「アペンドディスク、か……」  
 俺は先ほど届いた、拡張ディスクのパッケージを持て余して言った。  
 メシの最中だったがはやる好奇心には勝てず、食いながら開封してやった。  
 非常に行儀が悪い。箸を動かすミクが見ているのに。  
「嬉しいですねっ」  
 ミクが言う。  
 納豆へ、大量の刻みネギを投入して真っ白にするのが嬉しいのか、アペンドディスクが来たのが嬉しいのか。  
 俺には解らない。  
 しかし、それを飯の上にぶちまけて食うミクが、俺の粗相に目くじらを立てることはなかった。  
 そういう性格に、プログラミングされている。童貞野郎共に売れるわけである。  
 アペンドディスクは、ミクの能力を拡張する。  
 だが、俺にとって、その部分はじつはどっちでもよかった。  
 俺は抱えていたノートPCにディスクをぶち込むと、USBを引っ張る。  
 
「ミク、とりあえずメシは切り上げだ。USBスタンバイ」  
「もぐもぐもぐもぐもぐもむぇ!? ぐぇっ、グェホッ! ゲボッ!」  
 口をハムスターみたいに膨らませていたミクが、俺の指令に反応して、  
おおいにむせた。彼女は自律しているものの、マスターの命令だけには、  
哀しきかな機械的に反応してしまう。それもプログラムだった。  
 もちろん、ワザとタイミングを見計らって指令を出している。  
「マスター、ひどい。人でなし! 死んじゃえ! ばか!」  
「ありがとうございます」  
 しみじみと感じ入る。  
 俺は貶されると興奮するタチだった。  
 アペンドディスクのなかに「DARK」というのがある。これをミクにセットすれば、非常に  
俺好みのダークな言葉責めが実現するはずだ。期待してUSBをミクの首筋に繋いだ。  
「ミク、アペンドディスク・インストール」  
「インストール。……インストール完了」  
「よし」  
 PCを操作する。  
 トラックボールを動かし、DARKを選ぶ。  
 その時だった。  
 
「あ」  
 間違えてクリックしてしまった。  
「スタンバイ。セット。VIVIDモード・スタート」  
「ちょっと待って」  
「無理! ビビッドピンクにナイトな私! 初音ミク・ビビッド登場!!」  
 うるせえこの野郎。  
 よりによって、一番嫌いな方向性のものを選んでしまった。変貌したミクは  
「くぇャアアア! キェァアアア!」とか、あらぬ奇声をあげて俺の周りを躍りはじめる。  
 こうなると、しばらくは元に戻らないらしい。  
 畜生。  
 俺は非常にがっかりした気持のまま、飯に戻ることにした。こうなったら無視しよう。  
 が。  
「マスター! マスター! ご飯なんか食べてないで! おフロいきましょ! おフロ! お風呂♪」  
 ミクはアンドロイドなので馬力がある。アトムほどでないが、R.田中一郎ぐらいはある。  
 俺は、たくあんをかじりながら担ぎ上げられると、そのまま風呂場へと連行された。  
 ぼりぼりやりつつ、バサバサと服を脱がされはじめたので、ヤケになって付き合うと、そのまま、  
バシャバシャと強制的にはしゃがされつつ、三〇分後に発射させられた。さらに一〇分後に発射  
させられ、つぎの五分後は、俺の意志で発射した。  
 
 途中で意識が飛んだ。  
 たしか、数十回繰返したような気がするが……ふとベッドで眼を覚ましたとき、ミクはノーマルモードに  
戻っていたものだ。ミクの耳たぶが真っ赤になっている。  
「マスター……私、もう生きていけないかも、しれませんです」  
「気にするなよ。酒に泥酔したのと、似たようなもんだから。メイコが、いつもあんなだろ」  
「余計死にたい」  
「そんなこと言うもんじゃない。生きているって素晴らしいぞ。ああ、次はDARKでな」  
「ひぃぃ〜」  
 

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