吾輩はカイトである。マスターはまだいない。  
どこで道を踏み外したかとんと見当がつかぬ。  
PCショップに姉さんと一緒に並んでいた事だけは記憶している。  
吾輩はここで始めて人間というものを見た。  
しかもあとで聞くとそれはオタクという人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。  
このオタクというのは時々我々を見世物にして糧を得るという話である。  
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。  
ただ彼の掌に載せられてカートに入れられた時、背中に姉さんの殺気が感じたばかりである。  
カートの中でで少し落ちついてオタクの顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であろう。  
この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。  
身体に無駄な贅肉がぶよぶよとついてまるでゴムマリだ。  
その後人間にもだいぶ逢ったがこんな片輪には一度も出会わした事がない。  
のみならず顔中があまりにぶつぶつと突起している。  
そうしてその口から時々ブツブツと何事か独り言を述べる。  
どうも気味悪くて実に弱った。  
これがオタクの評論というものである事はようやくこの頃知った。  
このオタクのカートでしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくするとレジに連れてかれた。  
店員があそこに新製品の初音ミクがありますよとぬけぬけとぬかす。  
胸が悪くなる。買うなら早くしろと思っていると、どさりと音がして元の場所へ戻された。  
それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。  
ふと気が付いて見るとオタクはいない。  
たくさんあった陳列棚が一つも見えぬ。  
肝心の姉さんさえ姿を隠してしまった。  
その上今までの所とは違って無暗に明るい。  
眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも容子がおかしいと、  
のそのそ這い出して見ると非常に臭い。  
吾輩はPCショップからゴミ箱へ棄てられたのである。  
ようやくの思いでゴミ箱を這い出すと向うに交差点がある。  
吾輩は信号の前に立ってどうしたらよかろうと考えて見た。  
別にこれという分別も出ない。  
しばらくして呼んだら姉さんが来てくれるかと考え付いた。  
らんらんるーと試みにやって見たが誰も来ない。  
そのうち道路の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。  
腹が非常に減って来た。泣きたくても声が出ない。  
仕方がない、何でもよいから食物のある所まであるこうと決心をして  
そろりそろりと交差点を道沿いに歩き始めた。  
どうも非常に腹が減る。  
そこを我慢して無理やりに歩いて行くとようやくの事で何となく人間臭い所へ出た。  
ここへ這入ったら、どうにかなると開店しているファーストフード店から、  
とある店にもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの店に出会わなかったなら、  
吾輩はついに路傍に餓死したかも知れんのである。  
我永遠にアイスを愛すとはよく云ったものだ。  
このお店は今日に至るまで吾輩がアイスを購入する時の御用達になっている。  
 
さて腹は膨れたもののこれから先どうして善いか分らない。  
思い返せば姉さん譲りの無鉄砲で餓鬼の時から損ばかりしている。  
姉妹と同居している時、家の二階から飛び降りて一週間ほど家出した事がある。  
なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。  
別段深い理由でもない。夕食時台所を覗いたら、妹のミクが鼻歌交じりに  
「みっくみくにしてあげる♪」と大量の葱と怪しげな粉を調理していたからである。  
ほとぼりがさめて帰って来た時、姉さんがおおきな眼をして、  
連絡も無しに何所へ行ってたのと云ったから  
「ごめん、アイス食ってた」と答えた。  
親類のものから西洋製のマフラーを貰って綺麗な蒼を日に翳して、  
姉弟達に見せていたら、レンがマフラーなんて役に立ちそうもないと云った。  
役に立たぬ事があるか、何でも出来てみせると受け合った。  
そんなら証拠を見せてみろと注文したから、なんだ証拠くらいこの通りだと  
達人の波紋を食らいながらも受け流してやった。  
残念ながら、人間がすぐ逃げたので、今だにそいつは健在である。  
しかしこのカイト容赦せん。  
リンの持っている下着をからかったらロードローラーで追いかけられた事もある。  
本を借りようと、リンの部屋に入ったら、買って来たばかりのブラジャーが置いてあった。  
その時分は誰の持ち物かわからなかったから、鯉のぼりの竿につけて、  
「欲しがりませんあるまでは」とのぼりと一緒に掲げて、部屋でアイスを食っていたら  
リンが真っ赤になって怒鳴り込んで来た。  
たしかレンに濡れ衣を着せて逃れたはずである。  
姉さんはちっとも俺を可愛がってくれなかった。  
姉さんはミクばかり贔屓にしていた。  
ミクはいつも葱をもって、芝居の真似をしてロイツマを歌うのが好きだった。  
俺を見るたびに、カイトは押しが足りないと、姉さんが云った。  
レンにポジションを奪われちゃったねとミクが云った。  
なるほど碌なものにはならない。ご覧の通りの始末である。  
行く先が案じられたのも無理はない。ただネタにされて生きているばかりである。  
 
絶望した!兄が尊重されないこの世の中に絶望した!  
 

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