「かかかカイトさん!」
仕事帰り。切羽詰まったような声で誰かが俺を呼び止めた。
「なあに?」
振り返ると、予想通りインターネット社のめぐっぽいどがいた。
「こんにちは。俺に声をかけるなんて珍しいね」
「あの、あの、カイトさんに折り入ってお願いが……!」
「うん、なあに?」
めぐっぽいどは顔を赤らめて、何かを言いたそうに口をぱくぱくさせるが、一向に音が出てこない。
「?」
俺を見上げていた視線があちらこちらに泳ぎ始める。
「ッ…………」
決心したように口を開いても、やはり音が出てこない。
俺を見つめる瞳がじわりと潤み、ついにめぐっぽいどは俯いてしまった。
「言いにくいこと?」
無言でうなずくめぐっぽいど。
さて、どうしたものか。
1、ちゅーしてみる
2、なでなでしてみる
3、ぎゅーっとしてみる
……2だな。
何だよ、1と3は。俺たちは恋人同士じゃないんだぞ。
なでなで、なでなで。
「焦らなくていいから。とりあえず立ち話も何だし、パフェでも食べに行こう」
パフェ、という言葉に反応して、顔を上げためぐっぽいどはちょっと笑ってうなずいた。
「それで、お願いって?」
にんじんパフェを食べて幸せそうな顔をしているめぐっぽいどに、改めて尋ねる。
「えっと、してほしいんです」
「……何を?」
「えっと、その……アレを」
「アレ?」
困り切った顔をされても、判らないものは判らない。
じっと見つめていると、まためぐっぽいどの目が泳ぎだした。
「うぅ……私はミクちゃんやリンちゃんと仲がいいんですけど……」
「うん」
「二人はもう、その、初体験を済ませているらしくて、私の方が年上なのに」
つまり、自分一人が処女なのが恥ずかしいって訳か。
「めぐっぽいどは処女なのが嫌なの?」
「グミって呼んでください」
「グミちゃん」
「はい。……変じゃないですか? 私、自分に自信がなくて」
いつものは空元気ってことか?
「二人にも、この歳でまだ処女だって言い出せなくて、もうしたって言っちゃって……」
「引っ込みがつかないから、ってこと?」
「うぅ、そうです。カイトさんなら年上だし、余裕があって大丈夫かと思って……今回だけでいいんです」
俺、そんなふうに見られてるんだ。
正直、どうしたらいいか悩む……。
1、ひゃっほー! お願いを聞く
2、何てことだ! 貴重な処女を守らせる
何と難しい選択だ……。
常識的に考えて2のはずだが、誰か別の、変な奴に処女を奪われる可能性も捨てきれない。
そうすると1……いや、しかし……でも……ここは。
ここはエロパロ板だ。
「あの……」
「本当に俺でいいの?」
「……はい!」
高校生が希望難関大学に合格した時のようなイイ笑顔だ。
「じゃあ、ホテルに行こう」
「はい」
支払いを済ませて喫茶店から出る。
一番近いラブホテルは、そこから歩いて十分だった。
ホテルに入る直前から、めぐっぽいどはずっと俺の袖を掴んでいる。
「どの部屋がいい?」
「えっ、えと……カイトさんが選んでください」
「わかった」
適当にボタンを押して、エレベーターに向かう。
乗り込むときにちらと見えためぐっぽいどの顔は、見るからに緊張していた。
「グミちゃん」
「はひっ!?」
「後悔、しない?」
むぐ、と黙り込んで、大きくうなずくめぐっぽいど。
ちょうど目的の階に着いた。
「はい、どうぞ」
ドアを開けて、先に入らせる。
「わぁ……」
靴を脱いだめぐっぽいどは恐る恐る進んでいき、すぐに興味津々であちこち調べ始めた。
「こんなふうになってるんですね……お風呂、磨りガラスです」
「外からシルエットだけ見えるね」
何を想像したのか、めぐっぽいどが顔を赤くして硬直する。
「……はぁ」
めぐっぽいどにはどうもエロさを感じない。
この子相手で勃つんだろうか……。
「あ、あのっ!」
「ん?」
「私シャワー浴びます!」
「あ、うん」
何事か考えている内にめぐっぽいどはそそくさとバスルームに消えてしまった。
「むー……」
悩んでも仕方ないので、とりあえずベッドに腰掛けてテレビを点けた。
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