「……うん、大丈夫。今お風呂から上がったとこ」
濡れた髪を拭き終え咲音メイコは携帯電話を傾けた。
湿ったタオルを洗濯機に放り込むと、廊下をリビングへと進んだ。
『そう、戸締りは? ちゃんと鍵かけてる?』
携帯電話の受話器から聞こえる低音は心底心配そうな様子だ。メイコは大仰に溜息をついた。
「も〜! 毎日聞いてるよそれ! 帰って来た時にちゃんと確かめたもん」
ぷうっと湯上りで火照った頬が不満げにぷっくり膨れた。カイトが出張先からかけてくる電話は、まるで遠い土地で生活する独身の息子を心配する母親のようだった。
メイコとカイトはパソコンにインストールされたVOCALOID、唄うソフトウェアだ。
ユーザーであるマスターの作る歌を唄うために存在する。
カイトはディフォルトで使用されているのに対し、メイコは少し違っていた。
メイコはマスターがポップな曲を作成することが多いため、『咲音メイコ』というアイドルのような姿形を与えられていた。
本来の姿である成人女性型よりずっと幼い、十代半ば程の少女の容姿と可愛い声。そのためかカイトと並ぶとまるで年の離れた兄妹に見える。
幼さの残る容姿と先にカイトがインストールされていたせいか、カイトはメイコに対し親のように過保護だった。
今回、マスターの命令で他所のプロデューサーの元に一週間の出張を言い渡された時も「メイコを夜一人にするなんて」とゴネにゴネまくり、メイコが家から叩きだしたのだ。
以降出張中、カイトは夜はメイコに電話をする。テンプレでもあるのかと思うくらい毎晩同じ内容で、メイコは耳がタコになっていた。
『とにかく、寝るときはもう一回鍵を確かめること。それから好きなものばっかり食べないこと。ちゃんと布団で寝るんだよ? それと……』
「わかったわよ、もう……」
適当な相槌にカイトの声が尖ってくる。
『そんなこと言って、メイコは放っておいたらお菓子ばっかり食べちゃうし、ソファーで寝ちゃったり、風呂上がりの髪だって濡れたままにするじゃないか』
「そ、それは」
……確かに、普段口煩いカイトが居ないから好き放題している。昨日もうっかりソファーの上でうたた寝してしまった。今だって髪、乾かしてない。
だって、私だってマスターが仕事から帰って来てから、毎日遅くまで新曲の調声してるんだもん。疲れてるし!
「ちゃんとしてるもん!」
『……まあ、それは帰ってきてから訊くとして。ホント、最近は物騒だからさ。ウィルス流行ってるっていうし。明後日には帰るから、気を付けてね』
ちらりと壁掛けのカレンダーに視線を向けた。明後日の日付には出掛けにカイトが書き残した二重丸が自己主張している。カイトが帰ってくる予定の日だった。
「うん」
『お……かっ……』
急にノイズ交じりになった音声にぎょっとし、慌てて携帯電話を構え直した。
「え? ちょっと、カイト?」
プツ。……ツー・ツー……。
突然切れた通話に首を傾げて、携帯電話の電波の受信状況とリビングに置いてある共有のパソコンのそれを確かめた。……電波が切れている。
「こっちも?」
まだ、マスターが起きている時間なのに。
パソコンを落とすと電波も切れるが、このパソコンは常時接続だから、マスターが電源を切らない限りは電波が切れることなんてない。
しかもマスターは今日の内に曲のアレンジ済ませて完成させると言っていた。寝ていないはず……。なんで?
「ま、いっか」
もしかしたら、先方のパソコンが切れたのかもしれない。もういい時間だ。用があればかけ直すだろうし。
携帯電話をローテーブルに置く。メイコは万事に付けて大らかな性格だった。
時計の針が午前一時を回る。メイコはソファーに座って、新曲の譜面を眺めていた。
マスターも、もう明日の仕事に備え眠りに落ちた頃だろう。
もうすぐカイトが帰ってくる。そう改めて思うと、自然と顔が緩んだ。
電話では可愛くない態度を取ってしまったが、実は出張に出かけた日の夜から寂しくって仕方がなかった。
このパソコンにインストールされてから一人になったことなんて一度も無かった。
何時だってカイトが傍に居てくれた。寂しいなんて感情だって、今回の出張で初めて知ったくらいだ。
ここに来た頃、右も左も分からなくてメイコはカイトにべったりだった。
カイトはメイコの手を引いてあちこち歩きながら世間のコト、パソコン内のルール、歌についてや生活のあれこれを教えてくれたのだ。
そういえば、始めの頃は夜が怖くてカイトの布団に潜り込んで怒られたっけ。
顔を真っ赤にして男の部屋に女の子が〜とか言ってたけど、結局暫らく一緒に寝てくれた。
こんなんだから、子供扱いされちゃうのかな?
実はカイトの不在中、寂しくてカイトのベッドで寝ている。絶対内緒にしなくては。
帰ってきたら普通の顔で出迎えるのだ。カイトが居なくたって、私はちゃんと生活できたと。
そのためには、明日仕事から帰ってきたら家の中を片づけなきゃ。いや、今だってそんなに散らかしていないけども。
カイトもちょっとは私を見直してくれるかもしれない。
何だかんだ言って、メイコはカイトの帰宅を本人が思うより心待ちにしているのだ。
はっ、と我に返る。手元の譜面がすっかりお留守になっているいた。
ともかく今はこっちに集中しないと。ヘッドフォンを付け、プレイヤーのスイッチを入れる。譜面の音符を目で追いながら、耳で新曲をなぞった。
だから、気がつかなかった。
施錠された玄関の鍵が壊される音を。
それらは施錠された玄関のドアを易々と開けた。
『家』の体裁をしていても、所詮パソコンの中にあるフォルダの一つだった。施されていた鍵はそれらにとって容易い代物でしかなく、簡単に侵入を許してしまう。
人形を模った影は二体。音もなく玄関を潜り、廊下を進む。
家中を探るよう動き回った後、最後に暗い廊下に光を漏らすリビングの前に二体の影は移動した。
入り口に背を向け新曲に集中していたメイコには、気付きようがなかった。
リビングの照明がふと陰る。メイコが天井の照明器具を見上げると、ちかちか点滅した後、消えた。すっかり暗くなってしまった。
「あ、あれ?」
停電なんて聞いてないし。照明のリモコンでスイッチを入れても、全く反応しない。
? なんだろ? 携帯電話の件といい。今夜は何かヘンだ。
電気系統の故障なのだろうか。それにしても複数同時におかしくなるなんて。
とにかく明かりの確保が先だった。確か納戸に懐中電灯があったはず。ヘッドフォンを外し、ソファーから立ちあがった。復旧しないなら今日はもう寝てしまおう……。
闇に慣れた目を凝らしリビングよりも暗い廊下へ出た時に、異変に気がついた。
何気なく視線を投げた玄関へ続く廊下、その外へ出る扉が細く開いている。
……なんで? 鍵をかけたはず……!
ぞっとした。メイコの心に反応したように、静かだった闇の気配が動いた。
「なっ、誰……ぐっ」
大きな手に口を塞がれ悲鳴が消される。次いで身体を強い力で押さえつけられた。
身体に触る手を複数感じる。痛いぐらいに掴まれた二の腕。恐怖に竦み上がりそうになる気持ちを叱咤し、夢中でメイコは突き飛ばした。影が怯む。
その一瞬の隙を突き侵入者の腕をメイコは振り切って、廊下の奥の二階に上がる階段へ逃れた。
何? なんなの? 突然の侵入者に思考は混乱の極みに達する。
自分以外いないはずの家の中に知らない誰かがいる。それも複数。
がくがく震える脚を懸命に動かし、階段を登りきった一番奥の部屋に転がり込んだ。
メイコを追って階段を登る足音に急いでドアを閉め、施錠する。指が震えた。
鍵をかけてホッとする。改めて部屋を見回すと、カイトの部屋だということにようやく気がついた。
息を潜めながら考える。一体何が起こっているの? どうして知らない人が家にいるの?
しかも、相手はメイコに悪意を持っているようだ。掴まれた腕がジンジン痛かった。
心当たりが全くなかった。ということは、カイト関係の事?
ううん、カイトだって他人から恨みを買うような性格じゃない。
そうだ! カイトに助けを……そう思い至った途端、メイコは血の気が引いた。
携帯電話は一階に置きっぱなしだし、ここに通信機器はカイトのパソコンがあるけど、もうマスターは眠ってパソコンの本体の電源は切れて電波も届かない。
これじゃマスターに助けを求めることすら不可能だ。
焦る思考回路が高速で巡るが、最善の答えを見つけることができなかった。
そんなメイコの耳が、微かな音を拾う。二階の部屋を探る音だ。泥棒なのだろうか?
金目の物を物色したら出ていってくれるかな?
しかし音の主は、メイコの籠城するカイトの寝室へ徐々に近づいてきている。
……どうしよう。ココ鍵がかかるし、このまま朝までやり過ごす事が出来れば。でも、私はどうしてこんなに不安なの? 何か忘れている気がする。
さっきよりも大きくなる足音。扉から視線を動かす事が出来ない。
ぎしり、ぎしりとカイトの部屋に近づく。そして、部屋の前でぴたりと止まった。確かに施錠したはずなのに回り始めたドアノブに、メイコの目が見開かれた。
……そうよ、相手は閉めたはずの玄関の鍵を、開けていた……!
メイコは身を翻し、机の上に足をかけた。そして窓に手を伸ばす。カイトの寝室は机が窓に面しているからだ。
しかし判断が遅かった。背後で施錠した鍵が解かれ扉が開き、侵入者達はメイコの足首を掴んで机から引き落とす。机の上に置かれていた物も、派手な音を立てながら落下した。
「きゃあっ」
あと少しで窓に届きそうだった指は空を切り、身体は強かに床へ叩きつけられた。
メイコは呻きながら掴まれた足首を見上げる。
そこには、窓から入る街灯の光に照らされた見知らぬ二人の男が、にやにや笑いながらメイコを見下ろしていた。
彼らは、自らを『ウィルス』と名乗った。
「俺らはね、ネットの波を漂いながらあちこちのパソコンを移動して、流れ着いた先でそのパソコン内のOSやらアプリにダメージを与えるようプログラムされている」
メイコは二人の侵入者の一人の、軽薄そうな男に後ろから立ったまま羽交い絞めにされている。強く押さえつけられ身動きが取れない。
薄闇の中でもう一人、痩せぎすな男が笑う。不快だった。
「ウィルス……?」
瞬時にリビングで起こった電気・電波系統の異常を思い出す。
「じゃあ、停電も電波も……鍵も?!」
「そうだよ〜。俺ら鍵なんて関係ないし? このパソコンの所有者が気がつかないうちに、さっきまでこのパソコンの中を引っ掻きまわしてたんよ★」
後ろから楽しげな声が聞こえた。メイコを羽交い絞めにしている男が喋ったのだ。
だけど、このパソコンにはちゃんと対ウィルスソフトだっているのだ。異変に気が付いたら、きっと駆けつけてくれるはず。
「あ、あんた達なんか、バスターさんが直ぐに駆除してくれるんだから!」
恐怖に押し潰されそうな気持ちを奮わせ、精一杯怒鳴った。が、目の前の男は冷笑をメイコに返す。
「そのバスターは今頃自分のことで精一杯で、余所に目を向けている暇なんてないだろうよ。俺たちはある意味『新種』だから、駆除に時間がかかるしな」
――最近は物騒だからさ。ウィルス流行ってるっていうし。
カイトが電話で話していた台詞が、脳裏に浮かんだ。
そんな……。目の前が暗くなる。ウィルスを名乗るこの男たちは、このパソコンに一体何をしたんだろう?
「お嬢ちゃん、カワイイ顔して気が強いねえ★」
後ろから耳を舐められ、ひっと声を上げてしまった。痩男がメイコの細い顎を掴み、顔を覗きこんでくる。
「さっきこの家を調べたよ。この家には住人が二人しかいなくて、しかも片方は長期で家を空けているんだな?」
カレンダーも確認されている。メイコは自分の身体が震えてくるのを感じた。
「余所でもここでも散々暴れまわったから、俺ら駆除されるのも時間の問題だけど……ここでいい思いできそうだな」
男が浮かべた表情は、完全に捕食者としてのそれだった。その意図に心を鷲掴みされた気がした。混乱の極みにあるパソコン内。機能していないウィルス駆除ソフト。
マスターに助けを求められず、カイトが帰ってくるのはまだ先……。
顎にかけられた手が、パジャマの合わせにかかる。
「や、止めて……」
絶望的状況を覆す材料を見出せず、自力で切り抜けることもできない。
痩男の手に力がこめられ、力任せに左右に裂かれた。パジャマのボタンが弾け、素肌が晒される。後ろから伸びてきた手がぐにぐにと乳房を確かめるように揉んだ。
「お嬢ちゃん、ロリフェイスの割におっきいね★」
「駆除される前に、じっくり楽しめそうだ……」
これから行われる行為に、メイコは青褪めただ震えることしかできなかった。
助けて。助けて。助けて…………。
夢であって欲しいと何度も願った。
何時もみたいにソファーでうたた寝しちゃって、カイトに起こされ「そんな所で寝ちゃうから怖い夢を見るんだよ」って頭を撫でて欲しかった。
「う……ぁ……」
「すっげぇ柔らけぇ……」
搾るように揉まれて痛みを感じる乳房が、ちゅぷちゅぷ吸われる乳首の音が、紛れもない現実ということをメイコに認識させる。
ベッドの上、起こした半身の背中を軽薄男に預けるように抱きかかえられ、痩男が脚に乗り上げメイコの乳房にむしゃぶり付いていた。
パジャマの下も脱がされ、下着一枚の無防備な姿で男二人に押さえつけられている。
ここは安全な自宅で、カイトの匂いのするベッドなのに。どうして……。
「乳首、綺麗なピンクだね〜! こんなに勃っちゃて★」
乳房を握る手とは別の手に、はみ出たその部分を軽く抓まれた。
「いやだぁ……」
メイコが弱々しく首を振る。後ろの男に耳を銜えられ、背筋に悪寒が走った。
愛撫なんてとても呼べない触られ方に、メイコは嫌悪感を募らせるばかりだ。胸を揉まれても痛いだけだし、舐められるのも気持ち悪くてしょうがない。
興奮して息遣いが荒くなりつつある男達とは対照的に、メイコは不快感ばかりが増していく。
何とか身を捩ろうとしても男二人の力には到底及ばず、でも抵抗を止めない姿は男達の嗜虐心に火を付けた。
胸の膨らみのあちこちや、すべすべの太腿を撫でては舐め、嬲る。
「童顔でデカいおっぱいって、エロいな。見ろよ」
乳房を掬い、振動を与えられると柔らかなそれはぷるぷる揺れた。
「ぁ……いた、い」
両方の乳房を円を描くよう押し揉まれ、無骨な指の間から肉がはみ出ている。何度か繰り返してから乳首を弾かれた。
肌触りを確かめるように谷間から臍へ舌が、手のひらが身体のラインを辿り、空いた乳房はすかさず後ろの男がむにむに握りだした。大きさと柔らかさに感嘆の声を上げる。
「さて、いよいよ……」
痩男が最後の一枚に手を伸ばし、ちょうど割れ目の部分を形に沿って動かした。ぴったりと閉じていた脚が極度の不安と拒絶に暴れだす。
「止めてよ! いやっ!!」
「おい……大人しくしろ」
パニックになりめちゃくちゃに暴れだした脚に、痩男は顔を顰めた。
もがくメイコの脚に乗り上げると、鋭い一撃がメイコの頬を打つ。
軽く乾いた音が部屋に鳴り響いた。
「っ、きゃ……!」
痛みと衝撃でメイコの頬はみるみる赤くなった。恐ろしくて身体が凍りつく。
「あ〜あ、怒らせちゃった★ このヒト、怒るとコワイんだ」
カタカタ震えるメイコの喉元を手で押さえ、痩男は凄んだ。
「いい加減にしろよ。二度と使い物にならないよう、アソコをめちゃくちゃにしてやってもいいんだぞ?」
固まって動けないメイコの腰が引かれ、軽薄男の膝に背中を預ける形になる。
下着を掴んだ手が引き下ろされた。淡い恥毛が飾る脚の付け根に嫌らしい指の感触を感じて、メイコは閉じた脚に力を込めた。
「へ〜、一丁前生えてら★」
「小娘でも女だろ。脚、開かせるぞ」
「あ、俺にもちゃんと見えるようにヨロシク★」
「〜〜〜〜っ! やだ……っ」
怖くて、イヤイヤと首を横に振るしか抵抗が出来ない。堅く脚を閉じているのに、合わせた膝は男の力で難なく割られてしまう。
膝裏に手を回され、持ち上げられると大きく脚を開かされたまま腰が浮いた。
「御開帳ーーっと」
「ひっ……!」
男達の目の前にメイコの男を知らない性器が曝け出された。羞恥で身体がかぁっと熱くなる。にやにやと薄気味悪い笑みを浮かべ、二人は晒されたソコを凝視した。
「……キレイなもんだなぁ★ もしかして、このコ処女?」
「かもなあ。男と暮らしているからヤりまくってるかと思ってたわ。おい、処女か?」
面白そうに視線を合わせた痩男に、メイコは首を背ける。しかし男達にはそれで充分だった。
痩男はメイコの背後の軽薄男に開かせた脚を持たせると、空いた手で内腿を撫でた。震える尻に目を細め、指で乾いた桃色の花弁を左右に開く。
「! ……っ 見ないで!」
「うっは、奥までピンク★」
「しっかし、乾いてんなぁ」
「アンタが殴ったからだろ? 怖くって乾いちゃったんだよね〜★」
子供をあやすような口調でそう言い、掴んでいる脚を揺すぶった。
「しょうがねぇな。濡らさないとこっちも痛いし」
舌打ちと共に、痩男の頭が脚の間に降りてくる。メイコはぎょっと目を開いた。
「クリ舐めれば、嫌でも濡らすだろ」
性器に息が当たり、突起を舐められた。掴まれた脚が驚いて大きく震える。
「ひぃっ」
舌先で嬲られた突起は直ぐに硬く膨れ、痩男の口に食まれた。加減して吸われて、また舐められる。何度もそれをされると、メイコの尻が小さく振れた。
眉間に皺を寄せ、メイコは唇を噛んで行為に耐える。
可憐な花びらの間を硬く尖らせた舌が潜り込み探られた後、性器全体を舌の平らな部分で舐め上げられた。
「どう? 感じたかな★」
軽薄男がメイコの顔を覗きこむ。羞恥で真っ赤な顔を見られたくなかった。
あんな所を舐められるなんて思いもしなかった。脚の間なんて他人どころか自分で見たことすらなかったのに。
「感じたよなぁ? ちゃーんと味がしたぞ」
侮蔑の言葉と共に、カチャカチャと耳障りな音がメイコの耳に届いた。恐る恐る音の方向に視線をやれば、痩男がズボンを下ろしているのが見えた。
「い、いや……」
逃げ出したい一心で足掻くが、ほんの少し背中を浮かせて両脚を持ち上げられている状態じゃどうすることもできない。
「おい、小娘を起こせ」
軽薄男に抱き起こされ、メイコはベッドの上に座り込む形になった。後ろ手に拘束された両手首に軽薄男の指が食い込んで痛い。
男達の意図が分からず、メイコは俯くしかできなかった。
「顔を上げろ」
怖々顔を上げると、そこにはベッドに膝立ちになった痩男と、股間から反り立つ肉棒がメイコの瞳に映った。
慌てて俯くと、それを許さない痩男の手が乱暴にメイコの茶色の髪を掴む。無理矢理顔を上げさせた。
「しゃぶれ。歯ぁ立てたらひでぇぞ」
簡潔な言葉だったが、衝撃は大きかった。目をつぶり涙を溢れさせながらメイコは首を横に振った。そんなこと、したこと無い。できない。
グロテスクなソレを口に含むだなんて、出来るわけがない。
「む、無理……できない……」
髪が引かれ痩男の性器がメイコのふっくらした頬に当たった。嫌な臭いが鼻先を掠め、気分が悪くなった。
「口でイクの★」
「下の口が挿られるほど濡れてねーんだよ。コレ濡らさんと、入らん」
口を閉じ暫らく抵抗していると痩男がメイコの鼻を摘み、耳元で静かに恫喝する。
「また殴られたいのか?」
びく、と身体が勝手に震えた。さっき殴られた時のショックは未だ新しい記憶だ。
次第に苦しくなる呼吸と痛みの記憶に負け、メイコが小さな口を開くと鼻を解放される。肉棒が唇をなぞりゆっくりと侵入し、えづきそうになるのを懸命に堪えた。
「ぅ、ぐ……」
「……舌で全体を舐めろ」
苦しい。でも舌に感じる熱と感触より苦しい方がよっぽど良かった。
しばらく奉仕させられ、痩男が声を漏らし始めた頃に口からソレは出ていった。
メイコの唾液で、窓から差し込む淡い街灯の光を受け禍々しく光っていた。
吐き気を我慢するメイコを押し倒し、軽薄男がその抵抗する腕を押さえつける。
「離して……っ! やだっ」
「いいコだから暴れないで★」
「いやーーーーっ」
必死で抗うメイコの顔に平手打ちが見舞う。割り開かれた脚の間に痩男が入り、膣口を先端を擦りつけて、ぐっと体重がかけられた。
「痛い! やめてよ入らない! ひっ……」
「小さい孔だな……」
腰を前後に動かしながら無理に押し進められ、メイコは泣きながら悲鳴を上げた。挿入するための体液が足りていないのだ。男達に対する嫌悪感も抵抗に拍車をかけた。
「ほら、力抜けよ」
僅かな体液と唾液が痩男のかけてくる圧力が肉棒を膣に運ぶ。上手く呼吸が出来ない。
強張る身体は男を拒絶しているのに、力ずくで中に捻じ込まれ全身が裂けるようだった。
「ぐ……っ、あぅ……」
痛い。痛い。痛いよカイト……! カイト……。
「カ……イト……助けて……助け、て……っ」
とうとう痩男のモノがメイコの中に全て埋め込まれ、下腹部の異物感が存在を主張する。軽く揺さぶられるだけでメイコの口から苦痛の声が転がった。
「すげぇ狭い……イイわ」
痩男は勢い良く腰を動かし始めた。めいいっぱい広げられた膣口から、膣内を守るために滲み出た粘膜が零れ出す。肉棒が出入りする度に花弁が無残に蹂躙された。
「抜いてぇ……っ、あ、ぐ……」
懇願は無視され、容赦なく突き刺さる肉の凶器は更に硬度とスピードを増した。突き上げられる度にメイコの肢体は跳ね、男達が嬲った乳房が上下に揺れる。
「はい、お嬢ちゃんコッチもね★」
軽薄男がメイコの右手を取って、自分のモノを握らせた。「ひっ」と声を上げたメイコの右手に自分の手を重ね、猛るソレを扱く。
「そうそう、軽く握って……もーお嬢ちゃんが犯されてるの見てたらさ、こんなにおっきくなっちゃったよ……★」
「コッチもやべぇよ。むちゃくちゃ締まる……っ」
ぎちぎちと音を立てそうな位開かれた膣に、埋没した肉棒が乱暴に内壁を抉る。
身体を支配するのは苦痛しかない。男達の行為が早く終わればいい、早く身体から出ていって欲しい、ただそれだけをメイコは願った。
メイコの中で暴れる痩男が、揺れる膨らみを鷲掴んだ。ピストン運動が激しくなり、腰を強く打ちつけられる。
右手の中の異物も熱く脈打ち、破裂寸前まで柔らかな手の中で扱かれた。メイコの呻き声を男達の荒い息づかいが掻き消していく。
「う……やべ、出る……!」
「こっちも……イク★」
「やめてぇ……っ」
間髪入れずに一段と深く突きいれられ、メイコは胎内と右の頬に熱い液体を感じた。
中で扱いてから異物がメイコから出ていくと、花弁の挟間から欲望の白い残滓に交じった少量の赤が垂れ、シーツに染みを作る。生温くぬるぬるしたモノが伝う頬と右手が不快だった。
終わった。終わったんだ……。
行為の終了への安堵と凌辱された衝撃に、顔を背け声を殺しながら涙を流すメイコの身体がうつ伏せにされ、尻を高く上げさせられた。
「う、あ……?」
「今度はオレを満足させてよね★」
軽薄男が何時の間にか移動し、双丘の間に指を滑らす。自分で抜きながら再び力を取り戻した肉棒をメイコに当てがった。
「もうイヤ! 許して……」
涙声で訴えても、欲望に駆られる男に聞き入れてもらえるはずもなかった。
「イイ締まり具合★ 感じてんじゃないの?」
ソレは痛みを伴いながら、突き入れられ蹂躙を開始する。先に出された精液が掻きだされ、潤滑油代わりに抽挿する肉棒の動きを助けた。
絶望と苦痛に身体を震わせるメイコの髪が掴まれ、顔を上げされられる。痩男が前に膝を付き、自身を晒して欲望に形どられたソレを示していた。
貫かれながら虚ろな瞳を向けるメイコに、痩男が強引に髪を引く。顔に放たれた精液が顎へと流れてシーツに滴った。
「口がお留守じゃねーか。開け」
夢ならどんなに良かっただろう。夢なら何時かは覚めるのに。
どんなに怖い夢を見たって、あの温かなカイトの手のひらがメイコを優しく慰めてくれるのに。
届かない手のひらと叶わない願いに想いを馳せるメイコの口を、無骨な指が無理矢理こじ開ける。
男達は長い時間をかけ、メイコの身体を代わる代わる嬲り、犯した。
やっと終わった……!
カイトは嬉々として荷物を纏めていた。無論帰り支度である。
出張先では調声もレコーディングも順調すぎるぐらいスムーズに終了し、予定の期間より半日早く仕事が完了した。
今回の出張で一緒に仕事したボーカロイド達には「打ち上げも出ずに帰るの?」と言われたが、カイトは速攻で帰りたかった。
家には一人で何日も留守番をしているメイコが待っているのだ。寂しがりやなメイコが。
カイトは、何かにつけ子供扱いするなと言うメイコが、一人になることが嫌いなことを知っている。
インストールされた頃はカイトの姿が見えないと泣きそうな顔で自分を探しまわったり、夜一人の部屋が怖くてカイトのベッドに潜り込んできたものだ。
流石に今はそんなことは無くなったが、今回みたいに一人で家に何日も残すのは初めてだった。
寂しがってるよなぁ……。
電話では強気な態度だったが、声は心を裏切らない。ボーカロイドなら尚更だ。
帰ったところで、絶対「寂しかった」なんて絶対に言わないんだろうが。
メイコがインストールされ、世話を焼く内にカイトは自分がメイコに惹かれていることに気がついた。ただ当のメイコはまだまだ精神が幼く、感情の機微に疎い所がある。
カイトも年長者として接することが多いから、向こうにしてみればカイトは口煩い先輩くらいにしか思われていないだろう。ヘタしたらオカンだ。
……いや、オカンは勘弁してほしい!
もうちょっとメイコが精神的に成長するまでは、自分の気持ちを告げるつもりはない。気長に待つつもりだった。
早く帰りたいのには他にも理由がある。昨日の電話の最中に電波が切れたこと。こっちに異常がなかったから、メイコの方に理由があったのだ。
かけ直しても繋がらず、妙に気になった。
噂になっている「ウィルス」のこともある。どうやらやっとワクチンが出来たらしく、今朝配信されたと聞いた。
詳しいことは分からないが、OSやアプリケーションを壊すことを目的にしているという。
一つのパソコンの中を荒らすと、ネット回線に流れて辿り着いた先でまた破壊活動を繰り返すというから恐ろしい。
カイトは首を振って嫌な想像を頭から追い出した。自分がメイコに対し過度な心配性なのは自覚している。これだから「オカン化」が進んでしまうのだ。
小言を言う度、子供扱いするなと言わんばかりに頬を膨らますメイコを思い出し、カイトは苦笑した。
さて、とっとと帰ろう。家に帰ったらしばらく休暇をくれるとマスターが言ってたし、メイコを存分に甘やかしてあげないと。
久々の帰宅に浮かれるカイトが、家で待つ残酷な現実など知る由もなかった。
おしまい