのにゴメンなさい。  
なんだろ、僕は押しの強い女のヒトに弱いのかなぁ。思えば僕の周りの女のヒトはそういうのばっかりだ。  
肉食系といえば、この間仕事で一緒だった咲音ちゃんもそっち系だな。あれから会う機会ないけど、元気にしてるかな。  
もう誰構わず寝るような真似、していなきゃいいんだけど。なんか、身近に似たようなヒトがいるから妙に気にかかる。  
……あのコはメイコさんに似てるんだ。顔とか、雰囲気とかも。そういや、メイコさんだってかなりの肉食系お姉さんだよなぁ。  
あの時は、不思議と困った気分にはならなかったな。撮影が上手くいかなくて緊張していたせいもあったけど……。  
そう、メイコさん。明日は僕も彼女もオフだから今夜会う予定だった。  
そりゃアカイトが言ったように、時間が合えばメイコさんとしょっちゅう遊んでいたけど、今回は別格なのだ。  
 
だって、初めてメイコさんちにおよばれされたんだから!  
 
今まで会って夜を過ごすときは、ラブホか僕んちだった。  
メイコさんの住むマンションは女性専用って聴いてたから行くのは遠慮していたんだけど、別に男が来ても問題はないらしい。  
「来る?」と問われ「はいっ!」と意気込んで返事したのがつい一週間前。ワクワクしながら指折り数えて待ってたこの日なのに……!  
しかも、楽しみにしていたのはそれだけじゃない。メイコさんは、なんと今まで異性を部屋に招いたことがないという事実が会話の中で発覚したのだ。  
意外すぎる事実に、小躍りするほど嬉しかった。近所に住む女友人がしょっちゅう出入りするのと、部屋に招くほど長く付き合う男が居なかったかららしい。  
つまり! この僕が! メイコさんのプライベートルームという処女地に足を踏み入れる最初の男という、この上ない栄誉を頂いたのだ。  
それなのに、この状況……。浮かれていた分、ひっぱたかれて地にべちゃっと落ちたカンジだ。  
いや、でも約束が丸つぶれになったワケじゃない。メイコさんはまだ仕事中で、終わり次第、僕に連絡をくれる手筈になっている。  
それまでにここを出れれば、問題はないはずだった。  
「ねー聴いてるぅ? カイトくん」  
女の子はきらきらした目で上目遣いに僕を見上げてる。うん、可愛い子なんだけど……なんだけど。  
可愛らしさの中に隠し難い猛禽の眼光が見えてて、落ち着かない。  
「あのね、アカイトくんにカイトくんに会わせてってずっとお願いして、やっと会えて嬉しいの」  
こんな風にファンの子と直接話しすることって今までなくて、どう接したらいいのか困ってしまう。  
好意を寄せてくれるのも、唄を聴いてくれて褒めてくれるのも嬉しいから、無下にするのも躊躇われた。結局、強く断ることもできない。  
この場から離れたいのに曖昧に笑う僕は、きっと優柔不断そのものなんだろうな……。  
「うん、ありがとう。でもそれ、さっきも言ってたね……」  
話しループしてるもんな。  
酔ってんのかな。それとも女の子ってそういうもんなのかな?  
年上で、優しくって、とんでもなくエロいあの人しか僕は知らない。  
初めて一緒に呑んだ時は、むしろ僕のほうが愚痴をべらべら零して、慰めてもらったけ。  
女の子は益々元気に話し出し、失礼ながらも意識が余所へ飛びかけたとき天の助けがきた。僕のジーパンの尻ポケットで携帯が鳴ったのだ。  
「あっ、電話だ。事務所かも? ちょっとゴメンね」  
いそいそと席を立つ僕に不満そうな顔をしつつ、女の子は開放してくれた。大急ぎで店を出る。  
出入りする人の邪魔にならないよう、隅っこへ行って電話に出た。  
『カイト君? 今大丈夫?』  
待ち焦がれたメイコさんの甘く柔らかい声。もう、なんだか身体の力が一気に抜けた。  
 
「はい、仕事終わりました?」  
『うん。今スタジオから出るところ。待たせてゴメンね、ちょっと時間かかっちゃって』  
いえいえそんなことは。待ってましたよ!  
『今何処にいるの? 途中で待ち合わせする? 近かったら迎えに行くけど』  
そう言われて、はたと思考が一瞬止まる。  
今は……居酒屋にいて、しかもそれは飲み会じゃなくて、合コン。以前、メイコさんが僕が行くのを嫌がって、でも止めなかったそれ。  
「……いえ、僕の方もちょっと予定外の用事が入っちゃって、今すぐは抜けられないんですよ」  
咄嗟に口から出た言葉は、自分でも思いもよらないことを口走っていた。  
『そうなの? じゃあ、今日は止めておく?』  
約束の取り止めをあっさり提案された。メイコさんは僕の予定を優先してそう言ってくれているんだろうけど、それは嫌だ!  
「平気です! もう少ししたら終わりますからっ。あの、家で待っててくれませんか?」  
『いいけど……。カイト君、無理しなくてもいいよ?』  
「無理じゃないです。必ず行き……」  
「カイトくーん! ここにいたの〜?」  
羊羹に水あめをかけたような声が聴こえて、即座に携帯の電源を切った。やっべ、今の聴こえたかな……?  
声の主はさっき僕に絡んで離れなかったあの子だ。ふらふらした足取りで近づいてくると、慌てる僕などお構いなしに抱きついてくる。  
「ちょ、ちょっと!」  
「えへへ、待ってても帰ってこないんだもーん。捜しにきちゃった」  
捜しに来ないで! お願いだから!  
僕の胴に腕を巻きつけた女の子は、何故か体重をぐいぐいかけてくる。  
ちょっとテンパってるのと人の目が気になるのとで、酔ってもないのに僕は千鳥足状態で店の直ぐ横の路地に入ってしまった。  
押されるまま薄暗い路地の壁に背中を打ちつけ、ぐえ、っとボカロにあるまじき変な声が出た。  
下を向けば、女の子は抱きついたまま僕の胸に酔って伏せていた顔を上げた。何というか、こう媚びるというか、そんな瞳で僕を見ている。  
「だ、大丈夫? 気持ち悪いなら取り合えず店戻ろう?」  
肩を持って身体から引き離そうとするけど、これが中々離れてくれない。  
なにこの力強さ? 僕、一応成人男子型ボカロなのに力負けって!  
「ねーえカイトくん。これからぁ、二人でどっか行こうよー」  
は? 目が点になって言葉を失った僕の胸に頬を擦りつけ、女の子はとんでもないことを言い出した。  
「へっ? や、どっかって」  
「うふふ。ホテルとか? カイトくんのおうちでもいいかも」  
「はぁ?」  
びっくりして思わず大声出してしまった。  
「そ、そういうのはさ。ちょっと困るんだけど」  
「なんでー? こんなの皆やってるよぉ。カイトくん今人気急上昇中だから、やったら友達にも自慢できるしぃ」  
なに言ってんのこの子――! と、とりあえず何とかして店に戻らないと。僕の貞操が危なくなってきた。  
「あ、あは……。酔ったイキオイとかよくないなー。ほら、荷物も店に置きっぱだし、戻ろう?」  
引き攣り笑いを浮かべて女の子を宥めようと必死になる僕。しかし女の子は不服そうに顔を顰めた。  
「えーっ、せっかく二人きりになれたのにぃ。じゃあ、ちゅーして! そしたら戻るー」  
なんでそうなる! 叫びたいのを耐えたのを褒めて欲しいよ。  
口を尖らせて背伸びをし、僕に迫る女の子から逃げようとするも後ろは壁。  
少しでも距離を開けたくて、女の子から少しでも距離を取りたくて、仕方なしに僕も背伸びをする。  
あーもー、どうしよ。キスなんてできるわけない。でも、この子はしないとテコでも動いてくれなそうだし、でも……。  
ど、どうして僕の意思を欠片も考えないんだこの子は。  
必死で思考回路をブン回していると、「なにやってんだ、お前ら」と聴き馴染んだ声がした。  
路地裏の入り口にアカイトが目を丸くして立っていて、思わず泣きそうになった。  
 
「ゴメンね、カイト。久々に男に囲まれて楽しかったから、アンタの存在忘れてタわ!」  
アンさんは大笑いしたいのを堪えているのだろう。しかめっ面の僕に、なんとも言えない微妙な顔をしている。  
「さっさと男作ってくださいね。合コンに借り出されるのはコリゴリです……」  
悔し紛れにそう言えば、アンさんは犬を追い払うようにしっしと手を振った。  
「あーおかしい! もう行っていいワヨ。こっちは任せて」  
挨拶して背を向けると、アンさんの爆笑が僕を鞭打った。もう、解放されるんならどうでもいいや!  
アカイトは二次会の飲み屋へ行くため僕らを捜しに来てくれたらしい。いやー、助かった。  
女の子をアカイトたちに任せ、店を移るどさくさに紛れて僕は逃げ出した。アカイトとアンさんには抜けることを告げて。  
アカイトにはもうちょっと上手く立ち回れと小突かれるし、散々だ。しかしこれで晴れてメイコさんちに行ける。義理は果たしたし、心が軽い。  
ちょっと遅くなっちゃったけど、急いでメイコさんの住むマンションに向かった。  
メイコさんの住む街は、僕の住むアパートから電車で二十分くらいの場所にある。  
意外と近い場所に住んでいたのを知った時はびっくりした。一緒に遊んだ夜はメイコさんを自宅まで送っていったこともあるので、迷うことはない。  
住宅街を抜け公園を突っ切ると、そこに僕の住むアパートとは比べ物にならないほど綺麗なマンションが在った。  
普通のマンションだけど、多分ウチのアパートがボロ過ぎるせいで本来の姿より五割り増しぐらい綺麗に映った。  
出迎えてくれたメイコさんは、僕を見ると驚いたように瞳を瞬かせる。  
「もしかしたら、来ないかと思ってた」  
「お、遅くなってすみません……」  
そういえばもう夜も遅い。仕事の後に約束してたとはいえ、女性の部屋を訪れるには非常識な時間だった。しどろもどろになった僕に、メイコさんは小さく笑った。  
「気にしないで。忙しいのかなって思っただけなの。上がって。お腹空いてる?」  
促され、メイコさんの部屋に入る。ちょっと緊張するな。手土産を持ってくる余裕さえなかった。  
部屋は単身者用の1LDKで、外観と違わず綺麗な作りだ。メイコさん、僕んちが居心地がいいって笑ってたけど、この部屋の方がずっと居心地よさそうですよ。  
リビングに入ると仄かにメイコさんの香りがした。化粧や香水とかじゃない、メイコさんの匂いと似ている。  
「紅茶とコーヒーどっちがいい?」  
キッチンに向かう背中に、僕は手を伸ばした。  
「? どうしたの……?」  
細い手首を引く。柔らかな身体は逆らわず僕の腕の中に収まってくれた。  
「ちょっとこのままでいて下さい」  
さっきの大騒ぎから落ち着いたこの部屋に来て、ほっとした。  
さっきの子の咽るような香水の匂いに鼻がバカになっていたみたいで、メイコさんの匂いで上書き保存するように深く息を吸う。  
慣れた匂いに一息ついていると、腕の中のメイコさんがなにやらもぞもぞ落ち着かない。  
「あ、あれ?」  
仕舞いには、手を突っ張ってネコが抱っこを嫌がるみたいに僕を押し退ける。そして着ていたシャツに改めて顔を寄せた。  
「? メ、メイコさん……?」  
訝しんでいたら、留めてなかったシャツの前をばっと勢いよく広げられた。中はTシャツ着てるけど、何にも言ってくれないから意図が分からなくて混乱する。  
見下ろすメイコさんは、とっても神妙な顔つきだ。  
「カイト君」  
「は、はい?」  
「……お風呂入らない? 一緒に」  
「えっ?!」  
まだメイコさんちに来て十分も経ってないんですが。  
しかし嬉しさを隠せない僕は、メイコさんに背中を押されるまま素直にバスルームへ押し込まれた。  
 
メイコさんちのお風呂は、やっぱり僕んちより数段上等だった。  
湯気の立つ湯船は真新しいし、浴室はウチより少し広め。いちゃいちゃするには丁度よい感じ、なのだけど……。  
向かい合って正面に座るメイコさんは、当たり前だが素っ裸。膝立ちになって僕の身体を泡だらけのスポンジで洗ってくれている。  
惜しげもなく僕に前に晒す豊満な肢体は、身動きする度におっぱいが揺れた。身体が濡れている分、普段よりずっと艶かしい。  
正面に据えられてる鏡越しに見た。石鹸水で曇りを拭ったそれには、僕の裸体を隠すメイコさんの後姿。  
いつも始める前は、シャワーを使ったりそのまま雪崩れ込んだりまちまちだけど、終わった後は必ず一緒に風呂に入って僕らは身体を洗いっこする。  
一緒に入る時は僕だって洗うだけじゃなく性的に触ったりして、メイコさんも笑ってそれを許してくれる。  
静かに腕を動かしてそっとお尻に触ろうとしたら、メイコさんにその手を払われた。  
「ダーメ」  
無情にも制止がかかって、僕は渋々手を下ろした。  
「ダメなんですか……?」  
我ながら情けない声音だった。もうこのやり取り、何度目だろ?  
今日のメイコさんは、いつもみたいに触ろうとする僕の手を阻むのだ。なんで?!  
「今は私が洗ってるじゃない」  
「じゃあ、僕もメイコさんを洗います! ならいいでしょ?」  
「私、カイト君が来る前にお風呂済ませたもん」  
首から肩を撫でるスポンジにぞくっとして口を閉じた。  
今日のメイコさんはちょっとヘンだ。気持ちイイこと大好きなくせに、身体に触らせようとしない。自分からは僕に触ってくるくせに。  
それでも触れる隙を見計らっていると、メイコさんはふうと溜息をついた。  
「もう、ダメって言ってるのに。油断できないね」  
見透かされてる。半眼で僕を見下ろすメイコさんに、僕は肩を竦めた。  
「触りたくなるの当たり前じゃないですか! コレって新手の焦らしプレイ?」  
メイコさんと一緒にお風呂というオイシイこの状況。  
僕は目の前にある白くてエロい肢体をたっぷり見せ付けられ、しかも触ることは厳禁という一人ガマン大会を強いられているのだ。  
溜まったものじゃなかった。  
うううと唸っていたら、メイコさんは何か思いついたようで、ぽんと手を叩いた。  
「決ーめた。カイト君はいいって言うまで私に触っちゃダメ。私だけが触る!」  
「ええっ? それって何時まで?」  
得意顔のメイコさんはいいこと考えたと楽しそうだけど、僕はどれだけガマンすればいいの?  
「さー? どうしよっか?」  
ふふっと笑ってメイコさんはスポンジを放った。そして腕が僕の首に絡んで引き寄せられる。乳首をちょっと尖らせたおっぱいが僕の胸にむにりと形を変えてくっつき、メイコさんの身体に泡が移った。  
「いいじゃない。全身隈なくキレイに洗ってあげるよ。カイト君」  
間近に迫り、妖艶に微笑むメイコさんに息を飲んだ。比べるのは申し訳ないが、居酒屋で絡んできた女の子とは格の違うエロさだ。もう、それだけで半端に硬かったアレが勃起した。  
密着した身体が動き出し、柔らかなおっぱいが肌を滑る。スポンジなんか目じゃないくらい気持ちよくって、僕はメイコさんに身体の柔らかさに全神経を集中させた。  
 
「は……っ」  
こめかみを汗が軌跡を引きながら流れる。それは顎まで伝い雫となって落ちた。  
その様は感覚でしか分からない。僕は目にタオルを巻かれ、視界を閉ざされているから。  
どうしても触りたくて勝手に動いてしまう手も、脱衣所から引っ張り出してきたタオルで戒められてしまった。  
僕は身動きができない。全部メイコさんの仕業だ。後ろ手に結ばれて開かれた前身を、メイコさんの手と唇と舌が伝う。  
真っ白で大きなおっぱいで身体の前面を洗ってもらって泡を流された後は、首筋、胸、乳首と唇が這ってもどかしい微弱な快感が僕の咽と身体を震わせる。  
閉ざされた視界で僕の肌に顔を寄せるメイコさんを見ることはできないから、卑猥な妄想だけが走る。  
舐める舌の動き、乳首を甘く引っ掻く指、ちくりと吸われた肌はきっと痕が残ってるだろう。  
「う、あっ」  
とっくに勃って触れられるのを待つ肉棒を指が掠め、身体が波打つ。メイコさんが笑っているのが気配で分かった。  
「すごく硬くなったね。ちょっと触っただけなのに」  
「メイコ、さん、なんで……っ」  
ちゅ、と首筋を吸われた。違う、そこじゃ……。  
「ん? なあに」  
声が優しい分、温い手つきが残酷だった。今日のメイコさん、おかしい。  
「ちゃんと言わないと、分かんない」  
何言ってるの。男の身体をよーく知ってて、僕の身体なんか弱点知り尽くしてるくせに。内股を撫でるだけの手に僕は唇を噛んだ。  
「これだけで感じちゃうの? おちんちんには触ってないのにピクピクしてる」  
今までこんな風に一方的な触り方をされたことはない。メイコさんは基本的に「相手と一緒に気持ちよくなりたい」人なのだ。  
それなのに今夜は自分には一切触れさせようとしない。おまけに拘束し僕の視界を奪った。  
何をしてくるのか不安と期待が神経を過敏にさせ、触覚がいつも以上に反応した。  
「ど……して、今日は、触らせてくれない、の?」  
煽られて苦しい息を継ぎながら言った。僕を取り巻いていた微弱な愛撫の一切が消失する。メイコさんが全て離したのだ。次いで僕に触れないまま耳元に唇が寄せられた。  
「だって、イヤなんだもん」  
遮蔽された視界により敏感になっている耳へ、吐息と声が腰にぞわっと響く。  
イヤ? イヤって、僕に触られるのが? え、何で……。  
想定外の事実に脳内は混乱を極める。だけど、そんな僕の息の根を止めるような言葉が続けて囁かれた。  
 
「……他の女の匂いをさせて、私に触らないで」  
 
――は……?  
その意味を考える間もなく甘苦しい愛撫が再開される。もどかしい指先に流されそうになりながらも、必死で意識を手繰り寄せた。なに、今の台詞は。  
メイコさんは性に奔放なヒトだ。僕と知り合う前は快感が欲しくて男と寝ることを繰り返してた。誰にも執着しないし縛らない。……恋愛感情を知らないから。  
僕と寝るのだって、身体の相性がいいからだと公言している。だから僕はいつだって、メイコさんが余所の男に行かないように、全力で追いかけて繋ぎ止めて……。  
感情が震えた。だってあんな台詞、嫉妬みたいだ。そんな単語メイコさんから一番縁遠いものなのに。  
……もしかして部屋に入って直ぐ風呂ってそのせい? 女の子に抱きつかれた時の移り香にメイコさんは気が付いたんだ。  
そうか。だから、それを消したくて。  
「……あ……っ」  
強く乳首を吸われ、反り返った肉棒を軽く握られ先端をなぞられた。思考が霧散して指の動きに集中するのを止められない。  
まるで他の事を考えさせないようにしているみたいだった。  
 
柔く肉棒を扱かれ、身体のあちこちが反応する。  
「苦しそうね。ガマン汁出しちゃって、可愛い」  
「く……ぁ、メ、メイコさん、も……お願い、だから」  
ちろちろと舌先に唇を舐められ、欲望は天井知らずに暴走する。それが身体の内側で膨張しているのに、出口を見つけることができない。  
「お願いって? ちゃんと口で言ってくれないと。おちんちんで答えられても分からないよ?」  
メイコさんは優しい声だけど、どこか僕を突き放す。見えないから、どんな顔をしているかも分からない。  
「出したい……うぁっ」  
「もう出したいの? そんなのつまんない」  
即座に否定が返ってきたが、精神はもう限界に近い。吐き出したい欲求は募るのに、寸前で手を離されるのを何度されたろう。  
情けないのも恥ずかしいのも振り切って懇願する。  
数度願って、メイコさんはようやく僕に耳を傾けてくれた。愛撫する手はそのままで。  
「そうね……カイト君は私になにをして欲しい?」  
言わせるんだ。タオルの下の瞼を固く閉じた。  
メイコさんには責められることも多いけど、僕が上になりたがるから頼めばいつも主導権を渡してくれる。僕を立ててくれるのだ。  
でも今日は、そんな気更々ないみたいだった。  
「……っ、メイコさんの中に、挿れさせ、て」  
「何を?」  
あくまで口調は穏やかだ。でも内容は質問を質問で返して、僕の自尊心を挫こうとする。触れてくる手つきの嫌らしさに、抗えない。  
「お、おちん、ちんを」  
「……。カイト君は、手じゃイヤなの?」  
首を縦に振った。手も気持ちがいいけど、僕はもっと溺れる場所を知っているから、そこで吐き出したい。  
「ワガママね」  
メイコさんから聴いたくせに、僕の要望はあえなく却下だった。  
普段と違うメイコさんの振る舞いは、僕を困惑させる。コレってもう焦らしプレイっていうよりも羞恥プレイなんじゃないか?  
そーゆーのって、男が女の子にするから萌えるんであって、男の羞恥プレイなんか面白くもなんともないですよメイコさん!  
それにこれ、合コンで絡まれたファンの女の子に感じた「肉食系」よりずっと「肉食」だ。  
あの子にも強引に迫られたけど、メイコさんの責め方は性的な分、ずっと酷い。  
肉食系女子って本能的にコワいと竦んでしまうのに、このヒトに食われるのは嫌じゃなかった。矛盾しすぎて自分でもおかしいと思う。でも、それが本音だ。  
操る指先は淫らで、僕の心と身体を無理矢理高揚させる。その上で突き放される行為はかなり辛い。それでも拒絶しようとは思わない。  
「他の女の匂いをさせたまま触るな」と言ったメイコさん。  
彼女に、初めて僕への確かな執着を実感した。前に合コン話が出たときなんか比べられないくらいの、それ。  
誰にも固執せず、自分から離れるヒトを決して追いかけないメイコさんが。  
この状況で、そのことに歓びを感じるのは異常なことなんだろうか。  
男慣れしたメイコさんを一瞬でも征服できた気になれるから、僕は基本的にセックスは男性上位を好む。  
でも、あんな台詞言われたらメイコさんの好きにさせてあげたくなるのだ。  
ふと空気が動いてメイコさんが位置を替えた。僕の後ろに回って肩に手をかける。  
「そういえば、まだ背中を流していなかったね」  
ふにっとおっぱいが当たる感触。メイコさんはイカせてくれる気なんてないようだ。  
メイコさんが『ダメ』というなら僕はそれに従わざる得ない。  
咎める声はいつもと違ってて、強引に触れたら嫌われそうな感じだ。それは触れさせてもらえないことより嫌だった。大人しくガマンするしかない。  
生殺しの時間がまだ続くのだと、僕は奥歯を噛み締めた。  
 
前身を洗ったときと同じように、メイコさんはおっぱいで背中を流してくれた。いつもなら嬉しい行為も、今はどこか含むところのある愛撫だ。  
慣れた仕草で官能を呼び覚ます指と唇。それに息を乱す僕の視界が急に明るくなる。  
メイコさんが目隠しのタオルをやっと外してくれた。  
照明が目に痛くて、思わず細めた。ぼやけた視界は瞬きをすると直ぐに焦点を結び、目の前の鏡には赤い顔で後ろで手を縛られて勃起している僕と、背後のメイコさんがいた。  
メイコさんは鏡に映りこむ僕を微笑みながら見ていたが、いつもの無邪気さがそこにはない。  
顔が見れて安心したのも束の間、感情の窺えない笑顔にまた不安になってしまう。  
「カイト君、このままイこっか」  
「え……あ!」  
後ろから手が股間へと差し伸べられ、猛った肉棒を無遠慮に握られた。  
「イキたいんでしょ? 自分の姿を鏡で見ながらイけるかな?」  
項をちゅっと吸われ、空いた手が乳首へ伸びた。背中におっぱいの柔らかさを感じ、動いた手に悲鳴を上げる。  
「う……っ、あぁっ!」  
身体の中心、解放を求めて自己主張する肉棒を、しなやかな手が上下に動いて刺激する。  
「メイ、あっ、せめて、口で」  
「……イーヤ。手だけ。ほら、手だってこんなに勃起させてるじゃない。もっと脚を開いて。前、見て」  
正面を向いて息を飲んだ。鏡には赤い顔で大股を開かされ、背後から伸ばされた白い手に反り返った肉棒を扱かれる僕がいる。  
つうっと肩から首を舐め上げる感覚に、ぞくりと身体が震えた。  
「ん、しょっぱい」  
「メイコさん、イヤだ。これは……」  
なんだよコレ。僕は自分の喘ぐ顔を見て興奮するタイプじゃない。むしろ萎え……残念なことに、本日に限っては身体の反応が違うようだ。  
強制的に勃たせられた欲望は、扱く手に萎えることを許されないのだ。  
「メイコさん……」  
首を捻って見上げると、メイコさんは静かに笑って僕の目元に唇を落とした。今日は、キスらしいキスもしていないことにこの時気付く。  
「イイコだから前を向いて」  
頂点まで導かれると思って息を詰めると手が離れ、指先が陰毛を掻き分けて袋をやわやわと揉まれた。赤い爪に彩られた指に僕の青い陰毛が絡んでる。  
一連の如何わしい動きと僕の反応が全部鏡に跳ね返され、赤面するしかない。  
完全にメイコさんの掌中で玩ばれていた。嬲られる肉棒と快感を増幅するように肌を這う刺激。首や肩を甘噛みされる微かな痛みにも、肌が粟立った。  
「もう出そうだね。ね、私カイト君が射精するところ見たい」  
「う……っ」  
「見せて」  
青筋立てて滾るそれは、限界を訴えてメイコさんの手の中で動く。止められなかった。腰からざわざわと身体を巡っていた快楽が、一気に背筋を貫き走った。  
「う……あぁっ、くぁ……っ!」  
背中を反らせ、それはメイコさんの手によって噴き出した。  
堰を切ったかのように勢いよく出る精液は浴室の床を汚し、メイコさんの手を穢して飛沫が数滴、鏡にまで飛んだ。  
まだらに小さな白い残滓を付けた鏡の中に、息を弾ませ前屈みになっている僕がいる。  
苦しいのと脱力感で、身体を上げることができないほどだ。  
そんな僕の手の拘束が解かれる感覚がして、ほっとしたのも束の間。バスチェアに座る僕の背をメイコさんは力いっぱい押した。  
「へっ……?」  
不意打ちを喰らって、咄嗟に前に手を出して浴床の精液の上に手を付いた。身体に力が入っていなかったから、不恰好な四つん這いの格好になる。  
その僕の尻に指の感覚がし、思わず顔だけ振り向こうとしたけど無理だった。  
「うあ……っ!」  
感じたことのない場所に、知らない快感が走った。メイコさんが、メイコさんが、僕の尻の――。  
 
「ちょっ、止め……っ」  
生温かく柔らかいそれは、メイコさんの舌だ。ぬめる舌が尻の割れ目に合わせ動いている。軽くパニックになった。  
擽ったいを通り越した不思議な感触は身体を震えさせる。しかもこんなとんでもない格好で、ありえない。  
これまでベッドの上で、四つん這いになってるメイコさんの性器を舐めることはあっても、逆はなかった。  
「ねぇ! 待ってよメイ……」  
「ここ、まだ洗ってないわ」  
唇でちゅうっと吸い付かれて、僕の異議は捻じ伏せられた。  
後ろの孔の表面への刺激はむずむずする中にしっかり性感を伴っていて、ものすごく威力がある。知らなかった……!  
窪みを探る舌先の動きは執拗で尻と腿が震える。偶に吸い、舌は溝を隈なく辿って脳と腰にダイレクトに快感を伝えた。  
音を立てて臀部にキスしながら股間に差し込まれた手が袋を優しく嬲って、そして脚の間を潜って勃ち始めた陰茎を撫でた。  
「――っ!」  
口で袋を食まれ硬く太さを増す肉棒を弄られて、質量が増すのが分かる。自分を抑えることなんて不可能だ。  
「あ……、あっ」  
床に付いた手が、精液を掴むよう拳を作った。駄目だ。手の動きにつられて腰が浮く。メイコさんは舌を器用に使って袋を、溝を、孔を刺激し僕の身体の自由を奪った。  
なんでこんな……。初めてメイコさんちに行けると、今夜を楽しみに胸を膨らませていた。  
僕にしても女の人の部屋に行くのは初めてで、あわよくば泊まれるかなとかアホな下心は粉々だ。  
僕んちでいつもそうするように、メイコさんちでイヤらしいことできたらいいなって思ってたけど、まさかこういう事態になるとは想像しなかった。  
「うあ? 待ってよソコはダメ! 目覚めたらどーすんのぉおおっ?!」  
「それはそれで新しい世界が待ってるわ。大丈夫、どんなカイト君でも受け止めるから」  
うわあああん! 無情! メイコさん無慈悲! こんなのイヤだ――!  
なんでなんでなんで? セックスする時って、どうしたって格段に違う経験値の差でメイコさんに分があるんだけど、それでも僕に主導権を譲ってくれた。  
それを今回はしてくれない。責められる時だって、メイコさんの手つきは心底「楽しい」って感じなのに、それもない。  
とっくに白旗揚げてるのに、どうして僕を殊更嬲るんだ! こんなことされる理由、思い当たることなんて……。  
……まさか。  
「メイコさん、あっ、もしか、して……」  
首を後ろに向けメイコさんを見ると、僕の問いかけに首を傾げていた。  
「ん?」  
「お……怒って、る?」  
「………………」  
ぴたりと愛撫が止んだ。身体は一息つけるけど、手が止まってる分この間がなんかコワい。  
「ナマイキよ。カイト君」  
メイコさんはにっこりと、見惚れてしまうほど綺麗な笑顔を浮かべて。  
……僕の孔をほじった。  
「ふんぎゃああああっ!」  
軽く、だったけど。そのえもいえぬ感覚は僕の自尊心をべっちゃりヘコませるには十分過ぎた。  
メイコさんの気が済むまで嬲られ終わった頃には新世界が拓けていそうだと、僕は打ちひしがれて耐えるしか……な、かっ……。  
 
「ヒドいです……」  
リビングのソファーに腰掛けてさめざめと泣く僕の髪を、後ろからメイコさんがタオルで拭いてくれている。  
そこにはもう風呂場での意地悪なイヤらしさはなく、優しい手つきで水分を拭ってくれるけど、僕の男の矜持っぽいのは木っ端微塵と化したまま。  
幸い新しい世界への扉を開くことはなかったけど、正直ちょっとマズかった。まだお尻にこそばゆい感覚が残っている。  
「はい、お終い」  
すっとタオルと手の感触が引いて、メイコさんの気配も離れた。そしてそのまま脱衣所に行ってしまった。  
僕の服を全部洗っているから、洗濯機の様子を見に行ったのだろう。  
おかげで僕は上半身裸でバスタオルを腰に巻いている状態だ。出で立ちだけなら、なんか民族衣装っぽいカンジ。  
メイコさんは直ぐに戻ってきて、キッチンでコーヒーを淹れてくれた。  
「はい。インスタントだけど。後、服は明日には乾くと思うわ。それまでそこカッコじゃ……マズい? カイト君」  
寒い季節じゃないし、タオルだけでも大丈夫だけど……。  
差し出されたマグカップを受け取って、僕の隣に腰を下ろすメイコさんを窺う。  
服乾くの、明日って言った。  
「……裸でもメイコさんがいいなら。あの、じゃ、泊まっても……?」  
「帰るつもりだった?」  
瞳にからかう光を宿してメイコさんが僕を覗き込できて、ぶんぶんと勢い良く首を横に振った。  
よかった、泊まれる! そんな僕の様子に、メイコさんは小さく噴き出した。  
「散々カイト君ちに泊まらせてもらっているもの。帰れなんて言わないよ。誘ったの私だしね……でも、アレはイヤ。マナー違反」  
マナー違反。……匂いの、ことだよな。  
「ウチに泊まるのに他の女の匂いつけたままって、イヤだわ」  
そう、だよな。もし僕んちに来たメイコさんが、余所の男の匂いをさせていたら……僕がメイコさんを好きなことを差し引いても、すごくイヤだ。  
「……ごめんなさい。メイコさんに会う前に、ファンの子にちょっと絡まれちゃって」  
合コンの話は伏せた。メイコさん、僕が行くの前に嫌がってたし。疚しいことはなにもないけど、言いたくない。  
……せっかくメイコさんちにいるのにこれ以上拗れたくないと、打算が胸を過ぎった。  
「ああ、電話の子?」  
やっぱ聴こえてたか……!  
マグカップをローテーブルに置いてメイコさんへ手を伸ばし、そのまま引き寄せた。  
「ちょっと」  
両肩をつかんで身体を寄せる。メイコさんからは、僕と同じシャンプーの匂いがした。  
「メイコさんが僕についていた匂い、洗い流したんだから……もういいでしょ?」  
ちょっと抵抗したメイコさんだけど、そう言ったら直ぐ大人しくなってくれた。  
あの香水の匂いが嫌だったのなら、すっかり洗い流された今、何の問題もないはずだ。  
「機嫌、直してください。せっかく遊びに来たのに……怒っているの、嫌だ」  
「別に……カイト君が誰と遊ぼうと、私には」  
そんなの知ってるよ。メイコさんは僕を縛らないし引き止めてくれない。  
前に合コンの話が出た時だって、追いかけて問い質し僕が合コンに行くのを嫌がってたの、初めて分かったんだから。  
続きを聴きたくなくて言葉を重ねる。  
「あの子とはそんなんじゃないです。遠慮ナシに抱きつかれて、でもファンで上手くあしらえかなったから」  
頭の中で、ボロが出ないよう組み立てながら説明している最中に浮かんだ考えにはっとした。  
禄に疑問にも思わずそれが口をついて出てしまった。  
 
「……そうだ! じゃあ、メイコさんの匂いを僕にください!」  
 
………………。  
奇妙で微妙な沈黙が降りた。  
「……は……?」  
きょとんと目を丸くして、メイコさんは僕を見上げた。僕を見つめる瞳は明らかに思考が止まってる。  
僕も勢い込んで言った自分の発言の意味の恥ずかしさに、顔が異常に熱くなった。  
良く考えなくっても変態的な申し出じゃないかコレ?!  
「いえ、あのだって、他の女の子の匂いが嫌だったんですよね? だったら、メイコさん自身が僕に匂いつけて、くれたら……とか……」  
メイコさんの視線に、次第にしどろもどろになる僕。うあ、恥ずかしい。これは恥ずかしい! 僕は何処のヘンシツシャだよ!  
もう、メイコさんの顔が見れなくて俯いた。絶対引いてる。僕が女性なら引く。服なんか濡れててもいいから今すぐ帰りたくなった。  
どのくらい経っただろう。小さな忍び笑いが聴こえ、顔を上げることができず固まっている僕の頬にちゅっとメイコさんがキスしてくれた。  
 
眉を下げた困惑顔で恐る恐る見上げると、メイコさんは面白そうに微笑んでいる。  
すっと立ち上がり、不安でその行動を見ていた僕の膝にメイコさんは横座りした。  
「……え、あ、の」  
おろおろする僕の首に腕を絡め、身体をぴったりくっつけてくれる。笑いを噛み締めているせいで、身体中が震えてた。  
「何を言い出すのかと思ったら……もう、おっかし……」  
な、なんだか、メイコさんの機嫌はいきなり直ってしまった。ツボが分からないですよ……。  
「でも、それはいい考えだね。こーゆーこと、でしょ?」  
膝の上で向かい合わせになったメイコさんはぎゅーっと僕に抱きついた。そっとその背中に手を回して、「うん」と答えた。  
「私、そんなに匂いあるかな? 自分じゃ分かんない……カイト君って匂いフェチだったっけ?」  
自分の肩辺りにメイコさんは鼻を寄せる。  
「ありますよ。メイコさんの匂い、くっつくと感じる。僕、好きです」  
ボディーソープとかシャンプーとか、そういうのに混じった仄かな甘い匂い。これってフェロモンに似たものなのかな……意識すると、興奮する。  
「私の匂いが移れば、か」  
「え?」  
メイコさんはくすくす笑うばかりだ。  
「ふふ、動物のマーキングみたいね。でも、今度はカイト君が他のコのところに行けなくなっちゃうよ?」  
至近距離でからかうように微笑むメイコさんに、僕は口を尖らせた。  
「だから、メイコさんがいいって何度も言ってます」  
ふと、メイコさんの様子が変わった。それは本当に微細な変化で、少しだけ淋しそうに微笑んで、すぐにいつもの調子に戻った。  
小さな変化が引っかかりつつも、寄せられる顔に僕も目を閉じて重ねる。ふんわりとした感触を唇に受け、やっとまともにキスできたと安堵した。  
舌を差し出しあって触れ合わせ、赤い舌先を唇で挟んで僕の口の中に引き込む。ぬめるそれを、ちゅっちゅっと吸い立てればメイコさんは僕の頭を押さえてもっと口を開けた。  
「む……ん……」  
ぴったり唇を合わせ舌の裏、歯列、上顎の内側まで丹念になぞって少し顔を離す。  
僕らは息を乱し、メイコさんが赤く濡れた口元を淫靡に微笑ませた。  
「カイト君、まだ勃つ?」  
「できるよ。中で気持ちよくなりたい」  
部屋着のショートパンツから伸びた太ももを撫で、更に顔を寄せようとしたら、肩を押されて阻まれる。  
「まだダメ?」  
「ココじゃイヤなの。友達とよく宅呑みしてるから。寝室で、ね?」  
そういうことかと胸を撫で下ろし、僕はメイコさんを抱き上げて寝室へと向かった。  
リビングから玄関へ向かう短い廊下にある扉を開けてメイコさんの寝室に入って、ちょっと緊張した。  
女のヒトのプライベートルームの最奥、というかなんというか。それが好きなヒトの部屋ならそりゃあドキドキする。  
小さな部屋で家具は多くない。最初に目に付いたのはクローゼット。  
本棚には沢山本やファイルが収められていて、綺麗に片された机にはノートパソコンが鎮座している。その横にシングルのベッドがあった。  
可愛い部屋というより、綺麗に片付けられた部屋だ。  
「あんまり見ないでよ……恥ずかしいんだけど」  
腕に抱えたメイコさんが上目遣いに僕を見て叱る。本気で怒ってるんじゃなくて、気恥ずかしさから僕を睨んでいた。滅多にしない顔だ。  
部屋に男を入れたことないって言ってたっけ。もしかして、メイコさんも少し緊張しているのかなって思ったら自然に笑いが零れた。  
「なに笑って、きゃっ!」  
ぽすんとメイコさんを落とすとベッドが軋んだ。横向きに寝そべる形になったその上に僕は覆い被さる。よし、これで僕が上だ。  
ベッドは、メイコさんと同じ匂いがした。  
 
メイコさんは、今度は僕の下で素直に触らせてくれた。  
部屋着を剥ぎ取ってショーツも床に落とし、肌にあちこち舌を這わせる。  
豊満な身体を捻って伏せてしまったから、背中から腰を甘噛みしたり吸い付いてむっちりしたお尻を撫で回す。  
風呂場では全く触らせてくれないのに、メイコさんは柔肌をくっつけてくるから、僕はどれだけ辛抱したことか。  
焦がれたその身体に存分に触りまくった。  
「ふ……ぅん」  
背中も隈なく撫でて項に何度も吸い付いた。  
肩先を舐め、ぴくぴく震える背中をキスしてまた降り、お尻を掴んで齧りながら引き上げると、突き出された双丘の間から秘められた桃色の肉が現れる。  
そこは薄毛と共にしっとりと潤って、女豹のポーズも相まり扇情的だ。中心へ、自然に引き寄せられる。  
「んっ……」  
襞の隙間を舌先で探り、粘膜の滲む入り口も何度も口付けた。慣れたメイコさんの味が口の中に広がる。  
メイコさんが僕の味が好きだというように、僕もメイコさんの味をすっかり覚えてしまっていた。  
咽を嚥下するそれが、脳内で欲求を堪らなく刺激する。唇で触れてる柔肉も熱く熟れ、際限なく粘膜を溢れさせていた。  
「ん、あぁ……ぁ」  
じゅるっと音を立てて啜ると、高々と上げたお尻が揺れた。  
「……感じる?」  
「うん……あぅ……っ、は……」  
視線をちょっと上げると、性器の上に濃い目の色合いをした小さな窄まりがひくひくしている。  
……そういえば、さっきはココをほじられたんだよな、と仕返しを考えなくもなかったが、止めた。  
感じて動いているのが視界に映るだけで、僕は十分興奮する。  
すべすべの太ももの感触を堪能しながら、舌の形をぬかるみの溝に合わせて舐めては啜る。メイコさんはこれ以上ない可愛い声で鳴いた。  
「いっぱい出てきたよ。本当はお風呂でもぐちょぐちょだった?」  
仰向けにし、開かせた脚の付け根に指を二本差込み軽くピストンした。  
枕の端っこを掴んで、エロい身体を晒すメイコさんは喘ぎながら答える。  
「カ……カイト君、可愛かった、から」  
「今それいうかなー」  
「あぅんっ!」  
風呂場での醜態を思い出し、むっとした僕は恥ずかしさにまかせ指の腹で奥を強く掻いた。  
「ひ、ん……っ」  
白く肉感的な身体が震える度に、おっぱいもゆらゆら揺れる。身を屈めて天井を向くピンクの乳首に強く吸った。  
「んぁっ」  
吸い付いて離して、また吸って。  
膣の内側と、柔らかい肉に中で唯一コリコリのそれを弄られて、メイコさんは新たな粘膜を零しながら悶える。  
施す愛撫を全身で感じてる姿は、ヤバいくらい男の本能を揺さぶった。  
くちゅり。指を引き抜くと淫らがましい音が鳴る。  
手の甲まで伝う粘膜を自分で舐め取って開いた脚を肩に担き、ぬるぬるの満ちる襞の真ん中へ痛いぐらい滾る肉棒を擦りつけた。  
「ぁん、おっきい……」  
性器から伝播する温度は高い。うっとりとした顔で視線を彷徨わせるメイコさんへ、僕も熱っぽい目で見下ろす。  
「メイコさん、今日は覚悟して」  
「……?」  
「長持ちしそうだから」  
そのままメイコさんの胎内に自分を埋め込む。悦ぶ膣の動きに腰から電流みたいな快感が生まれ、神経回路を駆けた。  
脚を抱えて、腰を使って。緩やかに律動をする。結合部は早速ぐちぐち水音を鳴らし、おっぱいはたゆんたゆんしてる。  
ものすごくエロいよメイコさん。  
僕の動きがゆっくりで、でも大きく出入りしているから、それほど刺激は強くなくともメイコさんの肢体はゆさゆさ揺れた。  
僕にしても、風呂であんなに弄られて二回も射精したからいつもより大分余裕があった。  
肉棒を甘噛みする膣を味わうように抽送を繰り返して、メイコさんを見下ろす。  
切なく吐息を零し喘ぎ、シーツを握る手を僕の肩へ導けばぎゅっと縋ってきた。  
 
「あ、あっ、気持ち、イイ……」  
「ん、分かる。中がこんなだもん」  
肉棒を包む膣壁を先端で擦ると、メイコさんは鳴いて腰を動かした。  
「ひゃっ! んぁ、もっとぉ……」  
「こう?」  
「んっ、ふぁ、あんっ、お……」  
囁き声に、うん? と耳を欹てる。  
「おま、おまん、こ、蕩け、そ……」  
膣がきゅんと締まった。な、なんつーこと言うかなこのヒトは。  
実際メイコさんの性器は熱を持って、溢れる粘膜が滴るほどだ。  
僕にしたって熱と膣が流すぬるぬるに肉棒を侵食されて、胎内に取り込まれる気がした。それぐらい、メイコさんを感じてる。  
「もっと、して……おちんちんで、突いて……っ、ひぁっ!」  
要望通りぐっと奥まで貫き、抜けないよう気をつけてにずるりと腰を引く。  
よがりまくって悦ぶ姿にほっとした。メイコさんはやっぱり気持ちがイイのが好きなんだ。  
さっきの、自分に触らせようとしなかったいつもと違うメイコさんも嫌いじゃない。だけど僕は、性感に悶えるこのヒトの方がずっと好きだ。  
知り合た頃は必死に快感だけを追い求めた僕だけど、今はその他に快感と刺激に溺れて鳴くメイコさんに男の支配欲とか征服感とか、そんなモノを覚えて興奮するようになった。  
僕の執着を恋愛感情として認識することができない危ういヒト。  
好きだと告げてしまえばメイコさんを困らせ、彼女に関われなくなるのが怖くて僕は密かに妄想に耽った。  
この瞬間だけは僕だけを感じる、僕だけのメイコさんだと。  
「んぁっ、あぁ、く……ぅん」  
揺すぶれば、メイコさんが喘ぎながら膣をきゅ、きゅっと締めてきた。ヒクつく中の動きは、絶頂が近いことを言葉より雄弁に教えてくれる。  
「も、イきそ……あぅんっ!」  
「いいよ……ほら」  
腰を大きくストロークさせ、狭い肉の孔を穿つ。衝撃に身体を跳ねさせメイコさんは、尻を揺らしておねだりしてきた。  
「あぁんっ、ちが、一緒が、いい……っ」  
一緒がいいのと繰り返す言葉を、申し訳ないが無視した。まだ、射精まで余力があるのだ。  
脚を離し両方の肘の辺りを掴んで引き寄せながら腰を打つと、脇が締まって盛り上がったおっぱいが、激しい突き上げに合わせて大きく振れる。  
喘ぎは高まり、襞が肉棒に絡んで中へと引き込むように動いた。  
「イヤ、いっしょ……あ――っ、あっ、あっ、あひぃっ……あぁあんっ!」  
きゅ――っと膣が強く肉棒を食んで、メイコさんが身体を反らせる。欲しがってイヤらしく膣が蠢いて、ふるっと数度震えた後、堕ちるようにシーツに身体を沈ませた。  
身体中で息をするその上に僕は挿したまま重なり、汗ばむしなやかなそれを抱き締めた。しっとりとした肌同士を擦り付けると、腕の中でメイコさんが反応する。  
イった直後の身体は些細な刺激でも簡単に感じてくれた。  
「一緒が、いいって言ったのに……」  
乱れた吐息が混じりながら潤んだ目で睨むメイコさんの首筋に顔を埋めた。合わさる身体からは、過剰な運動に走る動力の振動を感じる。  
「メイコさんのせいじゃん。二回も出してるんだから、遅漏気味にもなるって」  
メイコさんが手で抜いたから、腰だって使ってない。大した疲労もなかったのだ。  
「……ばか」  
「そんなに一緒にイキたかった?」  
「うん……」  
今鼻腔に香る匂いは、メイコさんだけのものとは言い難い。僕の匂いも混じっているのだろうか。  
そんなことを考えていたら、膣が勃起したままの肉棒を刺激し始めた。  
イった余韻かなと思ったけど、メイコさんの表情を見て意図的にやっているのが分かった。  
「おねだりなら、口で言って欲しいな」  
苦笑してメイコさんの火照った頬を撫でると、真っ直ぐ過ぎる答えが返ってきた。  
「……カイト君のおちんちんと精液、もっとちょうだい」  
おっぱいを掴み上げて腰を突き入れた。メイコさんは弾かれたように僕の揺さぶりに全身を震わせ、手を伸ばして首に腕を絡める。  
「ひんっ……イイ、あひ、あ――……」  
喘ぐ身体を抱き締めながら腰を固定し、弱い部分を中心に擦り上げる。  
悩ましくねだる膣の動きが次第に射精感を誘い、僕はそれを追って爆ぜるまでひたすら突き上げていった。  
 
目が覚めると気だるい倦怠感を身体が纏い、見知らぬ天井が視界に映った。  
それが何を意味するのか、寝ぼけた頭で理解するのにしばらくかかる。あ、そうだ……ここ、メイコさんち……。  
のろのろと身体を起こし、ぼんやりと部屋を見回した。傍らにはメイコさんの姿はなく、代わり洗い立ての僕の服が一式丁寧に畳んで置いてあった。  
寝室の外からヒトの気配がする。起きようと服に手を伸ばしたが、その前に二の腕に鼻を寄せた。  
……メイコさんの匂いがする。でもそれだけじゃなく、ちょっと僕のも混じってる、のかな?   
今まで意識したことなかったけど、こういうのってこそばゆい。  
セックスして同じ布団で裸で寝てたらあたりまえだ。今更過ぎるのに意識すれば勝手に顔が熱くなる。  
自分ちではメイコさんが帰った後、残り香が消えると何となく淋しい気分になっている僕だけど、メイコさんもそう感じてくれないかな。  
……なんてなぁ。ないよな。自分がキモい。  
着替えてリビングに行くと、メイコさんはキッチンで料理の最中だった。  
「おはようございます」  
「おはよ。もうすぐできるから、好きにしてていいよ」  
それは自由にしてていいってことなんだろうけど、テレビを見る気分でもなかったから、ソファーに腰掛け何気なくメイコさんを盗み見ていた。  
朝の光を弾く艶やかな髪。背中から続く滑らかな腰からお尻の綺麗な輪郭の後姿。  
昨夜二人で絶頂に登りつめ、体温を求めるように身体を寄せてメイコさんは眠ってしまった。  
嫌らしく身体を開き、性感に身悶えていたとは思えないほどの幼い顔で。  
メイコさんを眺めていたら、ふと今まで考えないようにしていたことが頭に浮かんだ。メイコさんの中で、僕の位置ってどうなんだろう?  
何度もセックスしているけど僕らは相変わらず付き合っていなくて、セフレのままだ。  
男を入れたことのない部屋に呼んでくれて、他の女の匂いを嫌がって。  
都合よく考えれば、それは僕に執着心があるってこといいのだろうか。……恋愛感情を持っているって思っていいのか。……分からない。  
だってメイコさんは何も言わない。今までメイコさんは僕に嘘も、隠し事もしたことがなかった。  
口にしないのは、やっぱり理解できていないから?  
もやもやした気持ちを持て余し、立ち上がってメイコさんの背後に立った。気配を感じて振り向こうとする身体を後ろから抱き締める。  
「どうしたの?」  
抵抗はなかった。不思議そうな声が耳朶に響く。  
「同じ匂いだ」  
細い首に鼻を寄せる僕に、笑う可愛い呟きが返ってきた。  
「ばか。あたりまえでしょ」  
こんな風に僕に触れることを許してくれて、男が来た事なかった部屋に入れて、嫉妬じみた言葉を零したり、眠るときは必ずくっつきたがる。  
「あの、さ」  
眠っている最中だって、ちょっと身体が離れれば甘えるように寄せてくるんだ。  
「?」  
……好きって言って、いいのかな。ひょっとしたら、メイコさんも。  
髪に頬を寄せ、抱き締める腕に少し力をこめた。今なら、もしかして。  
 
『別に……カイト君が誰と遊ぼうと、私には』  
 
思い出した台詞に目が覚めた。  
そうだった。――私には、関係ない。メイコさんはあの時、そう言おうとした。  
「カイト君……?」  
チンと軽い音がして、固まった僕の腕からメイコさんがするりと抜け出た。トースターに向かう姿に、自然に詰めていた息をそっと吐く。  
まだ、言えない。  
僕が合コンに行くのを嫌がっても、メイコさんは結局引きとめようとはしなかった。むしろ、行くことを勧められたんだ。  
思い込みで告白して、離れていかれたら。恋愛感情が分からないまま避けられて、メイコさんを諦めるなんて多分できない。  
僕のエゴなのは分かってる。しかし玉砕するにしても、納得のいく形で気持ちに決着をつけたかった。  
「パン焼けたよ。もっと食べたかったら遠慮なく言ってね」  
小さな籠に何個かパンを入れて振り向いたメイコさんは、柔らかく笑ってる。つられて僕も微笑んだ。  
「うん。いただきます」  
リビングに戻りながらメイコさんは首を傾げる。  
「さっき、何を言おうとしたの?」  
「何でもないです。下らないこと」  
「……そう? なんか、淋しそうな顔してるよ?」  
メイコさんが僕の頭に手を伸ばし、まるで慰めるように撫でる。まったく、誰のせいだと思っているんだか。  
メイコさんからパンの入った籠を引き取って、安心させるためにいつも通りの声を出した。  
「昨日頑張ったからお腹空きました。もう食べていいんでしょ?」  
「あ、うん。じゃあそれ、テーブルに持っていって」  
他の料理を持ってくるとメイコさんはまたキッチンに向かう。その後ろ姿を見て、思った。  
まだ、諦めることはできない。メイコさんが恋愛を理解できなくとも、僕はこのヒトが好きなのは変わらない事実なんだ。  
気持ちを告げるときが来るまでは、メイコさんの気持ちのよくなる道具でも構わない。  
言葉にしたら消えてしまいそうだから、せめてキスして抱き締めて身体を繋げる。ありったけの気持ちに代えて、少しでも伝わることを願って。  
メイコさんがテーブルについて、僕はちょっと目を見張った。パンやハムエッグに具沢山のスープ。サラダと果物。合わせれば結構な量だ。  
「いつもこんなに食べてるんですか?」  
「ここまで多くはないけど、食べてるよ。朝食は大事だもん。今日はカイト君がいるから多めに作ったの」  
そういえばホテルに一泊した朝も、メイコさんは肉とかもりもり食べるヒトだった。  
「お腹空いてるんでしょ? きっちり食べて」  
「はい、いただきます」  
そして僕らは、少し遅い朝食を摂りはじめた。  
 
おしまい  
 

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