「え〜っと……ここ、だな」  
こじんまりとした一戸建て。その門扉の前で、彼は手にしている住所の書かれた紙片と、掲げられている表札を交互に見比べた。その仕草に青い髪が小さく揺れる。  
彼は成人男性型ボーカロイドのカイト。歌を唄うために、ヒトに模して開発された存在だった。  
ここが、これから俺が暮らす「家」。  
新しいマスターから指示され、手渡された住所の書かれたメモを頼りに彼はここへやってきた。  
しかしカイトは一向に動きを見せず、ただ家を見上げる青い瞳は、不安の影を深く落としていた。  
この家には既に先住のボーカロイドがいるのだ。カイトの新しい先輩に当たるボーカロイドが。  
どんな方か、マスターは詳しく教えてくれなかった。これから一緒に暮らしていくんだし、仕事も共にすることになるし……嫌われたり疎まれたりしたら……。  
急に胸の中が重苦しくなる。カイトはマスターを持つのが二回目だ。簡単にいえばカイトは『中古のボーカロイド』だった。  
初めてのマスターは、最初の内こそカイトに良く構ってくれたが、後発のボーカロイドを数体購入した途端にカイトを使わなくなった。  
カイトは旧型。新型のボーカロイドの方が使い勝手も良く、なにより人気が高かったからだ。  
マスターがカイトに見向きもしなくなると、同じ家に暮らす後輩ボーカロイドたちの態度も段々冷たいものになっていった。歌を与えられず、家事ばかりしているカイトを嗤うようになり邪険に扱われた。  
そして、カイトは前マスターから『用済み』とされ、中古市場に出された。そこで今のマスターがカイトを拾ってくれたのだ。  
今度こそ唄わせてもらえる。期待に胸が高鳴ったが、同時に先住のボーカロイドの存在に浮かれた気持ちも沈みそうになる。また、疎まれたりしたら……。  
いや、ヘコんでたって仕方ないだろ! 今のマスターがせっかく俺を拾ってくれたんだ。恩返しのためにもしっかりしなきゃダメだろ俺!  
先ずは第一印象だよね……大事だって言うし。  
なんだかんだ考えても呼び鈴を押す勇気が出ず、髪やら顔やらぺたぺた触っていたら、前触れもなく玄関のドアがいきなり開いた。  
ひっ! と言葉にならない悲鳴が咽から漏れ、肩が跳ねる。  
 
「……」  
驚きすぎて声も出ない。カイトは引き攣った顔で現れたヒトを凝視する。  
若い女性だった。肩までのストレートの茶色いショートボブ。整った顔立ちはカイトより少しだけ年上のようだ。美人で綺麗なお姉さんだった。  
きょとんとした表情でカイトを見つめている。  
かわいい……。  
は! と我に返る。そんな表情にうっかりときめいている場合ではない。  
このままではカイトは長時間他人の家の前で立ち尽くす不審人物。ヘタすれば変質者だ。再起を誓ったばかりで警察の世話は切なすぎる。  
「あ、あの、俺っ……怪しいものじゃなくって!」  
「貴方が今日からウチで暮らすカイト?」  
緊張で上擦るカイトの声とは対照的に、落ち着いた優しい声が問いかける。  
「は、はい!」  
「良かった。随分遅かったからから、迷っているのかと思って探しに行こうとしてたのよ。ね?」  
最後の一言は女性の後ろに向けて投げかけられていた。話している女性の後ろに隠れていたもう一人が、ひょっこり顔を出す。  
「入れ違いにならなくて良かったね」  
カイトに笑いかけてきたのは、女性とそっくりの十代半ばの女の子だった。  
髪の色も瞳の色も傍らの女性と同じ色。毛先が少しだけ内側に巻かれ、ふんわり纏められている。女性がそのまま幼くなったみたいな容姿をしていて、可愛らしい。  
「さ、入って。疲れたでしょ」  
迎え入れてくれるために大きく開かれる扉を見て、呆けていたカイトの手に温かな感触がした。視線を向けると女の子が手を引いていた。  
「入ろう?」  
「え、えっと……」  
そう言えばまだ名前を聞いていない。口ごもるカイトに女性がそれに気付いてくれた。  
「まだ名乗っていなかったね。私の名前はメイコ。こっちのコは咲音メイコっていうんだけど、紛らわしいから好きに呼んでくれていいよ」  
「早く入ろう?」  
咲音メイコと紹介されたコが急かすよう手を引っ張る。  
いい人たちっぽい……。  
向けられる笑顔が温かい。  
はやく〜! と自分を呼ぶ声が聞こえた。  
緊張が解れるのを感じながら、カイトは新しい住居に足を踏み入れた。  
 
新しいマスターの元での暮らしは、今までとは比べ物にならない程幸せなものだった。  
家事ばかりして咽が錆びていないか危惧していたカイトを、マスターは根気強く調声してくれた。  
曲を与えられマスターの意向を酌みながら咽を使い旋律をたどる。ボーカロイドとして申し分ない仕事をさせてくれる。嬉しかった。  
唄えるなんて夢みたいですってマスターに言ったら、唄うことがボーカロイドの本分だろうと笑われた。  
確かにそうだけど、前のマスターの元では次々と曲を貰える後輩たちを羨んでばかりいたカイトにとっては心からそう思った。  
新しい家での生活も順調だった。カイトは大人の女性を「メイコさん」女の子を「咲音ちゃん」と呼ぶことにした。  
二人は新参者のカイトにも優しく接してくれた。仕事の助言もしてくれて、マスターの楽曲の方向性や癖や歌唱のアドバイスもしてくれたし、デュエットやコーラスで一緒に唄ったりした。  
メイコさんはしっかりしたお姉さんで、カイトや咲音に困ったことがあると手を一緒に解決法を考えてくれる。優しい人だ。  
咲音は年下らしくメイコやカイトにも甘えてくれて、でも我儘なことは一切言わない可愛い女の子だった。カイト君と呼び慕ってくれる。  
仕事も人間関係も極めて良好。その筈だが、カイトは偶にふと考えてしまう。  
しかし、先住の二人と新参者のカイトとではやはりちょっとした『壁』があった。  
二人はカイトと本当に仲良くしてくれていると思う。カイトも二人を大切だと思うようになってきた。  
感じる『壁』は上手く説明できない。ただ、二人のメイコは仲が良すぎた。  
例えば風呂はいつも二人一緒。寝室も同じ。気がつくと、時々二人で消えている時もある。  
性差の違いといえばそれまでなのだろうけど、女の子同士とはいえくっつき過ぎじゃないか?  
こんなこと考えるのは我ながら気持ち悪いが、多分、寂しいのだ。  
前の生活では同居人に蔑ろにされて辛かったけど、今は受け入れてもらえている。  
冷笑も侮蔑も無い生活に慣れて欲が出てきたのかもしれない。もっと仲良くなりたいだなんて。  
……もし俺が女の子だったら、あの二人にもうちょっと踏み込めるのかな?  
いや、無理だ!  
速攻で頭の悪い考えを切り捨てた。  
自分が来るまで女の子しか居なかった家。服越しのメイコの身体のラインや甘えて抱きつく咲音の感触。二人が使った後の浴室の湿気。  
そこで自分が何を考え、妄想しているか。カイトはどこまでも「男」だった。  
だからって、妄想を行動に移すつもりなんて毛頭ない。  
あの二人を傷つけたくないし、今の幸せな暮らしを失いたくなかった。  
 
浅はかなことをして全てを無くしてしまうより、人畜無害な「同居人」でいた方がよっぽど良かった。  
 
その夜、カイトはリビングで新曲の譜読みに夢中になっていた。気がつけばもう深夜をとうに過ぎている。  
メイコ達は大分前に「おやすみ」とカイトに声をかけ寝室に行ってしまった。今頃安らかな寝息をたてて夢の中にいることだろう。  
カイトは自分も寝室に戻ろうとソファーから立ちあがる。だが、まだ寝る気はなかったので、飲みかけのミネラルウォーターを持って寝室のある二階に登る。  
薄暗い二階の短い廊下、階段より手前がメイコたちの部屋。一番奥がカイトの部屋だ。  
睡眠妨害にならないよう足音を忍ばせメイコたちの部屋の前を通った時、呻く声が聞こえた。足を止める。  
「……?」  
声は、確かにここからした。どうしたのだろう? まさか、具合が悪いのだろうか?  
ボーカロイドもウィルスに罹れば、ヒトと同じように体調を崩す。俄かに心配になった。  
ドアノブに手をかけようとし、躊躇う。もし気のせいだったら? 女の子の部屋だし。  
でも心配だった。もし勘違いでもそっと部屋から出れば気付かれないだろうし、起きてしまったら誠心誠意謝ろう。  
物音を立てないようにドアノブをそっと押す。  
耳にしたのは押し殺す甘い吐息だった。  
 
「……あん……っ」  
 
細く開けたドア。その隙間に見える情景に息を呑んだ。  
床に落ちる脱ぎ散らかされた服と乱れたシーツ。  
照明を落とした部屋の中、カーテンから街灯の淡い光が透けてベッドの上の二人を照らす。  
仰向けに寝そべるメイコに覆い被さりながら、咲音がその股間に顔を埋めている。そして咲音も脚を開き、メイコの頭を跨いで腰を揺らしていた。  
……所謂、シックスナインの格好だった。裸の二人は小さく喘ぎながらカイトに気づかず行為に没頭している。  
壁に立てかけられた姿見が、余すことなくその痴態を映しだしていた。  
これは、なんだ? 音に特化した耳が浅く走る吐息と、その中に交じる水音を嫌でも拾ってしまう。  
凍りついて動けない。早くここから離れなきゃ、今夜の事は忘れて明日にはいつもと変わらぬ顔を見せないと。  
そう思うのに、眼は絡み合う二人から離せない。  
頭の中で疑問に感じていたことが目の前の事実を見て、次々に合致する。  
プライベートな時間や空間をいつも共有していた二人。  
ああ、こんな関係なら……自分が入れるはずもないんだ。  
ふらり、と足元が揺れた。手にしていたペットボトルが手から離れ、軽く締めただけのキャップが外れて廊下に落ちる。間抜けな音を立てて水が零れた。  
! 馬鹿……!  
薄闇の中で動く気配がした。  
「カ、カイト?」  
「カイト君?」  
同時に上がった声に思わず後ずさる。俺は馬鹿だ。秘密の関係を覗いてしまって、気付かれてしまうなんて。  
もう、嫌われてしまう。ここに居られないかもしれない。  
「ご、ごめん。そんなつもりじゃ……」  
自室に戻ろうと力を入れた爪先が、零した水の上で滑った。カイトは訳が分からないまま一瞬浮遊感を感じ……肩と側頭部に激しい衝撃と痛みが襲った。  
「う……っ!」  
「カイト君っ!」  
「カイトっ」  
薄れる意識の中、響いてくるのは悲痛な声で自分を呼ぶ声だった。  
 
まどろみの中にか細い泣き声が聞こえる。  
それを感知すると、意識が浮上するのが分かった。眼を開くと、カイトの両脇に座り込んだメイコと咲音がぱっと彼を見た。ちゃんと寝間着を着ている。  
「カイト君!」  
「目を覚ましたのね。良かった……!」  
二人とも目が潤んでいる。泣いていたのはこの二人だったんだ……。  
「あの、ココは……」  
「私たちの部屋。カイト君、水を踏んで頭打って……気を失っちゃったの」  
咲音がしゃくり上げながら説明する。じゃあこのベッド、さっきまで痴態が繰り広げられていたあのベッド! 顔が熱くなるのを感じた。  
「やだ、顔赤いわ。具合悪い? ボカロ用の医療処置したんだけど、効いてない?」  
言われてみれば、激しく廊下に打ち付けたのに、肩と頭には殆ど痛みが残っていない。カイトは枕を背にし、上半身を軽く起こした。  
「大丈夫……?」  
ベッドに乗り上げ、メイコと咲音はカイトに寄り添い顔を覗く。目尻に涙が残るその表情は心からカイトの具合を心配していた。  
「だ、大丈夫。あの、それより……ごめんなさい」  
二人が目を丸くしている。カイトは勢いを付けて更に続けた。  
「本当、見る気じゃなくて……苦しそうな声が訊こえて二人の体調が心配になって、それでっ……」  
ごめんなさい。ごめんなさい。他の言葉を忘れたかのように呟くカイトに、メイコと咲音は顔を見合わせた。  
「謝るのは私たちの方よ……ごめんねカイト」  
「カイト君、ごめんなさい……驚いたよね、あんなの見て」  
「わ、私たちの事、軽蔑……しちゃうわよね」  
涙ぐみながらうなだれるメイコと咲音に、カイトは今度は違う意味で慌てた。  
「えっ……。や、その、軽蔑するとかなんてそんなのないよ。俺の方こそ、二人に嫌われるかと……」  
咲音がばっと顔を上げた。  
「ホント? 私たちの事、嫌いになってない?」  
コクコク頷くとメイコも肩の力を抜いたようだった。  
「良かった……。女の子同士であんなことしているのを見て、もう、カイトに嫌われちゃったと思ってた」  
カイトの両肩に重みと温もりがかかった。二人がカイトにそっと寄りかかっていた。  
咲音はカイトの腕を抱き込む。メイコも自分の上半身をカイトの腕にくっつけた。  
両側から温かさと柔らかな膨らみを感じて、意志とは関係なくカイトの身体が熱くなってしまう。  
 
「マスターから訊いたんだけど、カイトは、その、今のマスターが二番目なのよね?」  
言い辛そうに紡がれたその言葉に、カイトは頷いた。  
あまり大声で言えることではないが、隠してるわけではない。  
「私たちもなの」  
咲音の台詞にカイトは瞳を瞬かせた。  
「え……?」  
「私たちも、中古ボーカロイドなんだよ」  
思いがけない事実に動揺する。普段の二人を見ていて、とてもそんな風には見えなかったからだ。  
二人はそれぞれ別のマスターの元にいた。メイコの元マスターは音楽の知識など無く、最初からメイコの顔と身体目当てで購入していた。  
歌を唄うなんてことは一切なく身体を貪られた後、飽きられ中古市場へ流された。そこでマスターに拾われたという。  
咲音は元々『MEIKO』の亜種だ。ちょっとした亜種ブームの時に、元マスターの曲を売り込むための道具として、音楽事務所の人間に玩ばれた。  
ブームの去った後、廃棄処分場に送られる所を今のマスターが引き取ったそうだ。  
唖然とする。カイトの知るメイコと咲音は、暗い過去があったことを悟らせない程明るかった。自分と同じ中古だったなんて。全く気付かなかった。  
「私たち、今のマスターに拾われて、ここでメイコさんと会って、初めて心を許せる存在に出会ったの」  
「その……メイちゃんと私がそういう関係になったのは、ここに来て直ぐで……いけないことなの分かっているんだけど、止まらなくって」  
「私もメイコさんも、たくさんお互いのこと知りたくって、いっぱい仲良くしたくて……してたの」  
恥ずかしそうに二人は交互に言葉を重ねた。  
そっか……お互い似たような環境で辛い思いして、ここで出会い惹かれたんだ。  
男とか女とか関係ないんだ。この二人は。  
寂しいけど、自分の入る余地なんかない。  
「それでね、カイト……」  
メイコが続ける台詞を遮るようにカイトが口を挟んだ。  
「あの、俺二人の邪魔しないようにするよ。そ、そーゆーことする時はどっか篭ってるから……」  
自分の事は気にしないでほしい。そういうつもりで言ったのに、二人は悲しそうにカイトを見ている。  
切なげな視線にカイトの言葉尻がどんどん弱くなっていった。  
 
「もう、そうじゃない」  
咲音が身体を伸ばす。カイトの頬を手で挟み引き寄せた。  
「咲音ちゃ……」  
唇に柔らかく濡れた感触がした。それが離れると反対側から手が伸びて、また頬を挟まれた。  
今度はメイコが顔を寄せ、唇を塞がれる。  
「ん……っ」  
唇が離れて行く。どういうことか分からないカイトは、左右のメイコたちを見比べるしかできなかった。  
「え? あの、なんで……」  
「私たちね……カイトのこともいっぱい知りたいの。今までよりも、もっと」  
「軽蔑されるの怖かったから言えなかった。三人で仲良くしたいよ……ダメ?」  
とんでもない展開に思考回路が大混乱を起こしていた。  
だって今の話し、どう訊いたって三人で……ってこと、だよね……?  
戸惑って口を金魚のようにぱくぱくしていると、上半身にメイコが覆い被さり下半身を咲音が撫で始める。  
「う、ぁ……ん」  
漏れた声を受けるようにメイコが唇を重ねてきた。差し入れられる舌が絡み、カイトのパジャマを開いて指先が潜り込んだ。  
咲音がズボンを下げ臍にキスし、下着の上から軽く咥えてくる。  
「しばらく一緒に暮らしてみて分かった。カイト君とても優しい」  
「私たちを好き勝手に扱った男の人たちと違うもの。それとも、私たちとじゃイヤ……?」  
双方から感じる刺激が温い快感に置き換わる。  
仲が良すぎるメイコと咲音に疎外感を感じていた。疎まれたくなくて、ただそれを見ているだけだった。  
それが今、二人の方からカイトを仲間に入れようとしている。  
拒絶される痛みは、誰よりもカイトは知っていた。それに、伸ばされた手を振り払う理由なんて一つもなく出来るはずもなかった。  
「イヤだなんて、思うはずないよ。俺も二人のコトもっと知りたい……」  
首筋に愛撫していたメイコと股間を食んでいた咲音が、同時に顔を上げてカイトを見る。  
安心させるよう笑うと、二人の顔が見る間に輝いた。  
自分だって望んでいたことだった。この二人の中に入っていきたいと。  
「俺ばっかこんな姿で恥ずかしいよ」  
二人は顔を見合わせると、それぞれにっこり笑った。  
 
こんなことって、あるんだな……。  
正直な気持ちはそれだった。まさか、密かに妄想していたことが現実になるなんて。  
「あっ、あぁん……っ」  
「ひゃっ……んっ……んんっ」  
ベッドが控えめに軋む。  
今、カイトの上でメイコと咲音があられもない声を上げて悶えていた。  
咲音はカイトの肉棒で熱く蕩ける膣を貫かれ鳴き、メイコは咲音と向かい合いながら青い頭を跨いで濡れそぼる性器をカイトに舐められ喘ぐ。  
嬌声を聴きながら、初めて見たメイコと咲音の肢体を思い出した。  
寝間着を脱ぎ捨てた二人の身体を見てカイトは呆けた。  
照明を落とした部屋の中で二つの色白の肌がぼんやり浮かぶその姿は、カイトの欲情を掻き立てるに充分なものだった。  
服の上からでも気付くぐらいメイコの大きな乳房は形も申し分なく、お尻も程良く肉が付いている。エロくてバランスの取れた、大人の女の身体だった。  
対して十代半ばの容姿の咲音は、メイコほどでないが、幼さの残る顔付きに反して不釣り合いな大きさの美乳の持ち主だ。すらりとした脚の付け根にあるかないかの恥毛が縦筋を透かしていた。二人に共通しているのは、胸が大きいことだ。  
二人を両方の膝にそれぞれ乗せ、夢中で揺れる乳房を揉みしだき乳首にむしゃぶりついた。  
それは妄想の中よりずっと柔らかく、双方から聴こえる甘い泣き声がカイトを興奮させた。  
「あっ……また、おっきくなった」  
自らも腰を動かしている咲音が甘い声で言う。容姿に似合わない腰使いが中に埋まるカイトを刺激した。  
「苦しい?」  
「ううん。……イイ、ふ……ん」  
咲音との会話の途中、自分を跨ぐ脚の内腿がふるりと震えた。話す唇の動きでメイコが感じている。  
襞を吸い立てるのを止め、顔を出している赤い突起を舐めまわす。滴る粘膜が口の中に滲んだ。  
「ああっ……やぁ」  
「イヤだった?」  
「か、感じすぎてっ、んぁっ」  
下腹部からの抗えない刺激と耳朶に響く嬌声に、今まで抑え込んでいた凶暴な雄の拘束が剥がれていく。  
視線を横へずらすと、大きな姿見にカイトに跨るメイコと咲音が映る。  
二人は互いの両手を指を組み合んで握り合い、唇を貪りあっていた。時折切ない吐息が重なる唇の隙間から零れ落ちていく。  
咲音の腰を打つ動きが強くなり、膣で擦られる自分も段々追い詰められてくるのを感じる。カイトは眉根を寄せ、メイコの襞を左右に開き奥へと舌を滑り込ませた。  
「あ、ひっ、イキそう……」  
「ひぃんっ……カイト……ダメぇっ」  
切羽詰まった喘ぎに、自分も限界が近いことをカイトは感じた。  
迫る射精感をぐっと堪えていると、肉棒を包む膣が強く収縮し、頭を跨ぐ脚が痙攣した。  
「あ、ああっ……!」  
「や……っ! はぁんっ」  
高く悲鳴を上げながら二人は総身を震わせ、嫌らしく蠢く膣に耐え切れずカイトも全てを吐き出した。  
 
乱れた息も静まり、ベッドに並んで横になるメイコと咲音の足元にカイトは膝を付く。  
「大丈夫?」  
二人の脚に触れ、撫でる。絶頂の余韻が残る身体を震わせた二人だが、笑みをカイトに向けた。  
「うん」  
「平気よ……」  
「じゃあ、次はメイコさんの番。でもその前に、咲音ちゃん、脚開こうか?」  
仰向けにした咲音の、強く握れば折れそうな足首を掴んで左右に開く。抵抗なくすんなり開いたその中心に、熟れた性器が顔を覗かせた。  
カイトの白い精を零すソコに、男性器を模したバイブレーターを差し込む。これは、メイコと咲音が「仲良くする」時に使う愛用品だった。  
「ふぁ……っ、カイトくん……っ」  
先端を少し沈ませると、少しだけ抵抗があった。ちょっとづつ引いては埋める作業を繰り返すと、中からカイトの精液が徐々に掻きだされシーツに染みを作る。  
感じる肢体を持て余す咲音はメイコの手をぎゅっと握った。  
完全に埋めて、咲音の手を取り股間の異物が外れないよう握らせると、再び息を乱し始めた咲音の性器にカイトは顔を近づけた。粘膜と精液にまみれた襞が大きく口を開け、バイブを咥えこんでいる。  
「咲音ちゃん、こんなに太いの呑み込んじゃって、えっちだね」  
カイトがからかうと、やだぁと甘えた声が返ってきた。赤く充血したクリトリスをちょんとつつけば、声と共に腰が跳ねる。  
「メイコさんは咲音ちゃんに重なって。メイちゃんの腕が前にあるから、ちょっと辛いかもしれないけど……」  
期待を浮かべながらカイトを見ていたメイコは、大人しく指示に従い咲音に覆い被さった。柔らかな乳房も重ねられ、ふにゃりと形を変える。  
「メイコさんの乳首、硬くなってる」  
「もう、メイちゃんのだって同じじゃないの」  
そんな会話を咲音と交わしながら、メイコはカイトへ無防備な尻を差し出す。  
挟間からしゃぶっていた襞がはみ出し、後ろの孔まで丸出しになった。目の前に曝け出された二つの女性器を眺め、下腹部がまた首を擡げる。  
カイトはそれを自分で扱きながら、二人に語りかけた。  
「じゃあ、いくよ。三人で気持ち良くなろう?」  
白くまろやかな曲線を描く双丘を掴んで、未だぬかるんでいるメイコのソコに、再び猛った肉棒を押し込んだ。次いで、バイブに触れスイッチを入れる。  
篭ったモーターの音が低く唸りを上げた。  
 
「……あっ!」  
「きゃっ!」  
メイコの中に沈ませた自分をゆっくり引き抜き、強く打ちつける。袋が肌を叩く音が響いて溢れる粘膜が内腿を流れた。  
抜かれるソレを襞が引き止めるような動きをし、蠕動する膣壁がカイトを悩ましく刺激する。  
「ひっ、あ、カイト……」  
中を抉られ、良いところを擦られたメイコがカイトの名を呼ぶ。そこを重点的に責めると中が悦んで肉棒に吸いついてくる。  
咲音の中に入った時も、かなり具合が良かった。一般的に『KAITO』と『MEIKO』は色々相性が良く、こっちの方もそうだと訊いたことはあったが、これ程とは……。  
咲音もメイコも、カイトが想像していたよりずっと気持ちが良かった。気を抜けば一瞬で終わってしまいそうになる。  
自身で中を探るよう動かせば、眼下の滑らかな背中が動きに合わせぴくぴく跳ねた。  
良い部分を擦って、奥をつつく感じで腰を細かく揺すると、直ぐさま反応し白い尻が揺れる。  
「ダメぇっ、や、ソコはっ」  
メイコは重なる咲音の首筋に顔を埋め、小さく頭を振った。容赦ない愛撫に身体中が過敏になったのか、どうも酷く感じてしまうらしい。  
咲音は脚の間に埋まるバイブの振動と首筋に当たるメイコの吐息に反応して、片手でメイコに縋りついていた。  
「ダメじゃないよね? ほら、こんなに吸いついて……」  
顕著に反応を示す部分を刺激しながら細かく出し入れすると、一際高く啼いてメイコは全身を震わせた。  
「あ……っ、メイコさん、熱いよぉ……」  
蕩けた表情で咲音が呟いた。メイコはイッてしまったようだ。  
身体中で息をして、咲音に折り重なっている。刺さったまま崩れそうになる尻を支え、カイトは更に激しく動き出した。  
「ひゃんっ! うそ、ぁっ、ああっ!」  
「俺も、咲音ちゃんもまだですよ。一人でイクなんて、ずるいです」  
絶頂を迎えたばかりの膣を攻め立てるとメイコは過剰なぐらい乱れた。  
垂れる体液が咲音を苛むバイブにも伝い、交じり合う。  
咲音は突っ込まれたそれのメモリを上げられ、びくっと大きく身体を跳ねさせ喘いだ。  
「ひっ! カイトくぅん……」  
更なる快感を求め淫らに腰をくねらせる咲音と、達したばかりの身体を貫かれる度過剰な反応を見せるメイコ。  
カイト、カイト君と喘ぎながら快感に悶え、自分を求めてくる二人に心も思考も甘く崩れていった。  
 
そんなことがあって一カ月ほどが経つ。  
 
「メイコさん、カイト君。お風呂入ろ!」  
バスタオルと着替えを抱えた咲音がにっこり笑う。  
あれから二人と急速に親密になったカイトは、なし崩し的にメイコ&咲音とお風呂も一緒寝室も同じ。といった有様になった。  
唯一不満があるとすれば、プライベートな時間が一切無くなったため、成人男性が秘密にしておきたい本や動画の隠し場所に現在頭を抱えている。アレとコレは話しが別なのだ。  
「今日のお風呂はカイトがぴっかぴかにしてくれたから、いつもより気持ち良いわよ」  
「今日は俺だけオフだったからね」  
脱衣所で三人で……というのはスペース的に窮屈過ぎるので、脱衣所のドアを開けカイトが半分身体を廊下に出しながら服を脱ぐ。  
オフで一日空いていたカイトは、家中の掃除をし夕食を作って仕事から帰って来たメイコ達を労ったのだ。  
「ありがとカイトくん!」  
籠に脱いだ下着を放り込みながら咲音がカイトに抱きつく。ぷよんとした剥き出しの胸がカイトの胸板に当たった。  
唇を軽く合わせてくる咲音の背に腕を回して引き寄せながら、胸の感触を身体で感じていると、顔を離してカイトを覗きこんだ。  
「じゃあお礼に、カイト君の身体隅々まで洗ってあげるね! ……おっぱいで」  
咲音の腹が、ボクサーパンツに包まれたカイトの下腹部をぐりぐりと刺激してくる。途端にソコの硬度と角度が増した。  
「コラ、イタズラしない」  
「えへへ、期待してて」  
身を翻して咲音はバスルームに入っていった。直ぐにシャワーの音が聞こえてくる。  
傍で一部始終を見ていたメイコが楽しそうに笑っていた。  
「メイコさん、笑いすぎ」  
「ゴメン。ホントに助かったわ。帰ってきたらご飯まで出来てるんだもん。カイトは家事が上手ね」  
カイトはメイコの正面から背中に手を回した。ブラのホックを外してあげる為だ。  
「一日ヒマしてたし、家事は好きなんだ。咲音ちゃんは家事が苦手だし、今までメイコさんが負担大きかったんだから、頼ってよ?」  
ホックを外し肩のストラップをずらすとたわわな胸が現れた。完全にブラを外してメイコの後ろの籠に投げ込むと咲音のそれと重なる。  
「ありがと、でも無理はイヤよ? ここでは自分の好きなことしてていいんだからね」  
「そんなことないって」  
安心させるように、メイコの両頬に手を添えてカイトは小さなキスした。  
「私も頑張ってくれたカイトの身体洗ってあげる。メイちゃんと一緒に、おっぱいでね」  
咲音がしたように、そっとカイトの下半身を撫でてからメイコはショーツを脱ぎ捨て、バスルームへと消えた。程なくして楽しそう声が脱衣所まで響いてくる。  
自分の服を脱ぎながら、カイトは胸が暖かくなるのを感じた。  
前の家ではすることがなくやっていた家事は、誰も感謝されることは無かった。  
むしろ家事はカイトがやることが当然のように元同居人たちに認識されていたのだ。  
この家に来て、当たり前にしてきたことに初めて労いの言葉を貰い、なんだかこそばゆかった。  
やることが無く仕方なくしていた家事とは違い、ここでする家事には張り合いがある。ありがとうの言葉と、笑顔があるから。  
それは家事以外でも同じことで……。身体を重ねる度、二人がカイトを信頼し、大事にしてくれているのを実感した。  
信頼関係もそれを感じる方法も、人それぞれ。カイトたちにとってはセックスが手段だったということ。それだけだ。  
「カイト君、はやくぅ〜」  
カイトを呼ぶ咲音の甘ったるい声が聞こえる。今行くよと返し、最後の一枚を脱衣籠に投げ入れる。  
もう二人に疎外感など感じていない。  
カイトはバスルームのドアに手をかけた。  
 
おしまい  
 
 

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