天気の良い日は市有地の河川敷の芝生が生い茂る公設グラウンドから500メートル以上離
れかつアーバンな住所不定と言うか橋の下一丁目住まいのおじさん達のフィールドから200
メートル程度離れた河原でピクニックをするのが良い。公設グラウンドよりもアーバンな
おじさん達に近いのは心理的な距離の近さと言うよりも小学生などが野球の練習をしてい
るときにちょっと変わったピクニックを楽しむ俺のような人間がちかずくと官憲に御用と
なる可能性があるからであって、断じてもしもの時を考えて先んじてアーバンなおじさん
達の輪に入れるように下準備をしているわけではない。
「雑食が一番美味しいよな」
そう自らに言い聞かせながらドクダミよもぎフキノトウたんぽぽ等などの所謂雑草にマ
ヨネーズを掛けて食っていると、我が家の愛娘かつ蠱惑の美少女もしくは俺の女王様たる
鏡音リン(14歳)が哀しげな目で地をはいつくばって草を頬張って腹を満たそうとする餓
鬼じみた俺を見下ろしているのだった。
「ねえマスター……働こうよ」
「それは出来ない相談だ鏡音リン。まだ生まれて日の浅い君は聞いたことがないかもしれ
ないが、今の世は格差と呼ばれる不快な深い海溝のごとき不平等の存在が黙認されている
金持ちブルジョワジィ天国なのだ。では私はどうかと言うと退学になった大学に通学して
いると装って親から仕送りを貰い続けている最貧民層に属しているのであって、つまりは
働いたら負けだと思っている」
「マスター……働こうよ」
鏡音リンは草むらに寝転ぶところんころんと転がって、膝立ちで片手を地面に突っ張っ
てもう一方の手で草を貪っていた俺の下に入り込んだ。
寝転んでいた少女に上からキスをしようと迫っているような構図だがあくまでこれは少
女鏡音リンが後から下に入り込んだのであって俺に責はない。
「マスター、チューして」
「む……草食ってたからやめて置いたほうが」
「いいから」
鏡音リンは俺の首に腕を回して絡み付き体重を掛けて俺の姿勢を低くさせる。
唇がたまゆらの触れ合いを繰り返す。
「マスター、口、変なにおい。草でも食べてたみたいなにおい」
「だからそうだと言っただろう」
一旦口を離して耳元で囁いた鏡音リンだったが、その口振りはやや笑いが混じっていた。
鏡音リンは再度唇を寄せて来る。今度は触れるだけではない、鏡音リンの小さな舌が俺の
唇を割って侵入し、草臭い俺の歯列を丁寧に官能的に舐めてゆくのだ。こういう攻めは男
が行うべきのようにも感じるが臭いと言われて羞恥と遠慮に逡巡した俺には黙って少女に
蹂躙されるしか無いのであった。
「おい!女の子を離せロリコン野郎!」
と叫ばれて顔をあげたらそこにはお巡りさんが二段式警棒を伸展させながら振りかぶって
いるところであって、中学生と小学生の狭間にある未成熟の美を余るほど持ち合わせてい
る鏡音リンを押し倒して蹂躙しているように見えたであろう引き倒されて蹂躙されていた
俺は官憲にまで引き倒されて蹂躙される運びとなった。
数時間の拘束、説教、厳重注意ののち、警察署から帰る道すがら鏡音リンは俺に言うの
だった。
「マスター、警察官て7月に雇用試験あるらしいよ。受けたら?」
俺は間髪入れずに言った。
「働いたら負けだと思っている」
終わり